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才川くんと異世界転生  作者: ポッチリプッチョ
2章 学園編
20/35

第19話 【許せないこと】

遅くなって申し訳ありません!

次話からはペース開かないと思います。

 



 あれから1週間が経った。

 この1週間、俺たちは放課後に中庭に出ては魔法祭に向けて魔法の練習や準備をしている。



 今日も俺はセーラと一緒に中庭に出ていた。

 いつものようにだだっ広い中庭に十数人程の生徒が散らばっていて、各々が自分の競技の練習中だ。


 俺たちもその一部であり、庭の端の方に2人で座っている。少しセーラと他愛ない話をすると、俺は立ち上がって模擬戦用の魔法創りに励みだす。


 今日は魔力強化を体ではなく、他の物体に施す練習をすることにしてある。俺はあらかじめ持ってきてある棒切れを握り、魔力を絡めるように棒へと伝せる。



 大分久しぶりの魔法創りで最初は手こずることもあったが、アイデア自体は尽きぬほどあるため、今では慣れたものだ。



 俺が棒を握り締めている間、セーラはというと、魔力鍛錬書と睨めっこをしている。ブツブツと詠唱文を唱え、暗記に励んでいるのだ。

 因みに、俺は未だに魔法を使わない詠唱が出来ない。水道の蛇口を捻るかのように詠唱すると魔力が流れ出て、魔法を使ってしまうのだ。そのうち出来ると思っていたが、流石にこれは問題である。


 とはいえ詠唱文は見て覚えられるのだから、授業の時以外で困ることない。



 俺は、体の内側を流れる魔力に集中し、それを棒に絡めるようなイメージで魔力をコントロールする。

 棒の周りに満遍なく魔力を纏わせたところで、今度は棒を持っていない方の手で水魔法のオリジナル魔法、水刃(ウォーターカッター)を使う準備だ。



 この魔法は最近作ったもので、簡単にいえば名前の通り水で物を切ることが出来る。元の世界のウォーターカッターの魔法版を作れないか試していたら出来たのだ。この魔法の名前もそこから取った。



 元の世界だと水流の速さは最高マッハ3だったはずだが、ここは魔法ありの獣人ありのファンタジー世界だ。

 魔力量に比例して際限なく速くなり、マッハ5まで上げられた。


 ただ、今の俺の魔力量だとそれを維持できるのは1秒が限界で、それを少しでも過ぎると枯渇する。消費魔力量はマリオネットの比ではないのだ。


 まぁ、今回は魔力強化の強度の実験だから水流は大体秒速600メートルだ。多分普通のウォーターカッターぐらいの速さだろう。



 俺は左手の人差し指を棒に向け、その先に魔力を集中させ、ある程度のところで水刃を放った。

 放った時間は1秒未満ではあるが棒を持つ右手にはとんでもない衝撃が走り、手が痺れる。棒の方はというと当たったところからシュウゥと音を立てて、しっかりと点のような小さな穴が空いていた。



「アルム、出来た?!出来た!?」



 後ろからセーラが駆け寄ってきてやかましく騒ぎ立てる。

 俺は棒を置き、ふぅとため息をついて言う。



「残念だけど、失敗したよ。棒の魔力強化が足りなかったみたいだね。でもあんまり強化すると魔力に耐えられなくて折れるから、次はそこの塩梅を変えて…」


「失敗かー。でもアルム、楽しそうね。なんで?」


「うーん。こうやって考えて苦労して出来たものっていうのは何ともいえない感動を与えてくれるんだよ。僕はその感動が好きなんだ。だから、楽しいんだと思うよ」


「へぇー、アルムは変わってるわね。私なら投げ出しちゃうもの」


「投げ出す、か。ははは、セーラらしいね」



 俺が実験に失敗して顔を真っ赤にしたセーラを想像したところでグギュルゥ、というおかしな音が鳴った。

 セーラからだ。お腹が空いたんだろう。ちゃんと昼食を摂ったはずなんだが……まぁ、こういうのもセーラらしいといえばセーラらしい。



「何か、食べに行くかい?」


「い、今のは、わ、私じゃないわよ!ア、アルムがお腹空いたっていうなら、私はついて行ってあげてもいいわよ!」


「あはは、じゃあ付いてきてくれるかな?」


「い、いいわよ!」



 さっきの想像のように顔を真っ赤に染めたセーラを連れて、俺たちは大通りへと向かった。




 =====




 幾分か日が落ち、夕焼けの少し前辺りだというのにあいも変わらず大通りには人だらけだ。


 俺たちは、目のまわりそうな人混みを掻き分けながら食べ物の店が並ぶところまでやってきた。

 ケバブのようなものから、ハンバーガーのようなものまで様々な種類の食べ物が並んでいる。


 そう、不思議なことにこの世界には元の世界の食べ物に似たものがいくつもあるのだ。


誰か他に元の世界からの転生者でもいて食べ物を伝えたのかと思ったが、どれも大昔からあるらしく、こっちの世界で発展したものであるという線の方が濃厚だった。



 その懐かしい料理の中から俺たちはハンバーガーの店に並んだ。といってもこっちではハンバーガーという名前ではない。○○挟みパン、だ。

 安直である。



 俺はどっちかというとハンバーガーは好きではないのだが、セーラのお腹はこれをご所望らしい。

 少し早いが晩御飯として俺もこれを食べるべく並んでいるが、この並んでる列が長い。まだ晩御飯まであと30分はかかりそうだ。


 その時間潰しにぼーっと人混みを眺めていると、何か違和感を感じた。久しぶりの大通りだからなのかもしれないが、何か引っかかるのだ。

 その違和感が何なのか考え込んでいる内に、いつの間にか俺たちのところまで順番が回ってきた。



「いらっしゃい!何にするかい?」


「えーっと、私は肉挟みパンでお願いします。アルムは?」


「じゃあ、僕もそれで」


「あいよ!!」



 気合の入ったおじさんが、流れるような洗練されたパンにベーコンとキャベツを挟む。

 そのハンバーガー、もとい肉挟みパンをセーラが受け取り、俺が代金を渡そうとした時だ。

 隣の店から怒声が響いてきた。



「おいジジィ!!俺が先に並んでんだろうがよ!!」


「並ぶも何もおぬしは横入りしてきたのじゃろ?列に横入りしてはいけないということをしらないのかの?」


「あぁ?!てめぇは"獣人"だろうが!人間紛いの分際でふざけてんじゃねぇぞ、コラァ!!テメェら"ゴミ"はな、一生奴隷として生きてろや!!」


「若いの、獣人とて同じ人間であり生き物じゃ。分け隔てることはなかろうて。そんなに悲しいことを言うでない」


「おい、獣人。そっちの兄ちゃんに順番譲りな。譲らねぇならウチの商品は売らねぇぞ」


「そーだ、そーだ!」


「獣人は飯食えるだけでありがたいと思え!」



 そこでは柄の悪そうな高校生くらいの男が腰の曲がった熊耳のおじいさんを罵り、店主と周りもそれに同調するように罵声を浴びせていた。



 俺はその光景を見てハッとした。違和感の正体が分かったのだ。

 獣人だ。

 獣人が大通りには見当たらないのだ。学園ではよく見た獣人が、学園からほど近い大通りにはいない。

 そこにさっきの青年達の言葉。


 俺は一瞬で理解した。

…つまり "獣人は差別されている"



 だとすれば何故学園では獣人をよく見かけるのかという疑問が浮ぶ。

 それと同時に袖を何かに引っ張られた。振り向くとセーラが眉間にしわを寄せ、憤りを隠せないといった表情で青年の方を見ていた。



「…アルム、あのおじいさんを助けられないの?」


「うーん。胸糞悪い気持ちは分かるけど、僕たちがここで何かしても大した効果は見込めないね。

それどころか僕たちが批判されるだろうし、おじいさんは暴力を受けてる訳でもない。だから、何もしないのが得策かな」


「っっ!!……アルムなら、もっとマシなことを言ってくれると思ったわ」



 今まで聞いたこともないセーラの冷たい声音が胸に突き刺さる。

 俺だって気分が悪いことは確かだが、今ここで何をしようとおじいさんが差別を受けなくなることはない。


 仮に俺たちがおじいさんを庇えば今度はこっちが非難の対象になってしまう。だから、こういうのは関わらないのが一番なのだ。

 まぁ、もしおじいさんが殴られたり蹴られたりするようなら助けるが…


 そうこうしているうちにも騒ぎは大きくなっていく。



「おい、ジジィ、退けっつってんだろ!!」


「断る。ここで退けば、儂は差別に負けたことになるからの」


「ちっ!じゃあ力づくで退かしてやるよぉ!!」



 男がそう言うと周りも煽るように喚く。


 それに乗った男が拳を振りかざし、おじいさんを殴る。

しかし、その直前、俺はマリオネットでおじいさんの前まで瞬時に移動し、体に魔力強化したまま身構えた。


 一応、こうなったら助けると決めた以上はやらねばならない。決めたことは守る主義だからな。



俺が殴る直前に移動したため、男は俺に気付きはしたが体は止められなかったようで、男の拳が俺に当たり、俺は少し離れたところまで吹っ飛ぶ。

 しかし、こっちは魔力強化を施した体だ。120キロで動いても無傷の体が、殴られただけで傷つくわけがない。


 とはいえ、俺の体はまだ幼い。地面に転がったような態勢から、スッと立ち上がり一応傷がないことを確認し服についた汚れを払う。

 男の方を見ると顔が青ざめていた。



「お、おい。だ、大丈夫か?すまねぇ。お前さんを殴るつもりはなかったんだ。怪我とかしてないか?」


「えぇ、大丈夫ですよ」


「ふぅ、そうか良かったぜ。さてと、じゃあ次こそは当てるからな、ジジィ」



 ふむ。俺が殴られたところで辞めたりはしないか。

 うーん、じゃあ少々気が引けるが、この手でいくか。



「待ってください。そのおじいさんはそちらのセーラお嬢様の奴隷です。

 セーラ様は、"あの"ラード家の娘。

 つまり、彼はラード家の所有物です。その所有物に手を出すということはラード家に喧嘩を売っているということですが、それでも彼を殴りますか?」


「へ?ラード家って、あのラード家か?そういや、桃髪の娘がいるって話が……

じゃあ本物のラード家!?

すっ、すいませんでした!!ど、どうか、どうか許してください!!」



 男が地面に這いつくばりながらセーラに謝る。

 突然の自体に困惑顔のセーラに俺は目で合図を送り、セーラは分かったわというように頷いた。



「え、えーっと、いいわよ。許してあげるわ」


「あ、ありがとうございます!!」


「次はないようにお願いしますね」


「はい!失礼します!」



 そういうと男は人混みの中に消えていった。

 それをみた野次馬もぞろぞろと散らばり、残されたのは俺とセーラとおじいさんだけだった。



「さて、店主さん。彼に食べ物を買わせてもいいですね?」


「お、おうよ」



 俺が出てきた辺りから終始驚いた様子のおじいさんはハッとして、食べ物を注文しだした。

 そして無事に買い終えると俺たちのところまでやってきて言った。



「あの、坊や、ありがとう。あのままでは儂は、あの男に殴り飛ばされていたじゃろう。

坊や、本当に傷はないかの?これでも儂は魔法を学んでおっての、中級治癒魔法くらいなら使えるのじゃ」


「いえ、大したことはありませんよ。それよりもすいませんでした。おじいさんのことを奴隷だなんて言ってしまいました。

私の頭脳ではあの方法しかおじいさんを助けられなかったとはいえ、本当に悪いことをしました」


「いや、いいんじゃよ。坊やは頭が切れるのぅ。そっちのお嬢ちゃんもラード家だなんて嘘をつかせてすまなかったのぅ」


 

 そういうとおじいさんはただでさえ折り曲がっている腰を更に折り、深い礼をした。

 しかし、ここは正さねばならないので俺は口を挟む。



「いえ、彼女は本当にラード家の娘、セーラ・ナナ・ラードです」


「ふぇ!?じゃあ、本当にラード家…

 それはそれは、本当にありがとうございました。この老いぼれ、助けていただき感謝の言葉もありませぬ」


「い、いいのよ!助かって良かったわね!」



 と、ひと段落ついたところでおじいさんに疑問を投げかける。



「おじいさん、先程魔法を学んでいるとおっしゃっていましたが、魔法学園の生徒か何かなんですか?」


「そう、儂は魔法学園の生徒なんじゃよ。幼いのによく知っておるのぉ」


「いえ、その、僕達も魔法学園の生徒でして…」


「何?!ふむむ…そういえば魔法の天才でやたらと綺麗な言葉使いの少年がラード家の少女の下僕になったと聞いたの。

とすると、もしや坊や、アルム・ガルミアではないかの?」


「げっ、下僕……まぁそこは置いておくとして。

 そうです。私の名前はアルム・ガルミアと申します。よく分かりましたね」


「ほっほっほ。そりゃあ、色々と有名じゃからの。おぬしらの噂はかねがね聞いておるぞぃ!

 おっと、儂の名前がまだじゃったかの。儂はビーサン・マーコスじゃ。

 いやぁ、まさかおぬしらに助けてもらうとは。これも運命じゃ、どうじゃ?これから一緒に学園でご飯でも食べないかの?」


「えぇ、いいわね!ビーサンのお話は聞いてるし、本人と話してみたかったの。さ、アルム、行きましょ?」


「う、うん」



 やはりおじいさんは学園の生徒だったことも分かり、セーラの聞いた噂も気になる。ご飯を一緒に食べるのも楽しそうだし、それは一向に構わない。

 だが、


 おじいさんの名前ってビーサン?!あの、砂浜で履くサンダルじゃないか!

 セーラといい、ビーサン…いや、マーコスといい、こっちの世界の人は変わった名前が多いな…



 久しぶりに名前にひとりで突っ込みを入れたところで俺たち3人は学園へと向かったのだった。

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