第32話 【打ち合わせと思い付き】
〜バンホルト目線〜
俺は、長ぇ間マーコスと組んできた。
遺跡探索も何度も行ったし、時にゃ魔物の群れに囲まれて死にかけたことだってあった。
だから、からかうことはあってもマーコスは俺にとって師匠以外に背中を預けられる唯一の冒険者だ。
だが、今はあいつは冒険者をやめて魔法学園に入学したらしい。
昔からあいつは剣よか魔法の方が得意だったからな。
いつかは入るだろうと思ってた。
だから俺も魔法学園に入ってやった。
どうせややこしくなった冒険者稼業も終いにしようと思ってたし、魔法ももう少し使えるようになりたかったんだ。
そんで適当に入試とやらを受けて入ったら、明日は祭りだって言うじゃねぇか。
俺ぁ祭りが大好きだ。参加しない訳がねぇ。
マーコス探すのは祭りの後でもいいし、もしかしたら祭りで見つかるかもしれねぇしな。
ってことで祭りを楽しんでたら最後の日にゃ模擬戦とかいう戦いの場まであるらしい。
俺は祭りも好きだが、それよりもっと戦いの方が好きだ。
入試の時に横にいた偉そうな白髪のおっさんにも勧められて、急遽1人欠場した枠に入れさせてもらった。
そんで出てみたらどうだ。
どいつもこいつも弱すぎる。
魔法の詠唱ってのは態々でけぇ声でやる必要はねぇ。
どんな魔法使うか相手にバレちまうからな。
だが、ここの奴らはアホなのか、詠唱を叫んでやがる。
そんな魔法を俺が当たるわけがねぇ。
おまけに頭ばっかで体を鍛えちゃいねぇから初級魔法をぶっこんだら即効寝ちまう。
そんな奴らばっかりで正直俺はがっかりしてた。
それで、カスどもを何体か倒した時だ。
次の相手はマーコスだった。
最初は俺も驚いたが、マーコスの方がよっぽど驚いてた。
それで試合が始まってから再開の挨拶を短く交わして戦った。
俺はてっきり、十八番の真っ黒い球を使うもんだと思ってたが、あいつときたら火球を撃ちやがった。
俺を舐めてやがると思った俺は、怒った勢いで本気の時しか使わねぇ俺の十八番をお見舞いしてやった。
あろうことにもマーコスは避けもせず直撃して負けやがった。
昔のあいつなら動きを読んで確実に避けられたはずだ。
仮に読まずとも直撃は避けれた。
あいつ、学園に入ってぬるくなったんじゃねぇか?
マーコスとの試合が終えて、俺は模擬戦辞退した。
あんなつまらねぇもんやるくらいなら酒でも飲んでるからな。
色々拍子抜けしちまった俺は不機嫌気味に会場を出ようとしたらマーコスが声を掛けてきた。
最初は柔くなったマーコスを突き放そうと冷たくあしらってたが、話をするうち楽しくなって、気付いたらマーコスの部屋で飲んでた。
それからマーコスとは色々やった。
久しぶりに魔獣討伐にも行ったし、街に出て一緒に女と遊んだりもした。
そんで気が付いたら1ヶ月だ。
時間ってのはいつも遅ぇようで早ぇな。
一通り遊び尽くした俺は一緒に師匠の元に帰らないかと提案した。
マーコスは友人がいるからずっとそっちには居れないと言ってたが結局行くことになった。
そんで、いきなり押しかけるのもアレだからってことで師匠宛に手紙を書いて出しに行った。
そしたらそこであのちびっこいの2人に会ったんだ。
マーコスが師匠のとこにもどるよりも大切な友人、アルムとセーラだ。
この2人、特にアルムのことはマーコスからよく聞かされていた。
マーコスが負けるくれぇ強ぇとか、ちっこいのに妙に礼儀正しいとか、色々だ。
話を聞いてるうちに俺もそのアルムって奴とヤッてみたくなった。
だが今は大事なことをしてるとかで会えないらしかったが、まさか手紙屋で会えるなんてな。
俺はすぐに戦いを提案した。
それから少しして、街外れの野原に来た時だった。
まだアルムは来てなくて俺とマーコスだけだ。
マーコスが真剣な顔で俺に忠告してきた。
手を抜くなとか、本気でやれとか、マーコスにしては珍しいことばっかり言ってたな。
そんなに俺の強さを信用出来ないのかとムッとして、冗談のつもりで魔法以外でも本気出して良いのか?って聞いてやった。
そしたらあいつ
『当たり前じゃ。殴っても蹴っても斬っても恐らく勝てんじゃろう。
アルムはどういう訳か戦うときは身体が異常に硬くなる。
意図しておるのかおらんのか分からんが、あの子のことじゃ。きっとそういう魔法でも創ったんじゃろう』
だと。
冗談だろうと思って笑ってやったらマーコスのやつ睨みやがった。
それから少ししてアルムが来て、早速俺たちは戦った。
そして戦って数分で俺は気付いた。
あのマーコスの忠告はマジなやつだ。
あのアルムって奴はマジでヤベェ。
どうやったのか魔法は使えなくなるわ、いきなり消えたり現れたりしやがるわで訳分からねぇことばっかだ。
それにあいつ、俺が殴っても痛がりもしねぇ。殴られた瞬間に呻きはしたが、すぐ体勢を立ち直しやがった。
そこらへんの冒険者なら1、2時間は起きねぇ強さで殴ったんだがな。
どうなってんだか。
そんで一番ヤベェのはあいつが戦いに慣れてねぇことだ。
俺だって長年冒険者やってんだからそいつがどれくらい経験積んできてんのかぐらい分かるもんだ。
その俺から見て、アルムはほとんど戦ったことがねぇって感じだ。
まぁせいぜい5戦くらいだろ。
アルムはきっと頭が良いんだろうな。
足りない分の経験を頭の回転の速さと予測だけで埋めてんだ。
そんで俺に勝つんだから大したもんじゃねぇか。
まぁ俺も獣化すりゃあ勝てたんだろうがマーコスに止められちまったしな。
俺もあん時は頭に血が上ってたし、獣化したら後がめんどくせぇかんな。
ちっと話しがズレちまったが、アルムが俺たちまでとは行かずとも沢山経験を積んだら………
もしかしたら師匠にも勝てるかもしれねぇ。
なんて考えると色々アイデアが浮かんできて久しぶりにワクワクしやがる。
ってことでちっと提案してみることにした。
=====
〜アルム目線〜
時間は過ぎて、バンホルトと戦ってから約2時間後、俺はどういう訳か飲み屋にいた。
左側にバンホルトが座りさっきからガブガブ酒を飲んでる。
セーラは俺の右側にちょこんと座って、酒を飲むわけにもいかず、静かに黙って店内の喧騒を眺めてる。
マーコスはセーラを挟んで右側で同じく酒を飲んでる。
彼が酒を飲むところは見たことがなかったが、バンホルトといいマーコスといい相当の酒豪だ。
何せもう1時間半も飲み続けているのだからな。
あの後俺はバンホルトと握手を交わしたんだ。
そしたら
「負けた奴は勝った奴に酒を奢るんだぜ!」
とか言って無理矢理連れてこられたのだ。
多分こいつは単に酒が飲みたかっただけだろう。
実際、自分だけ酒を頼んで俺たちには水すら来ない。
バンホルトの頰が赤みがかり酔いがまわってきているようだ。
そろそろ頃合いを見てセーラと抜け出そうかと考えていると、店内の喧騒を切り裂く程の馬鹿でかいバンホルトの声が響く。
「なぁアルム!今度みんなで遺跡に行こうぜ!!」
「遺跡、ですか……?」
「おうよ!!あそこはいいぞぉ〜。中の生き物は食えばうめぇし、戦えば強ぇ。
おまけに最奥にゃ魔石だってあるんだぜ!!」
…魔石か。
確かにそれは魅力的だな。
研究題目の1つに魔石の項目もある。が、大通りで売っている魔石は値段が高すぎてとても手が出せない。
大体親指サイズの赤い魔石で俺の杖と同じくらいの値段がするのだ。
セーラに言えば杖の時のように勝ってくれるのかもしれないが、俺はそんなヒモ男にはなりたくない。
最近研究詰めで息抜きもしたかったし、遺跡に行けば魔石も手に入る。
正に一石二鳥だな。
魔獣がいるって話だが、バンホルトやマーコスよりは確実に弱いだろう。
だとすると、魔獣は大した障害にはならない訳だ。
と、ふと右側から視線を感じ見てみるとセーラが目をキラキラさせていた。
その無言の視線からは「行きましょうよ!!」というセーラの声が聞こえてきそうだ。
それから俺はバンホルトの方を向き直り言う。
「では今度遺跡に行ってみましょうか」
「おう!そうこなくっちゃな!!」
=====
それから大体1週間後。
街の門のところには俺とセーラ、マーコスとバンホルトがいた。
それぞれ旅衣装に身を包み、背中には大きめな革製のバッグを背負っている。
バンホルトは俺と戦った時の盾と棒、俺は念のためにセーラから貰った紅い杖を手にしている。
「さぁ、出発するぞ!遺跡までは歩いて行く。
まぁ、そんなに遠いわけじゃねぇから大丈夫だ」
そのバンホルトの言葉を聞きながら、ふと思う。
よくよく考えたら俺は遺跡とやらについて殆ど知らないんだよな…
魔獣が出てきて、最奥には魔石があるってことぐらいだろう。
なんて考えながら俺はバンホルト達の後ろを付いていく。
魔獣っていうと学園に来る時にでたウルフェン以来だ。
あの時は確かナーバが倒したんだったな。
…ナーバか。
懐かしいな。
今頃どこで何をしているのだろうか。また誰かの護衛でもしているのか?
俺の時みたく護衛対象を殺しかけたりしないといいが……
いや、ナーバは戦闘狂ではあったが仕事はきちんとこなす男だった。
ま、杞憂に過ぎないだろうな。
にしても、ナーバはそれはもう大きな剣を持っていたな。
バンホルトの盾といい、ナーバの大剣といい、前の世界ではとてもじゃないが人間の扱える物じゃない。
単に体を鍛えたからといって振り回せるレベルではないし、ナーバに至ってはウルフェンを真っ二つだったからな。
はっきり言って人間業じゃない。
俺の推測だが、恐らくそういう人間離れしたことができるのは魔力のおかげだろう。
というか、それ以外にあんな芸当を可能にする可能性のあるものが思いつかない。
恐らく彼らは、俺の魔力強化のように体を魔力で強化するなり、得物にマリオネットのような魔力を貼り付けて扱いやすくするなりしているんだ。
だが、そういった情報が載っている本や話は聞いたことも読んだこともない。
この世界の剣士が異様に強いなのは最早一般常識なんだろう。
つまり俺の推測が正しい場合、剣士達は無意識のうちに魔力を操作していることになる。
そこらへんを調べてみるのも面白そうだな。
今度やってみるか。
なんて考えながら俺たち4人は、撫でるようなそよ風の吹く野原をえっちらおっちら進むのだった。




