大正ロマンの異世界物語下
「すいません、俺なんかじゃ力不足ですの」
「良いから付き合えや!、てめえぶっ殺すぞ!!!」
「ひぃ!!」
突如として現れた少女に脅迫された俺は少女に連れられ街の中を歩いて行く、街の建物に架かる提灯の赤い光と街の中の街灯の白い光は街を香ばしく照らしていた、乾いた空気は焼きそばの香ばしい匂いで匂い付けされており、町の住民の騒がしさはお祭りの時のあの独特の雰囲気を醸し出す
「兄さんそういや名前は、、、そうだな、お前の名前はカンテラだ!」
「なんでお前が俺の名前を決めるのよ、、、」
「分かってないな~、名前っていうのは自分だけが知っておくべきものじゃないか、人に名乗るのは本名じゃないほうがいいだろう」
そういう文化なのであろうか、、、まあ俺の名前がこの世界では馴染みのないものであったら嫌だし、ここはありがたくカンテラと名乗らせてもらうことにしよう
「お前は名前なんなんだ?」
「私?、私はサミ、フルネームは名乗らないようにしてる、気軽にサミ姉とでもお呼びなさい」
ここでふと気がついたことがある、この世界には電柱や電線がない、街灯には電球がない、仮説だが、この世界は恐らくだが科学技術は遅れている、それを魔法で補っていると、先程から近代的なものが多々あるのだが全て前に居た世界とは形が異なり、俺の世界での常識では動かないようなものが平気で動いているのだ
「カンテラはなあにそんな楽しそうに周りを見渡しているんだ?」
「ああ、俺は田舎の出身でね、全くこういった街に来たことがなかったんだ」
「それは大変だね、じゃあいいこと教えてやるよ、もうすぐ着く所は【噛み切り寺】っていうところで、通称冒険者組合、組合の人間以外は暴力寺なんて言ったりもする、魔物退治の専門屋だ、そして退治屋の人間を冒険者っていうんだ、覚えておきな」
「ほう、、、それは、、、凄いですね」
「なあに、あんたみたいな流れ者は組合でしか働き口がないよ、ふふ、私が面倒見てやろう、ありがたく思え」
サミ姉に出会わなければ職にすらたどり着けないところであった、やはりあの神様は俺達の事を全く考えていない証拠だ、しかし暴力寺って言う響きは非常に嫌な予感しかしない、しかしながらこうも運良く職にありつけるのだから文句は言えまい。
その後しばらく歩くとサミ姉の足が止まった、彼女の目線の建物は寺というより大きな旅館である、看板には、、噛み切り寺の文字、寺というのは名前だけなのだろうかと思わせる建物だ
「ここさね、中にはいったら適当に椅子に座っててくれ、仕事を貰ってくるから」
「分かったけど、俺は戦闘なんてほぼほぼやったこと無いからね」
「ははは、私だってできないよ、ここには簡単な害獣駆除やらちょっとしたお掃除の依頼とかあるから、そういうのを選ぶさ、普段は心強い仲間がいるからそいつと危ない仕事もするんだけど、、、風邪引いいちゃって寝込んでるわけよ、はははは」
寺の中は温泉の休憩室のような感じであり、畳に座布団にテーブルがあるという完全に和風な内装であった、その休憩室が上三階まで広がっている、しかも人が多く酒を飲んだり騒いだり寝たりしているのだからもう完全に宴会だ、さらにそこで騒いでいる奴らが、、洋風の鎧の剣士であったり、マントにローブの魔術師であったり、和風な部屋に洋風の冒険者、その光景は違和感のあるものであった
「うぁ!?」
椅子に座ろうと座敷にあがり周りを見渡すと、そこには鏡に写る自分の姿があった、自分の姿はいつの間にか変わっていた、いや、顔やら体型は変わっていないのだが服装が変わっていた、パジャマ姿であったはずなのに草色の将校服になっているのだ、気が付かなかったが腰に帽子もかかっていた、個人的には非常に格好がいいと思い少し気に入った服装であった
席に付いて少しするとサミ姉が紙を持って歩いてきた、なにか良い仕事があったのであろうか
「カンテラ、少し安いけど薬草狩りに行くよ~、薬草は組合でかなり使うから需要があっていい仕事なんだ~、しかも安全、まあ非力なパーティーで行くなら妥当な依頼だよ」
「それはいいね、どんな葉っぱなのか現地で見せてくれる?」
「ああいいよ、早速行こうか」
町の外に出て少ししたところの林に来た、外は案外普通な光景であり、これぞファンタジーだねと思わせる光景であった、しかし外から街を見るとすごい光景だな、、、まるで大きなドリルが落ちてるみたいな光景、、、
ランタンを腰にかけると早速薬草探しを開始した、サミ姉が葉っぱを引っこ抜くと俺に見せてきた
「これが薬草だよ、これを籠いっぱいにすれば一日分の風呂代と酒代と食事代ぐらいにはなる」
「ほうほう、了解」
葉の形は青い椛のような形であり見つけやすいものであった、青い葉はどうやらこれしかないらしく、林をがさがさと搔き分ければ苦もなく見つけられた、まあ夜ということもあり暗くて見難いのもあったが俺のランタンはかなり明るく、まあ夜の暗さはある程度何とかなった
「そう言えばサミ姉!、ここらへんに魔物って出たりしないの?」
「魔物はめったに出ないけど、まあ出たら終いだね!!、はは、今戦闘できる奴居ないし、逃げるにもこんな夜じゃうまく逃げきれない、まさに絶体絶命だよ!」
「そりゃ大変だね、、で、俺の後ろにいるのはなんて言うんだ?」
「オーガです、隊長」
俺の後ろには大きさ2mほどの化物が大きな棍棒をもって立っていた、、、俺は何もなかったかのように数歩歩くとオーガもまた数歩歩く、しかもどんどん手が上に上がっている、、、
「うわああああ」
「逃げろカンテラ!!!」
狂ったように走って逃げる、籠の中の薬草はばらりと一部落ちたがそんな気にしている暇はなかった、しかもデブな魔物なのに速いこと速いこと、あの巨体であの速さ、めっちゃこええええええ
「サミ姉!!!、どうするの!!」
「んなもん街まで逃げるんだよ!!!!」
《ドガン!!!》
俺の足元に棍棒が振り下ろされた、地面はえぐれ、砂は舞う、俺の頭に当たれば見事真っ赤なお花が咲くであろう、しかもかなり接近を許している状況、冷や汗が止まらなかった
「サミ姉!ふた手に分かれて逃げるか?」
「ふざけるな!、そんな2分の1のロシアン・ルーレットやってたまるか!!」
まあその通りだ、この状況で二手に別れれば5割の確率で生き残られる、しかし、5割で死ぬ、そんなのは御免ということだ
《グキ!》
「ぐあああああああ」
足を捻ってころんだ、悲痛に顔を歪める、これが俺であればよかったが地面に伏して動かなくなったのはサミ姉であった、夜に舗装のされていない道、流石に走るには無理があったのだ、オーガはどんどんと近づいてくる、このまま逃げれば俺も彼女もジエンドだ、なぜなら、、俺はこの世界で一人で生きていけるほどまだ自立していない、ここで知人を失うのはどうしても避けたいのだ
「早く行けカンテラ!!!」
「ふざけるな!、見捨てたら目覚めが悪い!!」
しかしおぶって逃げるにはもう時間がない、、、しかもオーガはすでに追いつきサミ姉に向かって棍棒を振り下ろそうとしている、一刻の猶予もない、俺は一か八かでアホなことをしでかした
「初級火炎魔法!!火炎球」
《ブォアン!!!!!!!!!!!!!!》
俺のはなった初期魔法は物凄い大きさの火の玉になってオーガをすっぽりと飲み込んだ、火の玉は金色に輝き、消えるとそこには焦げたオーガが転がっている、俺もサミ姉もただ呆然とその光景を眺めていた、俺としては軽く燃えて熱さで逃げる程度を予想していたのだが初期魔法の火力は頭が可笑しいほどに強かった
「カンテラ魔法使えたのかよ!!」
「いや、初期魔法ってこんな威力あるとは思わなかった」
「普通はねえよ!!!!!」
やはり普通では無いらしい、初期魔法でこの威力が普通ならまあ、上級魔法は7日で世界を滅ぼせてしまうであろう、なぜこうなったかは分からないが奇跡の力とでも思うことにした、まあ明確な理由はあったのだが、それを知るのはもう少し先の話だ
サミ姉は立ち上がるとオーガの牙を引き抜いて俺の方へ歩いてきた、目には軽く涙を浮かべているがかなりの笑顔だ
「ははははは、こいつは助かった!、カンテラには感謝してもしきれないね、お礼に戻ったら食事を食べよう」
「はは、オーガの牙って高いの?」
「討伐報酬で少しいい値段だ」
かくして俺の異世界生活の初日は物凄い感じであった、さすがはい世界、早速死にそうになるとは思わなかった、この時はまだ、今日また死線を見ることになるとなんて思っていなかった、、、俺の異世界生活初日はまだ始まったばかりである