ヘタレ魔法使い 13 エントリー
やってきました、シュトライト国バロッツァ!
あれから私とフリュウは馬車を使ってこの国へとやってきた。どっちもここには来たことがなかったから転移魔法は使えなかったんだよね。
本当はフリュウが来たことがあるかも、と思っていたんだけども、よくよく考えてみたらフリュウはずっと大図書館にいたっていうね。まあこればかりは仕方ない。
「さーて、そんじゃ俺は宿取ってくるから」
「えっ、もしかして別行動なの?」
「え? そうじゃないのか?」
お互い、きょとん。あれ、まったく意思疎通ができてない。
どうやらフリュウは先に私を大会のエントリーに行かせようと思っていたみたい。確かに日数を考えれば結構ギリギリだけど……そこまでする必要はないような気がする。
でもだからと言ってどっちも後回しに出来るようなことじゃないし……。やっぱりここは別行動するしかないのかな。
「それじゃ、はいこれ」
「……これ何?」
突然フリュウから小さな水晶玉を渡されて困惑するしかない私。大図書館で見た水晶玉と同じくらい純度が高いけれど、大きさは二回りくらい小さい。比較的手が小さい私でもきちんと握れるサイズだ。
何に使うものなんだろう。大図書館にあった水晶玉は物を生成するタイプ(あの場合はカード)のものだったけど、これは違うみたいだし……。魔力を流すと何かが起きる、みたいな感じかな。水晶玉に微かにフリュウの魔力を感じるし。
『あー、あー。テステス。えー、聞こえるかな、ナミネ』
「っフリュウ?」
『おう、俺だ』
頭の中に直接フリュウの声が流れ込んできた。
フリュウの方に視線を向けてみても、口を開いたような様子はない。えっ、どうやったの?
「……あっ、水晶玉?」
『当たり。なかなか便利だろ?』
ふと水晶玉に視線を戻すと、仄かに明かりを放ちフリュウの魔力が少し増していた。
つまりこれは連絡手段になる水晶玉っていうことかな。予めお互いの魔力を入れておいて使う時に自分の魔力を流すことで相手に反応させているのだろう。ただこれって切り替えの仕方はどうやるんだろう。私だったら流す魔力先は変えられそうだけど。
「相手を変えたくなったら、思いながら流せば大抵水晶玉のほうで勝手に変更してくれる」
「へえ、便利だね……」
「それじゃ宿を取ったら連絡するから、そっちもちゃんとエントリーしてこいよ」
「うん、分かった」
気を付けろよー、と言いながらフリュウは雑踏に消えて行った。行動速いなあ……。
さてフリュウから大体この街の説明についてはさっき聞いたからきっと迷わないはず! それに向こうにそれらしい建物が見えてるから全く問題ないはず。それで失敗したのが大図書館だったね、そうでした……。
こ、今回はリベンジだよ。今回こそは絶対に迷わないっ。
………
無事に会場に到着! よかった、辿りつけて……。
と言っても会場内も相当に広い。外と違って人の波がごった返しているし、揉みくちゃにされないように気を付けないと。下手をしたら持ち物も掏られちゃうかもしれないし。
建物は入ってそのまま真っ直ぐのところに受付があって、そこから二手に分かれるように右側に魔導大会の会場、左側に武道大会の会場へ向かうための通路がある。
つまり受付はみんな共通という訳で。あちこちから魔力を感じておっかなびっくり状態の私ですよ。
「……あれ?」
今、見たことある人がちらっと見えたような気がしたんだけど……。気のせいかな。私の村の外での知り合いって言ったらジャンさんしかいないし、ジャンさんがここに来ているかどうかは分からないしね。話しかけてみて別人でした、っていうのは恥ずかしい。
もう一度辺りを見回してみても先程の人影は見えそうにない。その場に立っていても邪魔にしかならないので探すのを諦めて受付の人がいる方へ歩き出す。それにしたって前に進みづらいなあ……。
しばらく人混みと格闘してようやく私は最前列、受付まで辿り着いた。大変だった。
「あのー、魔導大会に参加したいんですけど」
「あっ……、申し訳ございません、未成年の方のご出場はお断りしていまして……」
すごく申し訳なさそうに眉を八の字に下げる受付のお姉さん。すごく美人だなー、ってそうじゃなくて!
私は成人しているんです! つい最近なったばかりだけど! 確かにちょっと身長低いし童顔だねって言われる事も多いけど! なんでこう間違われるかな……。成人してますって看板でも提げていたほうが良いわけ?
「私っ、成人しています!」
「も、申し訳ありません! え、エントリーですね!」
焦った様子でお姉さんは対応を始めた。納得してくれたらいいんです。
それから名前を聞かれたのでそれに応じ、お姉さんは何かの端末をカタカタと操作して私に黄色の腕章を手渡してくれた。特に凝った模様は見られないけど……。何か意味があるのかな。
「これは魔導大会参加者に配られる腕章です。これがない場合、参加資格を持たないと見なしますのでご注意ください」
「えっと、じゃああの赤い腕章をしている人は?」
「あちらの方々は武道大会にエントリーされた方々ですね」
どうやら色で区別をしているみたい。どちらも目立つ色だから見分けるにはぴったりなんだと思う。
それにしてもこれがないと駄目って……なくさないようにしないと。早速ポーチの中に大切に仕舞いこむ。大会開始は明日からのはずだから、身に着けるのは明日からかな。
明日から戦いが始まるのかあ……と考えていたらちょっと恐ろしくなった。わ、私は一回戦オチしちゃうのかな……。いや、せめて一回戦だけでも突破したい!
控えめな決心を抱きながらお姉さんと別れる。うー、なんかいきなり緊張してきた。
「……ん?」
一瞬、禍々しい魔力を感じたけど、すぐに引いていった。今の、気のせいって思いたいけどなんだったの? 今までに感じたことがない悪意溢れる魔力。こんな魔力を持ち合わせている人がいるなんて、正直知りたくなかった。
今感じた魔力を持っている人が誰なのか知りたい。危険に思える、ただの好奇心で私は会場内をきょろきょろと見回しながら歩き回る。周りの人から迷惑そうに見られ、時々謝りながら歩く。
やっぱり気のせいだったのかな? これ以上探してもなんだか見つからない気がするし……、でもまだ探していたい気もするんだよね。むむむ、と呻りながら歩いているとポーチの中から温かい魔力が流れてきた。
『あー、テステス。聞こえるか、ナミネー』
「フリュウ? 宿は見つかったの?」
『バッチリ。ちょっと会場から離れてるけど……悪いな』
「見つけてくれただけありがたいよ。私もエントリー終わったよ」
『お疲れ。んじゃ、ナミネが迷うといけないから迎えに行くな』
「……子ども扱いしないでよ」
魔力の流れが収まり、自然に会話も終わった。
フリュウって案外過保護だったりするの? 私は成人しているんだからそこまで心配しなくてもいいのに、そんなに信用ないのかな。確かに方向音痴っていうのはあるけどさー……。
不貞腐れながら歩いていると男の人とぶつかった。し、しまった、下を見て歩くんじゃなかった! 男の人は気にした様子もなくそのまま進んでいったけど、私が問題だ! このままだと私倒れる! 受け身とかできないよ私!
腕を振り回してなんとか体勢を立て直したいところだけど、こんなに人が溢れているところでそんなことしたら逆に迷惑だし。あ、これ倒れるね。倒れちゃうね。
「ちゃんと前を向いて歩け」
「え?」
聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、私は誰かに支えられていた。
斜めに傾いていた私の身体をゆっくり縦に戻してくれて、それから離れる。お礼を言おうとその人の顔を確認して、私は驚いた。
「あ……、お久しぶりです、ジャンさん」
少し前に私の護衛を引き受けてくれたジャンさんが、そこにいた。




