私と、あの人
予報では間もなく梅雨が明けるという。夏がやって来ると。
私は夏が嫌いだ。とにかく暑いのが嫌いだ。
『夏産まれは暑いのが好きなんだよ、俺みたいにな!』
と、ゲラゲラ笑いながら話していた父の顔がふと浮かんだ。12月産まれの私はその時とても納得したのだ。
「おぉい、トヨ、こないだ届いた箱、どこ置いた?」
背後から情けない声が聞こえる。
「あれ?これかぁ?」
私が振り向くよりも先に、探し物は見つかったらしい。
ここは駅前商店街の中にある、小さな洋菓子店。
シェフとして経営するのは、私の母の弟の後輩である、情けない声の人、セイジさんだ。
お互い実家がすぐ近くで、家族ぐるみでずっと仲がいい。
そして私はここで、雑用アルバイトとして週に3日ほど働かせてもらっている。
「500枚もあるとさすがに重いな、よいしょー」
箱、とは、この店でお菓子の詰め合わせに使うための化粧箱の事で、今まで問屋さんにある簡素な箱に、店の名前や電話番号をプリンターで印刷したシールを貼って使っていたのだが、先月少し奮発して、店のロゴや模様の入ったオリジナルの化粧箱を作成したのだ。
「トヨ、見て見て。展開図で見ててもよく分かんなかったけど、やっぱ形になるといいもんだ。作ってよかったな。」
早速1枚組み立てて、子どものように嬉しそうにセイジさんは笑う。
決して飛ぶように売れている店ではないけども、こだわりや、お菓子に対する熱意は、たまに驚く時があるくらい、この人はお菓子が好きだ。
多分、それだから、3年前に奥さんが出て行ってしまったんだと思う。周りのみんなもそう思ってるけど、口には出さない。