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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

BLACK下っ端少年Aの戸惑い

作者: マメ

 

今日の…いや、ここ最近の阿知波さんは不機嫌だった。


眉間にはいつもシワが寄り、ずっと黙っているのが日常になりつつある。

ただでさえ近寄り難いオーラを放っているのに、それが日を増す毎に酷くなっている。少しでも気に障る事をすれば殴られそうだ。


案の定、勝手に一般人から金を巻き上げた奴がシメられていた。


あ~あ、これだから空気読まない奴はダメなんだ。


白坂さんによると、阿知波さんの機嫌が悪いのは惚れてる奴になかなか会えないせいらしい。聞いた時は地球が滅びるかと思った。


あの阿知波さんが本気だと?


どんな女にもなびかなかった阿知波さんだ。相手はよっぽど魅力的なんだろう。


そういえば、たまに携帯を見てニヤニヤしている事があった。

最近は見かけないが、あれもその女からのメールなんだろうか。

阿知波さんを虜にするなんて、どんな女か興味があった。









最近、俺らの間で噂になっている事がある。

それは、BLUEの傘下が襲われているらしいという事。


たまたま街でケンカになっているのを目撃した奴から聞いたのだが、BLUEはその対応に追われているのだろうか。前は頻繁にBLUEとぶつかっていたが、そういえば最近は無いような気がした。






―――



ある日、いつものように溜まり場でたむろしていると突然、下っ端の奴が駆け込んできた。


「大変です!街でBLUEの奴らとケンカになっています…!」


慌てて走ってきたのだろう。息が切れている。


「ああ?ケンカなんていつもの事だろうが。てめえらでなんとかしろ」


阿知波さんはいつものようにあしらった。

この人はどんな事件が起こっても自分の興味の無いものには一切動かない。

阿知波さんらしいと言えばらしいが、総長自ら出て来ないと収まらないものにもなかなか出ないので困ったものである。

なのに人が集まるのは、阿知波さんの実力とカリスマ性の賜物だと思う。


「ですが、かなりの人数で負けそうです…」


「知らねえ。俺は指示してない。お前らが勝手に始めたんだろ?自分でなんとかしろって言っとけ」


「お前…相変わらずだな」


自分のチームが危うくても興味を示さない阿知波さんに、白坂さんが呆れたような顔をした。


「だって興味ねえし。勝手にBLUEに喧嘩ふっかけてソウちゃんに嫌われたらどうすんだ」


ソウちゃん?今ソウちゃんって言った?


阿知波さんがちゃん付けで呼ぶなんて珍しい。バーのマスターである雅宗さん以外には誰に対しても呼び捨てなのに。


ソウちゃんという女が阿知波さんの想い人なんだろうか。


阿知波さんにあしらわれた下っ端に目を向ければ、まだ諦めてはいないようだった。

そんなに言っても阿知波さんは動かないと思うけどな…。


「で、でも、BLUEですよ!?このまま負けてはBLACKの威厳が…」


「威厳とかどうでもいいし。勝手にただのケンカにBLACKの名前を出すな。迷惑なんだよ」


「阿知波さん…」


「もう話は終わりだ。下がれ」


阿知波さんは持っていた携帯に視線を戻してしまった。


「阿知…」


「下がれって言ってるのが聞こえねえのか?消えろ」


感情が消えたその声色に、阿知波さんの限界が来たのが窺える。


あーあ、やっちまったな。


「でも…」


それに気づかない下っ端は、更に何かを言おうとしたが、阿知波さんに胸倉を掴まれてしまった。


「ひっ…」


「てめえ…」


阿知波さんが殴ろうとしたその時、下っ端の携帯が鳴った。


「うるせえな…」


下っ端のポケットに手を突っ込み、阿知波さんは携帯に出てしまった。


「うるせえ…取り込み中だ」


『あ、阿知波さん!?どうして…』


どうやらBLACKのメンバーからのようだ。総長が出るとは思わなかったのだろう。焦った声が聞こえてくる。


「用があるなら後にしろ」


『阿知波さん!お願いです来て下さい!会わせたい奴が…』


「切るぞ」


『待って下さい…!え?なんでだ!?来ねえって言ったじゃねえか!』


電話の向こうでは何やら言い合う声が聞こえてくる。


『阿知波さん大変です!今、BLUEの総長と幹部がこっちに来るって言…』


「行く」


ピッと通話を切り、掴んでいた下っ端を携帯ごと放り投げると、阿知波さんはこう言った。


「場所、どこだ?」












西区と東区の境に行くと、なるほど、確かに乱闘が起こっていた。


「あれはお前らに任せる。俺はあっちに用があるから」


「はい!」


2カ所で騒ぎが起こっているらしく、とりあえず目の前の乱闘から片付けようとすると、阿知波さんと白坂さんの会話が聞こえてきた。


「いたのか?」


「たぶんあっち。気配がする」


「良かったな。俺も後から行く」


「邪魔すんなよ?」


「分かってる」


一体何の会話なのか分からなかった。






騒ぎが収まり、阿知波さん達と合流すると、さっきとは打って変わってかなり機嫌が良さそうだった。


「阿知波さん、何かあったんですか?」


「ああ、まあな」


「愛しのソウちゃんに会えたんだよなあ」


白坂さんがからかっている。


ソウちゃんてさっき言ってたソウちゃん?何でここに?もしかしてソウちゃんはBLUEの奴の女なのか?


っていうか、BLUEの奴は女をケンカの場所に連れてくるような奴なのか?ついてくるソウちゃんもなかなか度胸のある女だが。


だとしても、BLUEと女まで取り合うなんて本当にBLACKとBLUEは相性が悪いんだな。


「…大変なんですね」


「ん?ああ、まあ…確かに大変だなあ…なかなか会ってくれねえし」


「ロミオとジュリエットみたいだよな」


白坂さんが口を添えた。

やっぱりBLUEの女のようだ。











少し歩くと先方に学ラン姿の奴らが数人いるのが見えた。先ほどケンカをしていた奴らだ。1人の男に話し掛けている。


あれは確か、BLUEの総長の望月だ。阿知波さんのライバルでかなり強い。

二人のケンカを何度か見たが、俺達下っ端とはレベルが違った。またやるのだろうか。


「阿知波さ…」


どうします?と声を掛けようとすると、阿知波さんはすでにBLUEの奴らの元へと走っていた。


俺達も慌てて後を追う。


行ってみると、俺の予想とは違って火花は散っていなかった。

それどころか、阿知波さんが望月に抱きつこうとしたような気が…いやいや、まさかな。


しかし、白坂さんが望月に何かを囁くと、望月が顔を赤くしていた。


何が起こってるんだ?

望月とは仲が悪いんじゃなかったのか?


混乱する俺達を余所に、阿知波さんは嬉しそうに望月を抱きしめた。


「なんだあれは…阿知波さん、あんなにスキンシップする人だったか?」


「わかんねえ…」


「いや、確か…BLUEの総長が阿知波さんを虜にしてるって噂があったような…」


「マジか…」


呆気に取られて見ているだけしか出来ない俺達の前で、阿知波さんと望月の攻防戦は続く。

望月は嫌がっているようにしか見えない。


「てめ…、ふざけんなっ」


望月の声がしたと思うと、阿知波さんの腹に蹴りが入れられていた。


「ひぃ…!」


思わず悲鳴を上げてしまう。

阿知波さんに蹴りを入れる事ができるなんて望月くらいのものだが(強さと度胸的な意味で)、あいつ、今度こそ死ぬな…。

他のメンバーからも同じような声が上がる。


「あいつ…殺されるぞ…」


「BLUEの総長なのか?話には聞いていたけどすげえな…」


「つーか、阿知波さんの喋り方…普段と違くないか?あんな阿知波さん初めて見た…」


ぼそぼそと話す声が耳に入ったのか、阿知波さんがドスの聞いた低い声を出した。


「てめえら…余計な事言ったらぶっ殺すぞ…」


「す、すみません!」


思わず謝ってしまった。


その後、阿知波さんは懲りずに望月を構っていたが、再び頭を殴られていた。


「蒼ちゃんのバカ!」


「うるさい」


ん?


今、ソウちゃんて言わなかったか?


「おい…望月の名前、フルネームはなんだっけ?」


隣にいた奴に聞くと、あっさりと答えてくれた。


「蒼だよ。望月蒼」


「蒼…ソウ…ソウちゃん…」


そういえば、さっきもBLUEの総長が来たと聞いたら即座に行くと答えていた。


ソウちゃんに望月蒼。

そしてあの阿知波さんの態度。


頭の中で全てのピースが繋がった。


「嘘だろおおおお…!」


「なんだあ?気持ちわりいな」


ぶつぶつと呟く俺に隣の奴が不審がっている。


まさか本気で阿知波さんは望月に惚れているというのか。


ぐるぐると混乱しているうちに話はまとまったようだ。阿知波さんが白坂さんに指示をしていた。


「そいつら連れて帰って聞いてみる。白坂、逃げないうちに捕まえとけ」


「おい、何がどうなった?」


「お前、ちゃんと聞いとけよ…」


隣の奴に話を聞くと、とんでもない事になっていた。


どうやらこの騒ぎの首謀者は舞という族潰しだという事。


舞はBLACKの名(と阿知波さんのオンナ)を騙り、BLUEの傘下を潰しているという事。


舞が捕まるまではBLACKとBLUEは協力体制を敷くという事。


以上の事が分かった。

向こうで潰れてる奴らが舞に加担したらしい。連れて帰って話を聞くそうだ。


阿知波さんと別れ、白坂さんの後をついて行く。

そっと後ろを振り返ると、阿知波さんが望月を抱きしめ、キスをしていた。


「……!」


望月は抵抗していたが本当だ。本当に阿知波さんは望月を…。


「おい、どうした?」


周りの奴らが心配してくる。


「いや、なんでもない…」


たぶん気づいたのは俺だけだ。こんな事言えるか。


すると、白坂さんが側に寄ってきた。

2人にしか聞こえないような小声でボソッと呟く。


「信じられないだろ?」


「え…」


「黒夜の顔見た?デレデレしちゃって面白いよな」


そう言う白坂さんは本当に楽しそうだ。


「あの、本当に…阿知波さんは望月を…」


「うん、好きで好きでたまらないってさ。愛してるって」


「あ、愛…」


「最近なかなか会えなくてストレス溜まってたみたいでなあ…さっきもちょっと暴走しちゃって」


「はあ…」


「望月のチンコ扱いて怒られてた」


「は!?」


白坂さんは無表情で淡々と語っている。

無表情で話すにしては刺激の強い内容に、思わず心臓跳ね上がってしまう。


「黒夜は嬉しそうだったけどな。あいつMの気もあったんだな」


「あの、2人は付き合って…」


「無いよ。だから、これからはなるべく協力するように。望月がいたらどんな手を使ってでも黒夜に会わせろ」


「はあ…」


「舞に勝手に女気取りされて相当怒ってたからな。望月で鎮めろ」


「鎮めろって…生け贄ですか」


「黒夜も機嫌が良くなるし、BLACKもBLUEも安泰。いい案だろう?」


「そういうもんですか…」


「頼む。俺としても黒夜の恋は成就させたいんだ」


「わかりました…」


まあ、協力するくらいならできるだろう。男同士なのはびっくりしたが。


「まずはあいつらを連れて行こうか」


白坂さんが指を差した方向には、ぐったりと横たわった数人の姿があった。舞とはどういう関係なのだろうか。


「尋問は黒夜がするから、お前らは連れて行くだけでいい。目が覚めるようなら殴って気絶させろ。無駄に体力を使わせるな」


「はい」


阿知波さんが尋問…考えただけで恐ろしい。

以前チームの規則を破った奴が尋問を受けているのを見た事があるが、容赦ない責めと暴力に身も心も震えたものだ。


白坂さんの話だと相当怒っているらしいから、こいつらは生きて帰れるのだろうか。


「まあ、お前らが悪いんだけどなっ、と」


横たわる奴らを運びながら、これから起こる出来事に身を震わせた俺だった。



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