実験316号
私が適当に投稿している小説、「託された魔通師と守った魔通師」(現在改装中で、新しいバージョンがでるはずです)の第二主人公のおおまかな説明をする章です。
採用すべきキャラかを決めるため書いた駄作ですが、好んで頂けるなら、ありがたいです
第二章-実験 316
狭い。それにしても臭い場所だ。なぜなら、ここは死体の匂いがするからだ。現に隣にはモップに刺されて倒れている男がいる。彼は拳銃を右手に持ち、倒れている。息はない。当たり前の事だ。モップは心臓に刺さっているからだ。さあなぜモップが人を刺殺しているのか。その質問を答える為にモップを引き抜く。
表現したくない程の気持ちわるい音と一緒にモップは抜ける。モップの頭の毛をどかす。思った通りだ。モップの毛の中には小さな刃が仕込まれていた。毛をどかせばモップは掃除道具から効果的な手槍へと豹変する。単純、しかし効果的な武器だ。
問題は、その単純で効果的なモップという外見を持った槍に殺されたのは、味方だと言う事だ。金髪。茶色の瞳。背は低く160センチ程。顔立ちはアイルランドっぽい。彼は実験 338だったか?この確認は簡易な事だ。彼のはいているジーンズを膝まで捲り上げる。そして彼のふくらはぎを見る。そこにはうっすらとした三桁の青の数字が見える。確かに338だ。
それ以外に確認すべき事は。まずは火薬の匂い。銃撃戦がやはりあったのか。テーブルが盾のようにして展開されている。テーブルは木製。テーブルは弾丸によりめちゃめちゃにされていない所から想定して、この戦いには突撃銃 や軽機関銃 は使用されていない。壁等を見てみる。弾丸の跡がある。それは色々な事を教えてくれる。勝手な持論だが、環境、空気や景色は人間よりも効果的な教師として機能する。また、それらはより現実性をもった教師とも言えるだろう。人間の教師はいやな事や、自分がつまらないと思う事は飛ばしたり軽視したりする傾向がある。環境等はそのような事実を隠すような事をしない。なにも無視せず全てについてありのままの状態で教えてくれる。
跡が集中したり、複数の跡をつなげると線になったり、等という事がない為、自動火器 も使われていない。つまり、拳銃だけの合法的な銃器での撃ち合いとなったのだ。なら、軍の干渉の可能性はないとは言えずとも、薄いとは言える。
他に見当たる事と言えば、血の跡だ。無論、モップで刺殺された男の周りにはある。床には水分が蒸発して固まったドス黒い血、そしてさっきモップを抜いた事により出た新鮮な赤い血もある。しかし、注目すべき血は刺された男の血ではない。部屋の反対側にある血の跡だ。壁についた、モップで刺殺された血の跡と比べれば相当小規模な血の跡である。これは弾丸にあてられて出た血飛沫だろう。部屋を横断し、実験338の遺体のそばに戻る。そして、彼の右手の拳銃を見つめる。ワルサーP38か。映画の007、第三帝国時代のドイツの秘密警察、ゲシュタポとかが使用している実に古くさい拳銃だ。確か同僚によれば、実験338はカセットで音楽を聴き、電話はダイヤル回転式だったと言う。P38もそのアナログ好きの一環であろう。とにかく、P38のような小口径拳銃ならばこの血の跡と一致する。部屋の反対側に位置していた所から、この血飛沫は338の撃った弾丸と推理するのは妥当だろう。
問題は、そこには血の主がいない。つまり、その撃たれた人間は、移動するだけの体力を使って逃げたか、他の人間(十中八九モップで338を刺殺した人間)にその遺体/負傷体を移動されたか。敵が実験である以上、逃げられたとは思えない。まあ次の部屋を開けて血痕がそこにあれば、逃げた事になるだろう。もし他人に運ばされたのなら、包帯で血がこぼれない位の工夫があるだろう。それに、これで実験338の行方は分かった。後は彼を殺した人間の探索、そして338の任務の受け継ぎだ。奴の死亡が確認されたからには、誰かが任務を継続しなくてはならないからだ。
ガチャ。扉は開き、薄暗い廊下が見える。
ガチャ。なぜかもう一回扉が開いた音が。いや、扉のノブを回した後の音とは少々異なる音だ。
「こいつバッカじゃねえの?丸腰で俺たちに歯向かうなんて」
実験316は何者かに拳銃の銃口を向けられていた。
実験316は長身である。実に背丈はゆうに六フィート(180センチメートル)を超えている。髪はこの薄暗い廊下では分かりにくいが、金髪である。金髪と言っても、彼の髪の色はエレーナのゴールデンブロンドとは違い、薄い、白により近いような、いわゆるプラチナブロンドである。少々曲がっている、ミディアムである。目の色はこの薄暗さでは識別不能であるが、透き通った青である。長身、プラチナブロンド、透き通った青い瞳。「これぞアーリア人種だ!」のようなポスターを誰かが作りたがっていたとしたら、絶対に採用されそうな、アーリア人の特徴を三点揃えた人間である。
それ以外にもアーリア民族が最高だと思う人間が彼のような人間をポスターに採用したいような特徴はある。まず、肩幅が広い。余談だが、これも実に多くのアーリア人が持つ特徴だ。ガッチリとしている。また、鷹のような細く、鋭い、目つき。その目つきに見据えられるだけでグサリと刺されそうだ。
その彼が着ているのは、漆黒のトレンチコート。彼のガッチリとした肩に華麗に乗っかって、彼はそれを上手く着こなしている。靴もこれまた漆黒である。また、手には黒いグローブを付けている。指先だけが覆われていないタイプである。これは、銃器の引き金 を引くには、グローブは邪魔であるからである。この長身の男は、全身を漆黒で埋め尽くしている、という訳ではない。全てを闇に隠したようなこの男は、一つだけ光る所がある。彼のプラチナブロンドの髪である。全てが漆黒に埋め尽くされている分、そこがより強調され、闇の中にある唯一の希望の光、と言うかのように、そこだけが明るく見える。最後に、そこに黒淵 の眼鏡である。
これら全てを要約して、彼の姿はそれだけで十分威圧感を与えるものである、ということである。
背の低い、ジーンズにTシャツの格好をした338とは大違いの格好、そして体格の男である。
さて、この大男に向かう者達についてだ。
彼らは、プロエリウム(ラテン語で戦場)と言う名の魔術組織 のいわゆるザコである。しかし、これは一般的なRPGゲームではない。現実では武器を持った複数の人間に丸腰の英雄が一人お互いに対峙した所、殆どの可能性で英雄はフルボッコにされ、抹殺される。これは例え実験であっても、だ。実にそれをこの任務の前任であった実験338が殉死する事によって実証している。
彼らは総勢四人である。ザコであるからか、服装はバラバラである。一人は実験338のようにジーンズにTシャツの格好。だが背がもう少し高い。もう一人は青い作業服を着ている、中年の男。彼が実験316を侮辱した人間である。三人目は若い女性。十一月にしては非常に短いジーパンをはいている。拳銃を実際に316に向けているのは彼女だ。最後には黒のスェットシャツを着た男である。
まとめて、連中は彼らが住んでいるニューヨーク・シティにいる一般人の服装を着ている、という事になる。
四人は紹介した順にG 17拳銃、特殊警棒、コルト1911 拳銃、日本刀というあまり見かけない装備である。G17に特殊警棒は警察の武器、1911 は軍用である事が多く、日本刀に至っては完全に入手ルートが謎である。こんなものを手に入れるには、もしかして政府、または軍の干渉があるのか?と実験316は考える。あの部屋の状況を見てそれはないと思うのだが…やはり魔通師の集団というものは、こういう特殊な武器を用いるのか?
四人は彼を壁に押し寄せる。そして、再度中年の男が口を開く。
「今すぐここでこの拳銃 でド頭ブチ抜かれてえか、おめえと前任のタイグがどっから来たかを教えるんだなあ!」
残りの三人はタイグと言う、アイルランド人に向けての失礼極まりないこの言葉にクスクス、と笑う。
「答えろよ」
返答を早くさせる為か、女が1911を実験316に突きつける。
返答の代わりに、実験316は溜め息をつく。こんな状況は実験である以上、もう慣れっこだ。しかし、このような状況で殺されるか、それとも相手を殺すかが実験の中でも無能な奴か、優秀な者であるかの違いを作り上げる。
実験316はこのような状況にはまった時いつもするように、状況を分析する。
敵は四人。こちらは、いつも通り一人。その方がいい。他に味方がいても、そいつが誰かを相手してくれると計算して戦って、そいつがやられ、すなわちそいつが相手していた奴は生き延び、そいつの攻撃でこっちが不意打ちに遭う、なんていう状況は欲しくないからだ。全てを自分の責任下に置く事で、そのような無謀な配慮はない。
武器は拳銃二丁、警棒一本に日本刀一振り。こちらにはツヴァイハンダーと言う名の、短くても180センチメートルはある超長身剣を背中に一振り。そして、二次武器 として砂漠の大鷲 マグナム拳銃一丁。しかし、これらに出番はなさそうだ。なぜなら、ツヴァイハンダーは背中に収納中で、壁に押された状態である。また、砂漠の大鷲は引き抜き、狙い、やっと引き金を指で引く頃には敵方に撃たれているだろう。
こう考えている間にも、実に敵方は武器をすぐ使えるように抜いてある。さあどうする?
こうすればいい。まずは1911を持った女に蹴りを入れる。ザコなら不注意だし、こちらが実験である事から、彼女が引き金を引っ張る前にこっちの蹴りが先に入るだろう。拳銃は多分その蹴りの痛みから落とすだろう。次はあの日本刀だ。あれを奪おう。これは肘で黒のスェットシャツの顔か鳩尾 を当てて隙を作って奪えばいい。次はG17を持った338のような格好をした男。突然の予想外の行動に驚いた相手は、少しは驚いているのに忙しくて何もしないが、ここまでの時間が経過すれば、何かしらの行動に移るだろう。このシナリオの場合、それは銃を撃つ事だ。そうすると、自然に日本刀を持った男を撃つ肘は左腕の肘となる。左腕の肘でやれば、銃を撃つ男をしっかりと見据えられる上、刀を奪った後すぐに相手を斬りつける事ができる。斬るのは相手の利き腕、つまり銃を持った手の腕だ。今確認する限り、右手に持っている。次は警棒を持った、作業服を着た男だ。こいつを斬る。方法、また狙う場所は警棒が攻撃する時に描かれる弧に当たらない角度からだ。なぜなら、まだあの女が残っている。蹴りを入れた程度ならば、たとえ実験の強化された蹴りでも数秒怯む程度で終わる。要するに、ただの時間稼ぎだ。稼いだ時間を無駄にしてはならない。この女は殺しを狙う。とにかく首か胴(胴の場合は心臓辺りがよい)を斬りつける。他の敵がまともに抵抗できない状態に至っているから時間をかけて攻撃できる。ザコは生かしても一銭も特はない。なら殺すだけだ。これは相手に恐怖心を与えるという追加効果もある。残りの三人はそう苦労せずとも始末できる。士気と武器のないザコなんぞ何人いようと怖くはない。
シミュレーションは終わりだ。後は実行に移すだけ。
彼はまず、かけていた眼鏡をゆっくりと外す。なぜなら、彼は戦闘中この眼鏡を必要としないからだ。そして、それを着ているトレンチコートの巨大なポケットに入れる。元々短機関銃 等を入れるポケットだ。眼鏡は楽々に入る。
そして始まった。
「ぐふっ!」
女が蹴られた時の反応だ。
「どはっ!」
スェットシャツの男の顎がグキッ、とも言う。
「てめぇふざけやが-」
G17を両手に構えようとしながらそう言った男は日本刀の描く剣閃、血飛沫とともに、黙る。斬りは片手で行われた上、浅くしか斬っていたかったので、致命傷ではないが、戦闘不能にはなった。
「うおおおお!!」
中年の男が特殊警棒を右手に実験316に突撃する。警棒は頭上に高く振り上げられている所から下へと警棒を彼に叩き付けようとしている。それに当たらぬよう、膝を軽く斬りつける。
「ぎゃああ!」
男は大きな叫び声を出し、警棒を落とす。
実験316はそんな彼を無視し、季節外れの短いジーンズを穿いた女へと向かう。女は自分の1911 を片手で持ち、手を震えわせながら316の方へと銃口を向ける。そして彼女は彼の目つきを見る。その目は、これが女だからと慈悲を与えてやろう、なんて目つきではない。女だからどうした、という冷酷そのものを表す目つきだ。彼からすれば、銃器で人を容赦なく脅迫し、そのまま放っておいたら人を撃ち殺す人間等女ではない。ただの、カスという第三の穢れた 性別の人間だ。
彼女は弾を一発撃つ余裕を持っていた。そして実際に発砲した。しかし、それは実験316ではなく、壁に命中する。そして、彼女は斬首された。残った三人の男はその光景を見て同時に、
「ひゃあああああああ!!!」
と大声を叫ぶ。
実験316は残りの三人を見つめる。両手に日本刀を持った状態で、三人に立ち寄る。彼は無慈悲にもう斬られていた男二人から斬り殺す。一人は肩から斜め下にバッサリと。もう一人は心臓を一突きで。完全な精度で、非常に効率的な上、刀の刃を最も痛めつけないようにそれらの行為は行われた。様々な武器での訓練、武器や物理学等等の多量の知識、そして実験である彼だからこそできた事だ。
「止まれ!やめねえと、こ、こいつをぶっ放してやるんだからな!!」
316がプロエリア組織の下級兵三人の命を奪う為に使った、日本刀の持ち主であった男が叫ぶ。彼はこの乱闘のさなかに、どうにかG17拳銃を取ったらしい。316は彼の方へと向く。
向けられた無表情の顔に男はG17向ける。両手で構えた上に、照準 を除いた状態で。316はそれを見て、たった三メートル程の距離だと言うのに、律儀に照準を覗く彼を哀れに思う。そして、彼は無表情のまま男の方へと一歩向かう。
「止まれって言っただろーーーーがああああああ!!!」
ダン!
威勢の良さそうな音がまず出る。そして、おおよそ秒速三百メートルという速度でG17に装鎮された弾は威勢良く風を切りながら316の顔面へと飛ぶ。無論、約三メートルの標的を狙った秒速三百メートルの弾丸が風を切る所を見る、またはその音を聞く事等不可能である。小学四年生ならできる単純な割り算を解くと、この状況ではG17の弾丸は実験316の脳天に実に〇・〇一秒で辿り着き、彼を抹殺するのだから。
カキィン!という音がダンの直後、廊下中に響く。
それは弾が何らかの金属から跳ねた、と言う事を説明する音である。
男は316が無事である事に驚愕する。そして、彼を再度見つめる。彼は対テロ用盾 等持っていない。彼の顔面は何にも覆われていない。ただ、あの光るようなホワイトブロンドの髪があるだけだ。ま、まさか魔法か!?い、いや、百分の一秒で発動できる魔法等俺は知らない。
大体魔法があるのに、魔法の存在を知っていて使える人間が未だに機関銃 を持っていて使うのは、魔法が鈍足だからだ。魔通師は危険を冒して時間のかかる魔法を使うか、そのまま手に持った銃や剣を使うか、と戦闘しなければならない状況の度に悩むのである。まるで近世の指揮官のいないマスケット銃を使う一兵卒 が、銃に弾を込めて撃つか、銃剣を装剣して攻撃するか、と悩むような状況に酷似した状況である。
まさかあらかじめ弾丸を跳ね返すような魔法を戦闘前に発動していたからか?いや、この建物の中にいる限り、魔法を発動したら即警報が鳴る筈だ。
ならば、なんだって言うんだ!?男は考え込みながら恐怖に浸食されていく。そういえば、あの音は弾が金属から跳ねた音だった。奴の周りにあって、瞬時に自分を守る為に使えた金属と言えば…!
男は、元々は自分の所有物であった日本刀を見る。これ以外に奴が使えた金属はない!
「ま、まさかその刀で弾を弾いた、なんてオチじゃねえよなあ…はっ、ハハハ」
男は316の顔を見て訊く。
そこで彼は気が付いた。彼の顔の異変についてである。無表情、冷酷、無慈悲のどれかしか見せなかったあの顔が、小さな、怪しい笑みを浮かべていた。
そして、実験316は初めて口を利く。
「御名答」
彼の声は若者の声であった。青年の平均的な声より、僅かに高めである。いままで一言も言わなかった彼が何かを言ったので、男は少し慌てる。
「ば、バカな…日本 のマンガじゃあるまいし、こ、これは現実だよな?」
男は訊く。316はゆっくりと頷く。
「…そうだな」
316は口をまた開け、喋る。
「俺は教師を目指していた事があってな」
男はいきなり話しの内容が変わったと思い、少し顔を顰める。
「この奇怪現象について教えて、いや答えへと導いてやろう。優秀な教師は答えを教えはしない。少なくとも最後の一部分は生徒に考えさせるもんだ。そうだな。この建物に張ってある魔法結界、それは『能力魔法』には反応するのかい?」
「…あ!」
男は因数分解に苦労している所を、ちょっとした全てを明解にするヒントを得た生徒のような表情を表す。
「なら、おめえは弾丸を無効にする能力魔法を持った…」
「いや、それは違うな。余談だが、俺の事をできたら『おめえ』でなく『先生』と呼んでくれたまえ」
「じ、じゃあどうやってやったんだ?せ、先生」
316の事を先生と呼ぶ事に少々躊躇しながら男は訊く。
「本来なら、もう少し時間をかけて、自分で考えて欲しいんだが、まあ俺もあんまり時間がないんでね。しょうがない。答えを教えてやろう。まず、俺は実験 だ。説明してはならない機密事項だから、詳しい事には俺は触れない事にする。ただ、実験ってのは、ようするにスーパーマン程ではないが、凡人に比べればより秀でた身体能力を持った人間だ。要するに、体が凡人の平均以上に柔軟、強力、俊敏だったりして、知能指数 が160位ある、ってもんだ。で、」
ここで316は一秒程の間を置く。彼は恐怖で座り込んでしまった男を見つめる。彼は未だにG17を316に向けている。それに比べて316は、刀はまだ手に持っているもの、力は完全に抜いてある。
「俺の能力魔法はなあ。全てが座標のようにして見えるんだよ。例えば、お前の左目の中心は大体80センチメートル先の、6、マイナス3、にあるんだよ。また、これまた便利な事に動いているものに反応して、その座標を教えてくれる、って親切な機能があってねえ」
実験316はここで少し笑う。
「この二つを応用すると、約〇・〇一秒以下で小さな弾丸の弾道の計算をして、器用な自分の腕の筋肉が日本刀を弾道へと動かして弾丸を刀で跳ね返す、って芸当ができる訳だ」
まさか、そんなクソありえっか、と言わん顔で男は316を見つめる。
「おっと。勘違いするなよ。これらの能力を持っていたら、誰でも弾丸を跳ね返せる訳じゃない。これは、多量の経験と実践で得た俺の、言わば『一発芸』だ。俺が自分について自慢できる数少ない事の一つさ。」
なら、これで奴をやるのは無理にちげぇねえな。男はG17拳銃を降ろす。
「…でだ。俺はお前なんかとずっと相手をしている暇はない。これでも喰らって寝てな」
ガチャリ、という音と共に、漆黒の拳銃を316は取り出す。砂漠の大鷲だ。男は更なる恐怖に自分が浸食されてゆく事に嫌々ながら気が付く。
「おい『先生』、せ、『生徒』に砂漠の大鷲 を向けるのか?そんな奴は、せ、先生失格だろ」
「確かにそれはそうだな。でも言っただろ。俺は教師になる夢を持っていた、教師でもないし、教師だった訳でもない。さっき言っただろ、俺は自分について自慢できる事は数少ないと。大体、俺みたいなカスは教師になる資格がない。だから俺は撃つぜ」
男は生き残ろうという努力を断念し、床を見つめる。
「ほら。殺よ(やれよ)。どうせ俺にゃあ勝ち目はねえ」
「言っておくが、俺が寝てろ、って言ったときは、いわゆる『永眠』って奴を指している訳じゃないぜ?まあ痛いけどな」
黒の銃口が彼の頭でなく、肩辺りを見つめる。その事実にまたにしても男は驚く。
「俺の持論だが、『能ある鷹は爪を引き抜いて見せつけろ』。お前をここで殺して謎の人物の仕業にするよりは、お前を見つけた仲間にお前が俺について喋ってくれた方がいい。またこれは俺の持論だが、恐怖は最強の伝染病だからだ。って訳でな。またどこかで会おうか」
ざけんじゃねえ、誰がおめえみたいなクソにまた会いてぇかよ!クソったれが!なんて男が考えている間に、
ズガン!
G17の銃声とは比べ物にならない怒声を砂漠の大鷲 が発声する。それは、大鷲が飛んでいる時に発声する音、にも聞こえた。とにかく、獲物を完全に恐怖に陥れるという所では、二つの音は全く同じ機能を備えていた。
グキッ、という肩の骨が砂漠の大鷲特有の・50AE弾によって粉砕される音が聞こえ、血が飛ぶ。座り込んでいた彼の体は弾丸の速度によって倒れる。具体的には左肩に弾丸が当たった為、横に倒れた。
致命傷でない銃撃を行った後、実験316は去ってしまった。実験338の死についての更なる調査と、プロエリア組織についての調査の為に。
崩壊している本家小説を読んだ方、ありがとうございます。
崩壊を修復すべき色々といま修復しているので待って頂けるとありがたいです