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才川くんと異世界転生  作者: ポッチリプッチョ
1章 始まり
4/35

第3話 【ファンタジー世界 〜其の二〜】

 


 魔法を知ってから数日が経った。

 頭の方は問題無さそうだが、頭の中はぐちゃぐちゃだ。魔法なんて、いきなりのこと過ぎて全然ついていけない。



 それでもとりあえず、この世界には魔法が存在することは分かった。

 まぁ髪色も奇抜だし、名前もキラキラしてるし、いわゆるファンタジー世界なんだろう。



 でも、ここがファンタジー世界なんだったら、あの馬(笑)もユニコーンだといいのにな。あんなよく分からん生き物よりそっちの方がよっぽどファンタジーだ。

 …まさかアレをユニコーンとかいうんじゃないよな?

 うーん、生き物もそうだが魔法なんて、この世界は奥が深そうだ。

 特に魔法には興味があるしな。




 =====




 それから更に1年が経った。


 俺はついに歩けるようになった。

 つかまり立ちというのは出来ていたのだが、歩くというのは中々出来なかった。

 歩けることにこんなに感謝した日は無かっただろう。ハイハイよりも断然速いし、体力をあまり使わなくていいから移動距離も伸びる。

そうだな、例えるならば大体一輪車と自動車くらいの差がある。



 俺は歩けるようになったことで更に活動する範囲が広がり、様々な物を見て回った。

 そして遂に、2階にもようやく行けるようになったのだ。



 色々探してみたが3階への階段は無く、この家は2階建てのようだ。因みに2階には部屋がいくつかあって中には生活に必要なベッドだとかそういう必需品のみが置いてあり、簡素なものだった。どの部屋も誰も使っていないらしく生活感が全くない。



 しかし、俺が面白そうなものは何もないかと諦めて帰ろうとした時、大発見があった。

 アトミーの部屋を見つけたのだ。扉にはアトミーと書いてある札が掛けてある。

 今までの部屋も中を見ようと扉の取手に手をかけたところで考えた。

少女の部屋に無断で入っていいものだろうか。いや、よくよく考えれば俺は赤ん坊だ。

 誰かに咎められることはないだろう。



 ということで俺はアトミーの部屋に侵にゅ…いや、失礼した。

 中は決して女の子らしい、という感じではなかった。今までの部屋のように生活必需品があり、唯一の変化といえば壁に掛けられたアトミーの服と机の上の小さな本棚くらいだ。

まぁアトミーの性格を考えればこんなもんだろう。部屋を飾ったりしなさそうだからな。



 そして内装以外にもう1つ見つけた。匂いだ。部屋の中は良い匂いがした。

 最近俺が成長したせいでアトミーは俺を抱き上げられなくなった。そのせいで俺はアトミーの何とも言えない甘く落ち着く匂いを嗅げなくなってしまった。

 そこ、変態呼ばわりしない。誰でもアトミーと過ごしてしまうと、惚れてしまうんだ。それほどに身も心も美少女なのだ。


 久しい匂いを思い切り肺に溜めてから、俺はアトミーの部屋を後にした。




 それから、もう1つ俺は成果がある。

 それは文字の会得だ。



 1年間ハイハイで色々なところを回っていたある日、俺は書斎のような部屋を見つけた。

 他の部屋より小さめのその部屋の中には、本棚があり辞書のような分厚い本から絵本のような薄い本まで大量の本が所狭しと並んでいた。

 俺はここで、初めてこの世界の文字を知った。

 文字の習得にはあまり時間はかからなかった。この言語の文法の形式が英語と似ていたからだ。

 大体見つけてから半年で読み書きができるようになった。

 まぁ読むと言っても発声は未だ出来ないから黙読なんだけどな。




 更に、歩けるようになったここ2週間の間にその書斎で或る重要な本を見つけた。

 魔法の本だ。それも10冊近くもある。

今までハイハイだったため手が届かなかった絶妙な位置にその本たちはあった。

 それらは、本というより単語帳みたいになっていて、1つ1つの魔法の名前、効果、そして詠唱文が載っている。



 詠唱文だ。つまり、そう、魔法は詠唱しなければ使えない。

 簡単にいえば、今の俺には使えないってことだ。そりゃそうだ。なんたって言葉を話せないんだからな。



 最初は落胆もしたが、よくよく考えれば今の内に詠唱文を覚えておけば俺でもいつか魔法を使えるようになるかもしれないということだ。


 さて、ここで魔法のルールについて説明をしておこう。

 魔法とは、体内の魔力を詠唱によって消費し、何かしらの影響を及ぼさせるものである。

 魔力とは、生まれつき体内に蓄積されているエネルギーのようなものだ。魔力は人によって量が違うが、鍛えることで増やすことが出来る。鍛えられるといっても限界は人それぞれで、生まれつき魔力量が少ない人もいる。

 また、魔力には7系統あり、炎、水、風、土、雷、光、闇がある。

 例えば、治癒魔法ならば光の分類に入る。

 そして、魔法は威力によって幼級、初級、中級、上級、優級、真級、魔級と位付けされていて、魔法使いはその位に応じて名前が変わる。魔級の魔法を使えるならば"魔級魔法使い"と呼ばれるわけだ。本によると魔級を使える魔法使いは魔法の祖と言われる魔法を編み出した人しかいないらしい。



 と、まぁこんな感じか。

 こういうファンタジー系ってのはラノベだとかゲームの中でしか見たことがなかったが、いざやろうとしてみるとワクワクするものだ。

 そして、この本を見つけてからの2週間俺は詠唱文をひたすら暗記している。

 俺の暗記の仕方は、暗記する対象物を見ることだ。見ることで、写真のようなイメージを頭に入れて覚えていく。



 この方法には「繰り返し」というところがポイントになってくる。1度、集中して見れば大抵覚えられるのだが、あまり長い間は覚えていられない。

 だから、繰り返し見ることで記憶を定着させていくのだ。この方法は俺のオリジナルで、元の世界で英単語を覚える時もこの方法で覚えていた。


 俺は本を見つけてから毎日密かに書斎に通っては詠唱文を覚えている。既に一冊分は覚えたが、この一冊は幼級魔法についてのもので1つの魔法の詠唱文の量も少ない。

 因みに、魔法に関しては色々な本があるが、中でも魔法鍛錬書というものが1番分かりやすく内容も深かった。

そして今日からは初級魔法の暗記だ。



 しかし、本を開きかけたところで俺は思い留まった。

 今までひたすら暗記してきたが、読んだことは1度もない。そこに関しては俺の方法的にそうなってしまうのだが、やはり読んでみるべきだと思う。

 といっても言葉を話せないから黙読ということになるが、実は黙読だけでも魔法を使うにはこと足りる気がする。



 まぁ、ものは試しだ。

 取り敢えず、そうだな、風魔法のウィンドで試してみるか。



(風の神よ。旋風を起こし、全てを散らせ。ウィンド!)



 右手を前に出し、心の声が詠唱を終える。

 すると、体の中から生気のようなものが右手に集まっていくような感覚と共に、集まったエネルギーが1度手のひらの中で渦巻いてから放たれた。

 離れたエネルギーは風となり、扇風機の「強」ぐらいの風が手を出した方向へと吹いた。




 おぉ?おいおい、出来ちゃったよ。これが魔法ってことでいい、のか?

 ていうか心の中とはいえ、詠唱すんの恥ずかしいな。ウィンド!とか言っちゃったよ。

 そういや、中学生の時にこんなこと言ってる奴居たな。我が名は闇の覇者ルシファーとか言ってたあいつは恥ずかしくなかったんだろうか。



 俺が恥ずかしさに身悶えしている間も右手からは絶えず魔力であろうエネルギーが抜け続けている。



 まだ出てるんだけど…えっと、ちょっと、これはマズイんじゃないか?

 これ出し過ぎると死ぬとか、ないよな?

 あ、なんか体がだるい、疲れてきた…そうか、枯渇し始めてるのか。

 あぁ、目眩がする…

 えっと、魔法の止め方は…………



 そこまで考えたところで、俺の意識は暗闇に飲まれた。




 俺が目を開けると、1年以上見てきた見慣れた木の天井がぼやける視界を埋めた。体を捻り、起き上がろうとすると妙に体がだるい。



 えーっと、確か魔法を使って、止められなくて倒れたんだったか…

 魔力って枯渇すると気を失うんだな。



 まだ眠気の抜けていない体を起こすとすぐ横に青い何かの塊のようなものがある。目をこするとだんだんとぼやけていた視界がくっきりとしてきてベッドの横にある青い塊のようなものの姿もはっきりとし始める。

 だんだんと人の輪郭を帯び出したその塊はアトミーだった。

 彼女は心配そうにこちらを覗き込みながら、小さな口を開いた。



「アルム君!体は大丈夫ですか?私が誰か分かりますか?丸1日眠っていたのに起きないから心配しましたよ…もう目を開けないのかと思いました。良かった、起きてくれて…」



 アトミーは俺が答えられないことを知っているはずなのに、話しかけてくる。それだけ、心配させてしまったということだろう。なんだか申し訳ないな。

 それにしても、丸1日か…随分と寝てたもんだな。

 そういやアトミーが魔力が枯渇すると回復までに時間がかかるとか言ってたけど、まさかこんなにかかるとは。

 次使うときはちゃんと魔力量も考慮しないとな。




 とりあえず俺は、涙目のアトミーの言葉に無言で頷きながら、頭を撫でた。

 俺が青い頭に触れた途端、部屋の扉がバン!と音を立てて開き、俺は驚いて扉の方向を見る。

 するとそこには目を見開いて心配そうな顔をしたサルガが立っていた。



「アルム‼︎起きたのか‼︎体、大丈夫か?あぁ、心配したんだぞ?良かった…あぁ、良かった」



 サルガが俺の方に駆け寄って来て、俺の体をペタペタと触り、最後に俺をギュッと抱きしめた。

 あまりに強く抱きしめられて痛かったが、この痛みの分だけサルガが心配しているのだと思えば苦しくもなくなる。



 正直俺はサルガとエルマに「親」という感覚を持っていない。元の世界での母さんが俺の親だしな。

 更にいうとサルガに関してはあまり距離感が掴めないでいる。これは元の世界で俺に父親が居なかったことも理由の1つだろうが、今のようにこうやって心配されていると実感するとそんなことを気にしていた自分が馬鹿らしくなる。




 時間が流れ、その日の夜今に至るまでの状況が理解出来た。

 まず、俺の容態を見るためサルガは仕事に行かず家に居たらしい。そして丸一日つきっきりでアトミーと一緒に俺を看病してくれた。エルマも一緒だったらしいが、俺が起きた時は丁度村の方に俺のために果物を買いに行っていたようで、夕方ごろ家に帰ってきた。



 エルマもサルガと同じように俺を力強く抱きしめると、その頰からは熱い雫が静かに流れていた。

 この2人は、本当に優しい良い親だ。こんなに良い人たちだと、俺が2人を親だと認識できないことに罪悪感を感じてしまう。



 話が終わり、俺は部屋に戻ると俺はすぐにベッドに横になった。そして、柔らかなベッドの上で考える。

この世界、魔法に馬?に髪色に、本当にファンタジーな世界だ。特に魔法はすごい。科学が全く必要ないからな。

 それに、異世界でも親ってのは優しいもんだな。俺はこの世界であの2人の元に生まれることが出来て良かった。

そういや母さん元気にしているだろうか…


そんなことを考えているうちに俺はゆっくりと眠りについた。

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