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才川くんと異世界転生  作者: ポッチリプッチョ
2章 学園編
31/35

間話 【アトミーの休暇と異変】

3章突入!!

今後ともよろしくお願いします

m(_ _)m

 

 アルム君がいなくなってから大分経ちました。

 私は相変わらずガルミア御夫妻に奉仕する生活を続けています。

 毎日同じ時間に起きて、エルマさんと一緒に庭の手入れと水やり、それから洗濯や炊事などの家事をします。

 そうしてそれが終わる頃には夕方になっていますから、夕食を食べて、あとは魔法の練習か読書です。


 そんな私の日々の楽しみは、アルム君からの手紙を読むことです。

 手紙は出しても本人に届かないことが多々ありますから頻度は低いですが、それでも3週間に一度くらいで手紙は届きます。



「ふむふむ……成る程」



 そんな独り言を漏らしていることにも気付かず、私は1ヶ月ほど前に届いた1番新しい手紙を部屋で読み耽っていました。

 手紙の内容はビーサン・マーコスという獣人の老人と模擬戦をしたことについて書かれています。

 勝利はしたものの周りに被害を出しそうになって大変だったことや、セーラという女の子が礼儀知らずでヒヤヒヤしたなど、出来事について事細かに書かれています。


 この手紙を最後に全然手紙が届かないので、もう何度もこの手紙を読んでいます。

 しかしいくら読んでも飽きないのはどうしてでしょうか?


 なんて思いつつ、読み終えた手紙を机の簡素な棚の1番右側に戻しました。

 棚には左から古い順にアルム君からの手紙が綺麗に整理されています。

 椅子に腰掛けて、それらをぼーっと見ながら私はふと零します。



「会えないかなぁ……」



 とそこで我に返り、何てことを呟いているのだと赤面していると扉をノックする音がして振り返るとエルマさんが立っていました。



「あ、エルマさん。どうかされたんですか?」


「ちょっとお話があってね。

 顔が赤いようだけど大丈夫…?」


「えっ、はい!大丈夫です。

 それで、お話というのは?」



 私の態度に不思議そうな顔をしながら、エルマさんは椅子に座って1つ咳払いをしてから話し始めました。



「サルガとも相談したんだけど、アトミーちゃんにちょっとしたプレゼントをあげようと思って」


「プレゼント、ですか?」


「うん。アルムのところに行く費用と休暇をね」


「えっ……!で、でも……」



 そう言って言葉を繋げようとする私の口を摘むとエルマさんは優しい笑みを浮かべます。



「最近アルムからの手紙、ずっと読んでるでしょ?

 だから、よっぽどアルムに会いたいんだなぁと思って。いつも働いてもらっちゃってるし、偶には休暇も必要よ」


「えっと、その、会いたいっていうのは、あの…」


「会いたいなら会いたいって言ってくれればいいのよ。アルムもきっと喜ぶわ。

 あの子あなたにすごく懐いてたし」



 確かによく「先生!」と元気そうに話しかけてきては魔法のことを事細かに聞いていましたが………いいのでしょうか?

 私はここに住まわせてもらう代わりに家事をしているというのに、甘えてしまっていいのでしょうか?


 するとエルマさんは、俯く私の頭を撫でて優しい声で言いました。



「いいのよ。偶には甘えてちょうだい」



 まるで私の心の声を聞いていたかのような暖かい言葉に思わず目頭が熱くなります。

 溢れそうになるものを拭い顔をあげるとエルマさんは子供ような笑顔を見せました。



「それに、これはアルムが学校で怠けてないか見てきてもらうのだって兼ねてるんだから、行ってきてちょうだいな」



 =====



 それから馬車の手配だとかの諸々の準備に数日掛かりました。

 準備が整い、エルマさん達にお礼を言ってから別れると3日間馬車に揺られる旅の始まりです。


 そういえば学園は今頃魔法祭をやっている頃でしょう。

 ミアと顔を合わせるのは嫌ですが、アルム君の勇姿を見る為ならば苦ではありませんね。

 それはそうと、私が突然現れたらアルム君はどんな反応をするのでしょうか。

 今から楽しみですね。


 今日は2日目の夜。

 明日が楽しみで眠れない私は宿のベッドの上で読書をしながら、そんなことを考えて1人笑みをこぼします。


 ふと、窓から差し込む月明かりに目をやると、何か薄暗い人影のようなものが揺れています。

 この辺りに野党はいないはずですが、もしかしたらはぐれの野党かもしれません。

 杖を両手で握りしめ、いつでも魔法を放てるようにしてからそっと窓に近付きます。一歩ずつ、慎重に。


 そうして窓のところまで来てみて、私は驚きました。

 月明かりに照らされた短い金髪、整った顔。そして何より目を引くのが尋常ではない大きさの大剣。

 なんとそこには、ナーバさんが立っていたのです。



「ナーバさん、どうしてこんなところに?」



 窓を開けてそう聞いてみると、ナーバさんは笑顔を見せました。

 それも、見ただけで寒気がする程凶悪な笑みを。

 そしてそのままナーバさんは一言。



「やっとお前を捕まえられるぜ。風の恩恵者」



 その言葉を聞いた途端、私は真っ先に魔法を放とうとしますが、何故か魔力が流れません。

 それに気づき、扉の方へと走ろうと背を向けた瞬間、視界が闇に呑まれ、私の意識も途絶えました。



 =====



 鎖を引きずるような音がして、目が覚めました。

 手足に違和感を感じ見てみると、枷をはめられています。どうやら私は宙吊りにされているようです。

 でも、どうして私はこんなところにいるのでしょう。

 私はアルム君に会いに行って……

 それで……?

 なんだか記憶が曖昧です。

 いえ、記憶だけでなく思考もおぼつきまさんね。

 さっきから考えたことが全て流れ出るように無くなってしまいます。

 一体どうしてしまったのでしょうか……


 そんなことを考えていると、石畳の薄暗い部屋を照らす蠟燭の炎が揺れ、少し奥にある重々しい扉が開きます。

 そして部屋に中年程の男性と金髪の青年が入ってきました。

 中年男性の方は小太りな体を煌びやかな服に包み、下卑た笑みを浮かべています。

 青年の方は、どこかで見たことがあるのですが………思い出せません。



「ナーバよ。よくぞ捕らえた。後で褒美をやろう」


「ありがたき幸せ」



 ナーバ………あと少しで思い出せそうなんですが、そのあと少しが出てきません。

 ナーバと呼ばれた青年は男性に一礼すると部屋を出て行きました。

 男性はそれを確認すると私の方に近寄って、私の髪を掬い上げました。

 そしてそのまま顔に近付け、その匂いを嗅いでいます。

 本来ならば気持ち悪さで悲鳴をあげるのでしょうが、今の私には何が気持ち悪くて、何がそうでないのかよく分かりません。



「アトミー……嗚呼、この時をどれだけ待ったことか!

 もう君は私のものだ」



 そう言うと男性は私の髪から顔を離し、部屋の壁際にある棚からヒモのようなものを取り出しました。


 そうして私の地獄の日々が始まりの鐘が鳴ったのです。



 =====



 《その3日後の学園》


 魔法祭が終わって1週間が経った。

 俺たちは特に何もすることもなく、いつものように授業を受けていた。

 相変わらずセーラは俺とマーコス以外には失礼な態度だし、俺はその度にセーラを注意して相手に頭を下げているし、マーコスはそんなセーラを叱りもせずに穏やかな笑顔で見守っている。

 特に魔法祭の前と何も変わらない日々だ。


 あ、そういえば3日ほど前に火傷をしたな。

 夜に暖かいお茶を飲んでいたらコップの手持ちが根元から取れて思いっきりお茶が足に掛かったのだ。

 熱かったが治癒魔法で回復できるからなんともないといえば無いのだが、まさか取っ手から取れるとは………

 そういや昨日は何も無いところでコケたな。


 なんてことを考えながら授業を受けていると、ふと右側から視線を感じた。

 気になって見てみると中庭の木を埋め尽くす程のカラスがじっとこちらを睨んでいた。


 カラスにお茶に転倒に……何だか不吉だな。



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