1話 梅雨の日に
代わり映えのしない毎日に退屈していた。
なんとなく毎日を過ごしていた。
そんな日常を、彼女が変えてくれた。
「結末」を望んでいた自分を。
ある梅雨の日。
雨の降る窓の外を見つめながら言った。
「…………兄さんがいたらな」
露草伶には双子の兄がいた。
兄は音楽が好きだった。
でも去年の夏、ちょうど梅雨頃だっただろうか。
兄は病気で空へ行った。
兄の言い残した言葉がこれだ。
『誰かを幸せにできる曲を作れたらな』
伶は悔しかった。
自分も曲を作れたら、そうしたら兄の願いを叶えられるのに。
月日は経ち、伶は高校生になった。
(音楽なんてどうでもいい。兄さんがいない世界なんて……)
伶は音楽から離れた。
兄のことを思い出してしまうからだ。
兄がいなくなり、次第に伶は「結末」を望むようになった。
やがて下校時間になり、傘を差して家路へとつく。
雑草達が雨に叩きつけられ、ベシベシと足掻いている。
下校時間と言ったが、本当よりも30分ほど遅い。
一人教室で窓の外を見て考えていた。
’’死ぬ’’とはどういうものだろうと。
「……伶」
不意に耳をなぞった人の声に伶は少し驚く。
しかしすぐに冷静を取り戻し、伶は後ろを振り返る。
「………百日か」
幼馴染の百日花だった。
歌がとても上手いことで有名な人物だ。
小さい頃から歌が好きなのだそうだ。
伶より一回り小さい体を隣に寄せる。
「素っ気ないなぁ」
うるさいな、という言葉に蓋を閉め、彼女に問う。
「……どうしたんだよ。こんな時間に」
「先生に頼み事されてさ。気づいたらこんな時間」
花はみんなに好かれる優等生だ。
先生から信頼されていてもおかしくはないだろう。
「そっちこそ、こんな時間にどうしたの?」
「ちょっと考え事をな」
「ふーん……」
少し沈黙があった後に伶に顔を近づけた。
「……!な、んだよ……」
急に顔を近づけてきたせいだ。
伶は少し戸惑ってしまった。
「いや、死にたがってるのかなって」
「………は?」