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暴かれる嘘~2~




 防犯カメラには、僕が一人でゲームを物色し、購入している姿が移っていたらしい。青いリュックまでハッキリと。


 周りにも、同じくらいの歳の少年は一人も写っていなかった、と山根さんは言った。

 


 この人は最初からわかっていたのではないか。

 全て僕の自作自演だって事を。


 いくら嘘を並べても、するすると暴かれていく。こんな事は初めてだった。

 僕は分かっていなかったんだな。警察の凄さを。嘘を見破るなんて、朝飯前ってわけか。



 でも、なんだろう。 気分は悪くない。身体が軽くなったようにさえ思える。

 それゆえ、いかに今の今まで、気持ちも身体も重く苦しかったのかがよくわかった。


 初めて感じるこの気持ち。しいて言うなら、開放感。



 今まで接してきた人達は、僕のしてきた事を知ると、大抵蔑んだ目で見てきた。それなのに……


 嘘つきだってわかった今、それでも表情を変えない山根さんが不思議でしょうがなかった。




 僕を見つめる視線が痛くない。むしろあたたかささえ感じてしまう。不思議な魅力を持った人だ。



「自分の口から言ってくれるかな?」



 そんな誘導にも、素直に答えてしまう自分がいた。



「僕が家のお金を盗んで一人で使いました。脅されたなんて嘘です。全部……嘘です」



 誰にも言えなかった本当の事が、自然と口から出た。



「そうか。よく本当の事を言ってくれたな。それでこそ人間だ」




 ……人間?





「儂はな、この少年課に来て20年たつんだよ。その間、沢山の少年少女達を見て来た。充君。きみは今、重い荷物を漸く降ろしてホッとしているんじゃないか?」



 この人には、僕の気持ちなんて全てお見通しなんだな。



「嘘で得るものなんて、何もないんだ。失うものばかり。信用やそれまでの関係、全て失うだけなんだよ」



 一言一言が、胸に突き刺さる。

 確かに僕は、失うものばかりだった。奪ってきたつもりでいたけど、それは間違いだ。


 信用なんて得なくていいと思っていた。だけど。


 酷い嘘をついて尚、自分という人格を認め、人間として真っ正面から向かい合って話してくれる人物に出会い、僕の心は揺れに揺れた。



 頬を、熱い涙が伝う。



 決して嘘偽りのない、身体の奥から自然に溢れ出してくる血潮。



 それは痛みと心地よさをもたらし、汚れきった鎧を洗い流してくれるようだった。



「それは後悔から出た涙だと思っていいんだな?」



 答える代わりに、僕は山根さんを見つめ返した。



「後悔は人間が持つ感情だ。後悔しない人間なんていない。要はそれをどう生かすかなんだよ」



 どう生かす?

 後悔を生かす事なんて出来るのだろうか。



「難しく考えなくていいんだ。ただ同じ過ちを繰り返さない事。それだけさ。それでも人は、ほとぼり冷めればまた繰り返してしまう事もある。そんな時は思い出すんだよ、今日のその後悔の念を。そうすればすぐに謝る気持ちになれるだろう? 嘘は塗り重ねてはいけない。それは充くん、きみが一番よくわかっているだろう?」




 わかっている。嫌というほど。

 むしろ、今まで気付かなかった事の方が不思議なくらいに。





「ご両親に話してくるから。家に帰ったらじっくり話し合いなさい。逃げちゃいけないよ。いい機会だ。自分の胸の内を全部さらけ出すんだ」



「全部……?」



「そう、全部。───家族だろ?」



 家族。僕が心を開いたら、上辺だけじゃない本当の家族になれるんだろうか。


 いや、きっと赦してはもらえないだろう。こんなに酷い嘘をついてしまったのだから。今回ばかりは、無理だ。





 山根さんが部屋から出て行き、僕は一人、脱力感に苛まれていた。


 眠い。

 気持ちは高ぶっているのに、眠気が僕を襲う。


 偽りのない涙は、こんなにも疲れをもたらすものなんだと知った。


 風邪でもないのに、灼けるような喉の痛みが何とか眠気を払いのける。


 僕はこれから、どう生きていけばよいのだろう……







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