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転生奇跡に祝福あれ  作者: ルミネリアス
第一章 奇跡な幼少期
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第七話 王女、出立 / EX.1ソフィのお姫様

 次の日、いつもの様に七時前ぐらいに起きた私の身支度を、これまたいつもの様に終わらせていくソフィ。



 そんないつもと同じ時間が崩れたのは、私が身支度を済ませた時だった。





 私の寝室の扉が、静かに二回ノックされる。

「メイドのイザーラでございます。ローアル様からの伝言を預かってまいりました。」

 イザーラはこの城のメイド長であり、ソフィの上司である。見た目はお婆さんだが、その凛とした立ち振る舞いは、美しさすらある。


「どうぞ。」

 私が入室の許可を出すと、イザーラは失礼しますと私に一礼して、入室する。

「では早速、お母様の伝言を教えてもらえるかしら。」

 昨日の夜の独り言姫はどこへやら。今はしっかりと姫が出来ていた。

「はい。できるだけ早くソフィと一緒に執務室へ来なさい。出立の準備をするわよ、でございます。」

「わかりました。すぐに向かうとお母様にお伝えください。」

「はい。」

 イザーラはそう短く返事を告げると、私に一礼して、去っていった。



「はあ。やっぱり、行かないとダメかぁ…。」

「姫様。」

 後ろでソフィがすごい形相で見つめているのがなんとなくわかるので、私は振り向かない。どうやら、独り言姫はまだ居たようだった。



 私の身支度はすでに済んでいるので、早速、執務室に向かう。城内はいつもより騒がしい。

 そりゃそうだ。明日から一週間、この城は王族不在の城になるのだから。それに、私の参加が突然決まった事も、少なからず影響しているのだろう。道中、様々な方達に声を掛けられる。

「姫様!姫様も参加なされるのですよね!流石です!」

「姫様。しばらくの間、城から出られるのですよね。寂しいです。」

「姫様がご不在の間も、我々がしっかりと警備しますから、ご安心ください!」

等々。



 彼、彼女らは全員城の関係者だ。私は、もっと小さい時から城の隅々を回っては、そこにいる人たちの悩みを解決したり、遊んでもらっていたりした。

 そのおかげで、私は城のもの皆に好かれている。別にこうなるように動いたわけではなく、私はただ城内をゲーム感覚で探索していただけなのだが。

 私はそんな方たちに、笑顔で対応しながら、執務室へと向かう。

 途中、後ろから「天使か…」とか言う呟きが聞こえた気がしたが、スルーしよう。




 やがて、執務室に着いた私たちは、少し緊張しながら、その扉を開ける。

 するとそこには、元気なお父様と、明らかに眠そうなお母様の姿が。

「ああ、やっと来たのね。おはよう、テラス。」

 そう言いながらも、今にも寝そうになっているお母様。

「おお、おはよう!テラスよ。」

 対照的に、絶好調なお父様。改めて、種族の差をそこに見る。

「はい。おはようございます。お母様。お父様。それで、私は何をすれば良いのでしょうか。」

 私の問いを聞いたお父様は、

「何もせずとも良い。まあ、しいて言うなら、旅先に持っていきたいものがあればソフィに伝えよ。…あまりメイド達の仕事を取ってやるなよ?」

そう言って、笑うのだった。





「じゃあ、ソフィ。よろしく。」

「かしこまりました。姫様。」

 私達は一度、寝室へと戻っていた。理由は簡単で、私の日記を持っていくためである。私は、昔、城内の手先が器用な庭師さんに作ってもらった、専用の革のケースに日記をしまってソフィに渡す。この革のケースには、私が創り出した魔法の一つ、施錠をかけている。

 え?名前がそのまま過ぎるって?…うっさい。

 私の日記は全て日本語で書いてあるため、最悪施錠が破られても、読めない…はず。





 荷物整理が一段落着いた後、あとはソフィに任せて、私は一人で執務室に戻った。

 執務室で私を待っていたのは、過保護モード発動のお父様だった。

「いいか、テラス。何かあったらすぐ我を頼りなさい!良いな!?絶対だぞ!?お前は凄く可愛いから、きっと誰もがお前を狙うだろう。だが安心しなさい。この我が、絶対にテラスを危険な目に合わせないからな!だから、絶対に我の元を離れてはならぬぞ!ああ、やはりテラスに遠出はやっぱり早いのではないのか?い、いやしかしテラスの為にもやはり遠出は必要であr」

「…うるさい」

 そう言って、お父様の頭に魔法で水をぶっかけた。



 お母様が。

 お母様、グッジョブ。



 文字通り頭を冷やしたお父様は、

「…すまんな。これではまた、エスタルに叱られてしまうな。しかし、テラスよ。本当に何かあったら、どんな些細なことでも良いから、相談するのだぞ。分かったな。」

 お母様に水をかけられた事など気にもならないのか、びしょ濡れのまま笑顔で私のことを心配するお父様と、うるさそうにしているお母様。本当に良い夫婦の間に生まれたものだ。

「お父様、私、分かっていますから。そんなに心配なさらないでください。」

 そう言って、心の底からの笑みを浮かべる。出立の準備のため、執務室を出入りしている使用人の誰かから、「天使か…」という呟きがまた聞こえた気がしたが、スルーした。





 それから数時間後、遂に準備が終わり、予定より早く出立することが決まった。外を見ると、多くの馬車と、護衛の騎士たちが見える。

 私たちは、正午を告げる鐘とともに、遂に世界会議の会場へと進み始めたのだった。



_____________________________________

EX.1 ソフィのお姫様


 私は、ソフィ・トラバント。この国、シュトラール王国のトラバント侯爵家の令嬢。

 私は元々、スパイのような役割を持たされて、王宮にメイドとして就職した。

 当時、私の様な邪な理由で、城に仕えている者は少なくなかった。しかし、私のような者たちに対し、この城の警備体制は万全だった。王は、真に信頼できるもの以外を見事に見分け、近くに置かないようしていた。また、王の近くには常に近衛兵がおり、少しでも近づくと、とんでもない索敵能力で、警戒されてしまうのだ。



 そんな頑丈な警備体制に、私はスパイ行為を働くことを早々に諦め、普通のメイドとして働いていた。メイドを辞めなかったのは、単にこのまま何も情報を掴めずに実家へ帰ったら、居心地が悪そうだったからだ。それに、帰ったところで私に待っている未来は、どこかの誰かに嫁に出されるぐらいであろうから。



 そんなある日、大事件が起こる。

 そう、姫様の誕生である。



 城の全てのメイドが、姫様が生まれるまではローアル様に、姫様が生まれたら姫様に媚びを売りまくった。私は、その輪には参加しなかった。

 その時は、私は何をやっているのだろうと思いながら毎日を過ごしていた。

 きっと自暴自棄になっていたのだろう。




 そんな光景が続いて、四年。ある日、姫様が面白いことを言った。

 そして、その言葉が、私の人生を変えた。

「私に一切の遠慮をしない事が出来る者だけ残りなさい。それができない者はここから出ていきなさい。」

 その当時、突然国王陛下から招集がかかり、王座の間に集まった城内全てのメイド達の間には、動揺が広がった。



 しばらくその動揺は収まらなかった。しかし姫様と国王陛下は、ただ、黙ってその様子を見ていた。その様子を受けて、メイド達は段々と静かになっていった。




 どれくらいの時が経ったのだろうか。一人、また一人と王座の間から出ていくメイド達。




 最後まで残ったのは、私だけだった。最後まで残ったことに、特に理由はなかった。

 なんだかもう、全てがどうでも良くなっていた。



 そんな私を見て、国王陛下は静かに声をあげる。

「最後まで残ったのはお前だけか。名を名乗れ。」

「は。ソフィ・トラベントでございます。」

 私は、跪き、胸に手を当て、そう答えた。

 国王陛下はしばらく私を吟味するように見つめると、姫様の方を向き、あとはお前に任せた、と言い残して、王座の間から立ち去った。



 少しの静寂。その後、姫様は私に接近し、なんと私の手を取り、私を立ち上がらせたのだ。

 そんな行為は、王族がただのメイドに対してしてよい態度ではなかった。



 しかし呆気にとられた私は、そのまま立ち上がってしまう。そんな私に姫様から追撃の一言が。

「じゃあ、貴方が、今日から私の専属メイドね!そして命令!私に媚びを売らない事!私に遠慮しない事!そして最後に…」

 その最後の命令が、私の心の氷を、一気に溶かした。その衝撃と、あの感覚は、今でも決して、忘れない。


「私と友達になること!」


 止まった時間が動き出すように、みるみる変わっていく私の見えていた世界。

 私の眼には、自然と涙が溢れていた。

「っはい!姫様!どうか、私を!貴方の傍に、置いてください!」

 気づいた時にはすでに、そんな言葉が、涙とともにあふれ出ていた。




 姫様と共に、涙目のまま国王陛下とローアル様の元に報告をした。

 先ほどまでの威圧感が嘘であったかのように、お二方は私を温かく迎え入れてくれた。






 その次の日。

 私は朝早く起床し、姫様の寝室へと向かった。姫様の部屋にノックをしたが、反応はない。

 私は、少し悩んだ後、昨日の命令のことを考え、勝手に入室する。

 案の定、姫様は眠っていた。

「姫様。おはようございます。起床する時間となりました。」

「んんー?あと五分…。」

 そう言いながら二度寝に入ろうとする姫様。


 そんな姫様の布団を、私は掴み、姫様から勢いよく引きはがしたのだ!


「うわ!?」


 そう言って困惑している姫様に、私は笑顔で告げる。

「姫様。おはようございます。」




 姫様は一度拗ねたような顔をなさった後、とても嬉しそうに笑ったのでした。

世界会議、行きましょうか。

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