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4 最上位、来襲

説明回です。

 

 僕がキズキたちに拾われて、一週間ほどが経過した。僕は朝日を浴びながら、刀を振っていた。目の前には、鼻歌まじりに僕の攻撃をいなすキズキがいる。僕たち絡繰人形は、戦闘に特化した種族なので特訓をするほど、経験が身につきやすいそうだ。


「まっすぐ攻めるな。相手の裏をかけ」


 そんなことを言われても……。隙一つない相手の裏をどう突けばいいんだ!周りの木々を使って裏を取ろうとしても、キズキの目はずっと僕を捕捉している。怖い。サーモグラフィー機能でも目についているのだろうか。全然あり得る。

 

 というのも、キズキの持つ独自絡繰は【発明(はつめい)(ひとみ)】というらしい。自らの所持している物質を変形したり合成したりして、顕現させることのできる目らしい。その他物質の解析諸々、便利な機能が搭載されているのだ。おまけに、スイッチなしで空の【交代(こうたい)】は使用可能である。まごうことなきチート!

 

 ちなみに、僕は絡繰が使えない。人形が使える絡繰には、「独自絡繰」という個体ごとで異なるものと、「属性絡繰」っていう九人の王の属性に起因するものがあるのだが、僕はどちらもダメだった。スイッチを唱えても発動せず、キズキに診てもらったところ、独自絡繰が高位属性四種類の絡繰でがちがちに覆われていたのだ。スイッチというのは、【過重】みたいな、人形が絡繰を発動させるために唱える言葉のことである。めっちゃ適性があるか、バカみたいに使い込めばスイッチなしでも使えるらしい。(キズキ談)


 その属性絡繰は、さらに五大属性である「火」「水」「雷」「土」「風」と高位属性である「空」「時」「闇」「光」の二種類に分かれる。五大属性は扱いやすく、体内の電素の消費も少ないが、高位属性は制御しにくく、オーバーヒートという人形の戦闘限界が早まるのだ。独自絡繰はある人形とない人形がいるが、属性絡繰は全ての人形が所持しているそうで、キズキなら「空」と「土」である。


「よし、お疲れ!ミズナがそろそろ起きるだろうから、朝ご飯行こうぜ」


 僕の電素残量が少なくなってきたのがわかったのか、キズキはそう言った。三時間ほど特訓を続けていたが、息切れは全くない。絡繰人形は全ての行動で、体内に貯蓄している電素を使用する。また、すべてのエネルギーは体内で電素に変換されるのだ。呼吸も食事もそのための行為で、変換しきれなかったものを排泄する機能はあるけど、その頻度は人間に比べるとはるかに少ないらしい。つまり、電素がある限り戦い続けられてしまうゆえの、戦闘種族なのだ。


「ねえキズキ。僕っていつかは絡繰使えるの?」

「そうだなぁ。階級(ランク)が上がっていけば使えるかもしれないが、俺も高位属性だけってのは見たことないし正直分からん」


 高位属性の絡繰は、「空」と「時」、「闇」と「光」で磁石みたいに不可分な関係にある。つまり、互いにひかれあうのだ。人形が所持する絡繰の力を一つの球として考えると、その中心の核として独自絡繰がある場合は存在し、その周りに属性絡繰があるみたいな感じである。通常は高位属性の強い力を五大属性で調和して使いやすくしているらしいのだけれど、僕の場合は独自絡繰を核にして四つの高位属性がガッチガチにひかれあって固まっているのだという。


 要するにどういうことか。電素で絡繰の力を引き出せない!しかも僕は最下位(ロウエスト)だから、余計に体内の電素が足りない!はい、詰み!――ということである。悲しい。


「キズにい!わたしも今日は特訓したかったっ!」

「はいはい、あとでな。ミズナは起きた?」

「うん、起こした。今着替えてると思う」

「トキネは?」

「……起こした、よ。うん、三回は起こした」

「へぇ、そうか」


 キズキの口角が吊り上がる。トキネが起きていないことを確信しているかのような笑みだ。全く失礼な決めつけである。さすがのトキネも、三回起こされてまだ寝ているわけが――


「……むにゃ、ズッキーニ、死ぬな……」

「殺すな」

「ふにゃっ」


 ――あった。顔に容赦なく水をかけられ、びくっと体をはねさせたトキネ。心地良い夢の中だったようだ。この一週間で分かったが、ミズナとトキネは朝が弱い。特にトキネは筋金入りの寝坊助だ。快眠を邪魔されて、不機嫌な猫のようにキズキを睨みつけている。その目線はアカリと僕にも向いた。


「アカリ。なんで、起こして、くれなかったの」

「起こしたよ!三回は!トキネが起きるって言ったじゃーん!」

「ミカゲ。なんで、ズッキーニを、止めなかったの」

「僕!?いや、ほら僕の力じゃ、キズキには叶わないかなぁって?」

「……ズッキーニ」

「なんだ?」


 起こしてやったのに、と睨まれていることに納得がいっていなさそうなキズキは、不満を押し込んだ笑みを浮かべて、ほっぺたを膨らませたトキネを見た。


「おやすみ」


 水が顔にかかったまま、あろうことか二度寝を試みたトキネに対して、キズキの笑みはひび割れた。体が小刻みにプルプルと震えている。「これはまずい……」と、僕とアカリは目を見合わせた。


「一生寝てろーーーっ!!」


 すやすやと入眠したトキネに掴みかかろうとするキズキを二人がかりで抑える。このままだと、トキネが土に埋まって永遠の眠りについてしまうかもしれない。


「ミカゲ、ちょっと待ってね」


 そう言ったアカリは、空中からハリセンを取り出した。そう、ハリセン。なんで?


「ふんっ!」


 パシーンとキズキの後頭部がいい音を立てる。キズキが膝から崩れ落ちた。


「ていっ!」


 パシーンといい音を立てて、トキネのお尻が叩かれる。トキネがベッドから転げ落ちた。


「ふぅ~」


 いい仕事した―と言いたげに額をぬぐってハリセンを収納したアカリは、トキネをクローゼットに投げ入れ、キズキの首根っこを掴んだ。


「じゃ、行こっか!」

「えぇ……。何、今の?」

「キズキが発明した人形お仕置き用ハリセン。人間の痛みを再現した信号を、電素を通して流し込むんだって」

「無駄に高性能だ……」


 絡繰人形には痛みを感じる機能がついていない。そのぶん、完全に壊れるまで戦い続けられてしまうそうだ。人形にとって「壊れる」とは、イコール死である。


 自分の発明した道具でお仕置きされて悶絶する哀れなキズキを、アカリはずるずると一階まで引きずっていった。痛みがないとはいえ、階段でガタガタと体を打つ姿は中々に可哀想だった。



***



「もう~。キズくんったら、寝ぼけたトキネちゃんにムキになるんだから」

「舐められたら負けなんだよ」

「だったらもう、キズにいの負けだね。ねえ?ミカゲ」

「ミカゲぇ」

「僕は全然!むしろ尊敬してるくらいで――」「あぁ、俺の癒しよぉ」

「ズッキーニ、哀れ」

「お前が元凶だろぉ!?」

「はいはい、ご飯食べますよ~。喧嘩する人にはご飯あげません!」


 再び喧嘩を始めようとする二人を、ミズナが諫めた。この家でミズナに歯向かう人形はいない。家事全般をしてくれている御方には、誰も頭が上がらないのである。


「エイスくんも今日帰ってくるから、早く片付けちゃいたいのよ」


 エイスくんというのは、仕事でずっと出はらっていた家族のメンバーらしい。詳しいことは会ったらわかると、特に聞かされていない。ただ、彼だけは絡繰人形ではなく、人間なのだという。


 「じゃあ手を合わせて!」とアカリが言ったそのとき、アカリの髪と目が、茶色を帯びた黒からオレンジに発光した。――「キズにいっ!右に五十メートル、チェンジ!」


 左の方から爆発音が轟いた。全員が立ち上がった瞬間、僕らは家の外にいた。キズキの髪と目も出会ったときと同じように、茶色に発光している。


「お食事の最中でしたかぁ?邪魔してすみませんねぇ。時の王クロートス様からの命で参りましたぁ。最上位人形(ハイエストドール)、サータルです」





 

タイトル変更しました。

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