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第五話 ヨクボウと舞う嬉遊曲(ディヴェルティメント)

8:00

「ん?」


沢村さんと別れた後、家へ帰ろうとバス亭に向かっていたのだが、その途中でなにか聞こえた気がした。


『どうしたリン?』


ジークが俺の様子に気付いてそう声を掛けて来た。


「いやなんか悲鳴のような物が聞こえて来たような……」


と、俺のあやふやな答えにジークは。


『悲鳴か、少し待て……』


と言った後なにやら沈黙した。


「あーいや、ただの勘違いだろ。」


とそう答えたのだがすぐ後、ジークが緊迫とした声を上げた。


『リン! なにやら複数の悲鳴と、店の出入り口へ殺到するこれまた複数の足音だ。』


そのジークの答えに俺は慌てて店の入り口を注視する。

すると沢山の人が外へ外へと出ている光景が目に入る。


「ジーク! これは……」


『この反応は……! リン、特異犯罪者の反応が、これは店内からだ。』


俺はその言葉を聞くや否や店内に向かって駆けだしていた。





店から逃げ出そうと押し合う客達をかき分け、なんとか店内に侵入した。

さすがに今は殆ど人はいなくなっているようだが、敵はどこだ?

と、あたりを見渡していた所で一人の幼い少女とそれを庇い化け物の前に立つ青年の姿が目に入った。

青年は体格のいいキリっとしたイケメン風で少女は泣いて地面に座りこんでいた。

怪物のほうは、相撲取りのような体型になにやらキラキラした物を身体に貼り付けていた。

あれは宝石?


俺がそんなことを考えていると、化け物がその青年目掛けて拳を振り上げる。


……いけないっ!?

俺は思わず駆け出した。 「変身っ!」 の声と共に!



化け物の攻撃に思わず目を瞑ってしまう青年であったが、何時まで経っても衝撃がやってこないことを不信に思い目を開ける。

するとそこには一人の少女が化け物の拳を受け止めていた。


……もちろん俺だっ!


「きっ、君はっ!?」


青年は戸惑っているようだ。 まあどう見てもコスプレ少女だからなあ……

まあそれはとにかく。


「その子を連れて早く逃げろ!」


二人を逃がすのが先だな。

だが青年はかぶりを振った。


「自分は刑事だ。 ここは自分が引き受ける。 君は彼女を連れて……」


「やかましいっ! 市民を守ることが警察の務めだろうが。 怪物退治じゃねえ!」


俺の言葉にハッとした表情を浮かべた後、すぐに女の子を抱き上げ出口に向かって走り出した。

すまないと言い残して。

俺はその瞬間化け物の腹にケリを叩き込み、間合いを開け年達を追えないようにした。


しかし……

硬ってえ!?

蹴り足を鈍い痛みが襲う。

どうやら見た目通り宝石の鎧を纏っているようだ。 あれはダイヤか?


「いやいやこれはこれは。 なかなかのパゥワーでありますな。 普通の地球人ではないとお見受けいたしますが?」


と、いきなり怪物が声を掛けて来た。

俺は喋ったことに驚いたが、ジークは違うようだ。


『そのフェレゲン訛りは…… お前はもしや教授か?』


そのジークの問いかけにヤツは嬉しそうに答えた。


「おや? おやおやおや! その声はまさかまさか! ジーク一等捜査官ではないかね!! お久しぶりではないかね!」


そう言いながら教授と呼ばれた怪物は、両手を広げた。

そしてまるで歌うかのように喋り出す。


「まことにお久しぶりですなあ。 学術惑星フェレゲンでワタクシが君に捕まって以来ですかなあ? 船の中では風情のないデータ化処理のせいで会話などできませんでしたからなあ。 そうそうそういえば……」


なんともおしゃべりなヤツだが、これが特異犯罪者なのか?


『油断してはいけない。 教授は学術惑星フェレゲンで知的生命体すべての脳を採集した恐るべき犯罪者だ。』


それも学術的興味のみで行ったのだと憎々し気に言う。


「いやはやそのような事もありましたなあ。 しかしですな、そ「うるさいっ! そんな事よりワタクシの宝石ィ!」おっと。」


なんだ? 突然ヤツの口からヤツとは違う別の声がしたぞ? ていうかどこかで聞いた声なんだが。

特徴的な体型に宝石を求める強欲ぶり…… まさかな。


「松下さん?」


思わず口から洩れた小さな声だが、ヤツは問題なく聞こえたようだ。


「おや? この素体の事をご存じで?」


と、嬉しそうに尋ねて来た。

素体だと?


……なるほど。 間違いなくアイツは特異犯罪者らしい。


「ジーク!」


俺の声にすぐさま反応するジーク


『ホルダーに手を伸ばせ!』


おれはその声に答え、腰のカードホルダーへ手を伸ばす。

そしてその手には一枚の、俺が望んだカードが飛び込んできた。

すぐさまジークにそのカードをセットする。


『アイテムカード・ソードマギカ リーディング。』


そのジークの声と共に一本の半透明の剣が俺の目の前に浮かび上がって来た。

そして『コンプリーテッド』の声により物質化を果たす。

実体化した剣を握りしめ一振り。


悪くない。

その剣、ソードマギカは片刃の日本刀というよりは西洋剣といえばいいだろうか。

刀身は80cmほどでこれまた金属パーツが所々くっついていた。

俺はその剣を構える。

こちらの戦闘意思を感じたのか怪物はこちらを向き、短い脚ながらそこそこのスピードで近づき殴りかかって来た。

俺はその攻撃をサイドステップで躱し、そのまま袈裟懸けに切りつけた。

しかし……


硬い物を切りつけた感触と、表面を滑り届かなかった手ごたえが攻撃が失敗したことを告げる。


「あ、あ、あ、ア、アタクシの宝石になにすんのおぉぉぉぉぉ!」


怪物はまるで狂ったかのようにメチャクチャに腕を振り回す。

周りの店がディスプレイしている商品などが飛び散る。

こりゃ早く倒さないと被害がとんでもないことになりそうだ。


とはいえ、どうする?

ダイヤ、か……

モース硬度だっけ? が10だったか。

いやまてよ。 ダイヤはたしか炭素で出来てるんだっけか。

つまり燃える。


よし!


俺はホルダーに手を当て望んだカードを取り出す。

そしてジークに差し込む。


『マジックカード・フレイムボディ リーディング』


本来は身体に炎を纏う魔法だが今回はちょっと違う。


『……エッジにスクロール! コンプリーテッド。』


その声と刀身が炎に包まれるのは同時だった。

俺の身体を覆っていた炎がソードマギカへと移ったのだ。


よしいくぜ1


「はああああああ!」


気合いと共に怪物へ駆け出す。

もちろんボーっとして切らせてくれるほど甘くはなく、こちらへ迎撃態勢を取って来た。

とはいえ手ぶりのパンチで俺をどうこうしようとは舐められたもんだぜ!


そのパンチを掻い潜り、さらに体勢を低くしてがら空きになった胴を薙ぎ払う!


ガキィィィン


しかし無情にも刃ははじかれた。


なに!?

見て見ると切った個所が淡く輝いていた。


『これは、アンチフレイムシールドだ。』


「アン、なんだって?」


ジークの声に思わず聞き返す。


『つまり炎に対する防護シールドで守っているんだ。』


まじか。 くそっそんなに甘くはないか。


「いやいやいや、さすがにダイヤが火に弱いことぐらいすぐにわかりますのでね。」


教授がそういって再び両手を広げる。

が、すぐに閉じられ斬られた箇所をまさぐる。

これは松下さんの行動かな? 二つの意思が一つの身体を動かしてるのか?


「ふーむ、いささか不満ですがわたくしめはこれで失礼させていただきましょうかな。 ジーク捜査官またいずれ!」


その後なにも変化はなかったが一つの気配が消えたことは感じられた。

逃がしたのか……


その後も、何度か切りつけたがまったく効果はなく打つ手なしだった。


俺は何度めかの攻撃の後、炎を消した。

すばやく刀身を確認し刃こぼれがないことに安堵する。

しかしどうするか。

まったく攻撃が効かない現状を打破するべく、なんとなく辺りを見渡してみるが特に何もなさそうだ。

まあ手がないことはないんだが、一つ懸念する事がある。


「ジーク、もしアイツを倒してしまったら俺は松下のオバハンを殺すことになるのか?」


そう俺が尋ねると。


『うん? いやそのまま殺せばそうなるが、リアライズをするから問題ない。 リアライズは同一時空内にある存在を二つに分けるものだ。 詳しくは後で説明するが。』


「なるほど! わからん、がジークを信じるぜ!」


『いやそれはどうかと思うが、信頼は素直にうれしい。』


ふっ照れやがっていやつめ……

などと気を抜いた事をやっていたのがマズかった。

気付けば化け物は回避困難な距離にいて、腰の回転の乗ったパンチを繰り出す所だった。


「しまっ!?」


俺はとっさにバックステップで大きく飛びずさりパンチを避ける。

だがそんな行動は無意味だった。

なぜならヤツのパンチが俺を追ってグンっと伸びたのだ。

なんとかパンチとの間に剣を滑り込ませて直撃は避けたが、床に叩きつけられそのまま床を滑る事になった。


『リン! 大丈夫か?』


「ああなんとかな。油断したぜ。 だが……」


あの伸びるパンチ。

あれがアイツの攻略のヒントだ。

俺は床から跳ね起き、そのままヤツに突っ込んでいく。

体勢は低く低く。 その低い姿勢からかヤツは攻撃をためらう。

ヤツの眼前まで迫り、そこから伸びあがるように剣を突き上げる。

狙いは、顎だ!


その狙いたがわず、ヤツの顎に剣先がぶち当たる。

刺さりはしないようだが、衝撃でのけぞらせるのが目的だ。

見るとヤツは狙い通りのけぞり腹を見せている。

その宝石で覆ってない伸びた部分を。


ヤツが腕を伸ばしたとき宝石で覆っていない部分、白い皮?のような部分が見えたのだ。

もしやと思って行動に移したがドンピシャだったぜ。


俺は素早く剣を引き戻し腹に向けて剣を叩き込む。

今度は切った感触が手に伝わる。

続けて逆薙ぎで切りつける。


「あぎゃああああああ!?!?」


ヤツはたまらず床を転げまわる。

これなら。


『リン、これでリアライズ可能だ!』


よし!


俺は腰のホルダーへと手を伸ばす。

そして俺の手に三枚のカードが飛び込んでくる。

俺は連続でその三枚のカードを、スリットを三つに増やしたジークへと投入する


『マジックカード・フレイムボディ。 スキルカード。ダブルジャンプ。 スキルカード・キックブースター。 リ、リ、リ、リーディング。』


ジークのその声の後、三本のリングが俺を取り囲む。

そして一本のリングが消えると、俺の身体が炎に包まれる。 これはフレイムボディの力。


「はあっ!」


掛け声を上げ跳躍する。 天井すれすれまで高く。 そして空中で二本目のリングが消える。

俺はさらに空中を蹴る。 それはヤツへ向かっての踏み込み。 これはダブルジャンプの力。

最期のリングが消え両脚が足甲に包まれる。 これはキックブースターの力だ。


俺は空中で回転し足をヤツに向ける。

そして。


『「ファイナルアタック。 バーニングキックエンド!」』


俺とジーク、二人の声が重なる。


消えていたリングが俺の前にトンネルのようにして現れる。

それをくぐりながらさらに勢いを増しヤツに向かい突き進む。 まるで一本の炎の矢のように。


激痛に転げまわっていたヤツだが、やっと今の状況に気付いて逃げようとしたがそれは叶わずあっさりと炎の矢と化した俺がヤツの身体を貫き、地面を滑りながら着地する。


「ぎゃあああああっ!? ワタクシのワタクシの宝石たちいいいぃぃぃぃ!!??」


絶命の悲鳴を上げながらヤツは爆発する。 が、しかしすぐに爆発を囲うようにして三本のリングが現れる。 


『リアライズ。』 


ジークの声で時間が止まったかのようにその爆風がピタリと止まり、やがてキラキラとした粒子となって消滅する。


そしてその爆発の後一枚のカードが俺に向かって飛んでくる。

俺はそのカードを掴む。

そのカードは……


「白紙? なんだこれ」


カードにはなにも書いてなかった。

どういうことだ? これが犯罪者のカードなのか?


『これはブランクカードだな。 なにかの役に立つかもしれない。 持っていてくれ。』


どうも途中で教授が逃げたためカードの中身が無くなったらしい。

くそ!


俺は腹ただしげにホルダーにカードを突っ込んだ。


そこで店の入り口が騒がしいのに気づく。


「おっと、警察のお出ましか。」


『長居は無用だな。』


逃げ出す前、ふと気付いてオバハンを探すと床に寝そべって幸せそうに寝ていた。 

やれやれだ。








                ~店外にて~



あれから男性は店の外に出て迷子の子供、むつみちゃんの母親を探しだした。

母親を見ると必死になって探していたのがよくわかる。

子供を放置し死なせる親も多いこのご時世だ。 助けれて本当によかった。

その男性、刑事である長瀬ながせ 潤一じゅんいちは達成感と一抹の不安を覚えていた。

それはむつみちゃんを助けた時に出会った一人の少女。 まるでコスプレ会場から抜け出してきたかのような少女。

彼女の声に導かれるまま、怪物を彼女に任せ七に出てきてしまったが。

そんなことを考えていると、ようやく警官隊が入口から突入しようとしていた。

自分も参加しようと打診したのだが所轄の違いや非番であることを理由に断られた。


「ありがとーお兄ちゃん」 「本当にありがとうございました。」


ブンブンと大きく手を振るむつみちゃんと、何度もお礼を言いながら立ち去っていく母親に、見えなくなるまで手を振り返す長瀬。

やがて二人の姿が見えなくなった後、振っていた手を見る。


手のひらを見ている内に、ふと彼女の言葉がよみがえる。


「やかましいっ! 市民を守ることが警察の務めだろうが。 怪物退治じゃねえ!」


自分はこれまで犯人を捕まえる事が警察の使命だと思っていた。

あの怪物も、いわば犯人と同じであると思い立ち向かおうとしたのだ。

だが自分は、犯人逮捕という分かりやすい物に惑わされていたのではないか?

あの時そう思ってしまった。

警察の、自分の職務とはなにか。


「市民を守ること…… か。」


長瀬は広げていた右手をギュっと握りしめ、最近発動されたある極秘プロジェクトの事を思い返した。

身体能力にすぐれた長瀬はこのプロジェクトに参加を要請されていたのだが断っていた。

だが。


「特殊災害救助プロジェクトか。 受けて、みるか。」


長瀬は署へ足を向けた。

思い立ったがすぐに行動は長瀬の長所の一つだろう。



またここに、運命のピースの一つが揃う。

それによって描き出される絵は絶望か希望か……






                 To Be Continued……




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