ヘタレ魔法使い 11 これからのこと
「んー……」
上半身だけ起こしてぐっと身体を伸ばす。しばらくその体勢を維持しながら私は辺りを見回した。フリュウの姿は部屋になく、でも私には逃げた訳ではないということが分かっていた。
朝だなあ。いや、日も結構上がってるから昼に近いのかもしれない。……いくら疲れていたからって、さすがに寝すぎじゃないかな。
――ナミネ。お前、これからどこに行きたい?――
不意に昨日フリュウに言われたことを思い出した。特にどこかに行きたいというものがなく、結局私は答えることはできなかった。ここにいたら危ないっていうのは十分分かってる。でも行く当てがない。
またどこか近い街を探してみようかな、とポーチに手を伸ばしたところで部屋の扉が開いた。
「あ、起きたか」
「おはよう、フリュウ」
扉を開けたのはフリュウだった。私が起きているのを確認すると満足そうに頷き、左手に持っていた手拭いの包みを持ってきた。
半ば押し付けられる形で包みを渡され、フリュウに促されて開けてみる。確か昨日はこんなもの持ってなかったはずだけど……。
「おにぎり?」
「腹減ってるだろうと思って下でもらってきたんだ」
包みの中身はおにぎりだった。丁度良い温かさを保っているおにぎりは食欲を誘っている。美味しそう。
「いただきます」と誰に言う訳でもなく呟いておにぎりを口に運ぶ。塩がきいてて美味しかった。
それから包みに入っていたおにぎり三個を全て平らげた。あまりにも美味しかったから一気に食べてしまった。
「ふぅ、ごちそうさま」
「……よくそんな一気に食えるな」
「お腹減ってたんだもん」
フリュウは私の返事に対して呆れたように笑った後、身に着けていた肩掛け鞄から一枚の紙を取り出した。大きさから見て、何かのポスターなのかもしれない。
ポスターを受け取り内容を見てみるとそこには大きく「武道・魔導大会開催決定!」の文字があった。
「これがどうかしたの?」
「いや、折角だから出てみればどうかなって。腕試しの良い機会だろ?」
「うん、まあ……。フリュウは出ないの?」
「俺は見物してるほうが楽しいし」
見てるだけなら誰でも楽しいと思うよ……。心の中でそう呟き、ふっとため息を吐く。
開催日はそれほど先ではなかった。開催地がガイアント国の隣国、シュトライト国のバロッツァという場所なのでゆっくり向かっても一日か二日は猶予がある。この大会に出るなら道中でフリュウに指導してもらうのもいい手かもしれない。
「魔導大会、か。私たちから見れば魔法大会だけど」
「一文字違うだけで特に変わらないさ。あと、違いは詠唱と無詠唱くらいか」
「……無詠唱の人は、いないんでしょうね」
「そうだな、お前以外いないだろうな」
随分あっけらかんと言ってくれたな。それって私が行っても大丈夫なんだろうか。
でも興味がないかって聞かれたら、あるんだよね。私の村には腕試しとか大会とかはなかったから。どういうものなのか知りたいし、出てみたいなとは思うけど。
「本当にフリュウは出ないの?」
「なんだ、しつこいな。面倒だから俺はパス」
「面倒って……」
「いいじゃんか。それにほら、俺はネックレス外したくないし」
「酷い理由だね」
とにかくフリュウは出る気はなさそう。一人は嫌なんだけどな。
おにぎりが入っていた手拭いを丁寧に畳んでフリュウに返す。フリュウは鞄に仕舞うと私の顔を見てきた。「どうするのか」と聞いているみたいだ。
私は少し呻ってから、
「そうだね。行く当てもないし、出てみようかな」
と答えた。
「そうか。俺も行く当てないからついて行ってやるよ」
「なら出ればいいのに……」
「さっきも行ったろ? 出る気ないって」
「いろいろと言ってることが矛盾してるよね」
「それに親父の依頼もあるしさ、一緒にいたほうが良いだろ」
そのことに関しては当て付けのような気もするけど、確かに一緒にいたほうが進みそう。それに、私は大した力もないから依頼を遂行するのは難しそうだし。
……あれ、私って大会に出ても一回戦敗退で、はいお終い、になりそうだよ? これって出る意味はあるのかな。出るからには一回戦くらい勝ちたいのが本音だ。
でも大会だから強い人がたくさんいるんだろうな。想像してみて少し遠い目になる。
「優勝目当てじゃないとはいえ、ちょっと辛いかも……」
「なんなら特訓してやろうか?」
「……お願いします」
フリュウに一度頭を下げる。こんなことなら村にいる間にもっと真剣に練習しておけばよかった。いや、村にいる頃も頑張ってはいたけど。元はほとんど魔法が使えなかったんだからあれでも進歩した方だよ。……うん、言い訳は止めておこう。
頭を上げると考え込んでいるフリュウと目が合った。
「とりあえず、今使えるのは何種類だ?」
「焔、雷、水。あと、覚えたての風で四種類」
「オッケー。どうせまだ制御できてないだろうから三種類と考えよう」
う゛っ、さすがよく分かってる。
ここに来る道中に一回唱えて成功しただけだから、風はまだ本当に使えるかどうかは分からない。あの時も、私が望んだような球体としては現れなかったから使いこなせてないんだと思う。下手すればあれはマグレだったという可能性もある。
「今から種類を増やすわけにもいかないし、あるものを鍛えるしかないか」
「なんかいろいろとごめん……」
「いいよ、勧めたのは俺だし。……出発も特訓も明日にするか」
「今日じゃなくていいの?」
「もう一回市場を見て回りたくてな。ナミネも服が必要だろ?」
フリュウは私が今着ている紫の服のことを言っているみたいだ。確かにどこかで買いたいと思っていたけど、昨日見た感じではいいのはなかったような……。
そのことをフリュウに伝えると「探せばなんかあるだろ」となんとも楽観的な言葉が返ってきた。それでいいのかな。なんだか不安だ。
「よし、俺は受付でもう一泊分の延長頼んでくるから支度しとけ」
「あ、うん」
言うや否やフリュウは部屋から出て行った。慌ただしいなあ。あんまり私も人のことは言えないんだけどね。
フリュウの言うとおり、身支度でもしていようかな。と言っても特にすることがないからポーチの中身を整理するくらい。村を出てからそれほど日も経ってないから中はあまり乱れていない。
「ん……」
ポーチの中を整理していたら、奥の方から巻物が二つ出てきた。村長から貰ったものだ。
これは貰ったからには習得しておいたほうが良いんだろうな。特に回復魔法。怪我でもしたら大変なことになるし、習得するなら早い方が良いと思うし。焦るのもよくないけど。
「後でフリュウに聞いてみようかな」
巻物をもう一度ポーチの中に仕舞ったところで「ナミネー」とフリュウの呼ぶ声が聞こえてきた。
自分にかけてあった掛布団を軽く畳んでから、私はフリュウに返事をしつつ部屋を後にした。




