第1話 【始まりの始まり方】
初投稿です。
規則的に投稿出来るか分かりませんが、頑張ります。
つまらなかったや面白かったなど何でも感想お待ちしております。よろしくお願いします。
俺はその日、夢を見た。
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まだ辺りは暗く、早朝の湿気を孕んだ春風が優しく頬を撫でる。
俺はいつものように英単語帳と睨めっこしながら高校の登校途中だ。
俺の通う高校は田舎にありながら、平均偏差値全国トップという名門校である。
まぁ偏差値なんて周りに影響されるからあまりあてにはならないが、確かにここにいる奴らずば抜けて頭が良い。と言っても、おかしな奴らばっかりだが。
そしてそんな奴らに囲まれながらも、俺は入学してから今までずっとこの学校で1位という座を独占している。
これが俺の唯一の自慢だ。
俺がこうして朝早くから単語と格闘しているのも毎日ある英語テストに向けてだ。
普段は登校中に勉強なんてしないんだが、昨日の夜中に睡魔という大敵に奇襲にあってしまった。
遠く後ろの方から大気を震わせるような轟音が聞こえて振り向く。大体50メートル程後ろの交差点に大型トラックがいた。
こんな田舎だと大型トラックですら珍しいものだ。どうやら俺の歩いている道の方に左折してくるようだが、大丈夫だろうか。
というのも、この道は車一台分しかない狭い道だから大型トラックだと対向車が来た時に離合ができない。その上、この道は歩道がないから白線の内側を歩いているとはいえ、俺は若干危ない。
おっと、いかんいかん。トラックの離合なんて気にしてる暇はないんだ。
順位に関係しないテストとはいえ、積み重ねが大事になるんだ。
俺は首を横にブンブンと振り、閉じかけた単語帳を開き直す。暗記が俺の特技ではあるが、時たま間違えることがあるから手抜きは出来ない。
えーと、どこだったかな…あ、あったあった。もう全部見たし、あと1周見直したら終わりでいいだろう。
ふと後方のトラックに耳だけ意識を向けるとやはりこちらに走って来ている。
しかし何かおかしい。
だんだんとエンジン音が大きくなっているから、近づいて来ていることに変わりない。
が、近づくだけでは音が急激に高くなることはない。
少し不安になって俺は足を止め、振り向いた。
すると、ついさっきまで50メートルは後ろにいたはずのトラックは20メートル程の距離まで来ていた。それもトラックの鈍重な車体を猛スピードで走らせながら。
こんな狭い道で危ないな。
道に誰もいないならいいかもしれないが、少なくとも俺という歩行者がいるんだからそういうことはやめてほしいもんだ。
余程時間に追われてるんだな。
ふと、視線を上にずらすと運転手と目が合い、俺は背筋に悪寒が走った。
彼は俺と目が合うと笑ったのだ。それも、爽やかな笑顔ではなく、凶悪な笑みに顔を歪まさせた。
な、なんであんなに笑ってるんだ?
しかも明らかに俺と目があったから笑い出したよな。どういうことだ?まさか……いや、まさか、ねぇ?
俺の脳内に嫌な予感が浮かび上がる同時にトラックが方向を俺の方をずらした。
つまり、とんでもない速さで俺にぶつかろうとしてきているのだ。
既に俺とトラックとの間は10メートルもなくなっていた。俺は、トラックそのものの迫力も相まって体を硬直させることしか出来ない。
あ……これ、まずい。これじゃ俺は
「ウゴァッ‼︎」
俺は今まで出したこともないような声と共にトラックに跳ねられた。
体が血飛沫と一緒に宙を舞い、一瞬で思考が散らされる。体の節々に突き刺さるような激痛が走り、頭がかち割れそうになる。
朝露で濡れたアスファルトの地面に打ち付けられる。
激痛に視界が赤く滲み、トラックがこちらに走って来ているのが見えた。このままトラックが来れば、俺は確実に押しつぶされる。
俺は、地獄の業火に焼かれるような痛みの中死を悟った。
あぁ、俺、死ぬのか……嫌だなぁ。
ごめんね、母さん。俺、母さんに何も返せなかったよ…
ブチッという自分の肉が引きちぎれる音だけが響き、俺はゆっくりと闇に溺れた。
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意識が、まるで水面に浮かんでくる泡のように朧げに現実へと引き戻された。
瞼を開けると木の天井だけが見える。
背中に伝わる柔らかい感覚で自分がベッドで寝ていることに気付いた。スーッと息を吸うと木特有の匂いに鼻腔を優しく撫でられ、覚束ない思考が段々と回りだすと先の出来事のことを思い出した。
俺はベッドに寝ているみたいだし、多分さっきのは夢だった、のか?うん、夢だな。
それにしてもリアルで怖かったな。あぁ、夢で良かった。
こんなにリアルで怖い夢を見るなんて朝から最悪だな。きっと今日は何かあるんだ。今朝はあの道通らないで行こう。トラックにも十分に気を付けて行かないとな。
目を覚ましてすぐの重たい体を起こそうする。
しかし、体は起きない。というより起こせないのだ。色々と試してみるが、せいぜい指や手首を動かす程度で顔すらも起こせない。
は?なんでだ?まだ頭が寝ぼけて……
いや、そういえば、ここどこだ?うちは木製じゃない。……さっきのアレを考えるとするとここは、病院、か?
つまり、あれ夢じゃなかったということになるが、確かにそうだとすると現状に納得がいくな。動かない体に見覚えのない部屋、そしてさっきのが夢じゃなければ夢の内容からして俺は一命はとりとめたけど全身骨折ってところかな。
そうか、全身骨折…勉強どうしようかな。
ん?そういやなんで体が痛くないんだ?事故したら体中が激痛に縛られる、らしいけどな。うーん、麻酔かな?いや、それとも時間が長いこと経ってるのかもしれない。
天井を見つめながら色々な可能性について考えていると鼻をムワッと嫌な臭いが包んだ。
長時間嗅ぐとえずいてしまいそうだが、どこか嗅ぎなれた臭い。その臭いと同時に自分の下半身に何か違和感を覚えた。下半身の感覚に集中すると、やってしまっていることに気付く。
はぁ...最悪だ。確かに、確かに夢は怖かったけどもね、高2にもなっておねしょはないな。
どうしよう、体動かないし、誰かに服替えてもらうのか?いや、それは恥ずかしい。でも放っておく訳にはいかないし...
起きて早々難題に頭を悩ませていると寝転がっている俺の足の方向から白い服を着た女の人が歩いて来た。
部屋を満たす暖かい光に当てられ輝く金髪を背中まで伸ばし、綺麗な顔に困ったような笑みを作って近付いてくる。
まずいな。あの人、看護師じゃないか?
このままじゃ俺の失態がバレる。いや、でもパンツは替えて欲しい。
というか、あの困り気味の顔ってもう気付いてるんじゃないか?それでもって俺が傷つかないように笑ってくれてるのか。あぁ、もう目の前まで来てしまった。完全に手遅れだな。はは、終わった。
俺が諦めの域に達した時、ふと女性の髪に目がいく。そう、彼女の髪は金髪なのだ。看護師に髪色の規制があるのかは知らないが、少なくとも今まで俺は金髪の看護師を見たことがない。
どういうことだろうか。こういう看護師もいるってことか?顔も確かに日本人とかアジア系じゃないがロシアや北欧系ってわけでもない。
金髪の似合う綺麗な顔、としか形容できない顔の作りだ。
その不思議な女性は、慣れた手つきでおれのズボンとパンツを脱がせて新しいものに替えてくれた。パンツというよりオムツっぽい。
脱がされる間、女の人にズボンを脱がせられて悲鳴をあげそうになったが、替えてもらっている側として礼を失する為耐えた。
「☆$¥€○*・・☆♪%#」
女性は幸せそうな顔で俺のオムツを替えながら何かを言っている。
お母さんが子供に「もう、なにやってるの〜?」といった感じのような話し方だが、なんて言っているのか分からない。
これでも一応英語、ロシア語、イタリア語は話せるんだけどなぁ。
うーん。何語だろう。多分これがこの人の自国の言語なんだろうけど全然分からない。
女性は新しいパンツで爽やかになった俺を抱き上げ、俺の顔を自分の肩に乗せると歩き出した。
当然俺は愕然とする。
はぁ⁈今俺を軽々と持ち上げたよな?仮にも俺は男子高校生だぞ。その俺を抱き上げるなんて、見かけによらず物凄い怪力なのか?
目を丸くして女性の横顔を見ていると、動かせずとも感覚はある手足に違和感を感じる。
短い。どう考えても手足の長さが短いのだ。
腕は女性の腕の半分程もないし、足も手と同じくらいの長さしかない。
いや、手足だけじゃない。体も何か小さくなっている。本来この女性より俺の体は大きいはずだ。
これは一体どういう………⁉︎
俺の問いかけに応じるかのように女性の後ろ、つまり俺の目の前の窓に答えが映る。
そこには驚いた顔をした可愛い赤ん坊が、金髪の女性に抱かれている姿が映っていた。
その光景を見て、俺は一瞬で理解した。
俺は、赤ん坊になっていた。
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俺の赤ん坊変身発覚から大体1週間が経った。
最初は混乱して意味がわからなかったが、この1週間で俺が赤ん坊になった理由を考えてみた。
しかし、どう考えても名探偵コ○ン君的推測しか出てこない。
だってそうだろう、俺は元々高校生で起きたら赤ん坊なのだから。体は子供、頭脳は大人、その名は才川明!とでも決め台詞を言ってしまいそうだ。
違うところを強いていうなら本家に比べて気の失い方が酷かったことと、小学生じゃなくて赤ん坊になったところ程度だろう。
唯一コ○ン君以外に出てきた仮説といえば、前まで読んでた小説に出てきた転移だ。だが、これはそもそもが違う。
転移というのは元の状態を保ったまま違う空間へ移動することであって時間は巻き戻せない。
それに仮に時間を戻せたとしても、俺は元々日本人な訳だから、金髪に俺の顔とは似ても似つかぬ顔のこの赤ん坊にはならない。
つまり、そうだな、いうなればこれは異世界転生だ。
「生まれ変わり」という訳だが、その場合高校生の俺は死んだことになる。そんなの嫌だ。もとの高校生の俺が死んだなんてことは、正直認めたくない。
だから、本当は転生の案は最初に出たが考えなかった。考えるのが怖かったからだ。
それに仮に、もとの俺が死んだとしたなら俺は前世の記憶を持って生まれ変わったことになる。
確か転生すると記憶を失うだとかいうことを何かで読んだ気がする。まぁ誰も転生なんてしてないから信憑性の薄い情報ではあるが。
他に、この1週間程の中で分かったことはある。その一つが家族だ。
俺には今分かっている限りで母親と父親が一人ずついる。母親は最初に俺のパンツ、もといオムツを替えてくれた金髪の女性だ。
次に父親だが、この人は数回しか見たことがない。朝早くに家を出て、日が暮れた頃に帰ってくる。きっと仕事か何かに行っているんだろう。
この人も金髪だが、母親の女性とは少し違った色合いをしている。顔も中々に整っていて、女性に人気がありそうだ。
美男美女の夫婦という訳だな。
それらを知って思ったのだが、ここは美男美女しかいないのだろうか。有難いことに親がアレだから俺の顔も中々整っている。
そしてもう一人、この家には少女がいる。最初は姉かと思ったが、髪の色が明らかに違うし、いつも家事をしている。多分お手伝いさんか何かだ。
年齢はわからないが大体中学生くらいの見た目をしている。紺とは違う、深みのある青髪をうなじのあたりまで伸ばしてあり、垂れ目が穏やかな印象を受ける美少女だ。
彼女は、偶に俺のところに来ては頭を撫でたり、抱き上げたりしてくれる。
美少女に抱き上げられるなんて、きっとここは天国だ。やっぱり俺は死んだらしいな。
冗談は置いといて、もう一つ分かったことがある。それは、俺の名前だ。俺、というよりこの赤ん坊の名前は、アルムというらしい。俺は元の名は明だが、「あ」しか合ってない。
それにこの名前、痛々しい名前なことこの上ない。元の世界ならバカにされること請け合いだ。
因みにこの世界の言語を理解するのは元の世界の知識が役に立った。具体的に言えば考古学者などが、言語を解明する際に共通する文字から意味を埋めていき、研究するという方法だ。
といっても、俺の場合は文字に触れる機会が皆無だったため日常生活の会話を聞いて埋めていった。正直音で出来るかは分からなかったが、案外簡単なものだった。
まぁ"本物"の赤ん坊も確か同じようにして覚えていくらしいから不可能ということは無い。
そして、これからはもっと多くの言葉を理解し、最終的には話せるようにならなくてはならない。どれだけ時間が掛かるかは分からないが、目安としては、今から1年以内には完璧に使えるようになりたい。
それと同時に戻る方法も探す必要があり、やることは沢山ある。
もし戻れたら、元とは違う形でも母さんに会いたいな。
まぁ戻れれば、の話ではあるのだが…