第四十一話 王女と箱の封印
会議室内にて開かれた会議は、先程までの賑やかな雰囲気とは一転した緊張感溢れるものであった。
何故ヴェデーレの女王がこの街を目指しているのか。
何故事前に知らせなかったのか。
引き連れている軍の数など、どの様な状態でこちらに向かって来ているのか……など。
とにかく情報が足らないのにも関わらず対策を練らなければならない、という無理ゲーのクリアを強いられていた。
「まともな情報が入って来てから行動を開始するべきだ!!」
という声もあれば、
「そんな暇はない!一刻も早く行動を開始するべきだ!!!」
という声もあり、
「首都へ救難を要請するべきだろう!!!!」
という声もある。
つまり、荒れまくっているという訳だ。
正直今日はもう疲れたので、何もしたく無いのだが…。
……駄目駄目。私は王女なのだから、ここで皆を導かなくてどうする!
あと少し頑張って、その後は沢山エクラに褒めてもらおう!!
「それは駄目であろう!わしは」「馬鹿言え!そんな事をすれば」「何だと!貴様、一度表に」「何度言えば分か」
「静かにしなさい!!」
私の大声&龍の威圧攻撃によって、会議室は静まり返る。
私の口から出た命令形の言葉は絶対だ。
これを無視した者に待つのは死、という事を威圧によって伝える。
目の前にいるのは、世間知らずで護衛が居ないと何も出来ないお姫様では無いのだ。
皆が落ち着いた事を確認した私は、威圧を和らげそして静かに指揮を取り始める。
「いいですか。各々が違う意見を持つ事は当たり前であり、周知の事実です。ですが、何故それを争いへと発展させるのですか!皆の意見の良い点を集め、一つの最高の案を作成する事が会議でするべき事でしょう!ここからは私自らが指揮を取り、今回の非常事態への対応を取ります。発言を許可しますから、何か意見のある者は話しなさい!」
いやー、こういう時王女で良かったって思うよね〜。
だって、もし私がそこそこの貴族の娘だったりしたら、この中に自分よりも上の立場の者がいないか知らないといけないもん。
でも王女ならこうして、誰だかよく知らない相手に高圧的な態度をとっても大丈夫だから楽だね〜。
少し間を開けたけれど誰も何も言わないな。
分かるよ。急に「何か質問はありますか?」って聞かれて何か質問をぶつけられた試しが無いもの。
まあいいや、進めよう。
「…では始めましょう。まずは……」
えー会議ですが、まさか朝まで続くとは思ってもみませんでしたね。
徹夜です。流石の私もそろそろ限界です。
ですがやっと!やっと会議が終了したのです!!
最初は元気よく話し合い、意見を出し合っていたお偉いさん方も、今はグッタリしていた。
私はそんな彼ら彼女らを横目に、隣に座るランレンからノートを預かった。
実は、ランレンが会議中書記として私を補佐してくれたのだ。
少し抜けている所もあるが、このノートを見る限り根はしっかりとした方のようだ。
私は、会議で決まった事が綺麗に整理されているノートを見ながら、この会議で最後に行わなければならない事を始める。
「では皆様。最後に、決定事項を再確認しますね。」
要は、今日の会議で決まった事に対し、個人の認識に差が生まれないようにというだけの事だ。
では早速、振り返ってまとめていこう。
では一つ目。
「えー、まずヴェデーレの女王への対応ですが、絶対に失礼の無いよう丁寧な対応を心がけ、ヴェデーレの女王への協力を惜しんではなりません。」
無礼者に尽くす礼は無い!…というお偉いさんもいたが、無理やり黙らせ…ではなく、しっかりと理解して頂いた上で、黙らせた。
無駄な争いを生む必要は無いし、何より私達の行動が、ヴェデーレとシュトラールの不仲を生んでしまっては『絶対に』なら無いのだ。
2つ目!
「次。歓迎祭ですが、女王の到着まで猶予が無い為、私の歓迎祭のセットをそのまま使用します。」
本来はそれぞれに合わせたセットをして歓迎祭は開かれるべきなのだが、あまりにも急な襲来の為、我慢してもらうしか無いという結論に至った。
先に無礼を働いたのはそっちなのだから、少しは我慢してもらう。
もしこれでヴェデーレの女王が怒り狂ったりしたら、私はそんな国に媚びへつらって友好を結ぶ必要性を疑うかな。
み〜っつ目!
「次です。女王の滞在場所については、ここを使用する事。異論は、これに関しては認めません。」
女王の滞在場所をここ、つまり街長の屋敷とし、私は『仕方無く』別の場所に滞在しますといった感じ。
勿論、
「そのような無礼者の為に姫様が居住地を移す必要はありません!!」
「その通りだ!どうして姫様が動かなくてはならんのだ!!」
「我らが王国の姫に無礼だ!」
と猛反対を受けたのだが、
「良いのです…。これも、愛しの我がシュトラール王国のため。シュトラールの名を持つ者として、国の為を第一に考える事は当たり前の事なのです…!」
と、最終的にそれっぽい事を言って誤魔化しておいた。
結果、感激のあまり涙を流す者さえ現れる事態となったのだが、その言葉を受けたお偉いさん方の一人が何と、自身の持つ屋敷を私に譲りたいと提案してきたのだ。
これにより、私は街から少し離れた海辺の別荘を手に入れた!!
計画通り……では無いけれど、とにかく上手く事が進んで良かった。
4つ目っっ!!
「最後。今後についてですが、女王を観察する事で今回の行動の真意を探り、臨機応変に対応する事。情報のあまりの少なさ故、かなり苦戦は強いられるでしょう。よって、皆様の協力が不可欠です。どうか、よろしくお願い致します。」
そう言って頭を下げた私を見て、お偉いさん方は大慌てで「頭をお上げください!!」と叫んてきた。
王族としてのプライド?
そんな物無い!!
だって、プライドで『大切』は守れないから。
本当は他にも細々とした事をいくつも決めたのだが、本当に大切な事はこの4つだから後はもう良いだろう。
それより、ここに居る皆が待ち望む言葉を与えてあげなくては。
「ではこれで、今回の会議を終了します。各々、与えられた役目を果たしなさい!…解散!」
私の「解散!」の言葉を聞き、「ぬはぁぁ…」という気の抜ける声がお偉いさん方から漏れ出す。
かく言う私も、そんな声を上げながらこの場に溶けたかったが、勿論そんな事はせずにさっさと会議室の外に出た、と同時に龍の威圧も忘れず解除しておく。
……
…………
………………っっっっしゃぁぁぁぁ!!!!!
よく頑張った!私!よく乗り切った!偉い!
もう嫌!しんどい!無理!歩くのもダルい!
もうありとあらゆる弱音を(心の中で)叫ぶ私。
ああやだ。早くエクラに会いたい。
それしか考えられないほど疲れきった私は、エクラとソフィの滞在している来客用の部屋に直行する。
…ああ。居場所はランレンに教えてもらったのですよ?
決っっっして、エクラの指輪に居場所が分かる様になる魔法なんて仕込んでませんよ?
……って、あれ?
エクラが…外に居る…?
エクラの居場所が分かる魔法(魔法名は『束縛』)を発動させた私は、まずは急いで来客用の部屋に向かった。
もしこれが誘拐ならば、無闇に突っ込む事はエクラの危険に繋がるからだ。
まずは部屋に向かい何かが残されていないかを探らなければ。
……殺す…!エクラを誘拐した奴など…!
…んでも、あれ?
もし、エクラに何か危害が少しでも加えられそうになれば、指輪から即座に防御魔法が展開され、そして即座にその事が私に伝わってくる筈なのに…。
などと疑問を覚えながら、私は来客用の部屋に飛び込んた…!
部屋に飛び込んでから、自身の罠警戒すらしない危険な行動を後悔したが、中に入るとそこには優雅に紅茶を楽しむソフィがいた為、そんな心配は杞憂であった事が分かった。
「あ、姫様。お疲れ様でございます。」
そう言うと、ソフィは再びのんびり紅茶を楽しむ時間を始める。
それが姫を前にした従者の態度か!とツッコミを入れたかったが、こうあれと言ったのは自分なので何も言わない。
それより、
「ソフィ!エクラはどうしたの?」
と、何よりも気になる事を尋ねる。
するとソフィは、
「さあ?私は何も知りません。…ですが一つ。止めるべきでは無いと私は思いますね。」
とだけ話した。
んー?イマイチ良く分からないが、とにかくエクラが何か酷い目にあっているとか、そういうのでは無さそうだ。
「そっか…。ええっと、ホントは見に行きたいけれど、そうしない方が良いって事…なのよね?ソフィ。」
「私には分かりかねますね。」
「そっか。」
ホントに良く分からないが、エクラだってたまには外出したい気分のときだってあるよね。
あまり縛り過ぎるのも良くないし、指輪によってエクラの安全性もある程度保証されているから、自由行動の許可は出そうか。
……って、許可とか言っている時点で縛りキツイな。やめよう。
エクラには、この街をぜひ満喫してもらおう。
…となると、危険因子は排除するべき…だよね?
でももう流石に限界。
「ソフィ。私かなり疲れてて、もう立っているのもやっとだから、少し寝るね。…あっ。あと、エクラが帰ってきたら起こして。よろしくー。」
「はい、姫様。おやすみなさいませ。」
「おやすみー。」
私はフラフラとした足取りでベットに向かい、そしてそのまま倒れるように眠りに落ちたのであった。
「…様。……テラス様。起きてください。」
私はその美しい声に甘く囁かれ、夢の世界から一気に現実へと意識が引き戻される。
「ん…?……おはよ。」
寝起きの不快さを吹き飛ばす、そんな声の持ち主の方を向き、私は挨拶を囁いた。
そこには、常闇に染まった街を背景に立つ、純白の美少女が……って、あれ!?
めっちゃ夜じゃん!!
「エクラ〜?どうしてこんな時間まで帰ってこなかったの〜?」
というわけで現在、最愛のエクラを地べたに座らせ、私はその前に仁王立ちしていた。
別に本気で怒っている訳では無い為、そこまで厳しい言葉の圧はかけないが、とはいえこんな時間まで帰ってこなかった事も事実な為、こうなっていた。
エクラはシュンとして、
「その…ごめんなさい…。」
と、私に謝る。
そんなエクラの様子を見た私は早速自身の行動に後悔を覚え始めるが、これもエクラの為だと我慢する。
……何だか最近、我慢する事が多い気がする。
…まあ良いか。それより、早くこんな空気終わらせてしまおう。
「えっとね、エクラ。大前提として、エクラは私の所有物では無いから、エクラが何をするのもエクラの自由なの。外で何をしていたのか、なんて聞かない。……だけど、エクラの事を心配する私の気持ちもどうか分かって欲しい。だから、危険な事は絶対にしないって約束して。………ごめん。エクラの自由とか言っておきながら、結局縛っちゃってるね…。」
あれ…、こんな事、言おうと思ってなかったんだけどな…。おかしいな…涙が…。
「テラス様……、私」「ご、ごめんね!エクラ。気にしなくて良いから。約束、守ってね!」
何かを言いかけたエクラをまたしても遮り、私は作り笑顔を浮かべ、無理のある元気を見せた。
そんな私に辛そうな顔を向けるエクラ。
私達の間に、無言の時間が流れる事となった。
そんな辛い空間を打ち破ったのは、ソフィのノック音であった。
「失礼します。……どうかされたのですか?」
目元を赤くした主人と、そんな主人の足元に座り込む辛そうな秘書。
そんな二人を見たメイドは、この二人の間柄をいつも間近で見せつけられているのだから余計に戸惑ったであろう。
それはソフィの表情からも充分に伝わってきたが、私は気付かないフリをした。
「……何でもないよ!それより、これからの事を二人に話さないとね!」
……思えば、この時からであったのだろうか。
私の心に、『箱』のような物が現れたのは。
私は蓋に御札を貼って、その箱が決して開かないよう封をした。
その御札に書かれた文字は……。
「……っと、ここまでが会議で決まった今後の方針。何か聞きたいこととかある?」
二人の表情を見ないように、淡々と今後を語り終えた私。
重い空気の中、当然問なんて物は出ずに話し合いは終了した。
二人に、
「明日の昼頃には屋敷へ移動するから。よろしくね。」
とだけ言った私は、夜風を浴びてくると部屋のバルコニーに出た。
その時はまだ、少し気分転換がしたいと思った程度だったのだが、夜景の美しさにここから逃げ出したいという気持ちが重なった結果、久しぶりにあの魔法を展開する事となった。
「不可視、無音、飛行。」
それは、私がまだ子供で、背負う物の重さを自覚しきれていなかった頃に沢山使用していたあの魔法達であった。
私の姿は夜闇に掻き消え、音が消え、そして静かに浮かび上がる。
夜風に当たっていた私の後ろ姿を、きっと二人は心配そうに見つめていたのだろう。
「「あっ!!!」」
という声が聞こえてきたが、私は無視して飛び上がった。
「やっぱり綺麗…。」
私の目は片方が紅色で、その目には吸血鬼の力が宿っている。
その為、夜でもハッキリと街の景色を見る事が出来るのだ。
ディセプションバースの仕様上、吸血鬼の固有能力は使えない。
そう思っていたのだが、吸血鬼の力は血に依存する為、私の身体に流れるお母様の血を使えば固有能力を再現出来るのでは?とこの前試してみたら、出来てしまったのだ。
まだこの事についての研究は全然出来ていない為、まだこれぐらいしか再現出来ていないのだが、今の所、『吸血鬼の固有能力を再現した事による副作用』は無い。
まぁどうせ、これから時間はいくらでも有るのだから、ゆっくり研究していこう。
それより今は、この街を空から見て回って、ついでに地図も埋めてしまおう。
いやー、それにしても本当に綺麗だなー。
夜に漁に出ているいくつか漁船。それらに灯っている小さな灯りが、まるで海上の蛍のように輝いていた。
街にも、まだいくつかの建物には灯りがついており、それらが美しい建物に反射していた。
本当に、綺麗……。
……ん?『吸血鬼の固有能力を再現した事による副作用』…?
「あーーーっ!!!!!!!!!!!」
夜の冷たい静けさに、空を翔ける少女の悟りの咆哮が溶けていくのであった。
投稿遅くなってごめん!




