1、果てのない悪夢
残酷表現あり
気が付くと、少女は人々の活気にあふれた小さな街に一人立ち尽くしていた。
噴水のしぶきが肌に跳ねた。
少女の横を通り過ぎる街の人たちは笑顔で挨拶を交してくる。それに応えて少女も笑顔を作って見せた。
ここはクロゥの街。少女が育った街。
清水の香りが彼女を囲む。
――懐かしい。
思い出に浸りながら少女は歩を進めた。
街の中では一番大きな街道を歩く。
左右には店がたくさん並んでおり、人々は愉快にそれを楽しんでいる。
「ねぇ、ママ。あれほしいー!」
活気の中で、ふとその声に気を取られた。
母親の服を引っ張って向こうを指差す男の子。ねだるような笑顔で母親を見上げている。
楽しそうだ。歩きながら、そう思った。
――親の顔すら曖昧なあの頃の記憶。
思い出など、脆い。
街の中心に位置する広場に着いた。
すると、今まで賑やかだったはずの街中が突然、シン――と静寂を生んだ。
――ドクン
刹那。
少女の視界が、青々とした風景から真っ赤な紅と化した。
鼓動が弾く。
息が苦しい。
――また?
また……同じ夢だ。
恐怖に一歩後退る。ビシャッ、と何か液体を踏んだような音が響いた。
ゴクンと喉を鳴らし、恐る恐る視線を落とす。
そこには、街を囲む炎よりも真っ赤な絶望的な光景が少女の眼を通し、脳に刺激を与えた。
これは血だ。
少女が踏んだのは、街一面を覆い尽した大量の、血。
今度は少女の嗅覚を激しく刺激した。
ツンと突き刺さるような臭いに吐き気を覚え、体が小刻みに震える。胸元を押さえると、鼓動がドンドンと胸を打ちつけてる。恐怖と億劫で涙が頬を伝った。
辺りに散りばっている肉の塊のようなものは、炎の熱によって溶け始めていた。
――もういい、わかったから……。
いつまでこんな思いをしなければならないのだろう。
膝から崩れ落ちる。
瞳を閉じれば、深い闇へと溶け落ちた。