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7 クロートスの寵児


 僕のお願いを聞いたみんなは、笑って「ちゃんと話そう」と言ってくれた。また誰かが襲ってきたら?と思ったけど、エイスがいる限りは大丈夫らしい。ミズナの提案で、僕たちは襲撃のせいでお預けになっていた朝ごはんを食べることにした。


「トキネは元々、クロートスに作られた人形だったんだ」


 キズキ曰く、この世界は人形が治める八つの国と人間が治める一つの国に分かれている。人形の王たちは一部例外を除いて、皆それぞれの属性絡繰の祖で圧倒的な力を持つのだという。クロートスなら時属性の祖だ。属性が九つなのに、国が八つなのは、光の王だけ統治を放棄して放浪しているからである。


「人形が治める国だからと言って、人形だけが住んでいるわけじゃないんだけどね。むしろ、人間の方が数は多いんだよ。じゃあ、どうして人形が統治する国の方が圧倒的に多いのかな?アカリちゃん」


 急にエイスに当てられたアカリは、口に入れたパンを慌ててもごもごと飲み込んだ。トキネがさりげなくミチュカのジュースを差し出す。


「えーっと、めっちゃ昔に人形の王が反乱を起こしたんだよね?強すぎて人間側の軍は負けちゃったから、そのときから人間の国は北のシュネーデッケだけになっちゃたー、みたいな?」

「そう!よく覚えてるね。絡繰人形は初め、戦争のために一つの国が作り出した兵器なんだ。開発した魔道具で『糸』を繋いで支配する予定だったんだけど、王には効果がなかった。その国は滅ぼされ、他の人間の国も征服されてしまったってわけだ」

「なら、そのシュネーデッケはどうしてまだ残ってるの?」

「いい質問だね、ミカゲくん。おれの出身地でもあるシュネーデッケは、精霊に愛された国だったんだよ。精霊は死んでも復活するし、強いうえに数も多いから、征服できなかった」


 エイスがパチンと指を鳴らすと、色とりどりの光の珠がふよふよとエイスの周りに出てきた。これは意思のない下級精霊だけど、それでも無詠唱で魔法を行使できるため、数がそろうとバカにならない強さになるらしい。「かわいいだろ~?」とだらしなく相好を崩すエイス。エイスは、アカリ曰く「精霊オタク」、キズキ曰く「精霊バカ」だ。


「エイスくんってちゃんと先生なのねぇ」

「その言葉、おれに対する認識が気になるとこだね。ミズナこそ、キズキにちゃんと――」「それ以上言ったら、ご飯は没収です」


 ミズナに対して何かを言いかけたエイスは、至福の表情で飲んでいたスープを急いで飲み終えた。絶対に渡したくなかったという意志を感じる。一連のやり取りを見ていたアカリは、呆れたように「そういうところだよ……」と呟いた。


「話を戻すとな、トキネはクロートスにその糸で操られていたんだ。放棄された光領パトルトの支配を巡って、クロートスと闇の王ダネストはずっと争ってるんだけど、二年ほど前にあった闇間(あんかん)戦争でトキネもクロートス側で参戦した」

「ん……。クロートスは、傀儡の扱いが、厳しかった。意思はなかったけど、記憶は、残ってる。私は、クロートスのお気に入りだったから、余計に、厳しかった。怖かった……。ずっと、怖かった……」


 その時の記憶を思い出してしまったのか、話す唇はまた震えている。僕はとっさに、クミルジャムを塗ったパンを渡していた。トキネの目がかすかに見開かれる。


「……ミカゲも、優しい。ありがとう」


 やっぱり、笑顔は安心するなぁ。トキネは甘いもの全般が好きなのか、一枚のパンはあっという間に小さな口の中に入っていった。


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