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01 不意に訪れたなにか

「リュカ、お前を『虹の翼』より追放する」

「え……?」


 伯爵家の嫡子にふさわしい綺麗な部屋の中。テオドール様に呼ばれて彼の部屋に入ると、豪華な椅子に座ったテオドール様に開口一番に言われてしまった。


 『虹の翼』というのは、テオドール様が作った冒険者パーティの名前だ。そこからの追放? 僕はどうなるんだろう……?


「リュカ、『虹の翼』は高貴な者のためのパーティだ。奴隷のお前にはふさわしくない。俺はつくづくそう思っていた」


 豪華な服を着たテオドール様が二重顎を震わせながら言う。


 たしかに僕は奴隷で、テオドール様はお貴族様だ。同い年なのにえらい違いだね。


 それでも、僕なりに一生懸命お仕えしたつもりだったんだけど、テオドール様はずっと僕の存在が気に入らなかったみたいだ。


 部屋の中には、テオドール様の婚約者であるまるで燭台のように細いアデライド様、テオドール様の妹であるまるまるとふくよかなクレマンス様、テオドール様の従者である筋肉質な四角いお顔のパドリック様の姿もあった。彼らも冒険者パーティ『虹の翼』の一員だ。彼らも同じ意見なのだろうか?


「やっと薄汚い奴隷が消えるのね。せいせいするわ」

「お父様に言われていたから仕方なくパーティに入れてあげたのに、ふざけたマネばかりするから目障りだったのよ」

「戦闘中だというのに急に踊り出したり、急に歌いだしたり、お前の奇行には迷惑していたんだ。旦那様の言いつけが無ければ、とっくに斬り捨てていたぞ」


 嫌われているのは自覚していた。でも、殺したいほど嫌われていただなんて……。


 それに、僕の奇行には理由があるんだ。


 テオドール様たちは、精霊と契約している。旦那様の命令で、僕が精霊さんにお願いしてテオドール様たちと契約してもらったんだ。


 でも、精霊さんたちは、一応テオドール様たちと契約してくれたけど、テオドール様たちに協力することに全然乗り気じゃないんだ。


 だから、精霊さんたちにテオドール様たちの言うことを聞いてもらうために仕方なく精霊さんのリクエストで踊ったり歌ったりしてただけなんだ。


「あ、あれは――――」

「誰が口を開いていいと言った!」


 しかし、僕の言葉はテオドール様の一喝で封じられてしまう。


 お貴族様であるテオドール様の言葉に、奴隷の僕は逆らえない。


「リュカ、お前のギフト『精霊の愛し子』のおかげで俺たちは精霊と契約できた。そこはお前の働きを認めてやらんでもない」


 世の中には、ギフトと呼ばれる不思議な力を持つ人がたまに生まれることがある。この僕がまさにそうだ。僕には精霊さんの姿が見えるし、会話することができる。そして、精霊さんたちは僕に無条件で好意を持ってくれるらしい。そういうギフトを僕は持っているみたいだ。


 だから、普通ではかなり難しいと言われる精霊との契約を僕はすることができた。まぁ、僕の精霊たちは今、テオドール様たちと契約してもらっているわけだけど……。


「だが、『虹の翼』は高貴な冒険者パーティなのだ! 断じてお笑い集団ではない! 小汚い奴隷のお前をせっかく置いてやっていたというのに、お前の奇行のせいで今や我々はイロモノ扱いだ! 断じて許すわけにはいかない!」

「…………」


 それは本当に申し訳ないと思うけど、でも僕が踊ったり歌ったりしないと、精霊さんたちがテオドール様たちの言うことを聞いてくれないんだよ……。


 僕はどうしたらよかったんだ……。


「よって、お前を追放する。父上に言って、お前を処分してもらうつもりだ」

「しょ、処分……?」


 テオドール様の不穏な言葉に、思わず体が震えてしまう。


 テオドール様は、そんな僕を見てニヤリと嫌な笑みを浮かべてみせた。


「そうだ! 我々が精霊と契約した以上、お前はもう用済みなんだ。ふざけたマネばかりしやがって! 我々を愚弄した罪を知るがいい! お前なんて拷問の上、処刑だ!」

「え……?」


 本当に? 本当に僕は殺されてしまうのか……?


 僕は助けを求めるように周りを見渡した。


 しかし、アデライド様もクレマンス様もパドリック様も暗い笑みを浮かべて僕を見ていた。


「簡単には死なせませんよ。拷問には我が家の尋問官を呼びましょう。我々の味わった屈辱を知りなさい」

「やっといなくなるのね。さようなら」

「テオドール様、こいつの処刑の際はぜひわたくしにやらせてください!」

「そ、そんな……」


 わかっていた。わかっていたけど、こんなのってあんまりだ!


「ちょうどいい。今から少し痛めつけてやろう。お前たちもこいつには鬱憤が溜まっているだろう?」

「ええ」

「いい考えね、お兄様!」

「さすがはテオドール様」

「ひっ!?」


 こ、殺される!?


「殺しはしない。だが、手足の一本くらいは覚悟しひゅごえあ!?」

「テオドール? テオあひゅい!?」

「な、なにが、あびゅうびゃ!?」

「でびびびびゃ!?」


 もうダメだと思った瞬間だった。テオドール様が、アデライド様が、クレマンス様が、パドリック様が一斉に泡を吹いて倒れてしまった。


「な、なにが……?」


 もちろん僕はなにもやってない。ただ怯えて縮こまっていただけだ。


 テオドール様たちの股が濡れていく。綺麗だった部屋の中には嫌な臭いが満ちていった。

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