消えた罪悪感~4~
お風呂からあがった僕を待っていたものは────
お母さんとお父さんの先程とは全く違う強張った表情。
そして、テーブルに並べられたゲーム機とソフトの数々と、青いリュックだった。
突然の出来事に、言葉を発せない僕。
なんで……どうして?
「お弁当箱出しておいてねって言ったのに、そのままお風呂に入っちゃったでしょ。仕方ないからあなたの部屋に取りに行ったのよ」
「あ……鞄、車の中に置きっぱなしだった」
すぐに松井親子とご対面だったから、鞄の事なんて頭になかった。
「ええ、後で気がついたわ。でもさっきはそんな事知らなかったから探してたのよ。ここに入ってるのかと思って覗いてみたら……こんなの持ってなかったわよね? すごい数のゲーム……これ、どうしたの?」
『後悔先に立たず』
つい先日知ったばかりのことわざが、頭の中を駆け巡る。
どうしよう? 言ってしまおうか。でも……
「答えなさい!」
ここまで来て……
「充!」
後には退けない。
「あ……あの、ほ、本当の事を言うね」
ゴクリと唾を飲む両親。
諦めと緊張の入り混じった複雑な空気が、僕の焦りを際立たせた。
「僕が買ったんだ。そのゲーム……僕がタイヨーで買った」
お母さんが、両の掌で口を押さえた。溢れる何かを封じ込めるかのように。
お父さんはまだ事態を把握しきれない様子で『何だ? タイヨーって……どういう事だ?』と場の空気にそぐわない、素っ頓狂な声をお母さんに掛けている。
無表情で、『近所に出来た大型スーパーよ。』とお母さんが言った。
ようやく事態を把握したお父さんも、厳しい表情で僕を見つめる。
長い沈黙。
最初に口を開いたのは、僕だった。
「僕が玩具売り場で買ったんだ。というか───買わされたんだ」
「買わされた?」
「そう。買わされた。買ってる所を誰かに見られたら困るからって……選ぶのはあいつらが。これ全部買って来いって持たされた」
信じてくれるだろうか。
「そんな……だったらどうしてお前が持ってるんだ? おかしいじゃないか!」
お父さんの言う事は最もだ。
「家に置いといて親に見られたらマズイからお前が持って帰れって。また次に逢った時に持って来いって言われ……て……」
半信半疑の二人。信じていいものかどうか迷っているのだろう。
「もしそれが本当なら、どうして最初に言わなかったの? そんな大切な事言わないなんて変よね?」
明らかに疑っているお母さん。
身勝手だとわかっていても、僕は傷付いた。と同時に、お母さんと、愛らしいあの人の歪んだ顔が重なり合い一つになる。
エミ先生……
正直に生きたって無駄だと、僕に教えてくれた人。
僕は気持ちを引き締めた。一瞬でも言ってしまおうかと思った自分を悔いた。
信じちゃ駄目なんだよ。誰も。
裏切られて悲壮感を味わうなんてまっぴらだ。
「───すぞって…」
蚊の鳴くような小さな声で。
「え? 聞こえないわ」
怯えた小鳥のように震えながら。
「……刺すぞって」
恐怖に歪んだ顔を見せつけて。
「なんですって?」
僕は名俳優になりきってやる。
「刺すぞって言われた。誰かに話したら刺すぞって。殴るって言われた時も怖かったけど……刺されるなんて───ねぇ僕、殺されちゃうの? お父さん、お母さん、助けて! 怖い……怖いよぉ!」
すがる目を向け泣きじゃくる僕を見て、二人の顔色が変わった。
「あなた……」
「ああ。これはただ事では済まないな。明日もう一度警察に行こう。それからタイヨーにも」
信じた様子の二人を見て、心の中でほくそ笑んだ。もちろん顔は泣いたままで。