EX.5 実は私の国、危機を迎えてまして…、
あっ、はい。実はそうなんですよ。
我が娘のテラスがヒュディソスへと旅立って数日。
王都のお祭り騒ぎも落ち着き、街には日常が戻った。
悪魔が消し飛ばした王都の一部の復旧作業も順調に進んでいる。
以前ロアが城に開けた風穴も既に塞がり、国には日常が戻ったかのように思われた。
だが王宮は現在、存亡の危機を迎えていた。
〜禍の余波は未だ収まらず〜
我が城では、今日も数多くの使用人達が我が王国の為ひいては世界の平和の為に、各々の勤労に努めている。
それぞれの種族によって身体的、または宗教的などの理由によって出来ない仕事などはあり、それに関しては我も配慮しているが、それ以外に関しての扱いに種族間の差は無い。
要するに王宮内では様々な種族が働いていると言う訳なのだ。
そしてその中には勿論人族も居たのだが、今回の禍によって全員があの世もしくは地下牢へ送られた為、これで王宮内の働き手が減った。
更に、禍によって犠牲となった王宮勤めの他の種族も多く、これでも王宮内の働き手が減った。
更に更に、禍によって故郷が被害を受けた働き手が急いで帰郷したため、これでも王宮内の働き手が減った。
この時点で王宮内の働き手が不足したのだが、ここから更に働き手が減少する二つの出来事が起きる。
まず、ロアがテラスに向けて放ちそのまま城に風穴を開けた魔法、その流れ弾を受けた者達は消し炭となり、王宮内の働き手が減った。
次にテラスがヒュディソスへと旅立つとなった際、勿論テラスただ一人で行かせるわけには行かない為テラスに多くの護衛兵と使用人をつけた。
これが王宮内の働き手不足に王手となった。
我が国領土内の町や村にも兵を派遣しなければならない為、ここから更に減るのだ。
考えるだけで頭痛がする。
我は深刻な人手不足にため息をつく。
誰も居ない執務室で、我は呟く。
「……このままでは国が滅ぶ…。どうするべきなのだ……?」
こんな時に相談に乗ってくれる我が宰相エスタルも、最近はあまりの忙しさで我の側に居られる事も出来なくなっていた。
我が妻も最近は殆ど睡眠すら取らず働いている為、気軽に相談しに向かったりは出来ない。
では、足りないのであれば他国に救援を求めれば良いのでは?
…だが、そう簡単に事は進まない。
今回の禍のような事態の再発を恐れ、恐らくどの国も自国の優秀な人材など我が国には派遣しないであろう。
王宮の働き手が多くて困っている、などという国など存在しない。
(自国にも他国にも頼れる存在が無いなど、世界平和の近郊を保つ我がシュトラール王国にとって痛過ぎる事態であるな……。)
王は目の前に積まれた無数の書類のその一番上の書類のタイトル、『最近貧困層の間で拡大してきている勇者信仰について』に目をやると、自身の娘の事を想いながら天井を向いた。
「はぁ…。我が娘テラスよ、お前に会いに行くのはまだ先になりそうだ……。……せめてお前は、この父の努力が無駄とならぬようしっかりと休養するのだぞ……。」
国を、平和を、そして娘を想い、必死に詰みを打開しようと画策する王だが、この後に届けられたとある一通の手紙によって、打開の光と苦渋の闇の許諾を強いられる事となるのであった……。
〜今を変える行動の画策すら叶わず〜
この国のもう一人の宰相にして、王族に次ぐ権力者であるレミア。
彼女は現在、王妃ローアルの名により王都の復旧作業の指揮を取りつつ、多くの書類の処理をしつつ、人材不足の解消の方法を画策しつつ、昼食を取っていた。
あっきらかなオーバーワークであり、レミア自身もそう実感していたが、この国の為には仕方が無い事なのであった。
「レミア様!失礼致します!」
レミアの居る王都復旧作業本部テントにはまたしても来訪者が現れる。
来訪者である近衛兵はレミアの返事を待たずに入室する。
本来は許されざる行為なのだが……、
「はいはい、今度はどうしたの?」
と、レミアの様子である程度察せられるがこのような来訪者がおよそ5分おきにやってくる為、いちいち入室の許可を出していてはきりが無いのだ。
「はっ!今回は……」
と、訪れた近衛兵も慣れた様子で報告する。
実はこの近衛兵は連絡係である為、最早何度ここに顔を出したか分からないほどであった。
レミアは報告を受け、これまた慣れた様子で指示を出す。
「ああ…またそれ…。それは……。」
果たしてこの二人は、この数日で同じようなやり取りをどれだけ繰り返しているのであろうか。
そんな事を考える余裕すら無く、二人の会話は終了した。
本来であれば、現場に関する指示はそれぞれの現場に派遣されたリーダーが指示を出すのだが、一つ一つの現場にリーダーを置く余裕すら無いのが現状な為、このような事になってしまっている。
レミアは数時間止めなかった作業の手を止めると、大きく息をついた。
「あまりに深刻な人手不足…。一体如何すれば……。……例えb」
「レミア様!失礼致します!」
滝のように汗を流しながらまたもやテントに入る近衛兵の姿を無視し、レミアはテント内の虚空を見つめ、そして乾いた笑いを浮かべた。
(この地獄から抜け出す光を探す。それも許されない……。)
レミアの精神は既に限界を迎えていたが、それでも国の為、彼女の手は再び動き出すのであった。
しかしその後、光は、黒き輝きであったがレミアの元に訪れる事となった。
「レミア様。国王陛下がお呼びです。また、これは最優先事項であるため一刻も早く執務室に来るように、との事です。」
〜大いなる力には。〜
私は娘に自身の価値観を押し付け、痛めつけ、苦しめ、そして敗北した。
だが、それでも止まらなかった。
夫が自身の所業に苦しみながらも、娘を死の淵にまで追い込んだ。
そんな夫を私は止めた。
しかし私の脳内には、娘の放った未知の力に対しての興味しか無く、夫を止めたとき脳内で放った言葉は、
「私の研究対象が…!」
であった。
そして惨状には目もくれずまたもや自身の価値観を押し付け、夫の反対を押し切ると、娘の記憶を封じた。
そして娘は昏睡状態となったが、その間も私の脳内には娘の持つ未知の力への興味しか無かった。
そしてその興味は、娘が目覚めた時に爆発した。
娘は、私の記憶封印魔法を自力で解除してしまっていたのだ。
私は疑問と興味と歓喜に満ちた。
娘の片目が紅く染まったのは?娘の頭の黒髪が増えたのは?あの力は?
その時の私の視界には、最早娘以外は一切写っていなかった。
だが、ある時夫が私を執務室に呼び出した。
そして、その時私は救われた。
夫が珍しく怒気を含んだ言葉で私に話を始めた。
だが、私はそんな事よりさっさと娘の研究がしたくてたまらなかった。
私の瞳に、夫など写っていなかった。
無駄な時間……。そう思っていたその時であった。
夫は突然立ち上がると、私の胸ぐらをつかんで持ち上げ、そして叫んだ。
「貴様!!!テラスが貴様にとって何かを答えてみろ!!!」
城が激しく揺れそうなほどの怒号。
あまりの覇気で、執務室内の家具や装飾品にはヒビが入ったり霧散する。
そしてその怒号で、私の心と瞳にかかっていた謎の靄すらも霧散したのだ。
私は久しぶりにしっかりと見えた主人の顔を見つめると、ワナワナと震える口から、
「テラス…は…私の…大切な……『娘』…!」
という言葉が溢れ、それと同時に瞳からは涙が溢れ出たのであった……。
それからの私に、テラスの事を研究対象としか見ないという状況が発生する事は無かった。
だが、再び私の心に同じ事が起きないとは限らない為、結局テラスのヒュディソス行きを取りやめる事はせず、一度私から離すこととした、というのが数日前の事。
今はテラスの為だと数多くの業務をこなしている。
今考えても、自身の行動には驚き呆れるのだが、それと同時に疑問が浮かぶ。
『どうして私は、あんなにテラスの記憶を封印したがったのだろうか?』
……今考える事では無い。それより今は、人材不足であまりにも追い込まれている国の運営を回さなければ。
今の人手不足の原因の一部は、私が作り出してしまったものの為、罪滅ぼしも兼ねてほぼ休まず働き続けている。
周りには少しは休むべきだと何度も言われたが、先程の事を思うとやはり休んでなどいられない。
しかし、私が今一度気合を入れ直し、作業を再開しようとしたその時。
「王妃様。いらっしゃるでしょうか。」
という聞き慣れた声がノックと共に扉の外から聞こえてきた。
「ええ。入りなさい。」
「失礼致します。」
そう返事して入って来たのは、案の定レミアであった。
「王妃様、実は…って!ローアル様!最近眠っておられていないでしょう!?目の下が真っ黒ですよ!?」
レミアは私の顔を見るなり、私が王であった時の呼び方で私に飛び掛かってきた。
「その怒りと心配が半分ずつ混ざった表情を見るのは久しぶりね。それで?ここに来た要件は何かしら?」
私はレミアからの説教を回避しつつ話題をそらす、という昔からのテクニックを使い、
「話題を変えないでください!」
このように、見事に話題そらしを失敗したのであった。
だが、
「私の事は後で良いから。それより、そんなに焦っているのにはきっと理由が有るのでしょう?」
というのは、
「そ、そうですね。失礼しました。」
無事成功したのであった。
「それで?」
私は机に頬杖をつきながら、レミアに発言を促す。
レミアは汗を拭いながら、
「それが、ローア……王妃様に急いで伝えなければならない事があり、伝言兵を走らせたのですが見つからず、王妃様の捜索に私も参加したという訳です。まさかとは思いましたが、そのまさかの場所にいらっしゃいましたね。」
と話した。
……そう。私は現在、普段仕事をこなす執務室でもなければ自室でもない、とある部屋で一人仕事をこなしていたのであった。
ここは、『元テラスの部屋』だ。
テラスがエクラちゃんと同棲を始めるまで使っていたこの部屋。
何故だがは分からないが、ここに来たくなってしまったのだ。
どうしてなのかs
「それより!!急いで執務室に来てください!!国王陛下がお呼びです!!」
「主人が?…ただ事ではないようね。すぐ行きましょう。」
感傷に浸っていたのを断ち切られたが、そんな事より何だか緊急事態のようだ。
私は急いで必要な物だけレミアに持たせると、直ぐに執務室を目指したのであった。
〜黒き救国の輝き〜
「…ようやく来たか。」
ローアルとレミアが執務室へと入った時、スルンツェが最初に放った言葉はそれであった。
「……何か、急を要する事態なのよね?」
その言葉にはそうであって欲しくないという願いも込められていたが、
「…ああ。残念だが。」
現実は非常(非情)である。
王スルンツェは、珍しく重い表情で、ゆっくりと話し始める。
「……我が国の維持が現在、深刻な人手不足によって危機に晒されている事は勿論知っているだろう。」
王妃ローアルと宰相レミアは静かに頷く。
スルンツェは後ろを向くと、指の間に一通の手紙のようなものを挟んだまま振り返る。
「そんな中、このような手紙がたった今届いたのだ。読んでくれ。」
スルンツェはその手紙をローアルとレミアの方に向けて飛ばすと、不機嫌そうに執務室の椅子に座った。
スルンツェがここまで感じ悪い事はかなり珍しいので、二人は手紙の内容に対し警戒心を抱いた。
レミアは恐る恐る手紙を開くと、その中身をローアルと共に見るのであった。
手紙にはこう書かれてあった。(一部抜粋)
ーーーーーーーーーーーーーーー
(つまらない挨拶なので前略)
さて、現在貴国が、深刻な人手不足で苦しんでいると言う事は知っています。
そこで私の国から、優秀な使用人、役人、兵士などをいくらでも派遣する事を提案いたします。
我が国と貴国は師弟の関係。
弟子の危機に動かぬ師匠では無いと言う事を今こそ証明いたしましょう。
で す が。
勿論条件がございます。
それはたった一つ。簡単なことです。
お姉様をください♡♡♡
この手紙が届く頃には、既に私はお姉様の向かったヒュディソスへと向かっているところでしょう。
ですが止めないでください!邪魔をしないでください!!
ああ私のお姉様…!!!私の…!私の……!!忌々しい泥棒猫に誑かされているお姉様の目を覚まさせてあげないと!!!あぁ…、結婚はいつにしましょうか…!お姉様の好物嫌物趣味特技欲その他も全て把握して、お姉様と生活全てを共にして…………
(その後千文字ほど続いたので以下略)
既に貴国に向けて使用人や兵の乗った馬車群が進んでいます。
拒否をするならば送り返しても構いません。
…ですが、我が国からの提案を拒否をすれば、貴国の崩壊は免れない事ぐらい聡明な王たる『貴殿ら』であれば分かるはず。
この手紙に対する返事は結構。
世界樹国ヴェデーレより愛をお姉様に込めて。
世界樹国ヴェデーレ女王 ルーフ・ホオヘノ・ヴェデーレ
ーーーーーーーーーーーーーーー
……
…………
………………。
手紙を読み終わったローアルとレミアの間には沈黙が流れた。
手紙の七割がテラスに対する愛で埋められていたこの手紙だが、内容はあまりにも重要で、この国の未来を決定する物であった。
沈黙を破ったのは、先程から静かに手紙を読み終わる事を待っていたスルンツェだ。
「読み終わったな。……要するに、だ。この国を救ってやるから代わりに我が愛しの娘テラスを差し出せというわけだな?更に言うと、こちらが万が一拒否をしても我々がヴェデーレの女王を止められないように、手紙より先にテラスのところへ向かったという訳、だ。」
世界樹国ヴェデーレ。
それは我が国を建国する際、様々な国の基盤の構築を手伝った国であり、ヴェデーレは手紙の通り、師匠のような国なのだ。
つまり、国の序列的には上であり、国力もあちらが圧倒的に上である。
そんな国からの助け舟。対価は娘ただ一つ。
国の事を考えても、乗る事を強要される助け舟。
だが。
そんな事、分かっているが。
それでも。
「ふざけるな!!!!!!!!!!!」
王スルンツェの怒りの咆哮は、ローアルを叱ったあの時を遥かに上回る威力を含む。
ローアルは即座に防御魔法を展開しレミアを庇った。
スルンツェの咆哮は波動となり、執務室の外の廊下ごとえぐり飛ばした。
まーた城に穴が開いたが、そんな事を言える雰囲気では無い事は分かるだろう。
少し間が開いた後、ローアルが執務室だけ簡単に魔法で直すと、
「すまない。取り乱した。」
と、スルンツェは頭を下げた。
レミアは驚きで何も言えないといった様子だったが、
「いいのよ。私だって暴れたい気分だわ。」
と、ローアルも自身の胸に燃える怒りを顕にしたのであった。
レミアが落ち着くまで待った後、スルンツェは話す。
「はっきり言って、この低案を拒否する事はかなり難しい。この中に、現在の人手不足を解消する案を持つ者は居るか?」
ローアルは、首を横に振った。
レミアは、首を横に振った。
スルンツェはそれを見て、
「残念だ。」
と言った後、ポツリと
「すまない………テラス…………。」
と、そう呟いたのであった……。
いつも見てくれてる人もあんま見てない人も何となく見てみた人も百合好きの皆も家族も友人も日本もアジアも北半球も地球も宇宙も皆みーーーんなありがとーーーーーー!!!!!




