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ヘタレ魔法使い 12 買い物

「――」


 不意に感じた、空気が軽くなるような感じ。上手く言い表せないけど、何かが移転魔法で移動したということだけは分かった。前に一度だけ転移魔法を近くで見て、感じたことがあるからだ。

 足を止めて感じた気配の方向に視線を向けてみると、住宅地のほうであることが分かった。人が転移した割には大きく感じたし……、もしかしたら建物ごと転移したのかもしれない。


「ナミネ、どうした?」


 私が足を止めたことに気付いたのか、少し前を歩いていたフリュウが戻ってきた。

 なんだか悪いことをしてしまったなと思いながら私はフリュウの問いに答える。


「あ、うん。ちょっと魔力を感じて……」


「へえ。ま、俺たちには関係ないことだな」


 フリュウはそれだけ言ってまたさっさと歩きだしてしまった。私も魔力のことが気になったけど、置いて行かれてはたまらないのでその後に続いた。

 とりあえず、今日は市場を回るらしい。昨日も少しくらいなら見たけど、ここの市場はなかなか高いと思うんだよね。判断基準はアガリスのお店だけなんだけど。こっちが高過ぎるのか、あっちが安過ぎるのか。考えてみてもよく分からない。


「うーん、ナミネの服、ナミネの服なあ」


「別に無理して探さなくてもいいのに……」


「それ小さい時から着てるからあんまり綺麗じゃないだろ? いいじゃんか」


「それ、失礼だって気付いてる?」


「おう」


「気付いてるならやめてよ……」


 ズレた幼馴染の発言に、私はため息を吐いた。どうしてそういうことを言うのかなあ……。

 確かにフリュウの言った通り、私が今着ているこの紫色の服は小さい頃から着ている物だ。なかなか気に入っているから解れたところを自分で直したりとかして、今まで着てきたんだ。

 まあさすがに今回のことがあったから服を変えようとは思ったけど。村の中だったらあんまり気にしなかったけど、確かに外に出てからは気になるんだよね。周りがの色が地味すぎて。

 フリュウはそのまま私を連れて市場をぐるぐると回る。なんとしても私の新しい服を探したいらしい。別にこの街で買わなくてもいいんだけどね。


「女なんだから、服にも少しは気を遣え」


「別に、旅装に気を遣うことなんてないと思うんだけど」


「良いから」


 頑なに意見を曲げないフリュウを見て、私はため息を一つ吐いた。時々頑固だなあ。自分の信念は曲げないというかね……。

 そこまで考えて、いつの間にか地面に落ちていた視線を上げる。辺りにフリュウの姿はなかった。

 ……も、もしかして、迷子になっちゃった? 慌ててキョロキョロとフリュウの姿を探してみてもやっぱりいない。そ、そんな、まさか迷子だなんて……。


「ナミネー」


「うひゃあ!?」


 背後から肩にポンと手を置かれる。肩が大袈裟に跳ねて思わずその手を振り払う。


「え……、何その反応。すごくショック」


 悲しそうな表情をしている割にはフリュウの声は明るかった。大して傷付いてないって事なのかな。じゃああんまり気にしなくても大丈夫かな。

 それにしてもフリュウはどこに行ってたんだろう。首を傾げた私を見てフリュウは笑うと一つの紙袋を差し出してきた。何か買ってきたの? でも早くない?


「ほらよ、新しい服だ」


「あ、ありがとう……」


「似合うかどうかは別だけどな」


「じゃあなんでお店に連れて行ってくれなかったの」


 私の言葉をフリュウは笑って誤魔化した。いや、笑われてもね。

 「とにかく、開けてみろよ」言われて紙袋に視線をやった。確かに、フリュウがどんな服を選んだのか知りたい。

 袋の口を開けて中を見てみる。フリュウの着ている服と似ている、一般的な旅装が入っていた。


「サイズはなんとなくだが、まあ大きくても平気だろ。まだ成長期だろ?」


「だから成人してるって……」


「悪い悪い」


「絶対反省してないよね」


 実に爽やかな笑顔で反省の言葉を述べたフリュウを即否定した。なんか、疲れるなあ……。

 とりあえず後で宿に戻ったら着替えよう……。そう考えたところで、服の上に紫色のリボンがあることに気付いた。私の今着ている服と限りなく近い色合いだ。


「ああ、それは髪留めだ。お前はその色好きみたいだしな」


 このリボンで髪をまとめたらいいよってことか。

 フリュウにしては珍しく気遣いが効くなあ。本で学んだんだろうか。

 髪を解いてリボンで再び結び直す。うーん、即席だから綺麗に結べているかどうか不安だ。


「おー、似合ってるなー」


「棒読みすぎない?」


「冗談に決まってるだろ。うん、案外いいな」


「案外、って……」


 駄目だ、この人何も学習してなかった。リボンは何かのオマケだったのかもしれない。

 袋の口をもう一度閉じ、大事に抱え直す。素っ気ないものだけど、初めて人から買ってもらったものだから少し嬉しい。

 緩みそうになる口元をきゅっと結び、フリュウに次はどこを回るのか聞いた。


「んー、特に目的はないな。適当にぶらっと回るか」


「じゃあ喫茶店行きたい! アガリスで入れなかったの!」


「駄目だ駄目。この街異様に物価高いんだからな、その服も結構な値段だぞ」


「えぇー、ケチ」


「俺の財布をそんなに空にしたいのか」


 意地悪なやつだな、とフリュウが口を尖らせて言った。なんで尖らせたのかは分からない。

 既に俺の財布は空に近いぞ! と悲痛な叫びを上げるフリュウを無視して、私はフリュウの腕を引っ掴んで引き摺るように歩き出した。ちょっと重い。

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