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8 一生最下位


「トキネについての事情はざっとこんな感じだ。あとは……、悪いが時が止まってる間の出来事は一切認識できなくてな。エイスの魔法のおかげで、自分の時が止まってたんだってことは分かるんだが。――さっきミカゲに起きたことってなんだ?」

「おれが来たとき、ミカゲくんはオーバーヒートを起こしてたよ。みんなを守ってくれてたんだろう?きみが守ってくれなければ、おれは間に合わなかったかもしれない」

「いえ……。僕はただ、無我夢中で……」


 僕はみんなに、サータルが言っていたことや聞こえてきた声のことも含めて、戦ったときのことをすべて話した。今はもちろん絡繰は使えないことも。


「俺の知ってるプログラムっていうのは、自分の絡繰と戦闘方法をデータ化したもので、刻まれた人形は設定された事象をきっかけに一度だけその力を行使できる力なんだ。ただ、刻む時の電素の消費が大きすぎるし、刻んだ人形のスペックは変わらないから、行使できるのもほんの限られた時間になるんだが」

「ルーベスは、見たことある。サータルと同じ、闇の最上位人形(ハイエストドール)。属性は、闇と水。でも、サータルと違って、傀儡になってた、はず」

「おれもルーベスと戦ったことはあるけど、確かに傀儡だったよ。ダネストが捨てた人形に刻むことなんて、普通はしないしできない。しかも最下位(ロウエスト)だから、行使できる時間も三十秒程度だろうに」

「まあこの際、会ったことのないルーベスの意図については考えても仕方ないだろ?俺が気になるのは、ミカゲが自分の属性絡繰を使ったってとこだ――」

「はーい、ちょっとリフレッシュしませんかぁ?」


 心地良い香りが室内に広がる。ミズナとアカリが、みんなの分のハーブティーを運んできてくれたのだ。「香りはわたしセレクトだよ!」とアカリが胸を張る。僕たちが話している間に作ってくれたのだろう。お湯は五大属性全てを所持しているミズナにかかれば、お茶の子さいさいだ。キズキが言うには、家事に関して世界でも右に出る者はいないらしい。


「二人とも、ありがとう――キズキが言った点は、おれも気になってたよ。プログラムで使えるようになるのは、刻んだ人形の絡繰のはずだ」

「プログラムの、絡繰で、ミカゲの絡繰りが、調和されたというのは?それで、使えるようになった。エイス、ズッキーニ、思慮が足りない!」

「足りんのはお前だ」


 ドヤ顔にムカついたのだろう。キズキは、空中からハリセンを取り出して、スパーンとトキネの頭をはたいた。頭を押さえたトキネは涙目でキズキを睨みつけた。ジト目である。


「糸を繋いだ時点で、その人形の絡繰はあらゆる干渉から保護されるんだよ。元々が戦闘兵器だから、その核となる機能を守るための仕組みだったんだろうな。そこから、階級の成長が始まるんだ。絡繰を水、保護機能を器とすると、器を広げることで生来のスペック以上に電素を入れる余裕ができるってイメージ。糸が切れてもその保護機能は残るし、全ての人形に糸は繋がれる以上……ん?」


 ハーブティーを優雅に飲みながら、トキネへ説明していたキズキは途中でカップを置いた。何か引っかかることがあったみたいだ。


「ミカゲ、これ見たことあるか?王が糸を繋ぐための魔道具のレプリカなんだが」


 キズキが空中から取り出したのは、人差し指程度の大きな針だった。形状は完全に刺繍針だが、金色に光っており、糸を通すための穴も開いていない。僕の目が覚めてから、同じものを見た記憶は一切なかったので、首を横に振る。


「えっ!?糸繋がれてないの?キズにい、どういうこと?」

「俺がミカゲを見つけたとき、既に糸はなかったんだ。糸切れじゃなくて、そもそも繋がれてなかったということか!」

「ん?でもさ、なんで全ての人形に糸を繋げるの?別にサータルは操られているわけじゃなさそうだったし、キズキたちもそうでしょ?」


 つい話を遮って質問してしまった。ハーブティーのおかわりを僕のカップに注ぎつつ、エイスが答えてくれる。


「ミカゲくん、人形につなぐ糸は二種類あるんだよ。大雑把に言えば、傀儡にする方とそうではない方。糸には、繋ぐときに絡繰を保護する役割のほか、繋がっている人形の安否確認や、他の王へ自分の国に所属している人形だと示す役割もあるってわけ」

「私たちはね、どこにも所属しない糸切れ人形なのよ。サータルはトキネちゃんの回収を優先してたようだけど、私たちも本当は見つかったら捕まっちゃうの」


 なるほど。サータルに繋がっている糸は傀儡じゃない方で、ここのみんなはその糸をすでに切っているということか。そして、僕にはその糸が繋げられていない。


「なんでミカゲは繋げられてないんだろうね?わたしが居たアニカでも、糸は全員につけてたよ」

「まあ勝手な予想だけど、焦ってたから忘れてたかしなかったんだろうね。言い方は少し悪いけど、戦力を増強したいのに出来たのは最下位(ロウエスト)でがっかりしたのかもしれない。ミカゲくんが捨てられた森にいる魔物は、最低でも下中位(ロウミドル)程度の力はあるし、どうせ死ぬと思ったのかもしれない」

「アカリ、エイス。重要なのはそこじゃないぞ。俺の予想が正しければ……。ミズナ、ミカゲの右手を握って電素を流し込んでくれ。おれは左手から流し込む」


 キズキの意図がよくわからないらしく、首を傾げたミズナは言われるままに僕の手を取った。キズキが左手を握り込むと、一瞬体がしびれ、温かな液体が流れ込んでくる感覚がした。この高揚は……、あの時に感じた本能の昂りだ。


「なんでもいい。破壊系じゃないスイッチを唱えてみろ」

「うん。――【停止(ていし)】」


 キズキの動きが完全に静止した。トキネとアカリが左右から頬をつつくが、微動だにしない。時が止まっているのだ。


「できたっ……!」

「へぇ!なるほど。保護機能がかけられていないから、外部からの干渉を受けるということか。ミカゲくん、時の【調整(ちょうせい)】でキズキを戻してくれるかい?そのまま【停止】を解除してしまうと、時を止められたことが認識できないからね」


 エイスが教えてくれたように、キズキの【停止】を解除する。トキネたち二人は瞬時に頬をつつく手を引っ込めた。ミズナとキズキが僕の手を離すと、高揚があっという間に収まった。力が抜けていく。


「やっぱり成功だなっ!次だ!エイスが魔素を流し込むから、絡繰を使ってみてくれ」

「ミカゲくん、手を貸してくれる?」


 エイスに右手を握ってもらうと、また高揚感が戻ってきた。さっきと全く同じだ。


「どうだ?」

「【光球(こうきゅう)】――ちゃんと使えるよ!」


 宙にかざした左手の前に、人の頭ほどの大きさの光が浮いていた。わくわくした子供っぽい目つきのキズキと面白そうな笑みを浮かべるエイスだけでなく、みんなが目を見開いてその光の球を見つめている。


「うそ~!やばっ!」

「ミカゲ、天才……」

「前代未聞ねぇ」

「ミカゲっ!こいつはすごいぞ!」

「えっと、ごめん。僕、まだよくわかってなくて」

「お前には絡繰を守り、電素を生来のスペック以上に貯める器がないんだ!つまり、一生最下位(ロウエスト)!その代わりに、自分の持つ電素以外の力を受け入れることができるんだ。糸を一度繋がれた全ての人形は保護機能によって、他の人形の電素や魔素の干渉を弾く」

「でも、ミカゲくんは魔素でも絡繰の調和ができるんだよ。どういうことかわかるかい?」


 普通は人間が絡繰を使えないように、人形も魔素を拒絶するから魔法を使えないんだ。でも僕は魔素を拒絶できない。しなくていい。


「魔法も使える……?」

「正解!構造的に魔素の生成はできないが、外部から魔素を供給してあげれば魔法の行使も可能ということだ。詠唱はまた後で教えてあげるね」

「でもそれって、ミカゲちゃんは戦うときに常に私たちの誰かが力を注いであげなきゃってことなの?」

「その通り!ミズナの言うことは正しい。そ・こ・でっ!!ミカゲくん、きみが強くなる方法はただひとーつ!」


 満面の笑みで人差し指を突き立てたエイスはこう言った。


「精霊と契約することだ」


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