僕と彼女
僕と彼女の交流の始まりは、どんな風だっただろう。
僕達はこの学校に入って初めて出会った。それまで接点はなかった。これは確かである。
ということはつまり、僕達の関係には始まりがあったはずなのだけれど。少なくとも僕の記憶からはさっぱり抜けてしまったらしい。
関係の始まりは覚えていないが、相手を認識した瞬間なら覚えている。
彼女と初めて喋ったのは、確か四月の終わりだった。
僕は当時、クラスメートの尾根という奴と一緒に下校するようになっていた。
独りぼっちだった僕に声をかけてくれたのが、可哀相だったからなのか向こうも寂しかったからなのかは分からない。
僕は、卒業までずっと一人で登下校というのもありかな、と思っていたのだけど、一緒に帰るのもそれはそれで楽しかった。
そんな尾根が彼女を連れてきた。同じ部活なのだと説明されたと思う、たぶん。
僕と彼女は、初対面なのにとても話が弾んだ。久しぶりに、ただ思ったことそのままに会話をした。
駅に着くころには――僕らは全員、電車通学である――二人の間に尾根が入り込めないくらいに、とても仲良く喋っていた。
なんというか、波長が合っていたのだと思う。僕は彼女以外に初対面でこんなに気負わずに話せた人がいない。だからすごく驚いたし、彼女もすごく驚いた様子だった。
そんな感じで、僕の中では、人生で五指に入るくらいには重要な出会いだったのだけど、残念ながらこの思い出も彼女は覚えていないという。
それが判明したのは、出会ってから二年経ってからだ。
僕も結構他人に対して淡白な方だが、彼女を見たら気のせいな気がしてくる。それほどまでに彼女は対人スキルが足りていない。社交性がないわけではないのだけど……ちょっとそういう面があるのは否定できない。
ま、そんな曖昧な感じで始まった彼女・内戸斐と僕・門地玄陽による日常を、だらだらと綴ってみたいと思う。