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才川くんと異世界転生  作者: ポッチリプッチョ
1章 始まり
8/35

第7話 【オリジナル魔法と提案 〜其のニ〜】

すいません、今回は長めです。

 




 最近、アルム君は暇そうです。

 きっと治癒魔法を覚えてからはすることがないのでしょう。



 1日中床でゴロゴロしていたり、天井をジッと眺めたかと思えば大きくため息をついたりしています。

 おもちゃもあるのに何故遊ぼうとしないのでしょうか。

 いえ、天才の彼にはもうおもちゃなど要らないのでしょう。

 既におもちゃには飽きているんだと思います。




 そんな彼が唯一楽しそうにしている算術の授業も、私の都合によっては勝手ではありますが無い日も珍しくありません。

 かといって私にも家事の手伝いがありますし、彼と遊んでいる訳にはいきません。

 彼には悪いことをしていると思います。

 そのうち休みを貰って、彼と一緒に遊んだり出掛けたりしましょうか。




 そんな提案を頭の片隅に入れたまま実行に移せずに何日か経ちました。

 その日はいつもと違い、昼に1階の掃除を頼まれていました。

 私は、2階から箒と塵取りを取ってきて、ちりひとつ残らぬように床を隅々まで掃いていました。



 すると、視界の端にアルム君の姿が映りました。

 私は以前から考えていたお出かけの誘いを伝えておこうと彼に近づきました。

 しかし、思わずその足を止めてしまいました。



 彼が裏の勝手口を開けたのです。

 なぜ彼が重い勝手口を開けられるのかと不思議に思いましたが、扉はつっかえ棒で予め少し開けられていたのです。

 普段誰も使わないため今まで気づきませんでした。



 少し見ていると、彼は巧みに体をよじって扉の隙間から抜け出ました。

 私は急いで彼を追いました。

 なるべく音を立てぬよう扉を開けて外に出ると森の中の一本道を彼は歩いていました。

 いつでも暗く不気味なその道は私は苦手ですが、彼の足取りは実に軽々しいものでした。




 彼は一体どこへ行くのでしょうか。

 誰かに会いに?いや、もしかすると魔物でも拾って飼っているのかも…



 考えれば考える程数を増す不安に促されて、私は彼に気付かれぬように少し後ろから付けました。


 その場で彼を呼び止めてもいいのですが、天才である彼には何かしらの理由があるのかもしれませんし、ここで叱ってもきっと根本的な問題の解決にはならないでしょう。

 私が初めて来た4年前と何ら変わりない不気味な道を木の後ろや茂みに隠れながら進みました。




 そして進んでいると前方に日の光のようなものが見えました。

 その光は不自然な程に明るく光の中に何があるのかは見えませんでした。

 しかし、その光が見えると同時にアルム君の歩く速さが速くなり、どんどん光に近づいていきます。


 彼はその光の中へと入っていきましたが私は森の中に入り、茂みの陰から彼を覗きます。

 どうやらあの光の場所は丘になっているようです。

 4年前はこんな丘は無く、ただただ暗い道が続いていたはずですが…

 あの後作られたのでしょうか。



 そんなことを考えていると丘の真ん中辺りで彼は足を止め、何やら考え事をしているかのように腕を組んで顔をしかめさせていました。



   ふふ、腕を組むアルム君は可愛いですね。

 こう、小さな子供が大人のように振る舞おうと頑張っているような感じで、微笑ましいです。

 彼の場合は真剣に考える時はいつも腕を組むので大人のように、なんてことは考えていないのでしょうけどね。



 私が彼の姿に頰を緩めていると突然彼の目の前に大きな筒のようなものが現れました。

 危ない!と私が茂みから飛び出そうとしたときには大きな筒は崩れさり、後には何も残っていませんでした。



 一体あれはなんだったのでしょう…

 この村の付近に住んでいる魔法使いは私を含めても1人か2人です。

 私はまだしも、こんな田舎の村にいる魔法使いなどせいぜい生活を手伝う程度に魔法が使えるだけで、あんなに立派なものは作れません。



 では一体誰があんなものを瞬時に作って崩したのでしょう。

 あんなものを作る魔法は見たことも聞いたこともありませんが、あの大きさなら詠唱もそれなりに時間がかかるはずです。



 しかしこの丘の付近に人の気配はありません。

 では、まさか、彼が作ったのでしょうか。

 まだ治癒魔法しか使えないはずですが、無詠唱が可能な上に才能もある彼ならば詠唱の声も聞こえずにいきなり作られたことにも辻褄が合います。

 これはもう少し様子を見る必要がありそうです。



 すると、今度は彼の顔より少し上のあたりに彼の顔程の丸い球体が現れました。

 あれは、土、でしょうか。

 土だとしたら中級土魔法の泥球(マッドボール)ですかね。

 いや、それにしては大きいし硬そうですが…



 私が空中に浮かぶ球をみていると丸かった球は円柱形の先を片方だけ伸ばしたような形に変形していきました。

 先は鋭いというほどではありませんが尖っていて、杭のようです。



「うーん、速さは大体100キロ位でいいかな?あまり速くすると木を吹き飛ばすかもしれない。1回死んだ木は戻せないし、瀕死の場合は戻すのに魔力を大量に使うし調整が難しいんだよな」



 彼がこちらのほうを向き、唐突に呟きました。

 まさか付けていたのがバレたのかと思いましたが、目線は私を見ている感じではありません。

 バレていないことにほっと胸を撫で下ろすと彼の呟きを思い出し、ふと疑問が浮かびました。



「木を吹き飛ばす」とはどういうことでしょうか。

 それに「100きろ」というのも気になります。

 呟きの内容から推測するに速さのようですが、まさかあの球で木を吹き飛ばすのつもりなんでしょうか…




「ロックバレット!」




 私が考え事に集中していると叫び声のような大きな声が聞こえ、私が声のする方を見たと同時に私の頰を何が掠めました。

 私は突然のことに後ろに倒れ、尻もちをついてしまいました。



 今、のは、なんでしょうか…?

 何かが掠めていった気がしますが…



 その"何か"が見えたわけではありません。

 しかし、私の視線の延長線上に丸く幹が刳り抜かれた木があり先程の呟きと空中にあったはずの球が消えていることから直観的に"何か"があの杭のような球であることを確信しました。


 血が頰を伝う感覚が脳に響き「今自分は死にかけた」という実感がだんだんと湧いてきます。



 そう思った途端に全身に力が入らなくなり、立ち上がることが出来なくなりました。

 手足が震え、死への恐怖のみが私を包み込みます。



「……さてと、まずは的の修復からだな」



 アルム君の声がしました。

 何か言っていたようですが最後の部分しか聞き取れません。



 彼はどうやらこちらに近づいて来ているようです。

 反射的に隠れなくては、と思いましたが体は言うことを聞いてくれません。



 彼が茂みの中に入り、こちらに近づいてくるのが分かります。

 ガサガサと草をかき分ける音が近づき、彼と私の視線が絡みあいました。



「せ、先生?なんでここに…?それにその血はどうしたんですか?

 か、体は大丈夫ですか?いや、そんなことより、とにかくこっちへ!」



 私は彼が差し出した小さな手を握りました。




 =====




 〜アルム目線〜





 俺はアトミーを丘まで連れて来た。

 腰が抜けているようで手を取ったはいいものの連れて行けず、結局土魔法で土の波のようなものを作って運んだ。

 土の波の上に居てもアトミーは俺の手を離さなかった。



 アトミーと丘で俺が今までしていたことやアトミーが何故ここにいるのかなどの話をした。

 話の途中で俺は自責の念に押し潰されそうになった。

 自分の魔法でアトミーを殺しかけてしまったのだ。

 俺は間抜けだ。



 俺が落ち込んでいるとアトミーは「大丈夫です。ほら、私は元気です。今度から気をつけてくれたらいいんです」と微笑んでくれた。

 また俺は彼女に惚れてしまった。



 自分を殺しかけた相手に向かってこんなことを俺は言えるだろうか。

 例え親しい仲であっても俺ならば言えない。

 しかし、アトミーは言える。

 しかも笑顔で、だ。


 アトミーは初めて会った当初は中学生程の体つきだったが今は元の世界の俺と同じ高校生ほどになり、顔つきも大人びてきた。

 そして彼女の垂れ目も相まって「はんなり」という表現がぴったりの笑顔だ。

 こんなに可愛い顔で、その上こんな俺のことを許せる優しさを持っているアトミー。



 俺は自分が3歳であることをこんなに悔しいと思ったことはないだろう。

 "アルム"という顔はサルガたちの遺伝子のおかげかそこそこイケメンだ。

 自分の顔という実感は沸かないが彼女をものにすることは出来るかもしれない。


 それでも俺は3歳だ。

 彼女は相手にしてくれないだろう。




 そして今、事情の擦り合わせを終えた俺たちは風になびく草の中向かいあって座っている。

 そこで俺は不思議な点を見つけた。



 アトミーはそわそわとしていて、立てるはずなのに立たないのだ。

 話をしている最中もアトミーは終始もじもじしていて、いつものような落ち着きがなかった。


 どうしたんだろうか…体がどこか悪いのかもしれない。



「あの、アルム君は、そっその、水魔法は使えますか?」



 そう思ってアトミーに尋ねようとした時、アトミーが顔を赤く染めて俯きながら聞いてきた。


 そうか、俺が他の魔法も使えることにまた落ち込んでいるのか。

 本当は上級まで使えるのだが、ここは控えめに言うべきだな。

 それにしてもアトミー、顔赤いな。

 大丈夫なのか?



「はい、まぁ初級程度ですが」



「そ、そうですか。それは、良かった、です」



 ん?どうしたんだ?

 もしかして初級でも落ち込んでしまったのか?

 いや、でも、どこか嬉しそうな顔をしている。

 何だろうか…それにさっきから何で顔が赤いんだ?


 は!もしかして告白か?

 初級水魔法が使える人好きです。みたいな感じなのか?

  いや、どう考えてもおかしいな。そんなわけない。

  でも、もしかして…



 俺が思案、というよりほぼ妄想のような考えにふけっているとアトミーの口が開かれる。



「あの、アルム君」


「はい、先生」


「その、ですね。先程の魔法でですね、えっと、その、驚いてしまって、も、漏らして、し、しまったんです。ですから、あの、下着が、濡れて、いまして…」



 アトミーは顔を真っ赤にして詰まりながらも独り言のような小さな声で話す。

 俺は、彼女の口から紡がれる言葉に目を丸くした。


 アトミーが、漏らした…?

 いや、まさか、これは夢だ。

 いや違う、夢じゃない。

 じゃあ、さっきの水魔法の質問は、つまり…



「その、アルム君、洗っては、くれないでしょうか?」



 俺が答えを出すと同時に俺の答えと同じことをアトミーが言う。

 しかし、その頼みを承諾する前に疑問が浮かぶ。


 アトミーは水魔法を使えないのだろうか?

 そうだ、彼女なら使えるはずだ。

  何たって俺の尊敬する師だからな。



 しかし、もし、使えないならば、俺が"仕方なく"その頼みを引き受けよう。

 うん、仕方なくだ。

 ここで即答でOKしたら、俺がまるでアトミーのパ○ツを欲しがってるみたいじゃないか。




「えっと、先生は水魔法は、使えないんですか?」


「はい、私の苦手属性は水と炎ですので、その2つは幼級すらまともに使えません」


「そ、そうですか。では、僕が洗わせていただきます」



 成る程、そうかそうか、使えないか。

 それならしょうがないな、うん。俺が洗うしかない。


 というか苦手属性ってなんだ?

 そんなの本には載ってなかったはずだが。



「アルム君、引き受けてくれるのは嬉しいのですが何故笑っているのですか?」


「い、いえ、これは先生が無事だったことに対する笑いです」


「そうですか?」



 おっと危ない危ない。

 心の様子が顔に出てしまったか。気をつけないとな。



「あの、アルム君、出来れば、土魔法で小部屋を作ってはくれませんか?ここで、というのは恥ずかしいのですが…」



 そうだよな、俺とアトミー以外誰もいないとはいえ丘で美少女の下半身が露わになるというのは色々まずい。


 俺は頷いてから、丘の上に簡易トイレほどの大きさの扉付きの更衣室を作った。

 無詠唱だったからか驚き気味の顔をしたアトミーは足早にその中へと入り、少し後、中から服が擦れる音が微かに聞こえてきた。



 あぁ、今この中でアトミーは…

 いや、いかんいかん。パ○ツは洗ってもそれ以上はダメだ。

 自制の心を持たなくては。


 俺はブンブンと頭を横に振って邪念を振り払う。



「あの、脱ぎ終わったので、洗って、いただけませんか?」



 中から声が聞こえ、俺は更衣室に手紙入れほどの穴を作る。

 まぁ扉を開けてという方法もあったが、こう言っているということはその方法は嫌なんだろう。


 少しすると穴からたたまれた灰色のズボンと三角の純白の布が差し出された。

 もちろん穴から中を覗くような無粋はしない。

 今はこの白い布を見れることに感謝だ。



 俺はその服を水魔法の水波(ウォーターウェイブ)を洗濯機のように丸く操作して洗う。空中で渦を巻く水の球体の中でソレがグルグル回っていて、俺もその中で一緒に回りたくなってしまうな。そして、何度か綺麗になったソレを欲しくなりながらもウィンドで乾かす。

 乾かし終わると元のようにたたみ、穴の中に入れた。



「ありがとうございました。あの、今度、休暇を貰うので村にでも出掛けませんか?」



 しばらくして清々しい顔で更衣室から出てきたアトミーは、はんなりと笑いながらそう提案した。



「はい!お願いします!」



 俺は喜んで提案を受け、アトミーと一緒に家へと帰るのだった。

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