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転生奇跡に祝福あれ  作者: ルミネリアス
第二章 崩壊へ
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第四十六話 逃げる悪魔、遠ざかる星

 ソフィ。

 貴方はいつ何時も私の隣に居てくれたよね。

 私と笑いあったり、私を叱ったり、私を慰めてくれたり。

 自分でも面倒な姫だったと思う。

 それでも、変わらず接してくれたソフィがね。

『大好き』、だったよ。









〜その距離は4m〜


「……フフッ、ハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 突如狂ったかの様に笑うソフィ。



 …いや、その声色はソフィでは無かった。




「いや〜凄い!さっすがにお姫さんを騙すのは無理だったね〜!!これが絆ってやつなのかな?アハハ!」

 その馬鹿にしたような声をソフィは口を開かずに発しながら、ゆらりと立ち上がった。

 どうやら声の発生源はソフィではないようだ。



 …なんて冷静に観察できるか!!



「貴方は誰!!ソフィから離れなさい!」

 私はエクラを背後に置きつつ、怒りをそのままぶつけると、服の袖に隠し持っていた例の髪留めを大鎌へと変形させた。

 エクラは小さな悲鳴を上げつつ、咄嗟に私の背中に隠れるようにくっついた。

 背中越しにエクラの恐怖が伝わってくる。

 私の視界が真っ赤に染まりそうなほど『憤怒』が身体を掛け巡った。



「え〜知りたい〜?んー、良いよ!ファルはねぇ〜って、もう言っちゃったよ!!よっろしく〜〜!!」

 そんなふざけた自己紹介を披露してみせたソイツは、ソフィの足元の影から姿を表した。


 ねじ曲がった黒い角を二本生やし、肌の色は薄黒い赤色、三つの目を持ち、背中には小さな蝙蝠の翼と小さな細くて黒い尻尾、そして容姿は幼い女児の様であり、オマケに少し空中浮遊していた。


「悪魔…!?」




 私の驚きを聞き、嬉しそうに笑うソイツは、

「そう!ファルはね〜ぇ、悪魔族なの!!しかも〜、結構位が高いね〜?凄いでしょ!」

と笑う。

 気を抜いている今ソフィを助け出そうとも考えた。

 だが、クネクネとふざけたその動きには、全く持ってスキがないのだ。

 おまけに目を閉じたまま棒立ちのソフィと、いつの間にか歩いて来ていたもう一人の生き残りであるレーヴェを盾に、少しづつ私から離れていっているのだ。

 見たところ、悪魔に精神支配を受けているようだ。

 その言動からは考え難いが、どうやら一筋縄ではいかない相手のようだ。


 だが、それならばまずはこちらも、相手の動きや目的を探らなければ。




「それで?大昔に滅んだ悪魔族さんが何処から湧いて出てきたの?あっ!まさか埃とかネズミだとかと同じ発生方法?」

 私の言葉を受け、何だかとても嬉しそうな顔をする悪魔。

「へえ〜!お姫さん結構煽るんだ〜!!面白い面白い!!ねぇ?教えてあげよっか?どこから私が来たのかをさぁ〜?ねぇねぇ??」

 うーん心底うざい。

 でも駄目。冷静に…。




「教えてぇ………あげなぁぁぁぁい!!」

「よし殺す。」




 ……あっ。つい。

「え〜?お姫さんがファルを〜?」

 こちらを嘲笑う様な仕草をしてみせた悪魔だが、先ほどとは違い今度はジックリと私を観察しているようであった。

 私の背中を小さく摘んでいるエクラの

「テラス様……。」

という不安げな声が私の焦燥感を駆り立てる。

 焦るべきでは無い事は分かっているのだが…。









〜その距離は8m〜


 その後も悪魔は

「う〜〜ん。」

と唸り声を上げつつ、こちらを観察し続けながら、更に私との距離を離していった。

 そんな中私は、下手に行動を起こした事によって発生する『最悪』を考えてしまい、結果として何もせずただ悪魔による査定の終了を待つ事しかできなかった。


 そんな睨み合いは更に長引くかと思われたが、その終わりは突然に訪れたのであった。

 悪魔は動きをピタリと止めると、唸るのをやめクルリとこちらを向く。


 そして笑顔でこう言い放ったのだ。




「うん!ファルが負ける!無理!」




 その言葉は余りにも拍子抜けで、思わずバラエティ番組のようなコケるリアクションを取りたくなってしまう。

 まあ、流石にリアクションは我慢するけれど。



 

 呆気に取られている私の気も知らない……かどうかは分からないけれど、悪魔は続けた。

「いや〜〜、ちょっっっとだけ見てみたけど、お姫さん凄ぉいねぇ〜!!何かもう、色んな力とかを纏いまくってて怖い〜!!!」

 悪魔は、マジムリだから〜!!とかほざきながら、小さく指でバツ印を作って笑った。

 ……先程の言葉がこの仕草のせいで、本気なのかそれとも何かを狙っているのかはたまた何も考えていないのかの判断を狂わせる。

 何を考えているか読ませない事にあまりに長けている為、相手の実力が分かるような、分からないような、そんなフラフラとした感覚に。




 だがいつまでもだんまりは良くない。

 今度は私から攻めてみようか。









〜その距離は10m〜


 いつの間にかテントの端へと到達した悪魔を捉えつつ、私は攻めを始める。

「それで?私に勝てないと分かった今、聡明な悪魔さんは如何するつもりなの?その首、大人しく差し出すとか?」

 これは、其方の頭脳は把握しているからその馬鹿のフリは無駄だという分かりやすい警告だ。

 それと同時に、とある攻撃魔法の展開を終え、いつでも放つ事が出来る状態にするまでの時間潰しと注意反らしの役割も担っていた。




 そんな私の言葉を受けた悪魔の返答は、ごくありふれた事であった。

「それはね〜ぇ…」





「逃げるよ〜!」





 キャピッ!とピースサインを横にして目にあててポーズを決める悪魔。

 そんな悪魔の言葉を受けた私を支配したのは、

(それ、は…)

圧倒的な焦燥感であった。

 何故ならそれは、私にとって最も相手に取られると辛い選択肢であったからだ。






 悪魔は、レーヴェとソフィを盾に逃走を宣言した。

 二人を盾にした悪魔の逃走を、私はどう止める事が出来るのだろうか。





 ……でも、私には不可能を可能にする奇跡の力がある。

 この力があれば、きっと……!!





 焦り始めた私を見て、悪魔は嬉しそうに笑う。

「アハハ!!いいねいいねぇ!!それが見たかったよぉぉぉ!!!……ここにはお仕事で来たんだけど〜…、まさか、こ〜んな楽しくて仕方が無い事になるなんて〜、ファル嬉しい!!!」

 わざとらしく手を叩きながらニッコニコの悪魔に私はイライラを募らせる。

 だがそれより気になるのは、さっき悪魔が言った『仕事』だ。

 是非とも言及したいところだが、どうせ聞いても「教えてあげな〜い!!」って言われるだけだろう。

 だから今は、どうにかしてソフィとレーヴェを助ける手段を考えなければ。

 盾を取り除かなければ本体を攻撃出来ないのだから。

 …と言いつつ、実はもう攻撃魔法の準備は既に完了していたりする。



 あと必要なのは、相手の隙と私の覚悟だ。







 悪魔は高笑いをしながら、身に着けている趣味の悪い装飾品を弄っている。

 私は一刻も早く攻撃したい気持ちを抑え、その時を待った。


 そして。


 少し時間が経ってもなお何もしない私に対し、悪魔は

「ねぇ〜、何もしないの〜??ファル飽きちゃった。もう逃げても良い?この娘たちは〜、返さないけど??アハハっ!!」

と、不満を漏らした。

 ……どうやら少しだけ、気が抜けているようだ。

 ならば今こそ、仕掛ける時…!!




 私は悪魔に語りかける。

「ねぇ、悪魔さん。さっき話していた『仕事』というのは、どういったものなのかしら?」

 ようやく動きを見せた私を、悪魔はキラキラした目で見つめた。

 それはまるで玩具を目の前にした子供のようであった。つまり私は悪魔にとって、玩具と変わらないのだろう。

 …だがそれでいい。



 悪魔はニコニコで口を開く。それは先程私が想像したままの言葉。

 私は拳を握り締める。その手には、小さな魔法陣。




「教えてぇ…あげな〜い!!」

「ブラッドマジック・ブラッドファストアロー!!」




 戦いの火蓋は、長き膠着の末ついに切られることとなった。









〜その距離は7m〜


 悪魔の言葉を遮るように私の手から放たれたのは、凄まじい速度で相手に飛来する紅き一筋の光の矢。

 その速度は不意打ちで反応するのは不可能な程で、流石に悪魔を一撃で葬れる程の威力はないが、悪魔を牽制し大きな隙を作るには充分だ。



 光は悪魔に迫る。



 視認不可の速度で。



 なのに。



 なのになぜ。




 なぜ、悪魔は笑っている……?




 悪魔は右に手を伸ばし『それ』を掴むと、嘲笑うように言い放った。

「遅い♪」







 次の瞬間、私の希望の矢は、レーヴェの心臓を貫いていた。







 私の凄まじい動体視力は見てしまったのだ。

 悪魔に首を掴まれ盾にされたレーヴェが、貫かれる瞬間に精神支配を解除され矢が刺さっていき、その苦痛に歪んでゆく表情を。

 レーヴェは私の矢に貫かれた胸を抑えてただ一言、

「姫……様……。」

と呟き、苦悶の表情を浮かべたままその命を……



「そんなの駄目っっ!!!!」



 私は自身の行いの先に待つレーヴェの運命に目を背ける様に、抗うように、我を忘れて前に飛び出した。背後のエクラすら忘れて。

 だがその時、

「いいの〜?こっちには、あと一人居るけど〜??アハハ!!」

という悪魔からの忠告が飛んできたので、私は冷静になった、いや、冷静にならざるを得なくなってしまった。

 ピタリと動きを止めた私を見て、悪魔は大満足と言わんばかりに大笑いする。

「アハハハハ!!!いいねいいねぇ!!いやぁ〜、お姫さんって最っ高!!」

 私は怒りに震える。だが、身動きが取れない今の私には、

「……黙れ。」

と口答えする事しか出来なかった。






 悪魔は一通り笑って満足したのか、笑うのを辞めて自身の右手が掴んでいるレーヴェに視線を落とす。

 …嫌な予感が私の身体の中を掛け巡った。

「……さぁ〜てと。この玩具、もう壊れちゃったし、もういらなーい。私を楽しませてくれてありがとう♪」

 そう言うと、悪魔はその腕を高く掲げていく。

 首を掴まれ持ち上げられているレーヴェも、そして私も、これから悪魔が何を行うのかを察してしまった。



 レーヴェは涙を流し恐怖に震えながらただ繰り返す。

「いや…いや…しに、しにたく…な、ない……しにたく……」




 私はただ叫んだ。

「駄目ぇぇぇぇぇ!!!」







 悪魔はその微笑みを愉悦に歪ませて、一言。

「バイバイ♪」

 その言葉の後、悪魔はレーヴェの首の骨をその握力で折った。

 それによりレーヴェは噴水の様に血を吹き出した後、力無くぶら下がった。






「あぁ……うぁ……。」

 声など、出なかった。

 私はただ、見る事しか、出来なかった。



「お姫さん凄い顔だね!!それじゃあファルはぁ、外に出るね〜!!早く来ないとぉ、逃げちゃうよ〜!!」

 悪魔はそう言うと、血塗れのレーヴェを雑に地面に投げ捨て、今度はソフィの首を見せ付けるように撫でると、テントを大きく引き裂いて外に歩いて出て行ったのであった。






 奇跡の力?不可能を可能に?

 私は、一体何を思い上がっていたのか。









〜その距離は20m〜


 外から聞こえてくる親衛隊と悪魔の戦闘音が、何も聴きたくないと塞いだ耳へねじ込まれる。

 逃げたいと泳がした視線の先で、光を失った目と目が合う。

 私は一途の希望に縋るようにレーヴェを見つめたが、残念ながら既に息絶えていた。


 奇跡は、起こり得ないからこそ奇跡となりえているのだ。

 何故それを私は理解していなかったのだろうか。




 

 私は何かに縋るように後ろを振り向く。

 するとそこには、私が突然離れて無防備になり、更に目の前で先程の惨劇を目撃してもなおその瞳から輝きを失わず、直立を維持しているエクラがいた。

 エクラは、振り返った私と目を合わせ、そして叫んだ。

「テラス様!!私の事は気にせず早くソフィ様を!!!!手遅れになる前に!!!!!!」

 私が離れる事で、身の安全が格段に低下する事、エクラはそれを重々に承知した上でこう私に叫んだのだ。


 エクラのそのたった一言が、その一喝が、私の闇を払い除ける。

 ……あぁ、まったく。私はどれだけエクラに救われたのだろうね。

 ほんっと、エクラ愛してる。



 エクラは、ただ私を信じて叫んでくれたのだ。

 ならば、私が取るべき行動は、話すべき言葉はただ一つであろう!!

「光ある勝利を!!エクラ!!」

「はい!!テラス様!!!」

 私はそう強く叫び覚悟と決意を顕にすると、エクラの強き笑みに背を向け、敵の元へと駆け出した!!







 そんな私を待っていたのは、満身創痍で地面に転がっている親衛隊の皆であった。









〜その距離は30m〜


 私は怒りで爆発してしまいそうになる自分を抑え、

「アハハハハ!!やぁぁぁっと出た来たぁ!!余りにも遅いからこの子たちぃ……壊しちゃった♪」

という悪魔の発言も無視すると、ふと気になった事を聞いてみる。

「ねぇ。どうして逃げていないの?十分に逃げられる時間はあったでしょう?」

 これは探りを入れているとか、矛盾や弱点を探しているだとか、そういったものでは無い。

 単純な疑問であり、当然の疑問だ。


 それに対し悪魔は、これまた当然かのように、

「え?だって、それじゃあつまらないじゃん。」

と答えた。


 なるほど。悪魔は、自身の身の安全よりもその場の快楽を求めるらしい。

 これは恐らく本能のような物なのだろう。

 ……まあ、だからといって許しはしないけど。




 悪魔はソフィの首を人撫ですると、急に両手を高く掲げ、

「よ〜し!それじゃあ主役が揃った所で、ファルの〜、『スーパー逃走劇』を開演しちゃう!!この劇の重要人物は〜、このメイドちゃん!!名前は知らな〜い♪じゃあいくよ??んーーー、開演!!!!」

と、大声で叫んだ。

 すると、その手から暗雲が発生し、またたく間に空を覆ってしまった。

 辺りはまるでゲームでよく見る魔界の空のように赤黒い空となる。更に、悪魔の足元に転がっている親衛隊達がその雰囲気を補強していた。




 私と悪魔の距離は遠い。




 最速の魔法が相手に届かなかったという事実は、まるでこの雲のように私の心の光を少しづつ汚していく。






 奇跡とは、起こり得ないからこそ奇跡となりえているのだ。

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