第三話 新生活始めます 2
8:00
道場の入口を開けて入った先で靴を脱ぎ、一礼して入る。
中は板張りで、外見よりは綺麗にしている。 外はまあ時間とお金がないせいだ。 うん。
昨日もここで鍛錬をしたはずなんだが、ひさしぶりに来たような感じがするのはなぜだろうか。
『ふむ、ここであの戦闘術を学んだのか。』
ジークが感慨深げに呟いた。
「まあな。 って言っても最近はサボリがちだったがな。」
今後のこともある、また一から鍛え直さなきゃなぁ。
『ところで、その戦闘術はどのような由来があるのだ?』
練習方法を模索しているとジークが骨剣術の由来を聞いてきた。
由来か……
「と言うか剣道と剣術の違いとかその辺分かるのか?」
ジークが地球の文化などをどれくらい分かってるかが俺にはさっぱりなので聞き返した。
『問題ない。 基礎知識は仕入れている。』
なるほど、それなら。
それから俺はジークにうちの流派の成り立ちなどを語った。
まず源流は中国武術の一つであった事。
それがのれん分けか、権力闘争に敗れたかして日本に流れ着いたようである事。
当時はいわゆる戦国時代であった事。
その際、日本の骨法を取り入れその時に骨剣術と名前を改めた事。
なお骨法は所説あるが、奈良時代にはすでにあったとする説がある。
他には忍術も取り入れたとか色々言われてるがまあ眉唾な話も多い。
今では刀術と打蹴技、後は柔術ぐらいしか伝わってないけどな。
『なかなかの歴史ある戦闘術な訳だ。』
「まあ長い歴史があってもほぼ無名だがなぁ。」
俺は軽く肩を竦めて見せる。
とはいえ 道 と名を変えず 術 のままなのはなにやら薄暗い事もあったようであるが。
名が売れてないというよりも、名を秘していたようでもあった。
その後軽く型稽古をして、そこそこいい時間になったので出かける事にする。
ある程度服やらを揃えないといけないだろう。
俺はバスで近くのショッピングモールへ向かうのだった。
ドリーマーシティ そこはこの付近で最大規模のショッピングモールである。
地域活性化をうたい文句に近年出来たばかりのその店は、有名店も複数誘致し昨今珍しく盛況である。
同じ敷地内に大型電気店もあり駐車場はかなり広い。
今日は平日だがそこそこ車で埋まっている。
俺は電気店に用はないのでさっさと店内へ入る。
まずはお金をおろそうとATMをまず探し少し順番を待ってからカードを投入。
すると、見たこともないような数字が俺を待ち受けていた。
1、10、百、千、万、……
おいおいジークこれはやりすぎだろう!?
『うむ? これからの事を考えればこれくらいは必要だろう。』
などと平気でのたまうジークに戦々恐々としつつ、慌てて3万ほどおろしそそくさと逃げだした。
余りの事に心臓がバクバクいってるのをどうにか押さえつつ、女性服の売り場など知らないので案内板を探し、4階にあることを知りエレベーターに向かう。
そこで……
「うげっ」
『どうした?』
ジークが俺の呻き声に疑問を投げかけて来たが、俺はそれどころじゃなかった。
俺の視線の先には有名宝石店のテナントがあり、そこに一人のオバハ…… 女性がいた。
デラックスな体型に厚化粧、両手の指や首元にはお高いんだろうがあまり趣味のよろしくないアクセや指輪が嵌っていた。
どう見てもザ・成金って感じのオバハン、松下のオバハンであった。
このオバハンは俺の住む住宅地よりも上のランクにあたる高級住宅地に居を構える人で2年前に社長であったダンナを亡くし、所謂未亡人である。
息子が社長を継ぎ、まあまあ無難に纏めているらしいがこのオバハンがダンナの遺産を食い散らかしているせいで内情は火の車らしい。
「……だからもっといい宝石を出せっていってんのよ!」
「そう言われましても当店ではこれが一番……」
まるで男性のような低い声で恫喝するかのように店員になにか言っている。
店員のほうもビビリながらも取りなそうとしているが、まあご愁傷様といったところか。
よくよく考えてみたら今の俺はまったくの別人になっている訳で、オバハンに絡まれる心配はないということに気付いた。
昔はなぜか何時も絡まれていて難儀したものだが。
俺は足早にそこを通り過ぎエレベーターに乗り込む。
俺はあのオバハンにかかずらってる暇はないのだ。
服はまだいい。 ボーイッシュな服を中心にそろえればいいのだから……
問題は下着であった。 俺にどうしろと……
4階に降り立ち目当ての店を探す。
所謂ティーンズ系の洋服を売っている所だが、正直なにがなにやらさっぱりである。
適当に買っていくかと選ぼうとしたのだが、なぜか店員に見繕ってもらっていた。
地味めな服を数点選んでいたら様子を見ていたらしい店員さんにダメ出しをくらった。
曰く、お客様は大変かわいらしいお顔をされているのですから、ここはもっとガーリッシュな服を……
とかなんとか、スカートも含め数点買わされ、とはいえ凄く安かったが。
そして気付けば下着も買いに来た事をポロっと言ってしまい、それならと下着売り場まで連れていかれそこの店員さんとバトンタッチ。
「ブラデビューですね。」などと言われ。 まあ見た目的に初めてのブラ着用だと思われたらしい。
始めては初めてなので否定しなかったが……
その後の事は覚えていない。
幼ブラがどうの、スタイルいいからお尻のラインをきれいに見せるためにいっそのことローレグがどうの言ってた気もするが俺は覚えてない、ないったらない!
そんなこんなで俺は飲食街の入口にいた。 両手に袋を抱えて。
「なあジーク。 俺は男として大事なものを失った気がする……」
俺がボソリとそう言うと。
『よくわからないがリンは女だろう? 少なくとも今は。』
などとのたまいやがった。
ちくしょう。 この悲しみをだれにぶつければ… ああ、犯罪者共にぶつければいいのか。
「ふふふふふふ。」
などと暗い笑いを発していた時。
「美咲?」
と声を掛けられた。
周りには誰もおらず俺に声を掛けたのは間違いないだろう。
不信に思いながら振り向けば、そこにいたのはものすごく美人の女性がいた。
歳の頃は20代前半と言った所だろう。
髪を左右に分け、右側が目に少し掛かるくらい後ろ髪はショートにしている。
スタイルもよく、ビシっと決まった女性用スーツをみごとに着こなしている。
そしてなにかスポーツでもやっているかのように身体は引き締まっている。
一言でいうなら、ザ・出来るオンナ。 である。
これで眼鏡でも掛けていたら大手企業の社長秘書的な感じである。
しかしこの顔どこかで見たような……
などと妄想していたら、件の女性は俺の顔を正面から見ていきなり抱き着いてきた!?
「ああ! やっぱり美咲!! よかった無事だったのね。 お姉ちゃん心配したのよ!」
両手が塞がっているせいで対応が遅れ、なすがままに。
決してその豊満な胸に顔が包まれているからではない。
というかコレはどういう状況なんだっ!?
To Be Continued……
説明回などは短めに、戦闘回は長めでしばらくやっていこうかと思います。
要望などあれば感想かメッセなどにお願いします。