ヘタレ魔法使い 8 四つ目の魔法
大変長らくお待たせしました。
すみません、ちょっと他のことに目移りしてしまって全然かけてませんでした。
……二千文字と少しと、少なめですがどうぞ。
暇だ。暇すぎる。
街を出てからも沈黙(短めの会話ならあった)は続き、挙句の果てには一人しりとりの最初で『ん』をつけるという前代未聞の大失態までやってしまった。何やってるの私。
気になっていた槍にも触れてみたけど、あまり詳しい事実も分からず、しかも数回のやり取りで終わってしまった。これにはさすがに参った。
だけどこの会話でたった一つジャンさんについて分かったことがある。
あまり確証はないから恐らく、になるけどジャンさんはあまり自分の情報を出したがらない。必要なら“多少の”開示はするだろうけど、必要じゃないと判断したものは絶対に開示しない。
実際、私が知っているのは名前とさっきちょこっと話に出た槍くらいだ。何か目的があるとは聞いたけど――まあ、図書館の件に関わりがありそうだけど―― その目的は聞かされていない。
(……何かすることないかなぁ)
お店で確認した地図によるとあともう少しは歩くことになりそうだった。
魔法の練習はしたいけど、誰かジャンさん以外の人に見られたら困ることになりそうだから暇潰しにはならない。私の攻撃方法が魔法だから他の練習をすることも出来ない。
(魔法使いと魔導士ってすぐに見分けがついちゃうだろうし)
アガリスの図書館にあった水晶のような魔法具を使えば距離が多少開いていても見分けをつけることは可能だろう。まあそれが出来るのは上級の魔法具になるだろうけど。
普通、魔法使いは私がしているような短くされた言葉や単語で魔法を発動する。
だけど魔導士は違う。魔導士は長々しい詠唱を唱えることで魔法を発動させる。詠唱の長さや単語の難しさは詠唱の難易度に比例する、らしい。
らしい、と言うのは私が詠唱することが出来ないからだ。魔導士の件はジャンさんが教えてくれた。
ジャンさん曰く、魔法使いは詠唱での魔法の発動が不可能なんだそうだ。その逆も同じで魔導士は詠唱なしだと魔法の発動は出来ないらしい。攻撃力が弱いものなら詠唱なしでも発動できるらしいけど。
「焔、水、雷」
とりあえず拳ほどの大きさの魔法を三つ発動させてみた。今私に使える三属性だ。
練習しないほうがいいかもとは思ったけどよくよく考えたらいい機会だ。折角だから属性を増やしてみたい。三属性だけではこれからきついと思うし。もう周りとか気にしない。気にしてられない。
ふよふよと私の周りを漂う魔法をちらりと見てから私は言葉をつぐむ。確か前にこれを挑戦したのは三年前だった。失敗したけど。
周囲に浮かんでいた三属性の魔法を解く。この三つは魔力の調整も十分にできるようになっているから、特に気にしなくても大丈夫だろう。応用に使うにはまだ練習が足りないと思うけど、今はまだ大丈夫、と信じよう。
「風」
私の目の前で風が揺らぐ。……が、本当に少し揺らいだだけで魔法としては形成しなかった。
だけどここで諦めちゃいけない。私は諦めが悪いんだ。三年前だって五百六十八回やって駄目で諦めた。……あれ、結局諦めてるから諦めが悪いとは言えない?
「風」
もう一度と意気込んで唱えれば、ふわりと風が私を包んだ。
なかなか魔力の調整がしづらくて今ははっきりと形状を認識することは出来ないけど、確かに風の属性を持つ魔力が私の目の前に浮かんでいるのが分かる。
「で、出来た……」
きちんと調整が出来ていないから実践で使うことはまだ出来ないだろうけど、ちゃんと練習すればすぐに使いこなせるようになるはずだ。
魔法を解いて、私はポーチから手帳を取り出して三つの魔法が書かれているページに『風』と書き込んだ。魔法が追加されて嬉しいのは私がまだまだ弱いからだろうか。
「光!」
もしかしたらいけるかも、と思って光属性の魔法を発動しようと唱えてみたけれど、物事はそんなに簡単にはいかないようで発動は叶わなかった。風が出る前のような揺らぎすらなかった。
「だ、駄目かぁ……」
がっくりとうなだれること暫し、すぐに私は顔を上げた。
落ち込んでいる場合じゃない。風だって三年前は出来なかったんだ。練習を重ねていけば、そのうち光だって出来るようになるはずだ。そうに違いない。
……あれ、でもそれって三年後になるの?
「うぅ……、さすがにそれはきついかも……」
「さっきから何を呟いてるんだ」
「魔法の練習と独り言です。気にしないでください」
自分で言っておいて何だけど、独り言って結構目立つかも。隣でぼそぼそと何か呟かれてたら怖いよね!
……私、今ジャンさんに引かれてないよね?
だけどジャンさんは「そうか」と一言呟いてそれ以上は何も言わなかった。ありがとうございます。私よりも大人びてますね! さすが人生の先輩です。
ぼんやりと目の前に広がる草原を見つめていると何か灰色のようなものが視界に入る。
「あ……」
進んで行くに連れ、灰色の物体は大きな建造物へと変わっていき、最終的にそれは城になった。
ごくり、と固唾を呑む。何だか物騒に思えてしまう、主に攻守の役割を持つであろう城はとても良い雰囲気とは言えない。城下街の存在をすっぽりと隠してしまうほど高い城壁は他国との関係を絶ち、自らの力だけで生きてきたと言っているような気がする。
「着いた……!」
城壁の傍まで辿り着けば広くて深く作られている堀が間近で見え、牽制をされているような気分になった。なんだか、堂々としすぎていて恐怖すら感じてくる。
城壁に刻まれた無数の傷は、一体いつのものだろうか。
「契約は終了だな」
私の後ろでそう言ったジャンさんに振り向き、私はこくりと頷いた。




