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5 もう一人の家族


 眼の前に見知らぬ人が二人いた。一人は朝に襲ってきたような白ローブの人だ。もう一人のサータルと名乗った男は、光り輝く銀髪銀眼で薄ら笑いを浮かべていた。細めのメガネをかけているのもあって、胡散臭さが全開だ。


「クソっ、最上位(ハイエスト)……。ミズナ!」


 キズキが一瞬ミズナを見た。それだけで意図は伝わったようで、僕とトキネを守るように、ミズナは移動した。トキネにいきなり手を握られる。その手はひどく震えていた。顔も見たことがないほど強張っている。サータルに怯えているように見えた。自分の無力を呪いながら、僕は強く握り返した。


「大丈夫よ」


 ミズナの髪が青色に、目が青と赤のオッドアイに変化した。その途端、さっきまで地膚がむき出しだったのに、辺り一面に花が咲き乱れた。薄い緑の草原の中で、真っ赤な花がたくさん揺れている。よく見ると、それらはすべて水で形作られていた。


水奏(みずかなで)激攻華(げっこうか)』『疾風草(はやてそう)』」


 テンポの早い曲が耳に響き出し、心が高揚する。いつの間にか刀を持ったキズキと大剣を肩に背負ったアカリが前に出ていた。


「噂に違わぬ超技ですねぇって待って待って。穏便にいこうじゃありませんかぁ。そちらの個体一〇七(いちまるなな)を返してもらえれば、何もせずに引き返しますよぉ」

「先に家ぶっ壊そうとしてきたのはそっちだろ。生憎、一〇七?とかいうやつはここにはいなくてね。どうぞお引き取りください」

「わかってるでしょう?カオリス様の一番弟子さーん。アニカ様の子に、水巫女候補。そして、我が王の寵児もいる。お尋ね者ばっかりですねぇ。各国に突き出せばかなりの恩が売れそうですが、今日は一〇七――トキネの回収後速やかにと言われていますからぁ」

「ぺらっぺらうるさい!【炎脚(えんきゃく)】」


 アカリの足元が発火し、目で追えない勢いで轟音とともに突っ込んだ。土煙がもうもうと上がる。


「話は最後まで聞いてくださいよぉ。今日は戦いに来たわけじゃないんですってぇ」


 土煙が晴れると、男の首元に刃があと数ミリで届くというところでアカリが静止していた。空中でピクリとも動かず、炎のゆらぎすらなくなっている。


「ねぇ、一〇七。あなたが来ないと、全員壊れますよ?」

「っ……」


 サータルの視線がこちらを射抜く。トキネの息が揺れる。アカリの大剣の間合いから外れると、サータルは指を鳴らした。


「まずい、揺り戻し!」

「アカリっ!」

「【水球(みずたま)】」


 キズキと僕が叫び、ミズナが手をかざすと同時に、アカリは猛スピードで地面に衝突した。サータルがアカリの時間を停止していたのだ。その反動が来たのだろう。


「大丈夫。トキネちゃん、ミカゲちゃん」


 しかし、衝突音もしないし土煙も上がらない。地面にぶつかる寸前のところで、アカリは水の球のなかに入っていた。それが破裂して、無傷のアカリが出てくる。


「さいっあく」

「おや?無事でしたかぁ。やはり水巫女候補は厄介ですねぇ。上中位(ハイミドル)でそれですかぁ。末恐ろしいですねぇ」


 サータルは間延びした声でそう言いながら、何もない空間から右手で白光りする拳銃を取り出した。そして、後ろのローブの人がいる方を向く。


「終わりまし――いやはや終わってましたねぇ」


 ローブの人は地面に倒れ、そこには鋭い目つきのキズキがいた。


「こいつ、空間持ちだったんだな。座標計算の時間稼ぎしてただろ」

「いやぁスイッチなしで空間を入れ替えますかぁ。【空箱(からばこ)】を使わせたのは失敗でしたねぇ。あなたの強さはわかっているつもりでしたが、そこまでだったとはぁ。さて、全部止めて回収する作戦は失敗しましたのでぇ、少々手荒にやらせてもらいますよぉ」


 そう言うやいなや、乾いた発砲音が三度鳴った。銃弾が三発、僕らの前の水壁の中で停止している。一体どういう原理で、水の壁が銃弾を防ぐんだろう。おそらく、ミズナの独自絡繰が関係している。


「ミズナっ!それに触れるなよ。時間止まるぞ」

「大丈夫よ」

「誘拐犯、お前が指示してる場合かな?」


 ゆっくりとメガネを外したサータルは、キズキの方へ地を蹴った。しかし、キズキへ到達する前に二人の位置は反対になっていた。すかさず、後ろからアカリが斬りかかる。


「アニカの子、あんたの方が弱い」


 サータルは瞬時に後ろへ振り向き、左手で大剣に触れようとした。


「弱くて結構よっ!『昇炎斬(しょうえんざん)』」


 アカリの体と剣が光の粒子となって、散り散りになる。それらが後ろに一瞬で集まり、大剣を低く構えて現れた。


「『断裂(だんれつ)』」


 同時に、キズキが刀を後ろに振りかぶった状態で、サータルの目の前に瞬間移動した。挟み撃ちだ。でも、なんだか倒せる気がしない。サータルの薄ら笑いが消えた。


「壊しはしないよ。カオリスに喧嘩を売るわけにはいかないからさ」


 銃声が二回。それで終わっていた。二人の時間は、サータルに触れることなく停止していた。前後をどうやって同時に撃ったのかだなんてわからない。気づくと、トキネが僕に覆いかぶさるようにしていた。その体は小刻みに震えている。僕の呼吸も震えていた。それだけ、圧倒的な生物としての格が僕らにはあった。


「あんたらが上位(ハイ)だったら、勝てたかもね」


 銃声がもう一回。竜の装飾が施された槍をサータルに突きつけた状態で、ミズナも停止していた。二人が、いつ動いたのかもわからなかった。


「さてさて、一〇七ぁ?帰りますよぉ」


 メガネをかけ直して、こっちへずかずか歩いてくる。その目線が初めて僕を射抜いた。


「んん?あらぁ?誘拐犯さん、ごみ拾いの趣味もあったんですかぁ。最下位(ロウエスト)なんて見たのはいつぶりでしょうかぁ。一〇七、汚れるのでそのごみ、早く捨ててくださぁい」

「『(とつ)侵食(しんしょく)』」


 刹那、サータルの両腕が宙を舞った。そのまま地面に抑えつけられる。


「私にはゴミなんて見えません。そのメガネ、度があってないんじゃないですか?」

「あらぁ。なんで動けるんでしょうかぁ。……あぁ、そうでした。エネルギーの変換。高性能な独自絡繰ですねぇ、うらやましい」


 ミズナが槍の穂先で首元を刺していた。装飾から、竜が噛みつこうとしているように見える。土の枷がサータルを地面に拘束していた。


「少しでも動いたら体が崩れます。二人の時間を進めてください」

「僕はこれでも最上位なんですよぉ。【逆行(ぎゃっこう)】」


 瞬きの間に両腕が戻ったサータルは、自分に刺さってる槍に触れた。すると、ミズナの時間が巻き戻っていった。槍と土枷がサータルを解放し、ミズナは地を駆けようとしているところで停止した。ずっと頭で鳴り響いていた音楽も止まり、高揚感がすべて抜けていく。


「【牢獄(ろうごく)】【交代(こうたい)】」


 背中が軽くなったかと思えば、周囲が真っ暗になった。正確に言えば、閉じ込められたのだ。何も見えず、トキネとサータルの声だけが聞こえてきた。


「『時間破砕(じかんはさい)』」

「へぇ、僕に歯向かうんですかぁ。わかってますよねぇ?あなたでは、僕の時間は止められませんよぉ」


 金属同士がぶつかり合うような甲高い音が聞こえる。自分の呼吸音が鬱陶しい。この土の牢獄は僕を守ってくれているのだ。いくら内側から叩いても壊れる気配はない。出会って一日も経っていないのに、僕はトキネを、この家族たちを失いたくない。


「【加速(かそく)】」

「そっちから来てくれて助かりますぅ。帰りましょう、一〇七。『時弾(しだん)連星(れんせい)』」


 連続で何十回も銃声が鳴った。時間がゆっくりになった感覚がする。土の壁を突き破って、自分の体に何発かの銃弾がめり込む不快感が襲ってきた。その瞬間、誰かのささやき声が頭に響く。捨てられたときに、髪の毛を柔らかく撫でられた記憶が蘇った。



「どうか生きて、あの方を救ってくれ……」



 銃弾に開けられた穴から、トキネを背負って立ち去ろうとするサータルが見えた。嫌だ。連れて行くな。


「トキネっ!!」


 心臓の鼓動が全身を揺らした。自分の身を、髪の毛を起点に暖かな闇が包み込んでいく。そのまま、土の牢獄が闇に破られた。闇を体にまとい、刀を作り出す。勢いに任せて、サータルに斬りかかった。


「――時間がっ!ルーベスの技!?」

 

 不思議な感覚だ。誰かが僕を動かしてくれるような、初戦闘とは思えない安心感があった。溢れてくる種族の本能に体を委ねる。


「【加速】【光線(こうせん)】【過重】」

「高位四属性!?こいつ――っ!!」


 僕の加速した速度がサータルを上回る。右手ごと切断して、拳銃を【光線】で遠くに吹き飛ばした。サータルは、自分にかかる重力に耐えきれなくなり膝をつく。手放したトキネは、闇にのせてはるか後ろの方に押しやった。地面に這いつくばるサータルに向けて、僕は巨大化させた闇の刀を振り下ろ――


「うっ……」


 ――せなかった。だめっ!まだトキネが……!僕の意志に反して視界が狭まっていく。闇が霧散し、力が抜けていく。オーバーヒート。限界が来てしまったのだ。


「あぁ、最下位(ロウエスト)であれだけ高位属性を使えばこうなりますよねぇ。ルーベスもこんなゴミにプログラムを刻むとは、何を考えているのでしょうかぁ」


 さっきとは真逆で、僕が地面に倒れサータルが見下ろしている。サータルの右足が、僕のお腹にのせられた。


「高位四属性を全て使えるのには驚きましたが、所詮最下位(ロウエスト)ですよぉ。……もういい。壊れろ」

「【絶対零度(アプソルート・ヌル)】」

 

 サータルが僕を思いっきり踏み抜こうとして、停止した。氷に覆われ、時間を止められたかのように少しも動かなくなった。


「ぎりっぎりセーフってところか……。詳しい状況は後で聞くよ。サータル相手によく耐えたね。ありがとう、ミカゲくん」


 後ろから歩いてきたのは、白い男だった。髪の毛は、淡い青みがかった白色で、背はキズキよりも少し低い。服も靴から羽織っているローブまで真っ白で、ところどころに薄い水色の装飾が施されていた。マフラーと手袋もつけており、優しそうな色白の顔以外には肌が見えない。


「だ……、れ」


 電素を使いすぎたようで、思ったように声は出なかった。しかし、ちゃんと聞こえたらしく、僕の方を振り返った男は、場違いなほどに人懐っこい笑みを浮かべた。


「初めまして、ミカゲくん。話はキズキから聞いてるよ?おれはエイス。しがない教師の人間さ」


 

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