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才川くんと異世界転生  作者: ポッチリプッチョ
2章 学園編
16/35

第15話 【小さなストーカー】

更新遅れてしまい本当に申し訳ありません

m(_ _)m

 




 あの後、意味不明の宣言をしたセーラは赤い顔のままダッシュで何処かへ消えていった。

 鬱陶しい教師をやり過ごしてから俺も彼女の後を追ったが既にいなかった。

 もしかしたらと思って、あの906番室に行ってみたがここにもやはりいなかった。



 とりあえず俺はナルバに報告をしてから1度宿に戻って荷物を持って来て、その日は906番室のベッドで寝た。

 宿に泊まろうにも入学やら何やらに金を使ったから財布の中は空っぽなのだ。ここで寝ると、もしかしたらセーラに闇討ちにあうかもしれないが、その時はその時だ。俺はどうしても柔らかいベッドで寝たい。

 ちなみに、セーラが使っていたであろうベッドは若干甘い香りがして、安眠につけた。



 翌日、目がさめると机の上に無造作に置かれていた魔法鍛錬書が消えていた。

 多分セーラが取りに来たのだろう。どうやら闇討ちには遭わなかったようだ。そこに関しては良かったんだが、俺としては出来れば彼女とは仲良くしたい。これは長いことかかりそうだ。


 それから身支度をしてから1度校長室に寄り、授業の説明を軽く受けてから教室に向かった。

 3年生と書かれた扉を開けると、大学の階段教室のような部屋の中に様々な年齢の人が80人ほどごった返していた。

 渋いおじさんから20歳くらいお姉さんなど、本当に様々だ。


 別に驚くことはなかった。

 まぁ学校に通うこと自体が義務じゃないから、こんな感じだろうとは予想していたからだ。

 しかし、俺の予想を超えたものがあった。


 ウサギの耳を生やしたお婆さんがいるのだ。

 本来耳のある位置にちゃんと人間の耳も付いているのだが、頭のてっぺんあたりから2つ、どうみてもウサギの耳が生えている。

 最初は被り物か何かで、そういう趣味なのかなと思っていたのだが、こういった人が教室内の人間の3分の1くらいいたのだから驚きだ。

 しかも、耳の種類は多種多様でウサギの他に猫や犬といった耳を生やしている人もいる。


 確かこういうのは"ケモ耳"というのだ。

 俺のいた高校に、こういうのが好きな奴が居ていつでもその話をしていた。


 つまり彼らは獣人ということになるな。こっちの世界での呼称がそうかは知らないが。

 それにしても異世界恐るべきだな。まさか動物の耳を生やす人間がいるとは…

 6本足の馬に魔法、怪力人間の次は獣人とは。

 あの耳の生え際とか見せてもらえないかなぁ。体の中身はヒトと同じなんだろうか。耳によって違うのか?気になる。


 そんなことを考えながら人と人の隙間を縫うように歩いていると、一瞬だけ美しい桃髪が人と人の間から見えた。

 セーラだ。昨日のことを話すべきかと思って桃髪を追うと彼女は俺を見つけるや否やキッと睨んできた。



 やばいな、完全に嫌われてる。どうする、ナルバに頼むか…?

 いや、ダメだ。そんなことをしたらこの少女に俺が負けたような気がしてならない。



 俺はとりあえず適当に席について授業の始まりを待った。

 少しすると昨日のメガネ教師がやってきて、立っている人に座るよう指示した。


 授業を始める前に俺が前に呼ばれて軽い自己紹介をしてから魔法鍛錬書を教師から受け取り、前に戻る。

 戻るときにちらとセーラを見ると狂犬のような顔で今にも飛びかかってきそうだった。



 怖すぎる。どうして俺にそんなに怒っているのかが分からない。

 これからルームシェアして、仲良く学園生活楽しもうねって流れにはどうしてならないのだろうか。これはアトミーに要相談だな。



 俺が席に着くと教師がわざとらしい咳払いを1つしてから授業が始まった。

 俺は授業の内容までは聞かされていないし、宿題なんかも知らない。それに実力で3年生にされたけど、俺の魔法の知識はあまりない。教科書の魔法鍛錬書は全部覚えているから困ることはないとは思うが心配だ。



「それでは、教科書35枚目を開いてください。幼級火魔法についてですね。ではセーラさん、炎盾(ファイアシールド)の詠唱文を読み上げてください。魔法は実際に使わないように」


「は、はい!火の神、アグニよ、その業火で我を守り給え、炎盾!」


「はい、よく出来ましたね!それでは次にアルムさん、幼級水魔法の詠唱文を読んでみてください」


「へ?は、はい」



 おぉ、成る程、授業ってこんな感じなのか。なんか小学校みたいだな。

 えーっと、幼級水魔法か。色々あるけど、なんでもいいんだよな?じゃあセーラを習って水盾(ウォーターシールド)でいこう。そういや実際に使うなってどうするんだろうか…まぁいいや。



「水の神、ヴァルナよ、その神水で我を守り給え、水盾!」



 俺が久しぶりの詠唱文を唱える。するとやはり勝手に魔法が行使され、俺を中心に半径30センチ程のラグビーボールのような形をした薄い水の壁が出来た。



「こらこら、さっき言ったでしょう?魔法は使わないでください。この後実技の授業もするんですから、魔力は残しておいて貰わないと困りますよ。それとも魔力量に自信があるんですか?」


「い、いえ、そんなことは。すいませんでした。しかし、詠唱文を読んで、且つ魔法を行使しない方法が分からなくて」


「成る程。そういうことですか。てっきり君ならこれくらい出来るものかと。魔法はですね、魔力を使って使用します。ですから、魔力を出さなければいいのです」


「は、はぁ」



  今完全に馬鹿にされたよな。ちょっとイラっときたぞ。

 はぁ、さてどうしたもんかな。魔法の原理は分かってるんだが、その魔力を出さない方法が分からんのだ。さっきも魔力を出さないように何となく意識してみたが上手くいかなかった。

 もういいや、今は出来ないだろうが後で練習するとしよう。実技の授業も上級レベルなら魔力も持つだろ。



「ふぅ、では詠唱しますよ。

 水の神、ヴァルナよ、その神水で我を守り給え、水盾」



 詠唱すると、やはり魔力が使用されて水の壁が現れる。それと同時に周囲から微かに笑い声が聞こえてきた。

 授業でこんなに恥ずかしい思いをしたのは小学生の時に先生をお母さんって呼んだ時以来だ。恥ずかしいからこそ、絶対出来るようにせねば。



「うーん、どうしてでしょうねぇ。まぁいいでしょう、君はまだ幼いですし気を落とさないように。それでは授業を続けますよ」



 教師のその一言で笑いは止まり、授業が再開された。

 それから少し詠唱についての授業が続くと実技のために外に出た。実技といっても幼級魔法を1人1つずつ使って終わりだった。

 その後の授業もただの足し算や引き算や中級魔法の詠唱文を覚えるといったつまらないもので1日の授業が終わった。



 初日の授業を終え、最初の授業の出来事のせいで落ち込み気味俺は寮へと続く廊下を歩いていた。

 長い長い廊下の壁沿いには何本も大きな柱が立っている。その廊下には、ちらほらと生徒がいて立ち話をしていたり歩いていたりとそれぞれだ。



 そんなごく普通の光景の中、さっきから俺の後ろの方で怪奇現象が起きている。

 パタパタと足音のような音が鳴っては消え、また鳴っては消えが何度も続いている。その上その音は俺についてきているようで、一向に遠くならない。

 最初は気にしていなかったんだが、こうも長いと流石に気になってきた。何度か振り返ってはみたが、振り向くと音は消えて廊下には何もない。


 理由は分からないが、多分何かに付けられているのだ。尾行にしては下手くそな尾行だと思う。まぁ音が聞こえるだけで姿は見えないから上手いのかもしれない。


 ……いや、待てよ。確か元の世界にこういう怪談があった気がする。どこまでいっても追いかけて来る奇妙な音。そして、追われたものが振り返ってもその音の正体は見えないのだ。しかし、そのうちその音に追い詰められ、振り返り正体を知ってしまうと死ぬのだ。



 全身に鳥肌が立ち、途端に怖くなった。

 恐怖心から俺が急ぎ足で進むとパタパタも速くなる。そして振り返ってみてもやはり何もいないのだ。

 ようやっとの思いで寮の扉まで来て、寮の中に入る。すると不思議とパタパタが消えた。



 少し安心しながら転移して五層の部屋の前まで来た。部屋の扉に手をかけた直後、少し後ろでパタパタがまた聞こえる。

 俺は振り向かずに扉を素早く開けて中に入り、奥の方へと走る。中に入ることだけを考えてしまったせいで扉を開けたままにしてしまった。

走っている間にも、絶え間無くパタパタは聞こえている。

 俺はリビングの中央まで走るとピタッと止まった。よく考えれば部屋に入った時点で行き止まりだ。俺が止まると、やはり俺の真後ろでパタパタも止まった。



 いる。今、後ろを振り向いたら確実にパタパタの正体がいる。

元の世界だと振り向けば死ぬらしいが、既に体に魔力強化は施した。いつでもマリオネットが使える。

 そうだ、振り向いたらまずマリオネットだ。ソレが初速120キロについて来るなら俺は死ぬだろが、多分大丈夫だ。落ち着け、俺よ。さぁ、振り向くんだ。きっと死んだりしない、はずだ…



 俺は意を決して振り向くと同時にマリオネットを使おうとしたが、使わなかった。

 何故か。それは目の前にセーラがいるからだ。

 彼女は真っ赤な顔で口元をキュッと結び。腰に手を当てて、偉そうに仁王立ちしている。

 俺が驚きのあまり呆然と立っていると彼女は右手を腰から外し、俺に差し出した。



「あ、あんたを、み、認めてあげるわ!わ、私はセーラ・ナナ・ラードよ!ほら、あ、握手しなさいよ!」



 そう言って彼女は俺の手を強引に取ると無理矢理握手を交わさせた。

 俺は状況を理解しようと目まぐるしく回る思考の中でただ、初めて知った彼女の名前が脂っぽいなと思うだけだった。

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