葛藤と勝利~3~
ここにも一人、自分の所為で人生を狂わされた人間がいる。
あの頃の僕には、些細な悪戯としか感じていなかった行為は、一人の人間の人権や尊厳、人格をも奪っていた。
それは紛れもなく、イジメだったんだ。
「ごめん……斉藤さん。本当にごめんなさいっ……」
君が本来の自分を取り戻して学校に来てくれるなら、僕が姿を消しても構わない。それで学校に来れるようになるのなら。
まだまだ稚拙な僕には、そんな事くらいしか出来ないから。
自身の起こした行動が、彼女をこんな風に追い詰めたと思うと、今更ながら恐ろしくなった。
喉の奥が熱くなり、涙はいつでも溢れ出せる準備を始めていたけど、そこはグッと堪えた。
辛いのは斉藤さんであって、僕じゃない。
償い、という言葉の重みを、初めて知った
「毎日迎えに来てね」
「え?」
斉藤さんが言葉を発してくれた事にまず驚き、その言葉の真意に頭を捻る。
「毎朝学校に行く前にウチに寄って。遅刻は許さないわよ。それから……一ヶ月間は私の鞄を持つ事!」
なんだよ……せっかく我慢してたのに。もう止められないや。一生分の涙をここで流してやる。
「え~! まさか……お前ら付き合ってんの!?」
いつもと変わらぬ登校風景に、冷やかしの声が加わる。
「あ、三浦君。久し振り! 中川君はね、今日から私の執事なの」
執事って……まぁいいけどさ。
「へ……へぇ~……なんか……変わった趣味だけど。まぁ……頑張って」
僕の肩をポンッと叩き、三浦は走り去って行った。なんだか教室でも一波乱ありそうな予感がするけど。でも、それも悪くないかな。
皆が僕を許してくれた。人の心は、とても、とても温かかった。
何気ない日常。それがこんなにも愛おしいものだったなんて。




