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11 束の間の団欒

時系列としては、3話と4話の間の出来事です。


「たまにはみんなでクッキーでも作ろうよ」


 拾われてから三日経った日の朝、ご飯を食べ終わったミズナはそう言った。いつもは、お菓子はミズナかキズキが作ってくれる。特に、トキネの好物でもあるミチュカケーキは程よい酸味と甘みが組み合わさって絶品なのだ。


「おお~!楽しそう!わたし、お菓子は作ったことないかも」

「早速やるか!生地は俺とミズナで作るから、三人は型取りをしてくれ」


 アカリはご飯づくりをたまに手伝う程度だが、僕とトキネは料理をしたことがない。正確に言うと、トキネは一時期手伝おうとしていたのだけれど、不器用すぎて諦めたという過去があるらしい。


「舐めるな、ズッキーニ。わたしたちは、生地も作れる」

「お、おう。ほんとか……?」

「アカリ、ミカゲ。一緒にしよう」

「僕は楽しそうだし、やってみたいけど……」

「と、トキネ?無理しなくていいんだよ?キズにいとミズナさんに任せちゃっても大丈夫だよ?」

「人形が本当に壊れるのは、挑戦をやめたとき」

「「初耳だよ!!」」


 アカリとツッコミがかぶってしまった。トキネはぼんやりとしているように見えて、一度決めると中々ぶれない。僕としては一向に構わないが、ミズナとキズキがトキネへ向ける、「この子、大丈夫かな?」というような目線がかなり気になる。


「まあ、そこまで言うならやってみたらいいさ。俺らはサポートするから」


 そう言ったキズキは、空中から調理器具一式と材料を取り出した。小麦粉、バター、砂糖、卵。みんなはたまに、空中からいろいろな物を取り出す。【空箱】っていう特殊な技があるらしい。


「ねえ、その材料ってどこで手に入れたの?小麦とか生えてるの、僕は見たことないけど」

「たまに買い出しに行くんだよ。王が放棄した土地、光領パトルトってとこがあるんだが、自由に歩ける場所でな。お金も、そこで武器やら服やらを人間に売って稼いでるんだ」

「むっ、失敗」

「トキネっ!?卵はもっと優しく割らないと!殻を砕いちゃダメ!!」

「それなら、アカリがやってみて」

「仕方ないなぁ。ほら、こうやって……?」

「無残……」

「い、意外と難しいね!」

「トキネちゃんもアカリちゃんも、もっと軽く持ってみて?こうやって何回か叩くだけで、ひびが入るから、そこから二つに割るの」


 僕とキズキが話している間に、卵が可哀想なことになっていた。ボウルの中に、小さく砕かれた卵の殻がたくさん混入している。これはもはや卵の殻クッキーでもいいのではないだろうか。最初からそういうお菓子ですという体にすれば――


「――いいわけないかぁ」

「ほらミカゲ、現実逃避するな。おいっ元凶二人!みんなでこれ全部取り出すぞ。小麦とバターとは別のボウルを渡した俺、ナイス判断だったな」

「これが、挑戦の代償」

「挑戦というか、失敗というか……。あーもう!ぜんっぜん取れないんだけど!」


 確かに卵白のせいで、上手く殻が取れない。箸を殻がすり抜けていくのだ。


「こういうときはね。箸を濡らすと取りやすくなるの!ほら」


 ミズナが水道で箸を濡らすと、殻が箸にくっついて簡単に取れた。さすがキズキ曰く、家事万能超人だ。この家で、生活の知恵においてミズナに並ぶ者はいないらしい。


 ようやく殻を取り終え、生地を混ぜ合わせることで一つのかたまりになった。キズキが生地の部分だけの空間を切り取り、ミズナが空気を排出することで密閉状態にする。本来はここで、一時間ほど冷蔵しなければいけないらしい。しかし、トキネとアカリが待ちきれないと言ったことで、その工程を無理やりスキップ。ミズナが生地を冷やし、トキネが時間を進めたことで冷蔵は完了したのだ。洗練された技術だ。無駄では……ない、はずだ。


「ズッキーニ、バリエーションが、少ない。もっと、作って」


 トキネの要望に応えたキズキが、丸や三角のほかにハートや星形を作っていく。淡く茶色に光る髪と目がかっこいいが、やっていることはクッキーの型作りだ。その作られた型を使って、僕たちは型取りをしていく。


「トキネちゃん!早く食べたい気持ちはわかるけど、もっとゆっくり型を取らないと……、ほらちぎれちゃった」

「高難度……」

「トキネ……。わたしは難度の問題じゃない気がするな……」

「っ!できた。失敗が、成功を生んだ」

「おおっ!焼くのが楽しみだね」


 僕の言葉に、トキネは満足げにうなずいた。早く焼きたいというか食べたいと思ってる顔だ。全ての生地を型取りし終えたので、アカリが石窯の薪に火をつける。鉄板を入れてから、大体七か八分程度で完成するらしい。


「待ちきれない……」

「十分もかからないんだから我慢しろ」

「ふふっ、トキネちゃんは甘いものに目がないね」


 八分後、黒焦げになったクッキーがいくつかあったものの、全体的に美味しそうに焼きあがっていた。香ばしい小麦の香りが部屋いっぱいに広がった。本来は粗熱を取る時間が必要だけど、待ちきれないトキネによって以下略。


「じゃあ食べてみよう!」


 鉄板からお皿に移してくれたミズナが、早く食べたくてうずうずしている二人を嬉しそうにみて、そう言った。


「「「「「いただきます」」」」」


 みんなで一斉に食べ始めたのに、アカリとトキネによってすごい勢いでクッキーの山が崩されていく。僕はちょこちょこ食べていたが、皿の上がすかすかになりかけているのに気付いて食べるペースをアップした。ていうか早すぎ!大食い選手じゃないんだから……。ミズナとキズキは、あまり食べずに僕たちを楽しそうに見ていた。すると、二人が話している間に、アカリとトキネも何やらひそひそと話して、皿をキズキのところに持って行く。


「なんだ?食べていいの……か……?」


 キズキの笑顔は言葉の途中で固まることになった。なぜなら皿の上には、十個ほどの黒焦げになった物体があったのだから……。


「おい、ミズ……」

「じゃあ洗い物に行こうね」


 ミズナを巻き込もうとしたキズキの思惑は、あっさり破られる。アカリとトキネは満足した顔でキズキに皿を押し付けて、台所に走って行ってしまった。あ~、えっと、ご愁傷様です……。さすがに、あれは食べたくない……。


「これ、食えんのか……?」


 固まっているキズキを尻目に、僕も台所へ同行した。三十分後、キズキの亡骸が発見されることになる。さすがにアカリたちも申し訳なく思ったのか、お花を添えて目を閉じ、手を合わせ、ご冥福をお祈りした。そこからさらに十分後――、


「俺は壊れてない!アカリ、トキネ!ちょっとそこ座れ!!」


 ――生き返ったばかりにしては元気すぎるキズキの怒声が響き渡ったのだった。


「き、キズにい。わたしたちは冗談のつもりで――」

「ズッキーニへの、愛情表現」

「トキネっ!?」


 この二人の言い訳がキズキの怒りの炎に油を注ぐことになったのは、言うまでもなかった。


これで第一章が終わりました。次の話から新章に入る予定です。

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