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ヘタレ魔法使い 4  世界一の大図書館

 あの騒動のあと、私は何の問題もなく目的地であるグレイリッジ図書館に辿り着くことが出来た。

 気になっていた視線は現場を離れるにつれて薄くなっていったから、多分問題ないと思う。


「これが……、図書館……!」


 大きい。ここに来るまで他にも大きな建物を見てきたけれど、明らかにこの図書館の方が大きい。これだけ大きかったら本を何冊置いておけるんだろう。一万……とか、十万。いやもっとかな……?

 期待で胸を膨らませながら図書館に入る。すると入った途端静かになった。純粋に驚いた。まるでここだけ切り取られた別空間のようだ。


「も、申し訳御座いません。少々お待ち願えませんでしょうか?」


 さらに奥に進んでいこうとした私に女の人の声がかかる。なんだろうと思いながら、私は女の人のところに戻った。


「この図書館をご利用なさるのは初めての方ですよね?」


「あ、はい。そうです」


「ではカードをお作り致しますのでお手を宜しいでしょうか」


「……カード?」


 水晶を女の人に差し出される。何かよく分からないけど、これに手を翳せばいいんだって。

 それにしてもこの透明度はすごい。村長も結構透明度が高めの水晶を持っていたけど、年代物らしくて所々傷が入っていたんだよね。だから新品のような輝きを放つ水晶を見るのはこれが初めて。綺麗だなー。


 言われた通り手を翳せば、カードはすぐに出来上がった。だけど女の人の様子が少しおかしい。な、何かしましたか私。もしかして傷入れちゃった?!


「貴方は……魔法使いの方でいらっしゃいますか?」


「え、そうですけど……。それがどうかしましたか?」


 私が質問に答えると、女の人は信じられないと言う様に私を見た。何がどうなっているのか私にはよく分からない。

 そして不意に村にあった書庫を思い出した。私の村では本は村長が管理している。魔法陣の書き方とか貸し出してくれないから、よく籠って勉強したっけ。


「あの、ここは貸し出しってしていますか?」


 女の人ははっとしたような表情になり、どこかに連絡を取って、すぐに答えてくれた。


「本来ならば原則として本の貸し出しは禁止しているのですが、魔法使いの方は特例として許可が出ています。

何か借りたい本が御座いましたらどうぞご遠慮なく。ただし、借りた本は一月が経つまでに返すこと。国外へ持ち出さないこと。この二つだけはお守り下さい」


「分かりました」


 図書館って貸し出し禁止が普通なのかな……。まあ、借りれるみたいだからいいけど。

 そういえば女の人、『魔法使いは特例』って言ってたな。特例って特別って事だよね。なにがどうして特別になったのかは知らないけど。

 女の人にお礼を言ってから、私は奥に進んだ。

 しばらく進んで大きな扉を見つけ、それを開けるとそこには衝撃的な光景が広がっていた。


「うわ、すごい……」


 村長の書庫なんて比じゃない。むしろ比べたらいけない気がする。

 そしてもう一つ驚いたのは、この場所の静けさ。さっきのところも静かだったけどね。私の遠慮がちな小声ですら響いている。こ、怖いなこれは。

 泥棒じゃないけど、抜き足差し足でその場から移動する。何とも怪しい動きになっていると思うけど、もう一度言います。泥棒じゃないです。

 ウロウロとあちこちの本棚を歩き回って、ようやくそれらしい本を見つける。その名も『魔物☆魔獣図鑑』。なんで星を入れたのかは分からないけど、触れないことにした。

 早速、近くの机に移動して図鑑を読み進めてみる。……だけど。


(ぜんっぜん分からない……)


 何この魔物。へえ、花の魔物? 弱点は火属性? 花だからそうだろうね。

 ……弱点とか、名前とか、覚えられない……! 確か国外への持ち出しは禁止だったっけ。だとしたら写し……。分厚すぎてやる気出ないよ、これは。


(どうしようかな)


 図鑑を押さえこんでいた手を頭の後ろに回して、一息つく。元々勉強は苦手です。……言い訳じゃないですよ?

 押さえこむものがなくなり、パラパラと勝手にめくれていく図鑑。それをぼんやりと見つめていると、見たことのある絵が見え、消えた。

 急いでめくり直し、その絵を見つける。


(これ、あの時の魔獣だ……)


 私が成人の儀の日にばったり遭遇した犬の魔獣がそこには描いてあった。だけど、私が見た魔獣と違う。私が見たのは毛を逆立てて、目をギラギラと光らせていた。こんなに子犬みたいな可愛さを持ったものじゃなかった。くそう、可愛いな。


「どうして……」


 突然、辺りがざわめき始める。それを無視して考え込みたかったが、生憎頭が騒動を気にし始めていてそれどころじゃない。……また覚えているときに、考えよう。

 ざわめきの原因は何だろうと辺りを見回して、すぐに見つける。男の人の前で、何かが燃えているのだ。少し遠くて何が燃えているのかは分からない。


「しょっ、消火しないと……!」


 「水」と唱えて私の右手の上に、握りこぶし程の水の球を浮かべる。そしてそのまま火に向かって放つ……。が、何をどう間違えたのか火をつけたであろう男の人にぶつけてしまった。……うわっ、なにしてんの私!!


「あ、謝らないと……」


 左脇に『魔物☆魔獣図鑑』を抱え、右手に杖を握り、私は男の人に向かって走り出した。

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