ヘタレ魔法使い 10 幼馴染
「――どういうことなの?」
私はあの後、男の人のおかげで無事に宿に辿り着けた。
本当は一人で泊まってこれからどうするか、という考えでも脳内で繰り広げようか考えていたんだけどその考えは宿に入った途端に吹き飛びましたよ。ええ、吹き飛びましたとも。
……主に目の前で正座している男の人のせいで。
「いや、あの、うん、つまりだな」
「物ははっきり言って!」
「はいっ!」
急遽、男の人も私と同室になったけど泊まることになった。夜中に逃げ出されたら困るんです。前払いだから尚更。
……宿の女将さんの意味深な目線がきつかった。間違ってもそんなことはしないから。大丈夫だよ、女将さん。
男の人の髪は少し乱れていて闇のような黒、瞳は引き締まっていて木々のような深緑だった。服装は割と綺麗ないかにも旅人、と言った感じの装いだ。顔立ちもなかなか整っているけど、だらだらと流れる冷や汗のせいかとてもかっこいいとは言えない。
一見すれば知らない人であるはずの男の人に正座させている私には、当然ながら訳があった。
「なんでここにいるの……、フリュウ」
「あはは……」
そう、正座をしている彼こそ私の幼なじみでお兄ちゃん的存在のフリュウだった。
本当なら再会したことに喜んでもいいんだけど、私は素直に喜ぶことができなかった。
「なんでこんな近場にいるわけ!?」
理由といえばこれに尽きるだろう。
だって、二年だ。私とフリュウの旅立ちの日が大体二年違うのだ。確かにここから村まではまあまあの距離がある。でも私がこんなに短期間でここに着けるならフリュウはもっと遠くに行っていてもおかしくないはず。
宿の入り口に明かりがあったおかげで私は男の人がフリュウだということに気付けた。危ない危ない。危うく逃がすところだったよ……。
「いやー、ちょっとアガリスの図書館に篭ってた」
「二年も!?」
「だって面白い本ばっかりなんだぜ?」
魔法使いと会ったことがあるという人が書いた伝記、魔術師が纏めた魔導書、果てには恋愛小説まで。そこで読んだ書物についてフリュウは次々に語ってくれました。フリュウが恋愛小説を読んでいるところがどうしても想像出来ないのは私がフリュウと小さい頃からいたせいなのか、フリュウの性別が男だからなのか。
まあそんなことはどうだっていい。問題はそこじゃないから。話を逸らされかけた。
二年もあんなところで読み耽っていたということはつまり村長の依頼をすっぽかしていたということになるのではないだろうか。
「……村長からの依頼は?」
「あー、あれ怠いから放って置いてる」
「焔」
「ちょっ、ナミネ! 火事になるから止めてくれ!」
ごめんなさい。咄嗟に口から出てきた魔法だったんです。
仕方ないから小規模な雷をフリュウの頭上に落とした。威力も小規模になったらしくあまり効いた様子ではなかった。
でも、とふと思い出す。私には魔力を感じ取るという唯一の能力がある。だが今のフリュウの魔力は感じ取ることが出来ないのだ。
「ああ。俺、バレないように一時的にネックレスで魔力を封じ込めてるんだ」
私の疑問に気付いてくれたようでフリュウは「コレな」と服の下に隠れていた首に下がっているネックレスを見せてきた。ネックレスにはフリュウの瞳と同色の小さな石がついている。……そういえばフリュウには前に私の能力のことを話していたんだった。
それにしても便利なネックレスだ。なかなか綺麗だし、私も欲しいな。言ってみたら魔物の素材を使って造るらしい。錬金は苦手分野だ。
「今度造ってやる、と言いたいが最近魔物を見てないから無理かもな」
「図書館に篭ってたからじゃないの?」
「いや、ここに来る途中森に寄ったが獣以外見ていないんだ」
「……それはさすがに変だね」
村の森には魔物がいた。凶暴化していて成人の儀に襲われたことを覚えている。試験に使われてたのはそれほどでもなかったけど。
んー、と唸って考え事をしていたフリュウは急に動きを止めてこっちを凝視してきた。
「そういや、ここまで大丈夫だったか? その服じゃ目立つだろ」
「……大丈夫じゃなかった」
「何っ!? 怪我とかしてないだろうな!?」
「お、おおお落ち着いて!」
私の言葉を聞いて血相を変えたフリュウは私の肩を掴んでガクガクと力強く揺すった。く、首へのダメージがああああ。
ようやく解放され、今までの状況を説明する。と言ってもアガリスの出来事からこの街に来たところまでなんだけど。
フリュウは真剣に私の話を聞いてくれていた。そして全て聞き終わった後に一言、
「馬鹿だな、お前」
と言ってきた。
最近そのことはすごく気にしてるんですっ。そういう事を言わないでください、デリカシーがないですよ。
「普通外で安易に魔法は使わないだろ。その……、誰だっけ?」
「ジャンさん」
「そう、そのジャンって奴がいなかったら明日のお日様はまともに見れなかったかもな」
また縁起でもないことを! フリュウは時々オーバーすぎるよ。……うん、今のは絶対オーバーだと信じる。
「こんなことなら俺が二年待っておけば……」とブツブツと今更なことを呟くフリュウを放っておいて心の内でジャンさんに感謝する。ジャンさん、いい人だったな。
「なあなあ、ところでそのジャンってどういう奴なんだ?」
「無表情で私より常識人だよ」
「お前常識無いもんな。んじゃ、どこの出身だ?」
「そこまでは聞いてない」
「……よく信頼できたな」
「助けられてるから」
フリュウに呆れた目で見られた。でも、助けられたの二回目だったし……。
それにいくらなんでもいきなり出身を聞くのはどうかと思うんだよ。女の人に体重聞いてるようなものだよ。
確かにいろいろと知らない部分は多かったと思うけど、それでも支障なんて特になかったからいいと思う。
というか今自然な流れでフリュウにけなされた! 酷い! 一応常識は持ってるよ。村の外のことをあまり知らないだけで。
「はあ、それじゃあ一刻も早くこの国を出ないといけないじゃないか」
「うぅっ、ごめんなさい……」
「お前が迷惑かけてきたのは三百八十二回目だから慣れた」
「そっか……って数えてるの!?」
「おう。ちなみにお前で遊んだ回数は六千越すぜ?」
「昔の私遊ばれすぎでしょ……」
なんかすごくへこんだ。
でもフリュウに会えて良かった。私はいつヘマを仕出かすか分からないから一人でいるよりも誰かが一緒にいたほうが安心できる。
……フリュウも私と違うところで不安だけど、それでもいてくれたほうが私は嬉しい。
「さて、」とフリュウがため息を一つ吐いてから私の顔を覗き込んできた。真面目な顔をしていることからこれからのことだと思う。
「ナミネ。お前、これからどこに行きたい?」
よくよく考えたらどっちもそれ程頭が良いわけじゃないという事実。
とりあえずフリュウは図書館で世間的な常識を携えてたらいいな。




