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ちっぽけな勇気



僕の名前は中里慎也。年は17歳で、普通科高校に通っている。今、僕は登校の真っ最中だ。登校手段は徒歩。時間は早いわけでも遅いわけでもなく、普通だ。

いつもの通学路。遊具がやたら多い公園を通り、24時間営業のコンビニエンスストアを見送れば、裏門に着く。僕はいつもこの裏門から入り、靴箱へ向かう。 耐震工事できれいになった校舎に入り、階段を一階分上れば僕の所属する教室、2年5組が見える。窓際の席に座り、鞄を開ける。 毎朝確認してるから、今日も忘れ物はないに違いない。

さて…そろそろあいつが来るかな。

「おーい!!慎也くぅん!!」

そう。こいつがそのあいつだ。

「やっぱ夏服って最高じゃね!?目を凝らせば余裕で下着見えちゃうよ!?やっぱり、高2にもなると大人な下着つけちゃう子増えるよな!!」

こいつは松田太樹。今の発言で明らかなように、ドがつくほどの変態だ。こいつの悪いところは、その変態ぶりを誰かれ構わず披露してしまうところだ。

「頼むから、もうちょっと声のボリュームを落としてくれないかな。前からの視線が痛いんだ。」

慎也に言われて太樹が前方に目を向けると、そこには冷ややかな目線をおくるショートヘアの少女がいた。

「あんたたち、最低ね。」

「たち!?おい、何で俺も入ってんだよ!」

慌てて慎也は訂正を求めた。

「一緒にいるんだから、同罪よ。」

ふん、とそっぽを向く彼女の名は、田畑舞子。彼女とは小学校の時から度々同じクラスになることがあり、いわゆる幼馴染ってやつだ。しかし、舞子曰く、僕と幼馴染であることがかなり嫌らしい。理由を推測すると僕がへこみそうなので、普段は考えないようにしている。つまり、舞子と僕の間で「幼馴染」は禁句というわけだ。

「よーし席につけー。授業を始めるぞー。」

気が抜けるような先生の合図で全員が席に座る。今日も昨日と同じ。昨日も一昨日と同じ。ずっと…平凡だ。


もう5時をまわっているのに、外はまだ真昼のように明るい。グラウンドで汗をかきながら走る運動部のかけ声と吹奏楽部の楽器の音が聞こえてくる。いつものことだ。

裏門を出ると、いつものコンビニが目に入った。なぜか、甘いものが食べたくなった。

「あんまん…あんまんとか、夏に売ってたっけ。」

そうつぶやきながら、コンビニへ足を進めた。

やっぱ暑いな、とあんまんを買ったことを少し後悔した。特に好きというわけでもないのに…一体このたまにある衝動は何と呼べばいいのだろうか。

そんな答えのない疑問を考えていた時だった。慎也の目に信じられないものが飛びこんできた。

道端に転がる人間を見つけたのだ。

初めての経験に慎也は慌てふためく。なにをしていいか分からず、とりあえずその場で回転した。

さささ、殺人!?いや、事故!?うわあああどうしよう!じじじ、人工呼吸!?あ、息してるか確認しなきゃ!

よろよろと蛇行しながら倒れた人に近づく。慎也は血を見たくないのか、目をギリギリまで細めている。しかし、近づくうちに慎也は妙なことに気がついた。

「え…白…」

倒れていたのは、女の子だった。慎也が驚いたのはその髪の色だった。白を基調とした色に、薄く青みがかっている。

そして慎也は、血が流れていないことを確認すると、ほっと胸をなでおろした。

「あ…あの…」

慎也は恐る恐る少女に話しかける。

「生きて…ますよね…?」

すると、彼女の体がピクリと反応した。

「うおっ!動いた!」

ゆっくりと体を起き上がらせ、目をこすった。

「あ…おはよう…」

透き通るような声。

「お…おはようって…今5時すぎですよ?それに…ここは道路です!寝るところじゃないですよ!」

慎也がそう言うと彼女は、ん?と首を傾げた。

なんなんだ…この人…

慎也は頭を抱えた。

言葉が通じないのかな…?あいや、でもさっきおはようって…日本語覚えたての外国人かな? 服もボロボロだし…ああもうなんなんだよ!

「…」

慎也はその時、視線を感じた。彼女がじっとこちらを見ている。

「なんですか…」

慎也が尋ねても、彼女は答えず、じっと見つめ続けている。やがて慎也は、彼女が自分を見ているわけではないと気づいた。彼女が見ていたのは、先ほど購入したあんまんだった。

「あ…えと…食べかけですけど、いりますか?」

慎也がそう言うと、彼女は目を輝かせて頷いた。もしゃもしゃとあんまんを頬張る少女を見て、慎也は言った。

「あの…名前…教えてくれたら、交番行って伝えときますけど…」

「なまえ…?」

少女は再び首を傾げた。

するとその時、どこからともなく夏虫の声が聞こえた。

「クロロロロ…」

「クロロ? クロロさんですか?」

やっぱり外国人だったんだ、と慎也は思った。

「クロロ…?」

「クロロさん、交番に行きましょう。すぐそこなんで、ちょっと歩けば着きますよ。」

慎也はクロロの手を引いた。細くて、妙に冷たいことは、気にしないことにした。

クロロを交番まで届けた慎也は、警官とクロロに別れを告げ、家に向かった。いつの間にか日は暮れかかっていた。

こういう日もあるもんだな、と慎也は真っ赤な空を見上げてつぶやいた。







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