第16話 【近況報告と進展】
更新遅くなってしまいすいません。
これから少し更新のペースが遅れると思います。申し訳ありません。
アトミー先生へ
拝啓、暖かな日差しが柔らかに降り注ぐ頃となってまいりました。いかがお過ごしでしょうか。
前置きはさて置き、この手紙がそちらに着く頃には11日になっているかもしれませんが、僕が旅に出てから早10日が経ちました。
まずは手紙を出すのが遅れてしまい、ごめんなさい。言い訳をするとですね、学園到着から想定外のことが色々と起こりまして、中々時間が取れなかったのです。
さて、ではその想定外のことも含め近況報告をさせていただきます。
まず、学園入試についてですが、お察しの通り無事に合格しました。
旅の前に書斎の本を読み漁って散々勉強したのですが、この入試というのが実際に魔法を使うという内容で、全く意味がありませんでした。まぁいつかこの知識が役に立つこともあるでしょうから無駄ではないとは思いますが。
そして合格した後、一通り校長から説明を受けてから予定通り寮の部屋に向かったのですが、ここで問題が起きました。
部屋に入ると6歳くらいの女の子がいたのです。この子の名前はセーラ・ナナ・ラードです。
寮の部屋は数人で共有するらしく、彼女は同じ部屋の仲間のはずなんですが向こうが僕を認めてくれなくてですね。このセーラが誇り高く気が強い子でしてね、本当に困りましたよ。
最初に部屋に入った時なんて出て行けって言われたんですから。
結果的に彼女の提案で決闘をして勝てば認めるとのことでして、僕が勝ったのですが認めないわ!なんて言われたんです。それでも僕は勝負に勝ちましたから寮の部屋で寝泊まりしました。
次の日ですよ、問題は。僕が廊下を歩いていると後ろからずっと足音が付いてくるのです。しかし振り向いてみても誰もいません。誰かに付けられているのだろうとは思いましたが、ずっと足音が聞こえるにも関わらず後ろには誰もいないのですから怖かったですよ。
部屋に入っても足音が付いてきて怖くて走ったのですが、部屋の中ですから勿論先は行き止まりなんです。それで、恐る恐る振り向くとセーラがいました。つまり、足音の正体は彼女だったわけです。
後々分かったのですが、姿を消すことのできるマントの魔道具とやらを使って僕を付けていたらしいのです。本当に魔道具とは便利なものですね。
彼女にどうして付けたのかと理由を聞きましたが、何故か頰を叩かれました。どうしてでしょうか?
とまぁ、そんなこんなで、僕はセーラと仲良くできる気がしません。
僕のことを認めてはくれたのですが、1週間経った今でも目が合うと睨まれますし必要最低限のことしか口をきいてくれないのです。
この場合は僕はどうしたら良いと思いますか?アトミー先生の知恵をお貸しください。
最後に1つ。アトミー先生はミアさんと何かあったそうですね。ミアさんはアトミー先生が悪態をつく生徒だったとおっしゃっていましたが、本当ですか?もし差し支えなければ教えてください。
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〜アトミー目線〜
私はアルム君から届いた1通目の手紙を閉じると机に突っ伏してしまいました。頭の中には色々な情報でぐちゃぐちゃです。やはりアルム君は合格してくれいましたし、且つ3年生からという偉業を成していることは嬉しいのですが、それ以上に問題が多すぎます。
まず、すっかり忘れていましたがあの学園にはミア先生、いやミアが居るではありませんか。あぁ、アルム君が心配です。あの人は1度嫌うと嫌った人に散々嫌がらせをするような人なのです。アルム君がミアにいじめられたりしないといいのですが……
いや、アルム君は頭が良いですから、きっと上手くやってくれるはずです。もし何かあったら私が何としてでも助けてあげますしね。
さて、返事はなんと書きましょうか。
アルム君はそのセーラさんに手を焼いているようですが、私も正直どうしたらいいかなんて分かりません。
うーん、買い物にでも誘ってみるのはどうでしょうかね。よし、そう助言しましょう。
…ん?そういえば、セーラさんの家名はラードですね。ラード家といえば大貴族の一角を担う家だったはずです。大丈夫だとは思いますが大きな問題が起きないといいのですが…大貴族の中でもラード家は特に誇り高い家ですし、万が一その誇りを傷つけてしまうとやり返しが大変ですから。特に現当主には酷い目に遭わされましたしね。
あぁ、アルム君が心配です。彼なら上手くやっていけるはずですが、出来ることなら私も学園に赴いて彼の生活を見守りたいところです。
「はぁ…」
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アトミーが膨らむ心配にため息つくと時を同じくして、アルムもまたため息をついていた。
〜アルム目線〜
「はぁーぁ」
どうしよう。またセーラがこっちを睨んでいる。学園生活の中で1番辛いのは、やっぱりセーラとこの部屋にいる時間だな。
そういや手紙はアトミーに届いたかな。この世界の季節が分からなかったから時候の挨拶は適当にしちゃったけど、届いてくれれば問題ない。アトミーは頼りになるからな。きっと良いアドバイスをくれるはずだ。
いや、それよりもセーラだ。どうしたら仲良くしてくれるのだろうか……
ん?そうだ!女の子は買い物が好きだと聞いたことが大昔にあった気がする。よし、セーラを買い物に誘おう。
まだ見てない出店も沢山あるしな。うん、これは我ながら名案だな。しかし、問題は誘いに乗ってくれるかというところだが…いや、俺の座右の銘は物は試しだ。俺はチャレンジャーなのだ。
「あ、あのー、セーラ、さん?僕から、その、提案があるのですが…」
「なによ」
「大通りのですね、出店に一緒に行きませんか?今日は授業は休みですし、これを機にセーラさんと仲良く出来たらいいなぁ何て思ってたりするのですが…」
「何で私が……いや、いいわよ。行ってあげるわ」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」
良かったぁ。…うーん、どうして俺は小さな女の子にこんな謙ってるんだ?
若干の疑問を残して俺たちは部屋を後にした。
外は日が優しく照りつけていてポカポカだ。しばし歩いてあの最初に見たあの人ばっかりの一本道、こと大通りに着くと相変わらず気持ち悪いくらいの人がいた。
「人が多いですね」
「当たり前だわ。そんなことより、なに買うつもりなの?」
「え?えっとですね。その、僕は所謂一文無しでして、何かを買ったりはしないのです」
「じゃあ何しに来たのよ」
「えっとですね、先程言った通りセーラさんと街の中を見て回ろうと思いまして」
「あっそ」
セーラはそういうとズンズン雑踏の中へと入っていった。
あっそ、か。相変わらずお気が強いこと。どこかのお嬢様か何かなんだろうか?こんなに高慢なんだし無いとは言えないな。後で聞いてみるか。
しばらく俺がセーラの後を付いていくような形で歩いているとあの武具店の前まで来た。
そういやあの時ちゃんと中を見てなかったし、ちょっと寄ってみようか。
「あの、セーラさん。ここに入ってみてもいいですか?」
「好きにすれば」
「ありがとうございます」
冷たいなぁ。まぁ女の子に武具店は無いか。それでも俺は見てみたい。思えば女の子と2人でどこかに行くことなんてなかったな。勝手がよくわからない。…ん?そうするとセーラが俺の初デートの相手…?いや、無いな。
中に入ると武器やら防具やらが所狭しと並んでいた。前より品数が増えた気がする。
大量の武器の中、俺は真っ直ぐに杖の置いてある場所へと向かった。前は要らないなんて言ったが、やっぱり欲しい。男なら誰でも杖とか剣とか憧れるものだ。
俺が前も見た最安値の杖をじっと見つめているとセーラがやって来た。
「その杖が好きなの?他にもっと凄い杖があるのに?」
「いえ、好きというわけでは無いのですが、杖なら何でもいいのですが欲しいなと思っていまして。まぁ思ってはいても買えはしないのですがね」
「なんでよ?こんな安っぽい杖ならいくらでも買えるわ」
「え?それはどういう…」
「どういうもこういうも無いわ。私はあのラード家の長女、セーラ・ナナ・ラードよ?あんたまさか知らないの?」
「えっと、ラード家と言われましてもよく凄さが分からないのですが…」
「まぁいいわ。ちょっと、この棚の上の赤い魔石杖貰える?」
「これですかい?これはお嬢ちゃんみたいな子が買えるような代物じゃねぇんだがなぁ。懐の方は大丈夫なのかい?」
「うるさいわね。私はラード家の人間よ。ほらさっさと渡しなさい」
「あ、こ、これは失礼いたしました!」
店主は態度を一変させると赤い魔石の豪華そうな杖を棚から取ると恭しくセーラに渡した。セーラはというと服のポケットから綿か何かで出来ている青い巾着袋のようなものを取り出すと中から金貨を8枚ほど取り出して店主に渡した。
…おいおい、買っちゃったぞ。あの杖8000ルピーもするじゃないか。セーラは大丈夫なのか?いや、そういやラード家がどうとかって話だったからな…
そんなことを考えているとセーラが今買ったばかりの杖を俺に渡して来た。
「ほら、こっちの方がいいでしょ?これあげるから私とのケッコンは無しにして」
「え、え、えっと、その杖を貰えるってことですか?僕が?」
「そうよ。ケッコンを無しにしてくれたらね」
「け、結婚?」
「は?あんた父様が用意したセイリャクケッコンの相手なんでしょ?」
「あの、なんの話でしょうか?」
「…は?」
それから数時間経って分かった。
セーラはずっと俺のことを親の用意した結婚相手だと思っていたそうだ。なんでもラード家というはお偉い貴族らしく、結婚とかは全て親が決めるしきたりらしい。そのしきたりが気に入らないセーラはずっと俺のことを邪険にしていたわけだ。
俺を結婚相手だと思った理由は、俺がいつも姿勢が低かったからだと言う。まぁ、確かにその推測はズレた推測ではないな。
とまぁ、そういう理由でマント被ってまで俺を付けたのも本当に結婚相手なのか確かめるためだったらしい。それはただの時間の無駄になってしまったがな。俺も変に怖がってお互い損しかなかったようだ。
それにしても結婚相手か。そんなこと言われても、そもそも俺にはアトミーという心に決めた相手が居るし、セーラと結婚する気なんてさらさらない。セーラのお父様にも頼まれた覚えはないしな。
俺たちはあの場で事情の擦り合わせを終えると部屋に戻った。今俺は机を挟んでセーラと向き合うようにして椅子に座っている。
「最後に確認するけど本当に違うのね?」
「はい。そうです」
「はぁ〜。じゃあ私の苦労が無駄じゃない!態々あんたを突き放すために話したいの我慢して睨んだらして、その上こんなしょぼい杖まで買って……あ」
「え?今話したいって…」
「うっさいわね!黙ってなさい」
「でも顔が赤いようですが…」
「うるさいって言ってるの!そんなことより、あんたのその変な口調やめてよ。そのせいで勘違いしちゃったんだから!」
「は、はい。いや、うん」
「それと私のこともセーラと呼びなさい。あんたには特別に許してあげるわ」
「あ、は…うん。じゃあ僕からも1つ。僕のことは『あんた』ではなく『アルム』と呼んでくださ…呼んでくれ」
「分かったわ。それじゃこれからよろしくね、アルム」
「うん。改めてよろしく、セーラ」
こうして俺とセーラの関係は大きく、進歩した。




