表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/29

ヘタレ魔法使い 2  親切な人

自分で言うのもあれですけど、最初からヘタレついてるって相当ですよね。

(エン)……と、(スイ)……と、(ライ)……。うん? 三個だけだったっけ」


 小さい時に貰った、手乗りサイズの赤い表表紙の手帳を、雑にめくりながら確認する。私の誕生日プレゼントか何かで貰ったこの手帳には、使えるようになった魔法が書き留めてある。最近は新しいものは覚えてなかったから、ページをめくるのは随分と久々になる。ペンも取り出してみたけど、必要なかったみたいだ。

 ちなみに今私がいるのは、森を抜けてまあまあの時間をかけて着いた小さな町だ。町と言うほど大きくはないけど、村と言うほど小さくはない。まあまあだ。


 それはさておき、今私は挑戦していることがある。


「焔。で、これをこうやって……」


 魔力を杖に集め、放出する。放出をストップせずに弓の形を造ろうと杖を動かすが、あともう少しというところで焔は空に溶け、消えてしまった。


「ああ、やっぱり出来なかった……」


 これは最近挑戦しているんだけど、さっぱりと言っていいほど出来ていない。造形魔法、といえば一番分かりやすいと思う。

 実はこの魔法、意外と簡単にできる魔法らしいんだ。だけどコツを掴むのにとても時間がかかるんだ。いや、私が弱いからかもしれないんだけど……。

 私にはどうしようもない問題だよ。これからの旅は楽できなさそう。まあそれが旅の醍醐味とかいうものなんだろうけど。


「敵は……、魔物と魔獣か。弱点とか、分かればいいのになぁ」


 敵の額とかどこかに『私の弱点はどこどこです』とか書いてあればいいのに。あるいは『弱点見えます!』みたいな感じの魔法か能力が欲しいな。

 私の能力と言ったら魔力を感じ取るくらい。実際今まで役に立ったためしがないんだよね、これ。魔物とか魔獣の察知に使えた気もするけど、森にはあまり行かなかったから。


「……ん、書いてある?」


 そうだ。敵に書いていなくても、違うものになら書いてあるかもしれない。つまり、本。

 だけどそんな本、どこにあるんだろう。もう少しちゃんと勉強しとけば良かったな。


「あ、人に聞いてみよ。すいませーん」


 小さいときお母さんから言われた。分からないことは何でも人に聞いた方がいいって。

 今私は道の端に設置されているベンチに座っている。丁度ベンチの前を通った男の人に声をかけてみた。

 ……あ、迷惑だったかも。しまったな、そのことは考えてなかった。


「何か用かな?」


 男の人が振り返り、私に声をかけてくれた。迷惑じゃ、ないのかな。ならいいんだけど。

 男の人は長身で、しかも細身だ。自然と私と話すときは、見下ろさないといけないんだけど……。


(中腰になることはなくない?)


 この人は私を子供として扱っているのだ。

 そりゃあね、背も低いし、昨日成人したばっかだよ。だけどさ、それは失礼ってものがあると思う! あえて口に出さないところとか!

 いろいろ言いたかったけど、口論したいわけじゃないから放置することにしました。めんどくさいんです。


「えっと、魔物とかについて学びたいんですけど、そういう本ってあったりしますか?」


「うーん……。少なくとも、この町にはないよ」


「そうですか」


 この町にはない、か。だとしたらどこに行けばあるんだろう。地理は勉強の中でも一番苦手なんだよな。勉強しなかっただけだけど。


「でもアガリスっていう街のグレイリッジ図書館ならあるかもしれないよ」


「としょ、かん?」


「君は知らない? 本がたくさん置いてある場所だよ」


 接する態度が子供に向けての態度があれだけど、おかげで説明とか丁寧です。うん、放置確定!


「ところで君はどこの子? 送って行っ、」


「あ、大丈夫です! ありがとうございました!」


 とりあえず彼の中では私は子供ということだから、更に面倒なことにならないうちにここを離れることにした。

だけど、そんな私を男の人は呼びとめた。


「本当に一人で行くならこれを持っていくといいよ」


「……地図?」


「この世界全体の地図だよ。街がどこにあるかが分かる」


 最近人から物を貰うことが多い気がする。昨日は村長から巻物貰ったし。

 貰った地図を見てみると、すごく見やすい。あ、今いる場所も書いてある。


(……あれ)


 私の出身地のリカイン村がない。森は書いてあるのに、村だけがない。何でないんだろう。

 考えようと思ったけど、全く何も思いつかなかったから諦めた。難しいことはあんまり得意じゃないんです。


「……あ、ありがとうございました」


「いや、大丈夫だよ。僕に出来そうなことはこれくらいしかないし」


 はは、と照れくさそうに笑う男の人。なんで照れくさいのかは分からないけど。

 そして不意に何か大事なことを思い出したような表情になり、きょろりと辺りを見回した。


「あっ、ごめんね。約束があるから失礼するよ」


「ありがとうございました」


 慌てた様子でばたばたと駆けて行った男の人に、もう一度お礼を言っておく。届いたかどうかはわからない。

 そういえば男の人の名前聞いてなかったな。……もう会わないだろうから、いいかな。知らなくてもいいよね、多分。


「アガリス……。あ、ここだ」


 改めて地図を見ると、すぐに見つけることができた。大国なのかな。

 ここから行ってみたら少し時間はかかるけど、いい情報は得ることができるかもしれない。


「どこかでフリュウと合流できたらいいのになぁ」


 そうしたら少しは楽になりそうなのに。そんなことを思いながら私はその町を後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ