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才川くんと異世界転生  作者: ポッチリプッチョ
2章 学園編
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第22話 【強者と変化】

 


 ビーサン・マーコスは生き物に近寄ることで、その生き物の力量を"匂い"で感じ取ることが出来た。

 その"匂い"は、対象物の力量が強ければ強いほど、濃密で芳しくなる。


 この能力は、獣人の持つ優れた嗅覚、というわけではない。

 マーコスが途方もなく長い時間を冒険者として生き抜いてきたことで得た謂わば第六感である。

 だからこそマーコスはその感覚に自信があった。

 経験からしか得られない、その感覚に。



 しかし、ある時マーコスは、初めてその感覚を疑うことになる。



 目の前に突如として現れた小さな少年から、愛しいほど芳しく、そしてむせ返るような濃い"匂い"が発せられていたからだ。

 ソレは、彼の人生の中でも少数しかいない強者のものであった。ところが、ソレを発しているのは小さな子供だ。


 勿論まさかと思った。こんな小さな子供から、こんな匂いが出る訳がない、と。

 しかし、自身の数多の経験から相手の匂いを嗅ぎ間違えるなど万が一にもあり得るはずもなく、その少年の匂いだと認めざるを得なかった。


 その時、マーコスはその不思議な少年に興味を持った。



 話してみると、少年は最近学園に入学してきたアルム・ガルミアだということが分かった。

 マーコスもアルムのことは色々と聞き及んでいて、気にはなっていたところであった。


 それというのもアルムに関する様々な噂が学園内で流れているからである。



 例えば、ラード家の召使いで、セーラの下僕として入学してきたため魔法は使えない。


 又は、あの傲慢なセーラを泣かせた鬼ような人物で、入学試験の時も校長のことが気に入らなかったから試験用の案山子を数体消し炭にした。


 或いは、年齢の割に口調が丁寧で、意外と礼儀正しい人物だ。


 はたまた、校長室に呼ばれることが多々ある問題児である。



 などなど本当に様々だ。

 中には噂から生まれた噂というのもあり、真偽を問えぬものばかりであった。

 しかし、それが逆にマーコスが興味を持つきっかけとなっていたのだ。



 次第に、マーコスはアルムの力量に興味を持ちはじめた。


 それというのも、マーコスはハッキリとしたアルムの実力を見たことがなかったのだ。

 唯一それらしきものを見たのは、初めてアルムの匂いを嗅いだ、大通りでの出来事の時である。

 アルムが、自身の数倍はあろう男に殴り飛ばされたにも関わらず、平然と立ち上がった時はマーコスも鳥肌がたった。

 しかし、あの時アルムは魔法を使ったようにも、肉体的に丈夫であったようにも見えなかった。


 単純に当たりどころが良かったから平気だった、とも捉えられるが、匂いからそうは思えない。

 勿論アルムの匂いならば相当な力量の持ち主だということは分かる、が、アルムの普段の態度や年齢からは想像の余地すらない妄想に思えた。

 そこでマーコスは模擬戦の練習をする中で力量を確かめようとした。



 しかし、そこで事件は起きてしまった。


 試合開始直後、マーコスはアルムが手を抜いていることに気がついた。

 アルムはただ突っ立っているだけで何も唱えようとしないのだ。



 そのことにマーコスは少し腹が立った。

 こちらからあらかじめ本気を出すと宣告したにも関わらず手を抜かれているのだ。


 舐められていると感じたマーコスは、威嚇を込めて強めに雷魔法、雷撃エレクトリックショットを放った。


 しかし、並みの魔法使いならば痺れて動けなくなる威力の雷撃を受けてもアルムは普通に起き上がった。

 これではまた舐められると思ったマーコスは、次は分かりやすく仕草で挑発することにした。

 やはりいくら大人っぽくても子供であることは変わらず、アルムは本気を出した。



 ここで、マーコスの十八番、暗黒球(ダークネスボール)について説明しよう。

 まず、この魔法は真級闇魔法である。

 本来真級魔法には長い詠唱と多大な魔力が必要だが、この暗黒球だけは短い詠唱で済む上に消費魔力量も少ない。


 では、何故真級魔法なのか。


 それは、暗黒球の性能が大きく関係している。



 暗黒球には、大きく分けて3つの性能がある。


 1つ目は吸収。

 暗黒球は、触れることで他の如何なる魔法からでも魔力を吸い取って相手の魔法を無効化出来る。

 又、吸い取った魔力量に応じて膨らむが一定のところで限界がくる。



 2つ目は爆発。

 吸収した魔力を爆発の威力に変換し、利用できる。

 但し、吸収した魔力の量に比例して操作の難易度が上がってしまい、空気以外の物体に触れるか、ある程度の時間が経つと勝手に爆発してしまう。



 そして実は暗黒球の操作難易度は他の魔法に比べて格段に高い。

 他の真級魔法の難易度を1とすると、暗黒球は10前後といったところなのだ。

 故に例え得意属性が闇であっても暗黒球だけは使えるとは限らないのである。

 しかしマーコスは特別で、その難易度を冒険者時代に培った勘と経験から補い暗黒球を操作していた。



 そして3つ目。それは消滅だ。

 そう、任意で暗黒球を消滅させられるのだ。消滅は爆発と違い、何かしら影響を与えることなく綺麗さっぱり言葉の通り消える。

 更に難しいことに変わりはないが、吸収した魔力が多くても操作難易度は変化しない。


 つまり、暗黒球はある種チート魔法なのだ。

 その難易度さえクリアしてしまえば、相手の魔法の魔力を吸収することでその魔法を無効化し、爆発として攻撃できる。もし操作が難しいならば消滅させればいい。


 この性能の高さから、暗黒球を使える魔法使いは宮廷魔法使いや魔法廷長など重役に置かれることが多いのだが、それはまた別の話である。




 さて、話を戻しアルムとの模擬戦練習だ。


 マーコスは暗黒球を使い、いつものように相手の魔法が顕現するのを待っていた。

 そして、アルムが右手を前に出し、何事か叫ぶと大きな風の渦が現れる。

 黒く、物々しい音を立てるその渦に向かってマーコスは勢いよく暗黒球を当てると、魔力を残さず吸収させた。


 あんまり迫力のある魔法で、もしや吸収出来ないかと思っていたがきちんと吸収出来たことにマーコスはホッと一息つく。

 この時マーコスの中で、今まで見たことのない大きさの暗黒球だが操作できるだろうと慢心が働いてしまった。


 あとは空で爆発させて派手に終わらせれば勝ちは確定だとマーコスが暗黒球を操作しようとした時、ある異変に気付いた。



 操れないのだ。

 いつものように軽快に空を舞うはずの暗黒球がビクともしない。


 理由は、吸い取った魔力量が多すぎたことだ。

 アルムの本気の魔法には膨大な魔力が込められていた。

 それを吸い取った暗黒球の操作難易度はマーコスの許容難易度を遥かに上回っていた。



 そして操作主を失った暗黒球はゆっくりと落下を始める。


 マーコスの背中に悪寒が走った。

 先ほどマーコスは、この大きさの暗黒球を地面で爆発させると自分達の命が無くなりかねないため、空で爆発させようとしたのだ。

 その威力が今目の前で発揮されようとしている。

 目の前に明らかな死が迫っているのだ。


 マーコスは一瞬思考が停止し、消滅という選択肢を思い出して急いで消滅させようとした。

 しかし、マーコスよりも早く、アルムが暗黒球を操った。

 理由は分からないが、とにかくアルムが操っているのだ。

 少しずつ上に向かって浮き始めている。マーコスはそれを見て咄嗟に自分が先ほどしようとしていたことを指示した。




 そして、上手く事が収まるとマーコスはいつものように気さくにアルムに話しかけた。

 この時マーコスは、最終的に皆無事だったわけだし、自分には消滅という選択肢もあり安全は保てた。ましてや博識はアルムならば暗黒球の性能くらい知っているだろう。

 と思い込んでしまっていた。



 =====



 それをマーコスから聞いた俺は、開いた口が塞がらなかった。

 マーコスを警戒しだして2ヶ月程が経った今日、俺はいきなり校舎裏に呼び出された。

 時刻は放課後、中庭にはセーラを待たせてあり、今の俺の内心はバクバクだ。



 そんな俺を他所にマーコスは、話を終えるとふぅと一息つくとどこか爽やかな顔で続ける。



「と、まぁこういうわけじゃよ。


 まぁまずは、あの時は楽観的な態度をとって悪かったの。

 じゃが儂にもこういう訳があったんじゃ。こうして腹を割って、といっても儂だけじゃが、きちんと説明はした。

 儂はお主らと仲良うしたいのじゃ。同じ学年に気の合う奴はおらんし、何より儂にとってお主らは孫みたいなものなんじゃよ。

 警戒されていることに気づくのが遅かったから説明が今になってしまったが、この爺さんと仲良くしてはくれんかのお。

 それでも、この話を信じるか信じないかはお主次第じゃがの」


「……分かりました。マーコスさんの話を信じます。

 こちらこそ、そんな訳があったとは知らず、失礼な態度をとってすいませんでした」


「そうか!それは良かった。

 アルム、何もお主が謝ることは無かろうて。

 またこれからもよろしく頼むの」



 そう言うとマーコスはしわがれた声で笑う。

 俺も下手くそな愛想笑いで適当に合わせる中、俺の内心はホッと一息ついているところだ。


 なんせマーコスを警戒しなくていいのだ。

 今まで彼の行動や言動の全てに気を配って怪しいところは無いか探っていたが、今はもうその必要がない。

 今となってはこんなに警戒する必要は無かったのかもしれないと思うが、実際あの黒い球、もとい暗黒球(ダークネスボール)の威力は計り知れなかったのだからやはりその必要はあったのだ。


 だが俺もそろそろ疲れてきているところだった。

 あの話を信じていいのかという疑問も無いではないが、態々俺を騙すために長々と作り話を話すというのは信じ難い。



 中庭に出ると待ちくたびれたと言わんばかりの表情でセーラが待ち構えていた。



「遅いわよ!」


「ごめんごめん、少し話が長引いちゃってさ」


「そんなに長く、何話していたのよ!」



 その質問に俺は困惑する。

 セーラにマーコスを警戒していたことは伝えていない。

 セーラは彼を尊敬しているみたいだし、言ったところで嫌われるかバラされるかをされるだろうからだ。


 俺が適当な言い訳を考えているとマーコスがスッと前にでた。



「セーラ、お主にも儂から少し話があるんじゃが…

 いいかの?」


「話?えぇ、勿論良いわよ」


「そうかそうか」



 そう言うとマーコスは今度はセーラを校舎裏に連れて行こうする。

 俺が、驚いた顔をして止めようとすると耳元で静かに、さっきのことを言うわけでは無い。安心するんじゃ、と囁かれた。


 俺は唖然として、校舎裏に消える2人の後ろ姿を心配な目で眺める。

 その心配がより一層増し始めた頃、といっても数分しか経っていないが、セーラとマーコスが戻ってきた。

 何故かセーラの頰が赤く染まっている。

 マーコスの方はいつもと変わらぬシワの刻まれた優しい顔だ。



「何の話をしていたんですか?」



 セーラの顔を覗き込むように俺が問うと、ぷいっとセーラに顔をそらされた。

 どうしてだろうか。



「な、なんでもないわよ!ほ、ほら、練習しましょう、よ…」


「いいのかの?ここで言っても良いと思うんじゃが」


「い、いいのよ!!私のことは私が決めるんだから、私の言いたいときに話すわよ。

 さぁ、練習よ、練習!」



 マーコスとセーラの間だけで会話が進み、3人でいつもの中庭のポジションに移動する。

 その間もセーラの頰は赤いままだ。寧ろもっと赤くなっているようにも見える。


 なんだろうか、この疎外感は…

 さっき校舎裏で何の話をしたんだ?

 聞かぬべきか、いや、聞くべきか?



 俺は、胸の内に広がる嫌なモヤモヤとした始めての感覚に耐えながら、仲の良さそうに話す2人の後ろをついていく。

更新が遅くなってしまい、誠に申し訳ありませんでした。

言い訳をさせていただきますと、旧友と久しぶりに旅行に行き、体調を崩しておりました。

更新ペースを戻せるように頑張りますので、今後ともよろしくお願いします!

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