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生まれたての感情~5~

 




「三浦達には、自分で話します」



 そう言った僕に、松井親子は笑顔で頷く。

 お父さんとお母さんは、驚いた顔で僕を見ていた。








 自宅にたどり着くと、二人は疲れを体現するかのようにソファーに身を沈める。


 同じ場所に座るのも気後れしたので、僕はダイニングの椅子に浅く腰掛ける事にした。


 色々な想いが頭を支配し、纏まりがつかない。

 考える事があまりにも多すぎた。


 いや、考える必要なんてないのかな。今、僕の思ってるそのままを伝えればいいんだ。


 意を決して椅子から立ち上がろうとした時────



「充。こっちに来なさい」



 お父さんが僕を呼んだ。一気に緊張が走る。




「……はい」



 心臓が激しく打ち、息が上手く出来ない。



「座りなさい」



 深い呼吸で息を整え、促されるままにソファーに身を置くと、決意が揺るがないよう間髪入れずに口を開く。



「お父さん……お母さん。ごめんなさい。僕、酷い嘘を……っ」



 あんなに泣いた後なのに、何リットル流せば涙はなくなってくれるんだろう。

 だけど、どれだけ言葉にならなくても伝えなければ。



「……めい……く…かけ……ごめ…」



 きっと何を言っているのか聞き取れてもいない。それでも僕は続けた。





「お金…も…松井……」

「もういい」



 僕の言葉を遮るお父さん。



 もう謝らせてももらえないのかな。

 いつもの空々しい偽りの謝罪だと思っているのかも。


 そう思われても仕方ないような事をした僕に、それを責める権利もない。

 悲しいけれど、受け入れるしかないんだ。








 思いっきり泣きたかった。だけど、お父さんとお母さんの前でそれをするのは、ズルイと思った。


 自室に戻ろうと脚に力を入れた時────



「すまなかったな」



 お父さんが謝った。



 浮いた腰が、ストンと再びソファーに埋まる。



「お前をそうさせたのは、俺達にも原因があったんだな」



 お父さん? どうしてお父さんが……



「充、ごめんね」



 お母さんまで。

 悪いのは僕なんだよ。二人が謝る必要なんてないのに……



「お前が本音を話せなかったのは、親である俺達の責任だ」



 しっかりと両手を結んで、その手を額に押し付けながらお父さんは言った。



「そうね。いつからかしら……あなたと向き合う事を避けてきたのは。親の思い通りの言動をとってくれないからって、充を認めようとしなかったのね。あなたはきっと、私達に気づいてもらおうと、必死でシグナルを送っていたのに……」


「ああ。世間体ばかり気にして、本音を聞き出そうとはしなかった。充の寂しさにも気づいてやれなかった。見たくないものから目を背けて、いつしか偽りの家族になってきているのにも気がついていたのに……知らないふりをしていたんだな」







 氷が、溶けていく。ゆっくり、ゆっくりと。

 長年かけて大きくなっていった塊が、温かさに触れ、少しずつ僕の心を溶かしていく。













 夜遅くまで、僕達は話し合った。絡まり合ってた糸は、解いてみると一本に繋がっていたんだと知った。



 その日、僕達は本当の家族になれた。







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