表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「スポットライト」  作者: みふら しがゑ
9/171

許し

「コーヒーでも飲まんね。」

 僕の感情が静まった頃由香里がコーヒーを差し出した。

 「今日はお茶菓子も買ってなくてごめんね。」

 “今日は”ではない。“今日も”だ。“買わない”のではなく“買えない”のだ。

 「それで…。借金は今いくら残っとるとや?」

 「うん、利息とか色々あって、2000万くらい残っとる。それでも、私の両親が手伝ったり、私がいくつかパートば掛け持ちしたりして、何とか少しづつ返してはいきよる。それに…。」

 由香里は明らかに僕に話そうかどうか迷っている様子だった。

 「それに…あの人が保証人になった人も毎月返してくれよるけん…。」

 「な、何て…?」

 僕の話を遮ぎって由香里が続けた。

 「実はね、あの人が亡くなってから暫くしてからその相手の人から電話がかがってきたとよ。あの人が…自殺した事ば誰からか聞いてから…。“申し訳なか、申し訳なか”て言うて電話口で泣きよらっしゃった。私、何も言いきらんでから、電話ば切ってしもうた。それから毎日毎日、“その人ば殺してから私も死のう”て言う事ばっかりば考えよった。恨んで恨んで、憎んで憎んで…。吐きそうになるくらいまでその人の事ば恨んだとよ。」

 「当たり前の事たい!」

 僕は吐き捨てる様に言った。

 「よくもまあ、のこのこと電話してこれるもんたい。とおるの事ば殺しておきながら…。」

 怒りで声が震えていた。

 「そいけどね…。毎日毎日その人の事ば憎か憎かて思いよったら、とおるさんが夢に出て来たとよ。夢の中ではあの人は生きとってから、それんとに、私あの人に“あいつのせいであんたが死んだ。あいつがあんたば殺した。憎か、憎か…。”て言いよるとよ。そしたらね、とおるさん何て言ったと思う?“お前そげな事ば言うな。あの時、俺があいつの保証人にならんやったらあいつも、あいつのかみさんも、あいつの3人の子供も死なないかんやったとぞ。俺一人が死んで5人が助かったとやんか。死んだとは俺一人ですんだやんか。”って。目が覚めてから私、“あっ、そうか。”って思ったと。あの人の言う通りたいって。それで相手の人に電話して、うちにも来てもらったとよ。だんなさんだけじゃなくて、奥さんも子供さんも3人来てくれてから…。その3人の子供さんば見た時にね、“あー、この子達がうちの人が助けた命かー。”って思ったら嬉しくて嬉しくて、思わず抱きしめとった。訳のわからん話やと思うやろ?でも私の気持ちは本当にそうなんよ。」

 昔からの彼女のくせでうつむきかげんに話していた彼女が顔を上げて僕に微笑んだ。その美しさは言葉では表現できない。僕は言葉を失っていた。ただ、とおるがなぜ由香里を選んだのかがはっきりとわかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ