第四十七話 光に相対するは大罪
暗雲立ち込む空。
暗き空は、不吉な何かを私に感じさせる。
焦りはより強く、祈りはより濃く。
だけど
だけど私は。
「絶対に…!絶対にソフィを連れて帰ってみせる!!!」
〜その距離は〜
私の決意の咆哮を受け、悪魔は表情を変える。
「…へぇ。この娘、ソフィって言うんだ…。」
ほんの一瞬の変化であったが、私は見逃す様な間抜けでも鈍感系でもない。
一瞬の変化を見た私が警戒心を持とうとした次の瞬間、悪魔は先程の人を馬鹿にしたような表情に戻り、またあの動きと声に戻る。
「じゃ〜どーする??ファルはぁ、戦っても多分負けちゃうから、出来れば戦いたくない。けど、面白い事はしたい。お姫さんはぁ、このメイドちゃんを助けたい。けど、ファルに攻撃したらメイドちゃんを失っちゃうかもしれない。あれ?お互い詰んじゃったぁ!!!アハハッ!!」
ご丁寧に説明してくれた悪魔だが、実際本当に詰んでいるから何も言えない。
残念ながら今の私には、ソフィの身の安心を確保しつつこの距離を詰めることのできる魔法や能力は……無い。
前世のゲームや漫画のように、都合よく私が進化したり、何かの力に目覚めたりと言った事は……まぁ起こらないとは限らないけれど、そんな可能性に賭ける余裕は無い事は事実だ。
が、それ以外に縋る事が出来ない事もまた事実。
どうすれば…。
突破口の探求をする私を見る悪魔はそれは楽しそうに顔を歪ませる。
実に不愉快だと私は苛つきを覚えつつも平静を装ったが、それすら見透かされているのだろう。
そんな時であった。
「ね〜ぇ、もう分かったでしょ?突破口は無いの!!そんなだんまり決め込んで考え込まないで!!つまらないから、そんな事よりファルと遊んでよぉ!!!!………あっ、そうだ♪」
悪魔があの提案をしてきたのは。
「じゃ〜あ、今からファルとゲームしよ!!」
「ゲーム…?」
私が眉をひそめると、悪魔はニヤリと笑う。
「そう!ルールは簡単的あてゲ〜ム〜!!!」
……物凄く、嫌な予感が、する。
不安が表情に出た私を見て、顔を愉悦に歪ませて高笑いを浮かべる悪魔。
「うんうん!良い表情だね〜!!それじゃあルールを説明するよ〜。まず、一番大事な的は〜〜……、」
私は最悪を想像し身構える。
だが。
「このファルちゃん!!」
「…え?」
思っていた事と違った回答だったので、私はつい反射的に返してしまう。
それをまあ悪魔は嬉しそうに
「あっ、驚いた?だよね〜!!メイドちゃんを的にすると思ったよね〜!!でも的はファルちゃんだから〜〜、安心して?アハハ!!」
と笑う笑う。
あー、あー!!
段々苛々の我慢が厳しくなってきた私を他所に、悪魔は説明を続けた。
「それでね!お姫さんはぁ、……ただ一発私にどんな攻撃でも良いから当てて、傷を付けたら勝ち!!!チャンスは五回ね〜。どう?ファル太っ腹!!!出血大サービス!!」
……?………???と、私は疑問符で埋め尽くされる。
そんな上手い話ある訳が無い。
「…一体、何が目的なの?」
捻り出した私の声は、最早不安を隠しきれておらずとても弱々しかった。
…まあいい。どうせ、この悪魔は見抜くのだから。
「んー?目的ー?暇つぶし〜。それよりそれより〜!やる?やらない?」
心底腹が立つ。が、それより何か裏g
「何か裏があるんじゃないか…って顔してるね〜!!んーーーーー。」
「正解…♪」
その時、私は全身に鳥肌が立つのを感じた。
その時悪魔が浮かべた表情は、今までこの悪魔があげてきたどの表情よりもおぞましかったのだ。
「……裏、特別に教えてあげる…♪それはね…、このメイドちゃんを…」
「盾にするの〜〜!!!」
「ルールを纏めるよ!チャンスは五回。メイドちゃんを盾にして隠れるファルに、どんな攻撃でも良いから当てて傷を付けたら、お姫さんの勝ち〜!!どう?やる?やるよね???」
元気よくそう言い寄る悪魔。
それに対し私は、
「冗談じゃない…!そんな事、出来ない…!!」
と、最悪を想定して震え、そして拒否してしまった。
王族失格だろうか。姫失格だろうか。
でも、覚えていてほしい。
私の精神は、平凡な日本人である。
……元々、私は心が弱かった。
例の事件から、私は少しづつ前世の記憶を取り戻しつつあった。
そして思い出した。
私は昔、心が弱って外に出る事が出来なくなった事があった。
学校、課題、試験。
それらは私にとって負担とはならなかった。
なら、何故心が弱って外に出られなくなったのか。
いい友達に恵まれていた。
家族も、裕福では無かったが、お金以上に大切なもので溢れるいい家族だった。
だが私は弱く、一人で何も出来ない人間だった。
だから、私はそれらに依存した。
そして進学や就職で地元や親元を離れる子が沢山居る事を知ったあの日、私の心は失う事への恐怖に耐え切れず、崩壊した。
…そんな、人間だった。
そんな私は人間では無くなり、圧倒的な力を得た。
一人でも、何も問題は無かった。
…それなのに心は、心の強さは決して変わることは無かった。
それは、城内の私の部屋に良く現れている。
あれは私の深層心理が、前世の常識や価値観を失う事を恐れた結果だろう。
結局私は本質的に、何かを失う事が怖いのだ。
何かトラウマがある訳では無い事が余計に厄介だと思う。
……そんな私の弱点が今回、悪魔の前でも出てしまったのだ。
私が恐怖に震えているのを見た悪魔はまたもや嬉しそうに顔を歪ませて……
いなかったのだ。
その顔は、怒りと呆れに満ちている。
そして、悪魔の口調は、まるで別人の様に落ち着き、その瞳は冷淡なものへと変わっていた。
「…ふざけてるの?ねえ、この状況で断れるわけ無いって分からない?どっちが上の立場か分かってないの?……そんな表情を浮かべるなんて、このメイドちゃんの事、そんなに大切じゃないの?……あ〜あ。最悪。」
…
……
………はぁ、全く。どうして敵なんかに冷静にさせられているのか。
あんなどうでもいい昔話なんかして、ソフィを助ける一筋の希望を捨てる言い訳を探すなんて、馬鹿だ。
……私はソフィを助ける。
それ以外を考える必要など無い!!!
我を取り戻した私を見て、悪魔の顔は怒りから一転、パーッと明るいものとなる。
そして嬉しそうに
「え!?やる?やる??」
と聞いてきたので、私も飛び切りの笑顔と共に返してやった。
「ええ、かかってきなさい!!」
私の返事を合図に、再び戦いは始まった。
距離は変わらず。ただ、先程と違うのは今から攻撃をすると相手が確実に理解している点だ。
既にソフィの後ろに隠れ、わざとらしく身体の一部分を出したり引っ込めたりする悪魔がウザいが無視し、私は第一作戦を考える。
チャンスは五回だ。
不意打ちは有効では無いと、先程の戦いで分かっている。
広範囲攻撃も駄目だ。ソフィに当たってしまう。
環境を利用する?…近くにあるのはテントの残骸と意識の無い親衛隊達、そして土やレンガ。確かに悪魔に少しでも当たれば勝ちだが…。
と私が考えていると、すっかり口調が戻った悪魔が不意に、
「あっ、言ってなかった。あのね〜、ファルに少しでも傷がつくと勝ちなんだけど、このメイドちゃんに少しでも当たったらお姫さんの負けね〜。そうなったら、あっちにメイドちゃんを連れて帰るから〜〜。よろしく〜〜!!」
と言う。
サラッととんでもない事言われた…。
…って、ん?
「そういえば、私が貴方に傷をつけられたらどうするの?さっきのは、私が失敗した時どうなるかの説明だよね?」
…説明、無かったよね?と私が聞くと、
「あー、うーん、このメイドちゃんを素直に返しても、多分ファルを無事に帰すなんてしないよねー。……そうなったら、しょうがないから戦うかも?あ、メイドちゃんはちゃんと返すよ!!」
と言いつつ小指を立て約束!、という悪魔。
まあ全く持ってその通りで、無事に帰す訳が無いのだが。
少しして、ファルが段々隙してきた頃とある一つの考えが思い浮かんだので、それを実行して見る事とした。
即決した理由は二つ。
あまり悩んでても仕方が無いのと、あまり時間をかけ過ぎるとファルが飽きて何か別の事を始めるか、もしくは逃げてしまうかもと思ったからだ。
先程まで思慮に耽っていた私が顔を上げたので、ファルは嬉しそうに聞いてきた。
「準備!出来た??出来たよね!!」
「…ええ。あ、因みに、どんな魔法を発動したかとか説明しなくてもいいの?」
それに対しファルは
「うん!いいよ〜。ファル、楽しみ!!」
と、答えるのであった。
気を取り直し、私は早速最初の魔法を発動させた。
「操風・濃酸霧!!」
私の手に現れた小さな魔法陣からは、緑の霧のような、雲のようなそんな何かが飛び、そしてファルに迫った。
「おおっ!!」
とファルは嬉しそうに声を上げつつソフィの後ろに隠れた。
が、その緑の霧はソフィには当たらなかったもののその成果は、ただファルの足元が緑色になっただけ。
「…えー?嘘でしょぉー?…えと、とりあえず1回目の挑戦は〜、しっぱ〜〜い!!!」
ファルはさぞガッカリと言わんばかりにコチラを睨むが、それでも律儀にMCをしていた。
……これでいい。次に進もうか。
既に、次に放つ魔法を決めている私は早速、
「そのまま続けて次いくから。」
と、ファルに伝えた。
ファルは、
「えー、まあいいけど。今度は面白くしてね〜。」
と不機嫌そうに話した。
まあ、あんだけ待たせてその結果が緑色の足元は流石に面白くないよね。
でもその余裕、この魔法で崩してみせる。
「操風・濃碧霧!!」
私がそう唱えると、再び私の手には小さな魔法陣。
そしてそこから現れるのは、青緑色の霧。
圧倒的デジャブに、
「えー!!ホントに言ってる!?」
と、ファルご立腹。
だがこの世界の住人は(多分)知らない。
化学反応、というものを。
ソフィを避けたそれは、ファルの足元に広がる緑に近づき、やがて一つとなる。
その時、ガッカリと言わんばかりであったファルの表情は一変。
その顔は、驚愕と歓喜に満ちている。
それは、2つの霧が重なった時それは凄まじい温度となってファルに襲いかかったからだ。
仕組みは超簡単。ただの中和反応だ。
一つ目の霧は酸、二つ目の霧はアルカリ。その二つが結合した時塩と水を生成するのだが、その際「熱」も発生するのだ。
その熱を、魔法というスパイスで超強化したのが、今回の合体魔法だ。
え?もっと詳しく?分かりやすく?
……グー○ルに聞けグ○グルに!!
それより、この魔法の利便性についてだが、これは知能の低い相手に対し矢を二本用意し、一本目をあえて外して、それを見て油断した相手を二本目で仕留める、みたいな使い方が出来るのだ。
致命傷には至らないが、相手の隙を作るには割と使える魔法だと思う。
更に、反応時に白い靄も出てくるので、目くらましにも使えてしまうのだ。凄い!
そしてもう一つ。出来ればそれは使わなくても良かったりすると有り難いのだが……
さて、熱発生時に一緒に発生した白い靄が少しずつ晴れてきた。
白い靄に害はないのでソフィが傷つく事は無い。問題はファルがどうなったのか。
死んではいないだろうけれど、先程から一切音沙汰着が無いので一応警戒しておく。
さっき負けたら戦闘とか言ってたから、もしかしたらこの白い靄に乗じて奇襲を仕掛けてくるかもしれない。
しかし、私のこの心配は杞憂に終わった。
靄から現れたファルは、それはそれは幸せそうに頬を赤らめていたのだ。
……無傷で。
「すっごぉぉぉぉい!!!一つ目の霧は、失敗じゃ無かった!!ファル、感激!!!はぁぁ、ホントサイッコー!!!……でもごめん!暑かったけど、ファルに傷がつく程では無かったかも…。」
効かない……!
相手は自称だが高位の悪魔。
侮り過ぎていたか……。
…悔やんでも仕方が無い。
チャンスはあと三回、という事実が私に段々と体重をかけてきているが、それよりも大事なのは、ファルがあんな『誰でもわかる超簡単ドヤ顔で書いたら恥間違い無し』な化学反応に驚き攻撃を受けたという点だ。
それならば、私が次に繋げようとしている魔法も恐らく通るだろう。
…まあ、ハッタリの可能性もあるけど。
とにかく、これで次に放つべき攻撃に目安がついた。
高火力かつ凄まじい精度で挙動を制御出来る魔法……。
私は精神を落ち着かせ、深呼吸をする。
そして、真剣な面持ちでファルの方を向いた。
「え、なになに!?もしかしてぇ…本気モードってやつ!?!?!?」
ファルは、本当に心の底からただ楽しんでいる事だけが伝わってくる。
結局、最初から傷なんて付くはずがないと考えてこんな事を始めたのだろう。
「…なら、私がそのフザけた態度ごと射抜いてあげるから!!」
そう言うと私は髪留めを髪から手に取り、その姿を長弓へと変化させた。
「普段は隙が大きすぎて絶対に使わないけど……。」
そう言いつつ作り出すのは魔法で生成された雷属性の大きな矢。
私は弓を引き絞り、真っ直ぐファルだけを見つめながら矢に魔力を込めていく。
訪れる静寂。
張り詰める緊張感。
これを外してもあとチャンスは二回あるなどという甘い考えは捨て、
この矢に、全てを込める。
「…ソフィは渡さない!!雷光貫矢!!!!」
それは、凄まじい威力と速度を誇る代わりにチャージ時間を必要とする、ロマン砲のような魔法。
私の覚悟と決意をのせ、愉悦に溺れし愚劣な悪魔を討ち滅ぼす正義の一矢。
だが、正義というものは往年、悪に敗れるものなのだ。
「素晴らしい力……♪じゃあ、返すね!禁忌・プロテウス。」
『 ……一体、何が起こったのでしょう。
私は震える体を抑えテラス様を送り出し、お邪魔にならないようテント内で息を潜めていたというのに。
どうして、私の元に、
「エクラっ!!!!」
破壊は、飛来しているのでしょうか。』
……魔法は、私に力を与えた。
けれど、決して奇跡は与えなかった。
結局、前世も今世も変わらない。
与えられた事以上は、どうしても出来ないのだ。
…ならば諦めるのか?
……そんなの、前世と何も変わらないじゃないか!!!!!
「超越!!!!届けえええええええ!!!!!!!!!」
私は手に持っていた長弓を即時に槍に変えると同時に、記録魔法、超越を発動し、槍をエクラに向けて投擲する。
その時、瞬時に私が今修得済みの全ての身体強化魔法が強制的に発動され、私の身体能力は父スルンツェに匹敵するものとなる。
そしてその力で投擲された槍は飛来する雷光の数倍の速さでエクラの元に到達し、そしてエクラの眼前に突き刺さる。
更に、投擲する直前に一瞬で槍に付与したあの魔法が発動する。
その力は大罪。
「暴食!!!エクラを護れぇぇぇ!!!!」
その時、槍から凄まじい大きさの黒き闇が発生し、エクラの前に立ち塞がる。
そのコンマ数秒後に、明らかに私が放った時の数倍の威力となっている雷光貫矢と強欲がぶつかり合い、エクラは矢の放つ破壊の光線に包まれる。
私の元から離れた暴食の効果は有限。私が槍に込めた力分だけしか発動しない。
対して、反射された私の魔法は終わりが無いのかというほどであった。
このままでは、暴食が負ける。
……ならば!!
そう決意する前に、気付けば私はその破壊に身を投じていた。
守りなど無い。私の身の安全なんかどうでもいい。
私は、破壊の中で手を伸ばし叫んだ。
「エクラぁぁぁ!!!!!」
そして、私の伸ばした手が破壊を抜けた時。
私の意味は、その手を強く握りそして引いたのであった…!!!
悪魔ファルの言動がクドいのは仕様です。
ウザいでしょ?




