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才川くんと異世界転生  作者: ポッチリプッチョ
3章 セーラ編
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第33話 【初めての遺跡】

 

 しばらくして俺たちは森の中に入った。

 昼過ぎだというのに薄暗い森の中は木の根が地面を這い、蔦や雑草が地面を覆っている。

 家の近くの森とは大違いだ。

 その上、四方八方から獣の鳴き声が聞こえてくるんだから気味が悪い。


 と思っているのは俺だけらしく、セーラは遺跡のことで頭がいっぱいなのかバンホルトにあれこれ質問している。

 マーコスは読書しながら歩いている。

 視線は完全に本なのに蔦にも根にもつまづかないのはどうしてだろうか。


 それから少しして、木と草だけの景色に洞窟のようなものが写ってきた。



「ねぇ、バンホルト!!あれが遺跡?!」


「あぁ、そうだ。ハイデン遺跡はそんなに強ぇ魔獣は出ねぇが気は抜くなよ。

 下級の遺跡だからって甘くみてると痛い目見るぜ」



 バンホルトの真剣な声音でセーラの嬉々とした表情が少し薄れる。

 昨日はただののんだくれだったバンホルトがいきなり生真面目なことを言うのだ。

 そりゃあ驚きもする。


 まぁバンホルトの言ってることも正しい。

 どんなに小さなテストでも手を抜いてはいけない。

 これは昔の俺が心に誓ったものの1つだ。


 高校1年の時、英語の小テストで人生における最初で最後の失点をしてしまったことがあった。

 テストの2週間程前に一度テストの範囲の英単語を見ていたんだ。

 俺は見たものは何でもかんでも覚えてしまう。だから大丈夫だと慢心していたんだな。

 それでテスト前に何の確認もせずに受けてしまい、1問ミスをしてしまった。

 あの時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。

 それ以来、どんなに小さなテストにも全力で臨むようになった。


 そう、だからあの日も朝早くから英単語帳を開いていたんだ。

 あの日の事故で俺は死んだ。

 だからもう英単語やら歴史参考書なんかと睨めっこする必要はない。

 何だかあの頃が懐かしいな。

 母さんは元気だろうか……

 あっち(元の世界)ではどれくらいの時間が経っているんだ?


 なんて久しぶりに前世のことを考えながら洞窟の入り口に突っ立っているとセーラの興奮気味な声がした。



「ねぇ、アルム!見て!大っきいわねぇ」


「え?あ、う、うん。そうだね」


「…どうしたの?なんか、悲しそうな顔をしてるわ」



 洞窟の天井の大きな鍾乳石を指差すセーラは心配そうに俺の顔を覗き込む。


 悲しそうな顔、か。

 実際元の世界のことを考えると悲しい。

 俺は死んでる訳だし、母さんには何の恩返しも出来ずに1人残してしまったんだからな。

 だが、そんなセンチメンタルじゃあセーラも遺跡を楽しめないだろう。

 バンホルトの言葉もある訳だし、多少気を付けつつ進むとしよう。

 セーラは興奮すると歯止めが効かないかもしれないからな。

 俺が率先垂範しなくてはならない。


 今更ながらの決心をして、暗い洞窟の中に入る。

 洞窟は奥の方から冷たく湿った風が吹き、天井にはまばらに蝙蝠がぶら下がっている。

 広さは横が5メートル、縦が3メートル程で狭い訳ではない。

 特に何かがある訳でもないから何も言われなければただの洞窟だ。

 いや、まぁ入り口に立派な鍾乳石があるが、そんなに珍しい訳でもない。

 と、ふと鍾乳石に目をやる。


 ん?なんか赤く光ったような……

 いや、気のせいか。



 =====



 入ってから数十分が経った。

 目の前の道はここで二手に分かれている。

 今のところ魔獣は出てこない。

 居るのは蝙蝠とトカゲくらいか。

 マーコスに聞いてみると普通ならばもう数体は出てきているはずなんだとか。

 俺も試したい魔法があるから1匹くらいは出てきてほしいもんだ。


 しかし、何故魔獣は現れないんだろうか。

 魔獣が現れられない理由でもあるんだろうか?

 いや、しかし特に変わった所はないとバンホルトも言っていたし……


 いつもの癖で顎に手を当てようとした時だった。

 突然、右の道の方から岩が崩れるような轟々しい音が響いた。



「な、なんですか、今の音?」


「なんじゃろうかのぉ。魔獣の類いの音では無かったと思うが……」


「天井でも崩れたんだろな。一応様子を見に行くか。誰か怪我してるかも分からねぇかんな」



 そう言って先頭のバンホルトが右の道へと歩いて行き、俺たちもそれに続く。



 =====



 更に歩くこと約15分。

 未だに魔獣は姿を現さない。

 別れ道から大分歩いてきているが音の正体も分かっていない。

 バンホルト曰くそろそろ音源が何か分かってもおかしくない辺りにいるらしいが、景色は入り口から変わらないままだ。

 スンスンとバンホルトが臭いを嗅いでいる。

 彼は耳が犬っぽいからな。

 鼻も良いんだろう。



「何か分かりますか?」


「んにゃ。生き物の臭いすらしねぇ。魔獣の臭いもあるっちゃあるんだが、何か薄いな……」



 バンホルトはそう言って、さっぱりだと肩をすくめる。

 うーむとマーコスも唸り声をあげている。

 彼にすら分からないんだろう。


 あの音の正体は一体何だろうか。

 壁や天井に変わった所は見受けられなかった。

 その上魔獣も出てこないし、臭いも薄い。

 臭いが薄いということはいなくなってから時間が経っているということだろうが……


 皆が謎に思案を巡らせていると、1人そんなことには気にもしていないお嬢様がその場に座り込んで言った。



「ねぇ、私疲れた〜。ちょっと休みましょうよ」


「そうだな。考えててもしょうがねぇか。

 んじゃここら辺で飯にでもするぞ」



 やったーというセーラの歓喜の声が洞窟に響く。

 各々がリュックを下ろし、松明を壁に立てかけ、その場に座り込む。


 ーーーその瞬間であった。


 俺とセーラの下に丸い魔法陣のようなものが浮かび上がり、俺は光に包まれた。



 =====



 その直後、くらむ視界を薄く開くと暗黒のみが広がる世界があった。

 咄嗟に炎魔法で松明代わりの火の玉を作り出す。

 しかし見えるものはゴツゴツとした岩の床のみで壁も天井も見えやしない。



「だ、誰かいますか!!セーラ!マーコス!バンホルト!」



 試しにそう叫んでみるが返ってくるのは木霊した自分の声だけ。

 木霊は10秒程の時間差で返ってきた。

 音速はこの気温なら秒速約340mだ。

 つまり最も近い壁なり天井なりでも1.7kmもある訳だ。

 ここは相当広い空間らしい。


 俺はどこかに落ちて来たのか?

 いや、ならば最後に見えた光はなんだ。

 最後に見えた魔法陣のような模様……あれはもしかして転移魔法陣のようなものなのか?

 何となく寮の転移用の魔石を使うときの感覚に似ていた気もする。

 だとすれば、俺は全く別の空間に転移している可能性もあるか……


 いや、どちらにしろセーラ達を見つけるのが先だ。

 しかし恐らくセーラだけは別の場所に飛ばされただろう。

 あの魔法陣は俺とセーラの下にしか浮かび上がっていなかった。


 顎に手を当て、考えられる可能性や推測を挙げる。

 と、前方でガリガリと何か硬いものが引きずられているような音がしだす。

 しかも引きずっている物の量が多いのか、けたたましい音だ。


 そして次第に音が大きく、明瞭になる。

 こちらに近付いてきているのだ。

 魔力強化とマリオネットの準備をして、火の玉を音の方に飛ばす。


 そして火の玉が照らしたモノを見て、俺は息を飲んだ。

 人型の黒い生き物が20体程群がってこっちに走ってきているのだ。

 両目を赤く光らせ、その手の先は鋭く尖っていて"手"というよりは槍に近い。

 そしてその腕は体に対して妙に長く手先が床に擦れている。

 あのガリガリという音は、その腕を引きずる音だったのだ。


 あれが恐らく魔獣だろう。

 と言ってもウルフェンのように"獣"っぽくはない。

 ソレらと俺の距離は既に50メートルしかない。

 この距離にして分かったが、奴らは結構大きい。

 勿論大きさはまちまちだが、体高の平均は少なくとも180cmはある。


 既に距離は30メートル。

 俺は岩弾丸(ロックバレット)の準備にかかる。

 まずは土塊を地面から作ると小さく分けて弾丸のような形にする。

 数は大体30個。外さないとは限らないからな。

 とはいえ威力はそんなに強くはない。

 甲乙丙丁で言えば丙ぐらいだ。

 魔力はなるべく温存しておきたいのだ。

 それに、これで死なないならば一旦引いてからもう一度撃てばいい。


 敵のとの距離20メートル。

 それぞれの弾に回転を加え、放つ。



「岩弾丸!!」



 その俺の声と共に空気を切るような音をあげて弾が進む。

 そして1秒もせずに直撃。

 当たった奴は、皆バタバタと倒れていく。

 どうやら有効ではあるようだ。

 そして数秒もしないうちにソレらは皆、地に伏せた。


 取り敢えずホッとしつつ、死体と化したソレらに近づく。

 近くで見てみると、どうやら体表は光沢のある黒い鱗で覆われているようだ。

 鱗はプラスチック程の硬さで、その表面は鮫肌のようにザラザラとしている。

 目は小さく、鼻はトカゲのような形だ。

 口は割と大きく、俺の顔ぐらいならば一口でいけそうで口の中には鋭い歯がサメのように大量に生えていた。

 異様に伸びた腕の方はまるで金属のように硬い。

 よく見るとその形状は槍ではなく、両刃の細い大剣のような作りになっていた。


 いうなれば黒いクレイモアだ。

 しかもこの腕、切れ味もよく、魔力強化なしの俺の体でも容易に持ち上がるほど軽い。

 もしこれで常人が斬られたらひたまりもないだろう。


 俺は念のために1匹からその腕を頂戴した。

 これで最悪近接戦になったらマリオネットとこの腕で戦える。


 ……そういやこいつらに雌雄はあるんだろうか?

 取り敢えず外見での差はないようだ。

 これ()で体を開いて調べてみるか。

 もしかしたら何か弱点なんかが得られるかもしれない。


 そう思い、取った腕をもう一度眺めた時である。

 俺の脳内にある推測が浮かび、全身が凍りつく。



 …こいつらはセーラ達のところにもいるんじゃないか?

 先ほどはある程度の距離があったから応戦も可能だった。

 だがもしこいつらとの距離が間近だったら。

 幾ら魔法を使えても数の力には勝てないだろう。

 囲まれて切り刻まれて、死んでいたのではないか?


 マーコスとバンホルトは個人でも強いからまだ大丈夫だ。

 だがセーラは?

 セーラはさっきの推測でいくと1人でいる可能性が高い。

 彼女は1人でこいつら相手に自衛出来るほど強くない。


 気付けば俺は爆発(エクスプロージョン)を使う準備をしていた。

 なるべく大きく。この空間を完全に照らしきれる程に。

 本来密室で火を使えば酸素濃度が下がったりと色々と不都合が出るんだが、幸か不幸かここは広い。

 少なくとも窒息死はしないだろう。


 集めた大気に火を放ち、一気に爆発させる。

 一瞬、轟々しい音ともにカッと白々とした光に包まれ、空間がその姿を露わにする。

 俺は周囲を素早く見渡して景色を記憶する。

 ここは楕円に近い円柱形のようなつくりで、あの黒い奴らが沢山いた。人間らしきものは見えない。

 俺は丁度その中心辺りにいるようだ。

 そして7時の方向の壁に一辺2m程の正方形に穴が空いていた。


 この場所にいても仕方がない。

 なんのアテもないがあの穴に入る他ないだろう。

 とにかく今はセーラを探さなくてはならないのだ。


 いつもの魔力強化とマリオネットのセットを体にかけ、穴に向かって一直線になるべく速く移動させる。

 途中何匹か先程の黒い生物が襲いかかってきたが、この猛スピードで移動する俺にはかすりすらしない。


 穴の中に入ると土で穴を塞ぎ、火の玉を出す。

 目の前には綺麗な正方形の形をした道が真っ直ぐ続いている。



「すぅーーっはぁーー」



 1つ深い深呼吸をして、俺は道を歩みだした。




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