2、閉じられた蓋
窓から差し込む朝の輝きが彼女の顔を照らす。目覚めの合図だ。だが、彼女はすでに目を覚ましていた。
荒い息遣い。
ベッドから上体を起こす。
――この夢も見飽きた。
恐怖と震えに敏感なことは認めたくないのだが。なぜこうも同じ夢が頭から離れないのだろうか。考えるだけ考えても、苛立ちだけが募るばかりだ。
涙の溜まっていた目を拭うと、そのまま腕を振り上げた。
「くそっ……」
弾かれたように壁を力の限り殴った。汗は体中を伝って振るい落とされる。
……凄い汗だ。気持ち悪い。
ベッドの脇にある窓を全開にした。
気持ちの良い涼しい風が髪をなびかせる。さんさんとした空を見上げた。
――いつか、あの時のような自由よ取り戻せるだろうか。
自由。彼女の今の生活には、ほど遠い言葉。
窓の縁に小鳥がとまる。
「……自由ってどうやったら取り戻せるのかな」
小鳥はそれに応えるように首を横に倒す。
すると、扉をノックする音と共に小鳥が大空へと飛びたっていった。
彼女の目から優しさが消え、『騎士』の目で扉を睨みつけた。
「デュラン様、姫様がお呼びです」
と扉の奥からぐぐもった声が聞こえた。
「ああ、わかった。すぐに行く」
デュラン・ヴァリスは支度をし、女王の間へと足を向けた。
わかっていた。
彼女を――デュランを取り巻く契れることのない鎖は、彼女を離しはしない。後戻りはできない。
過去には戻れない。
過去は変えられない。
だから心を閉ざした彼女は、今を生きてゆく。