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私と、友達

「うーん、なんか、ほら、野原で風が吹いてるみたいな。」

セイジさんの例え話は難しい。

「いや、でもそれじゃあなんか安っぽいな。こう、煌びやかなヨーロッパのお城みたいな……。」

セイジさんの作るお菓子は、オーソドックスなイチゴのショートケーキや、チョコチップクッキー、ふんだんに卵を使ったプリンなど、煌びやかなお城とはかなり違う。

化粧箱に入れるロゴのデザイン作りはこんな感じで難航した。

私は今、デザイン学科のある高校に通っている。しかしまだ、パソコンで絵を描いたりデザインをしたりするのはたどたどしい。

コピー用紙に鉛筆で、試しに描いてみようと思うものの、肝心の店主の考えがまとまらないと話にならない。

「あっ、はーい!いらっしゃいませぇ」

お客さんだ。子連れのお母さんと何か話している。

そんな間にぼんやりと、鉛筆を動かしてみる。三角、四角、丸……。

外はどんより曇っていた。この調子だとやがて雨が降り、そして梅雨入りと発表があるだろう。

そうしたらすぐに夏が来る。私の嫌いな夏が……。


「なぁに、シロタ、まだ出来てないの?」

そう鋭い言い方をしたのは同じクラスのカナメだった。

今月末締め切りの課題は、決められた小説の挿絵を描く事だった。どのシーンにするか物語を読みながら考えていた所だが、カナメはすでに描き終えていた。

「私はこの、主人公が池のほとりで歌を歌うシーンにしたよ。」

カナメが強引に私の本のページをめくる。

ふわり、と甘い香りがした。

「あ、これ?ママが商店街のお菓子屋さんで買ってきてくれたの。チョコチップクッキー。シロタにもあげるよ。」

カナメのかばんから少し見えていた、白い愛想のないどこにでもある箱。

私には、セイジさんのお店の物だとすぐに分かったけれど、これが例えば、もっと綺麗な色をしていて、分かりやすく、ロゴでも入っていればもっと他の友達も……。

などとぼんやり考えていたが、お菓子を凝視していただけに見えたらしく、カナメは、食いしん坊だね、と笑ってクッキーを1つ置いて教室から出て行った。

同時に予鈴が鳴る。次の授業は移動だった。急がないといけない。


次の授業で使う絵の具セットは、美術室の隣の準備室に置いてある。もう既にほとんどのクラスメイトは準備を終えていた。カナメが足早に教室を出たのも、きちんと準備するためだった。

私はそんなに背が高い方ではないのに、画材の置き場を棚の上の方にされていて取り出しにくい。

手を伸ばして引っ張り出そうとした時、何かがその上に乗っかっている様な、いつもより重い感覚だった。

しかし私は焦っていた。そのまま勢いよく引っ張り出すと、上に乗っていた物がそこまま落ちてきて、

ゴン!

固いものがぶつかる音がした。私の額に直撃したのだ。

思わずその場に派手に倒れてしまい、騒音を聞きつけて先生が準備室に慌てて入ってきた。

「シロタさん、大丈夫?!」

しばらく何が起こったのか分からなかったが、体に異常はなく、先生とその場に散らばる絵の具や筆を集め始めた。

同時に、落ちてきた物を探したがなぜか見当たらなかった。そんな簡単に飛んで行ってしまうような小さなものではなかったはずなのに。

落ちてくる瞬間微かに見えたのは、暗い色の塊のような感じだったが、周りには黄色いパッケージの絵の具セットと、白い半透明の筆入れ、白いパレットしか落ちていなかった。

先生にお礼を言い、教室に入ると授業開始時刻をすでに過ぎていて、自分の席に座ると後ろのカナメが心配そうに声をかけてくれた。

カナメは成績が優秀で、センスも抜群なだけでなく、すごく優しくて面倒見が良い。

3人の弟がいるらしく、きょうだいの居ない私はなんだかカナメの妹の様な気分でいた。


その日の授業はモチーフのワインボトルを描く事だった。

まず鉛筆で下描きをし、絵の具でぬる。ガラスのモチーフを描く事はなかなか難しい。

上手く形がとれず、少し苛立ちながら何度も描いては消していた時、手に持った消しゴムのケースに目をやると、青いラインの入っていたはずのケースが、灰色のラインになっていた。

確か、これは青かったはず……。だがこの授業の時しか使っておらず、先週くらいに買ったので、まだ2回しか使っていない。更にみんなと揃えて買ったものではなかったので、周りのみんなとは違うものだ。

だから、何かと勘違いしていたかもしれないな。そう思った時、カナメが背中をつついてきた。

「なに消しゴムばっかり見てるのよ……もしかしてお腹空いてるの?さっきのクッキーじゃ足りなかった?それは食べちゃダメだよー」

少しバカにしたように言われ、反論しようと振り返った時、カナメの髪留めが目についた。

さっきクッキーくれた時、青いビーズのついた髪留めだったはず……。だが、薄い灰色のビーズだった。

「シロタ、やっぱりさっき倒れた時からなんかぼーっとしてるよ。本当に大丈夫なの?」

髪留めばかりを見ていた。そして消しゴムのケースも見直した。

何かが、おかしい……?

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