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才川くんと異世界転生  作者: ポッチリプッチョ
1章 始まり
6/35

第5話 【天才】

 



 アルム君に算術を教えてもらい初めて一年近く経ちました。



 彼はもうすぐ3歳になります。

 近頃は発音も良くなり、難なく言葉を話しています。

 私としてはあの可愛らしい言葉が聞けないというのは悲しいのですが、彼の成長は微笑ましい限りです。



 彼には算術を教えてもらうと同時に治癒魔法を教えています。

 最初はお互いが先生で生徒ということに違和感を感じましたが、今はもう慣れました。

いえ、実はもう今は治癒魔法を教えていないので私は先生ではありません。

 教えていない理由は簡単です。その必要がないのです。



 彼はつい先日、私の使える治癒魔法を全て覚え、行使できるようになりました。

 私が8年かかったものを彼はたったの1年でこなしたのです。

 それも無詠唱で。


 無詠唱を使う魔法使いというものは私の知る限り、子供用の本の英雄譚に出てくる魔法の祖、魔法王しかいません。

 つまり、彼自身を除けば、誰も無詠唱という技術を持っていないのです。

 彼に無詠唱について尋ねたところ、体の中の魔力の流れを掴むと出来る、とのことでした。

 どうやら魔法を使うと体内を流れる魔力を感じるそうですが、私は全く感じません。

 仮に感じたところで無詠唱など出来ないでしょう。


 そんな彼は何も教えることが出来ないこんな私を未だに「先生」と呼んでいます。

 理由を聞くと尊敬しているからと答えられました。

 私のどこを尊敬しているのか分かりませんが、「先生」という言葉の響きは新鮮で心地良いですね。



 私は最近感じるのですが、彼は天才です。誰もまだ教えていない言葉を1人で読み書きできるようになったり、無詠唱を使えたりと年齢と見合ってないことばかりです。

 特に無詠唱に至っては最上位の王宮魔法使いですら使えないのですから、彼に天賦の才が与えられていることを痛感します。




 そして、この1年間で私にも成長はありました。

 彼程のものではありませんが、カケ算というものを教わり、ククというものも覚えました。

 今はククを応用して四角形の面積を求めるということをしています。

 四角形の面積の求め方など誰1人として出来ることではないというのに、彼はいとも簡単に行ってしまいました。やはり彼は天才なのです。

 その才能を羨ましく思ってしまう私は未熟者ですね。





 =====




 〜アルム目線〜





 治癒魔法を習得してから1週間程経った。

 治癒魔法を覚えるのはそこまで難しくはなかった。

 それもこれも無詠唱のお陰だ。

 1度詠唱をして魔力の動く感覚を覚えると2度目以降は無詠唱で治癒魔法を使えるのだ。もし詠唱が不十分であっても魔力の感覚が少しでもあれば無詠唱でできてしまう。

 全く、無詠唱様様だな。


 アトミーは俺が無詠唱を使えることに驚いていたが、俺にはあまり特別だという意識はない。確か大昔に無詠唱を使える人が居たらしいし、実は知られていないだけで案外使える人は俺以外にもいる気がする。

もし本当に俺以外が出来ないのならば、これが俺の異能だ。異世界への転生や転移といったら大抵その人に異能がくっついてくるのが常識である。そうすると大昔の魔法の祖とかいったか、その人も転生なり転移をしてきたということになるがな。



 因みにアトミーに無詠唱を使えるようになるまでの経緯を話すと「流石は天才です!アルム君なら何でも出来るのでは?」と俺をよいしょよいしょしてきた。

 彼女は俺のことを買いかぶりすぎだと思う。俺は他の人よりも少し物知りなだけでいうほど大した人間じゃない。

 まぁアトミーに褒められるというのは嬉しいから買いかぶっててくれた方がいいとは思うが。



 ちなみに、俺が治癒魔法を習得したと知った時のサルガの反応は半端じゃなかった。

 喜びの声をあげ、俺を抱き上げると顔中にキスされた。

 男にキスなんて吐きそうだが、その時は嫌とは思っても明らかな嫌悪感というものは抱かなかった。

 まさか俺には気付かぬ間にソッチの感性が出来たのだろうか。いや、冗談だ。そんなわけない。

 多分これは心はともかく体には親子の血の繋がりがあるということが影響しているのだろう。



 アトミーはこの1年で九九を覚えた。

 途中7の段を覚えるのに苦労していたみたいだが、今は順調に面積の公式を今は学んでいる。アトミーは俺のことを天才だ天才だと言っているがアトミーこそが天才だ。九九の原理を軽く説明しただけで理解してしまったし、面積の求め方も1度教えだけで使いこなせる。

 思ったのだが、そのアトミーが7の段に苦労していたのだから異世界でも7の段の覚えづらいさ共通らしいな。


 更に分かった事だが、この世界にはカケ算というものがなく、全て足して求めるのだそうだ。まぁあれば俺が教える必要はないのだから当然か。

 それにしても異世界は不便な世界だな。





 


 そして今、俺に或る問題が立ちはだかっている。

 その問題というのは、時間が有り余っていることだ。要するに暇だってことだな。しかしこれも致し方ないことではある。

 魔法鍛錬書の詠唱文は全て覚えたし、治癒魔法も覚えた。

 唯一の至福の時間のアトミーに算数を教える時間は、アトミーの仕事の状況によって無くなることが少なくない。

 その上、アトミーの仕事の関係で授業は日が暮れてからの授業になるため1日の内、たったの2時間程しか教えられない。

 そしてエルマやアトミーを手伝って時間を潰そうにも「アルムはあっちで遊んでなさい。これはお母さんがしておくから」と言われてしまうのだ。



 そんなことを言われても俺の心はほぼ大人なんだし、オモチャで遊ぶような歳じゃない。まぁそれを言われるのは俺の体が2歳なんだからしょうがないことではある。

 ということで、ここ1週間程することもなく俺は時間を持て余していた。



 そして俺は今日も今日とて時間が有り余っている。

 さて、今日はどうやって時間潰そうか。

 あーあ、早く他の魔法試してみたいなぁ。



 今日もいつもと同じぼやきを心の中で呟いていた。

 因みに俺は未だに治癒、つまり光と風以外の魔法を使ったことがない。

 正直試したくて仕方ないが、場所がない。

 外で試そうにも、玄関と裏口の扉は他のものより大きくて重いため俺では開けられない。

 その上、エルマ達に外に行きたいと頼んだが「もう少し大きくなってから村の方を案内するから、それまではダメよ」と言われる。

俺としては外に出て魔法を使いたいのであって案内は別にいらない。案内役がアトミーなら別だが。



 あー、暇だ。

 元の世界ならこういう時勉強してたんだがなぁ。ここじゃ勉強道具すらない。

 アトミー、今暇かな。ちょっと行ってみるか。



 俺は魔法への期待を早々に捨て、あの可憐な少女に会うべくアトミーの部屋へと近づく。

 しかし、その足取りは部屋に達する前に止まった。

 なんと、裏口の扉が少しではあるが開いているのだ。



 扉が、開いてる?やった!遂にチャンス到来だ!

 よし、通れるな。

 誰にも言わずに出て行くのは気がひけるが、言えば行かせてもらえない。

 ごめんよエルマ達。俺、自分の好奇心には逆らえないんだ。



 俺は開いている扉の隙間から抜けられることを確認し、一応心の中で謝ってから外に出た。

 勿論帰りのことを考えて、扉に木の棒を突っ返させた。今の時間帯ならエルマもアトミーも家事で裏口のことには気付かないだろう。



 扉から抜け出ると家の裏は森になっていた。窓から見た時は気がつかなかったな。

 森には杉みたいな木やドングリのような実を付けている木が所狭しと生えている。

 そしてその大小様々な木々の中に一本道があった。

 それは丁度裏口のところからから森の奥の方まで真っ直ぐと伸びていて、先の方は暗くてよく見えなくなっている。



 うーん、不気味だが行ってみるか…

 この道、大丈夫だよな?危ないところとかに通じてないよな?

 行った先で食べると豚になる食べ物の屋台なんて、無いよな?



 不安と共に俺は慎重に歩を進めた。

 少し歩くと、まだ昼だというのに周りが段々と暗くなってきた。

 更に少し歩いて俺が引き返そうかと迷いはじめたとき、少し奥の方に明るくなっているところが見えた。そこに近づいていくと周りもそれにつられるように明るくなってくる。

 周りが明るくなるにつれ俺の足取りも速くなり、その明るい光に達すると、そこは開けた丘のようになっていた。

 俺の脛あたりまでの雑草で覆われ、広さにして半径50メートルほどの楕円に近い形の丘は、さっきまでの森の中とは打って変わって清々しい風と日の光であふれていた。



 おぉ、広いな。こんなところあったのか。

 ちょっと家から遠いけど、魔法を試すにはもってこいの場所だな。よし、じゃあこれからはここで魔法の特訓をしよう。

裏口の扉を毎度毎度バレないように開けとくのは大変だがどうにかなるだろ。



 俺は喉から飛び出そうになる興奮を飲み込み、まず準備運動に久しぶりのウィンドを使った。勿論無詠唱だ。

 いつもより興奮気味のせいで流す魔力の量が多く、強めのウィンドが丘の草を揺らす。

 そして、ウィンドを使い終えると念願の他の属性の魔法を幼級魔法から順に詠唱と無詠唱の交互に試していった。

とはいえ魔法の量は多い。結局全ては終わらず、土と雷と炎は中級、水は初級のところで魔力が尽きてしまった。

 本来この程度では尽きないはずの魔力も、初めて使う魔法への興奮と無詠唱と詠唱を1度ずつ試すせいで通常の3倍程の威力で使ったせいで尽きてしまった。魔法は威力をあげればその分魔力消費も上がるものなのだ。毎度ここに来れるとは限らないのに、勿体無いことをしてしまったな。

 因みに言うと何故か無詠唱もただの詠唱に比べて魔力消費が多い。不思議だな。

 今日だけで魔力も普通に同じ魔法に使う魔力量の5倍は使っただろう。



 うーん、もう尽き始めたか。

 1度枯渇すると2週間近く回復に掛かるし、今日は一旦帰ろう。

 取り敢えず他の魔法も無詠唱でできることは分かったし、成果は上々だ。次は興奮しないで冷静に試していかないとな。




 俺はその日はそこで帰り、次の日もまた丘に来た。しかしその日も全ての魔法を行使するには至らなかった。

 これは単に上級魔法の魔力消費量が多いからだ。

 その上、上級は1属性でも数が多い。

 今日は土と雷は何もせず、風と水と炎を上級まで試した。

 例え上級になっても、体を流れる魔力の感覚は明確に伝わり、それをイメージで再現し、無詠唱を行うことは出来るようだった。

 その日も、やり場のない興奮と自分の魔力の量に対しての悔しさを胸に俺は家に帰った。


 そして次の日、ようやく全ての魔法を試し終えた。3日も掛かったが、無詠唱はどの属性でも出来るようだし良しとしよう。



 そこで俺は、ふと思いついた。

 この体を流れる魔力の感覚を自分の好きなように変えたらすることは出来ないのだろうか。

 今まで"再現"して無詠唱を出来るようになることだけを考えたきたが、考えてみればそれくらい出来るような気がする。


 思いついてからの俺の行動は早い。

 ものは試しが俺の座右の銘なのだ。

 早速ぐるぐると体を血液のように流れる魔力に意識を集中させる。使うなら取り敢えずは使い慣れている風魔法だな。

 竜巻のように渦巻くようにイメージして、魔力を右手のところでぐるぐると回す。

 数秒のうちにその回転の速さと威力は加速度的に増していき、魔力も抑えていられる限界に達し、俺は右手を前に出した。



竜巻(トルネード)!」



 思わず勝手に言葉が飛び出て、俺のその言葉と同時に魔力は魔法として世界に顕現する。

 風のため見えはしないが、丘に生える草や森の木々がその威力を証明するかのごとくざわめいている。

 草に至っては引きちぎれ、空中でグルグルとイメージを再現するように渦巻きながら舞っている。



 ピシッ、ビシビシ、ミシッ、バゴッ!



 予想以上の威力を見せる魔法に俺が感嘆していると、数メートル先の魔法のある下辺りからおかしな音がした。

 よく見ると地面が抉れ、土の塊が宙に浮こうとしている。

 そしてその土塊は魔法に耐えきれず、ぐるぐると螺旋のような軌道で浮きだすと、少ししてからドサッという音と共に丘に降り積もった。

 緑の中にまばらにある茶色の土を見て俺は確信した。



 魔法は創意工夫次第では何でもできる。

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