ラスボスより強い天下無双の大ボス、凄腕ゲーマーが操作するお姫様キャラに弄ばれる
「発売日が迫って来て、わくわくが止まらないぜ。今回はお嬢ちゃんの方が
主人公なんだってな♪ 緑の服のハーフエルフの少年とは初代から四〇年
近くも戦わされて、正直飽きて来た所だったんだ。強烈な槍ぶん投げ攻撃と火の玉で大ダメージ与えて、お嬢ちゃんを苦しませてやるぞ♪」
ある日、とあるアクションRPG世界の大ボスは、城内にて満面の笑みでプレーヤー側が操作するお姫様との戦いに備えていた。
「しかし、当たれば大ダメージを与えられるのはいいんですが、RTA走者やノーダメージクリア連中には、簡単に動きを見切られてしまうかもしれませんね」
大ボスの手下の雑魚敵が突っ込む。
「ああ、あいつらね。あいつらにだけは絶対プレーして欲しくない。俺様の攻撃すらさせてもらえず見せ場も作らせてもらえず、簡単に嵌め倒されちゃうところが動画にアップロードされて、世界中で笑いものにされちゃうからな。ボス弱過ぎとか。あいつらは人間のプレーじゃねえよ。アクションゲーム苦手な奴やゲーム初心者にプレーしてもらいたいぜ」
大ボスは苦い表情を浮かべておっしゃる。
続けて開発スタッフに向けて不満を呟く。
「今回、俺様がラスボスじゃないのは、しっくり来ないよな」
「確かに今作ではこれまでのシリーズのように物語のトリを飾る
立場ではございませんが、アクション操作難易度ではラスボスよりも
手強くしてくれてるみたいです」
手下がこう伝えると、
「ほほう。それはよかった♪ 今作でも俺様は天下無双の強さを
誇っているということだな」
大ボスは満足げにほくそ笑む。
そして迎えた発売日、ダウンロード版配信時刻の午前0時。
「俺様の所に来る標準プレイ時間は20時間程度ってことだから、まだしばらくは来なさそうだな」
大ボスは、余裕の表情で眠りにつくことに。
午前2時。
「起きて下さい。お姫様がもう来そうです」
雑魚に呼び起され、
「なに! この異常な攻略スピード。RTA走者だな。せっかく開発スタッフさんが感動的なシナリオも用意してくれたのに、スキップなんかして勿体ないぞ」
大ボスはやや驚き顔。
「RTA走者ではなく、アクション操作の上手いプレイヤーみたいです。RTA走者なら三〇分台で大ボス戦に辿り着けるみたいです。このお方、ここまで一度もダメージ食らってないみたいですぜ」
「そっ、それはRTA走者よりも厄介かもな。俺様は道中のボスとは格が違うと
いうことを、おっ、教えてやらんとな」
不覚にも不安を覚えながら、対峙しに行くのだった。
☆
「こんなお嬢さんに負けるわけにはかねえ」
大ボスは槍をぶん回しぶん投げる。
しかし華麗にかわされてしまった。
「お嬢ちゃん、舐めてるのかい? なにダンスしてんだよ!」
お姫様はスピンしながら縦横無尽にどこか楽しそうに動き回る。
当たれば大ダメージの猛攻撃も、当たらなければ意味がない。
「何のんきに布団敷いておねんねしてんだよ」
大ボス、呆れてしまう。
お姫様はベッドを召喚し、すやすや眠ってしまったのだ。
体力回復効果があるらしい。このお姫様は元から満タンであったが。
「あちゃ~、完全に舐められてますよ。頑張って下さい」
別室でモニター越しに眺めていた手下は苦笑い。
「ぬおおおおっ!」
大ボス、槍をベッドとお姫様目がけて振り下ろす。
お姫様、直前に見事にかわし、
ボカーンッ! ボカーンッ! ボカーンッ!
制限時間のある剣士モードに変身するや、爆弾をブンブンブンブン投げつける。
「グワァァァ~」
大ボスの体力、一気に削られる。第二、第三形態へと移行し、さらに激しい攻撃や分身までして惑わせようするも、相変わらずダンスをするように華麗にかわされ、爆弾を投げつけられ、お姫様にダメージ一つ与えられず、惨敗。
城下町に平和が訪れたのである。めでたし、めでたし。
☆
「思うように動けなかった(泣)」
「残念ながら、プレイヤー側があまりに上手過ぎるんですよ。大半のプレイヤーは
大苦戦しますから。あんなのは全プレイヤーの中でも上位0.1パーセントくらいの
超レアです。お気になさらないで下さい」
「プログラマーさん、Sw〇tch2用に開発してるらしい次のシリーズではもっとあの連中すらをもっと大苦戦させるような設定にしてくれよ。たとえ売上が落ちようともな」
大ボスは嘆き声で、切望するのであった。