第五十話 王女の新たな日常
どうも。テラスです。
皆様ご機嫌いかがでしょうか。
こちらはもうしっかりとした寒さを感じる季節となりました。
何となく見た窓から見えるのは、寒くなった事で葉が落ち切り、見ているこちらもなんだか寒くなってきてしまう一本の木。
以前、こちらに止まっていたあの小鳥は今、何をしているのでしょうね。
「ふわぁぁぁ……。」
そんな事を考えながら、今日も私は一人あくびをした。
大きく開いた口を手で隠す事なく、私はだらけた動作でベッド横のキャビネットを見た。
するとそこには、これまたいつもの用に保温された食事が、トレイの上に乗せてある。
上半身だけを起こした私は、その食事をベッドの上の布団で覆われた自身の太ももの上に置くと、ベッドの上で食事を取るという非常に行儀の悪い行いを躊躇なく始める。
これが、一国の姫の姿である。
……さて、今日の食事は、この街に来てから食事の七割ぐらいを占めている、魚料理。
ここ、ヒュディソスが港町だから仕方が無いのは分かっているが、まさか魚メインの料理より、野菜メインの料理を求める日が来るとは思わなかったのだ。
もし、ヒュディソスの港が貿易港ならもっと沢山の料理が食べられたのに……。
しかし、先程文句を言った私は一口食べると、
「んー!!でも美味しくて飽きないんだよね〜!!」
と、この様に、いつも手のひらを返すのであった。
「ご馳走様でした。」
パンっと音を立てて手を合わせると、私は前世日本の食事の挨拶で食事を終える。
本当は、「恵みの世界樹よ〜……」みたいな食事の挨拶があるけれど、長いしこっちの方が身に沁みていて好きなのだ。
食器が乗ったトレイを元の場所に戻し、次にやるべき事がある私は現在、そのまま布団に潜っているのであった。
それは何故か。
「だって寒いもん!!」
おっと。つい、本音を叫んでしまった。
がしかし、本当に寒いのだ。
この世界、魔法技術はあるが科学技術は見た事がない為、現代人の必需品であるエアコンが無いのだ。
魔法も、化学反応を知らぬ間に使用している事があったりするのだが、今の所魔力を帯びていない機構を見たことが無い。
まぁ、無限かつ便利な燃料の魔力やマナを使わないなんて、現代で例えると、無限に湧き出る石油源の隣で木炭使って頑張ってるみたいなものだからね。
何なら、石油とは違って採掘しなくていいから、奪い合いの争いも起こらなくてなお良いのだ。
話が脱線した。
要するに暖房器具無くて悲しいって事なのだが、ではこの世界ではどう温まるのか。
「ああ寒っ!」
と、私が布団から片手を出して異空間収納から取り出したのは、木の欠片。
そう、薪だ。
わぉ原始的!!…なんて、言ってても仕方がない。
私は部屋の中にある暖炉目掛けて何本かの薪を、異空間収納から取り出しては投げを繰り返す。
私の風魔法による援護を受け、適切に飛来していく薪。
そうして、バラバラに積み上がる薪のタワーは完成したのであった。
そして仕上げとして、私は指先に小さな火の玉を魔法で作り出すと、それを薪タワーに向けて飛ばし、暖炉に火をつけたのであった。
日をつけ終わった私はベッドに横になり、布団に包まったまま顔だけを出し、そしてボンヤリと火を眺める。
やるべき事をすっかり忘れ、眠気を強く感じながらウトウトする私は、ふと以前行った実験を思い出した。
それは、魔法の炎を無理にでも安定させる実験。
魔法依存、つまり燃える物を持たず魔力のみで燃え続ける炎は、その燃え広がる性質のせいでどんどん魔力を取り込んでしまうので、どうしても安定しないのだ。
そのせいで、魔法の炎を使った暖房器具作成に行き詰まった当時の私は、魔力を制限してみたり、一定以上燃え広がったらその燃えすぎた部分だけ消化する機構を作ってみたりしたのだが、その全ては失敗したのであった。
そして分かった事を、当時を思い出しながら私は呟く。
「そりゃあ、今まで誰も作ってこなかった訳だ、ってね。懐かしいな…。」
そんな感じで過去に思いを馳せていると、段々と眠たくなって来た。
そのまま私はまどろむ意識に身を任せ、眠りの世界へと突入して………。
「……って、駄目駄目。」
危うく眠ってしまうところだった私は首を振り、慌てて目を覚ます。
危ない危ない。
せめて、日課であるあれだけはしなくては。
そう自身を呼び覚ますと、覚悟を決めてベッドから暖かくなった室内へ出ていくという大冒険に乗り出す。
上体を起こし、布団から足を出し、そして床に足をつけると、
「うわ寒っ!?」
と、想像していなかった床の冷たさに襲われる。
この、『部屋が暖かいのに床は冷たいトラップ』に掛かるのも、もう何回目だろう。
なぜ学習しないのか……、と自分に呆れながらも遂に布団からの脱出に成功した私。
これでようやく、目を覚ましてから約一時間半ほど掛けてついに、床に足をつけて二足で立つことができたのであった……。
起き上がった私は、
「あー、外出たくない。…でも行かなきゃな…。」
と何度も呟きながら、部屋に置かれた質素なタンスから適当に服を取る。
…まぁ、適当とはいえ私は姫なので、流石にジャージみたいなのは着れない。
更にいうと、今この別荘で働いているのはルーフが連れてきた使用人達なので、仲良しの使用人達の前みたいな振る舞いは出来ない。
……やっぱり、外、出たくないな。
流石にこれ以上モタモタしていると暗くなるので、少し急ぎ目に私は身支度をする。
動きやすさ重視の簡単なドレスを身に着け、ホントに軽くお化粧をし、鏡を見ながら魔法も使って寝癖を整え……。
そうして完成したのは、黒いドレスに白い髪が美しく映える立派な姫であった。
……まあ、既に半分以上は黒く染まってしまったけれどね。
私は鏡に映る自分を見て、消える前世の記憶とは対称的に、前世に近づいていく見た目を改めて実感する。
違うのは、瞳の色とこの頭に生えた片角ぐらい……、
「……ってあれ?前折ったもう片方の角、生えてきてる…!?」
何となく感傷に浸ろうとしていたのに、そんなの見つけてしまったらそっちに目がいってしまうではないか。
それにしても、へー。
前素材として使った私の角って、再生するんだね。
それなら安心して、もう片方の角も使えるじゃん!!
これでまた何か作って、エクラにプレゼント出来る〜!
何だか不思議なサプライズがあった私は上機嫌となり、そのままルンルンとしながら部屋の外に出た。
部屋の外には、私の部屋を守護している兵士がしっかりとその責務を果たしていた。
そして、私が突然出てきた事で少しビクッとしたのだが、
「これは王女殿下。おはようございます!」
と、感じ良く敬礼してくれた。
私はそれに笑顔で答えると、そのまま廊下を歩き出す。
その廊下は、私が最初に住んでいたシュトラール城離れよりも更に質素だが、何だか木造の校舎みたいなので私はかなり気に入っていたりするのだ。
廊下を歩くと、すれ違った使用人達は皆とても感じよく私に挨拶をし、私から話しかけるとそれはそれは楽しそうに返したりしてくれる。
が、私はその全てを挨拶だけしてスルーし、そのまま階段を下って外に出た。
外は案の定寒かった。
だがそれは、この館内に比べると大したことが無いように感じてならないのだ。
「あぁ〜〜、ホントーにヤダヤダ。」
と、私は虚勢を張りつつ目的の場所へと歩き出す。
私の魔法の出番なく整えられた中庭に物悲しさを覚えながら、私は中庭には入らず、館の外周に沿って歩く。
そして私は、館の裏へと進む。
館の影で日中なのに暗いそこには、
私が真っ先に作った、小さな墓地があった。
私の親衛隊としてここに来たのは、国の精鋭兵二十名と、給仕兵や医療兵など後方支援の十名。
……そして今回、犠牲となったのは計十三名。
その内、遺体の引き取り先が無い四名がこの墓地で眠っている。
私は、先程物陰で異次元収納から取り出した花を四名の墓石の前に手向けると、手を合わせ目を閉じ祈りを捧げる。
そして、追悼の言葉を捧げようと口を開くが、
「………。」
今日もまた、私は何も言えないままであった。
目を開き手を戻した私はその場にしゃがみ、目の前にある墓石に掘られた名前を見る。
そして、
「あ〜あ……。やっぱり、外も寒いね、……アッフェ。」
と話しかける。
そして私はそのままの姿勢で、思い出を語る。
出来るだけ、楽しそうに。
…少し大げさだけどいつも元気いっぱいで、皆を明るくしてくれた事、私が作った異世界の料理を、いつも嬉しそうに食べてくれた事、何でも無い事でも、私を褒め称えてくれた事………。
もう何度目か分からないそんな話を、私は今日も冷たい墓石に語り聞かせるのであった……。
その後も出来るだけ笑顔を保ちながら、私は話を続けた。
そうして一時間が経過しようとしていた時、既に少しずつ日が落ちているのを知った。
そろそろ帰らないと兵士に詰められるので、
「私は、そろそろ戻るね。…それじゃあ、また今度。」
と言って、部屋へと戻っていくのであった。
またしても使用人達に挨拶をされながら帰ってきた私は、部屋の扉を閉めると即座に布団に飛び込む。
そして独り言。
「あーー……。やっぱり、あの場所に行くと辛くなる……。使用人達からは距離感を感じるし。…はぁ……なんか、うな重とか食べたい気分。」
前世日本であれば今頃、私は制服のまま寝転んでスマホでも弄っているところだろう。
でも流石にスマホは無いし、魔法で作れるとも思わないので、ただ天井を眺めるばかりだ。
「あーー、暇…。」
さて、そんな感じで呟く私が今から何をするのかと言いますと、
「んー、ここはもっとこうすればいいのか……?あっ、いやー、こうしたら強度が……。」
とこのように、私がやること無い時にやる暇潰しランキング一位の、魔法の制作をするのだ。
私が目を覚ましてから二週間が既に経過しているが、その間私は上記の様な一時間だけ外に出て、後はずっと部屋の中という生活を繰り返してきた。
あの日の私はルーフに仕事を任せ、エクラにしばらくの休養を与えられた。
そうして本当に大量だった仕事は、私の前から突如として消え去り、その結果生まれたのは、ただひたすらに暇過ぎる時間であった。
楽しかったのは初めの三日だけ。
段々と虚無感、そして何もしなくて良いのかという罪悪感に苛まれていく。
この感覚を味わうのは、二回目である。
だが、引きこもり生活三週間目に突入した私は、既にそんな感覚克服しつつあった。
それは、今製作しようとしている魔法の研究が、想像以上にワクワクを与えてくれるからだ。
以前から少しずつ作ってきてはいたが、今回の引きこもり生活で、その研究の進捗速度は格段に向上し、加速していく。
そしてこの日、私にとっても世界にとっても、割と革命的な魔法がついに完成する。
生活習慣などとっくに壊れている私は、夜通しぶっ続けで研究を続けた。
途中、夕食を持ってきた使用人と昼食の食器を交換し、魚介系のパスタっぽい何かを食べたりしたが、それ以外はずっと研究だ。
あ、パスタも美味しかったです。
私がそんなに没頭した理由は、作業に没頭する事での現実逃避もあるが、少し行き詰まっていた点に光明が差したからというのが大きい。
「!?、これは……!」
キタキタキタァ!!と、大はしゃぎしながら研究は進んでいき、そして気がつけば、時刻は朝を迎えていた。
コンコンっとノックがなり、私の返事を待たずして扉は開かれる。
こんな大胆な事が姫である私に出来るのは、
「姫様。おはようございます。」
もちろん、ソフィだけだ。
ソフィは、体調面で未だに少し不安が残っているので、今はこうしてモーニングコールとその後の朝食のみを任せているのだ。
挨拶をしながら扉を開けたソフィは、机の上でこちらも見ずワナワナと震えている私を見つけ、
「姫様?また夜ふかしですか?」
と、呆れ顔を浮かべる。
そして、扉を閉めたソフィがこちらに近付いてきたその時、
「……出来たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
とガッツポーズをしながら思わず叫んでしまった。
ソフィは一瞬ビクッとしたが、それよりも今は早く使ってみたくて仕方が無かった。
ソフィは、
「お、おめでとう御座います。それで、一体何を完成させたのですか?」
と、私が聞いてほしくて仕方がない事を察し、そう聞いてくれた。
私は、それはもう満面の笑みで、
「ソフィ!手を出してくれる?」
と、手を差し出す。
ソフィは、
「……仕方ないですね。」
といった感じだったが、何だか少し嬉しそうに私の手を掴んだ。
すると、既にハイテンションな私はその手を強く引っ張り、
「きゃっ…!」
という小さな悲鳴を無視し、ソフィをお姫様抱っこする。
「えっ、姫様…!?」
私は、顔を真っ赤に染め上げているソフィに気が付かずに、興奮のまま声を大にして伝える。
「行くよ!!目は閉じててね!!!」
その言葉と私の行動に色々混乱しつつも、ギュッと素直に目を閉じるソフィに可愛げを感じつつ、私は魔法を発動した。
「転移・小!!」
私が謎の言葉を発した後、やけに冷たい風が自身に当たるのを感じるソフィは、
「あ、あの…、姫様?」
と、不安げな声を漏らす。
そんなソフィに、
「ほらソフィ!見て見て!!」
と、興奮気味に伝える。
一体…?と目を開けたソフィが目にしたのは、
海に広がる地平線から現れた、美しい日の出であった。
「綺麗……。」
私が感嘆の声をあげると、
「ええ…、姫様……。」
と、ソフィもウットリしながら景色を眺める。
しかし。
「…えっ…?」
ソフィは、気が付いてしまったのだ。
自分が、ヒュディソスの街の遥か上空にいる事に。
突然だが、この世界には空を飛べる種族と飛べない種族がいる。
そして飛行機なんてないこの世界では、飛行魔法というかなり高度な魔法が使えない限り、空が飛べない種族が空に進出することはほぼ無い。
ならばもし、生きてきて一度も空を飛んだことが無い者が突然空に飛ばされた時、どうなるであろうか。
「凄い……、これが、空……。」
「……あれ?ソフィ、怖くないの…?」
とても嬉しそうに辺りを振り返るソフィに、余りにも予想外な反応だと驚く。
おかしいな……、もっと取り乱したりするのかと思ったのに……。
と、少しガッカリする私。
しかしそんな私にギュッとソフィは抱き着くと、
「恐怖を感じないといえば、嘘になります。ですが、今の私は姫様に支えられていますので、安心できるのです。それに、今こうして空に来られた嬉しさに比べれば、大した事は無いのですよ。……姫様、ありがとうございます。」
と言い、少し頬を赤らめたソフィは再び景色を眺めるのに戻った。
そんな可愛い事するの…!?と心臓バクバクな私は、赤く染まった頬を朝日のせいだと微笑むのであった……。
あっ、そういえば。
……無事に転移・小が発動したじゃん!!
やった!!まだ、これぐらいの距離しか移動できないけど、これが完成したなら、ここからシュトラール城へと一瞬で移動、みたいな事ができるようになるのも時間の問題だろう。
これは世界が変わるぞ……!!
まあ、勿論公開する気なんてサラサラないけれどね。
とにかく今は、この美しい朝日の思い出と共にに完成の喜びも記録しておく事にしようか。
それと、今度はエクラも連れてきたいな。
私の代わりに全ての業務をこなす、そんな可愛い私のエクラを、、ね♡。
実はお墓の部分、初めはもっと暗かったのですが、余りにも文章の前後で温度差が凄過ぎてグッピーが死にかけたので、変更しました。




