第三十八話 王女と新天地と宣誓とおもしれー女
波乱の出立式を終え、現在私ことテラスは馬車に揺られております。
ええと、まず最初に考えたい事はやっぱりお母様のあの発言だよね。
あのお母様の発言、何処まで信頼しているかと言うと……
ゼロ。
親子の仲復活〜な感動の場面を破壊してすまないが、あの場であんな事を考えそして発言したのは、単に時間と余裕が無かったから。
もしあの場がもっと整っていれば、私はお母様の顔を一発ぶん殴っていたかもしれない。
ふざけるな、今更なんの真似だ、と。
でもあの場でそんな事は出来ない。
てかそもそも、あんな場じゃ無ければきっと私のヒュディソス行きは無かった事になっていただろうし。
と言うわけであの時私は、新たな関係という言い回しを使って、親子の縁を切る…かも?と伝えた。
感情のこもっていないロボの様に。
それがお母様に伝わったかは分からないが、それでも心のモヤは晴れ、スッキリとしたから良しとしよう。
もし本心からの発言であったなら少しだけ哀れだとも感じるが、あんなタイミングであんな事をしでかすお母様では無いと知っている。
だってお母様は…。
気の滅入る話はこれくらいにして、私の今乗っている馬車についてにでも触れようか。
この馬車は、私専用の馬車だけあってかなり豪華だ。
その上性能も他の馬車よりも格段に優れている為、揺れほぼ無し+かなりの広さでとても快適だ。
馬車内部の椅子はベッドにも変形する為、眠たくなれば眠る事が出来るし、別に眠たくなくても、寝転がりお喋りを楽しむ事が出来る。
そしてこの馬車、小さな床下収納がついており、ここにはいざという時の水や食料、そしてお菓子が詰まっている。
収納はベッド下などのスペースにもあり、その中には本が詰まっている…等々。
だが、ここまでは前座だ。
この素晴らしい機能を前にすると、変形式ベッドや収納などは霞む。
この馬車、実は外天井の突起の先に小さな魔法石がついており、それがまるで三百六十度カメラのような働きをするのだ!
そして、魔法で馬車内部の壁にそれを映すことで、底以外全面ガラス張りの馬車に乗っている気分を味わう事が出来るのだ!!
…なのに、
「ひ、姫様。これ、何だか落ち着きません。」
「テラス様、凄いです!…ですが、何だか少し怖いです…。」
と、不評であった。
というわけで現在は、寝転がったまま魔法で顔の前にスクリーンを出し、私だけで景色を楽しんでいる。
…拗ねてないし!
他にもいくつか機能を兼ね備えたこちらの馬車ですが、皆様ご察しの通り私が作りました!
前世では、ずっとキャンピングカーに憧れていた…ような気がする私が、何とかこの世界の魔法技術(とお金)で再現出来ないかと考え、そして作り出したのだ。
勿論一人で作り上げた訳ではない。
ええと、確か私が十一歳ぐらいの時に、お父様に頼んで私監修の元この馬車を作り上げたのだ。
作り終えた後は、私が一人で何度か改良を加え、そして今のようになった。
ただ代償として、通常の馬車に使われる馬が大体一頭から二頭なのに対しこの馬車は四頭も使う為、かなり扱いづらい代物となってしまった。
そして他の馬車より明らかに豪華なので、どの馬車に重要人物が乗っているのかが一目で分かってしまうのも難点だ。
だがそれでも、やはりこの馬車はワクワクして堪らない…!
私の夢が詰まった乗り物だ。
本当は、前世のエンジンのようなものを作りたかったが、それはまだ早い気がしたからやめておいた。
きっとそれを作ってしまったら、この世界のありとあらゆるものが急激に変わってしまう。
急激な変化ほど良くない事はないからね。
(あ〜、やっぱりこの馬車最高〜。)
この馬車は、外から覗けないし内部の音は漏れない様にも出来る為、こうして絶賛素の私になっていた。
そもそもこの馬車を作ろうと思ったのは、昔世界会議に突然参加する事になった時に乗った馬車が、あまりにも退屈で窮屈だったから。
それに対してこの馬車よ!
流石にキッチンとかはないけれど、それでも素晴らし過ぎる…!
いや、待てよ…?キッチン付けれるのでは…?
あれをこーして、あれがこうで……。
「また、何か独り言を喋っておられますね。」
エクラは、自身の膝を枕にして寝転がっているこの国の姫に向かって、しょうが無いですねといった笑みを浮かべながら、ソフィに話しかける。
ソフィは、椅子をベッドにしたとき用の小さな備え付けの椅子に座り、紅茶を一口飲むと、
「きっと、色々とお疲れなのですよ。」
と、何だか適当に返した。
「テラス様〜。ゆっくりとお休み下さいね〜。」
エクラはそう囁きながら私の頭を撫でる。
普段なら新たな扉を開きかけるが、今は集中している為何も頭に入って来な……あ、帰って来た。
「え、エクラ?それ色々と危ない気がするから禁止っていったよね…?」
自分の世界から帰ってきたら何だこの状況は。
エクラは手を離すと、
「フフ♪そうでしたね♪ごめんなさい、テラス様♪」
と、ニッコニコで返答してきた。
いや絶対確信犯…!
たまに現れる悪戯っ子エクラは心臓に悪いって!!
…いいぞもっとやれ!
そんな私達にソフィは、
「あの、イチャつきはお二人だけの時にお願いしますね。」
そう言って一つ、溜め息をついたのであった。
と、こんな感じで馬車の旅が続いて数日。
特に何か大きな問題が起きるような事もなく無事にヒュディソスの街近くに着く事ができた。
私達は、今だけ魔法で例のガラス張り馬車の機能を使っている。
この馬車の窓はそんなに大きく無いので、こちらのほうが街に着いた時の感動が大きそうという考えの元使用中だ。
あまりにも窓が多い、もしくはでか過ぎると、馬車の強度が下がるのだ。
それに、例え窓が大きくても一度街を出れば絶対に顔を出してはいけないのだから、窓はそんなに重要では無い。
…ん?何故顔を出してはいけないのかだって?
そりゃあ、街の外の無法地帯にはどこに誰が潜んでいるかわからないし、そんな中姫がひょっこりと顔を出したら、それはもはや狙ってくださいと言わんばかりだろう。
…まぁ、こんな馬車に乗ってて何言ってるんだと言われたら終わりなのだが。
まあそんな事はさておき、そろそろかな…?
長らく馬車は薄暗い森を進んでいたのだが、今ようやくその森を抜け出した。
そして目の前に広がるのは、小さいが綺麗な街並みをしているヒュディソスと、そしてどこまでも続いていそうな海であった。
エクラも思わず
「わぁ…!綺麗…!」
と、その景色に魅入っていた。
ここ数日、私達のイチャイチャを目の前で見せつけられ、そして無言になったソフィもこの景色には息を呑んでいた。
かくいう私も、この世界に来て初めてしっかりと見た海に見惚れていた。
以前、世界会議の際に訪れたガラッシアの街も海に面していた為見た事は有るのだが、あの街の上空を飛び回った時は夜だったので、このように地平線が見えるほど広大な海の景色を眺める事は出来なかった。
やっぱり、綺麗な海って最高〜!!
と、景色を堪能した私だが、街を目前とした所で疑似ガラス張り魔法は解いた。
「あっ…。」
エクラは魔法を解いたとき、何だか悲しそうにしていた。
どうやら、この魔法はお気に召したようだ。
さて、魔法を解く前に街を覗いたが、静かで落ち着いた街だと聞いていた割には何だか騒がしい様子であった。
街には控え目な装飾がしてあり、住民達は忙しなく動いている。
なるほどこれは私の歓迎だな。
…え、そうだよね…?
と、何だか不安になったこの国の姫だが、恐らく先頭の馬車が街に入るなり、
「わああああああああああああ!!!」
と、大…とまではいかないが歓声が上がった。
あ。外からの音は入ってくるんですよ。
ご都合?いえいえ。努力の結果ですよ。
私の乗る馬車は馬車群の中部に位置している為、私は今この歓声に今から飲み込まれるのかという不安と、ちゃんと歓迎してくれているという歓喜が混ざり合って不思議な気分になっていた。
本来街に入る為には、積載物の検査などが必要になるのだが、自国の国旗を掲げた馬車群相手にそんな事はしないので、先頭から順にスムーズに馬車群は街へと入っていく。
外は見えない。
うーん。少しだけ窓から覗いてみるか…?
なんて考えていると、
「て、テラス様…。」
と言い、隣に座るエクラが私にくっついた。
新天地という緊張と、この歓声から生じた怯みの感情で不安になったのか…多分。
まあ理由は何にせよ、エクラが怯えているのは明らかなので、慰めよう。
私はエクラの手を握り、
「エクラ、大丈夫。私が居るわ。エクラが嫌なものは全て消してあげるから……♡』
と、輝きを失った瞳でエクラに優しく、それはもう優しく語りかけた。
エクラは一瞬疑心を含んだ目を向けたが、
「消したりは…しなくて良いですが、何か嫌な事や困った事があったら直ぐにテラス様に相談しますね♪」
と、笑顔で応えてくれたのよ。
そして遂に私達の馬車がヒュディソスへと入った。
他の馬車よりもあっきらかに豪華なので、街の歓声は一段階大きくなる。
私は、首都から出立した時のように、馬車の窓から手を振り替えす。
道の両端に並ぶ民一人一人になるべく目を合わせるように心掛けて。
それに対し民達は、
「め、女神様じゃぁぁぁ……。」
「姫様お美しい……。」
「目合った!!ねぇ目合ったって!!」
「馬鹿野郎!姫様は俺の目を見たんだよ!!」
といった反応であった。
いや〜、それにしてもこの町の人々の団結力は凄まじそうだなぁ〜。
いいな〜。
馬車はそのまま進むと、やがて私の乗る馬車のみが真っ直ぐと進み、それ以外の馬車は左右に別れた別の道に進んでいく。
「え、え?どういう事ですか…?」
エクラはこの光景を見て不安そうだが、問題ない。これは、私の計画の一端だ。
私はいたずらっぽく微笑む。
「エクラ。準備ね。」
首都で行われたあれを出立式と呼ぶのなら、これから行うのは到着式だ。
私の乗る馬車はこの街一番の広場にある、ステージの真横に止まる。
そのステージには既に豪華な装飾が施されてあり、その場に町長とその妻ランレン、そしてこの街の有力者と思われる何人かが並んで座っていた。
何だこれトークショーかッ!
…まぁ、トークショーではあるか。
と、謎のツッコミを入れていると、馬車の扉が謎の紳士によって開かれた。
その気品のある立ち振る舞いとその服を見るに、多分町長の執事長なのだろう。
「姫様。どうぞこちらへ。」
そうして手を差し伸べられたが、私はそれを断った。
本当は断るなんてあり得ないのだが、小さな声で、
「ごめんなさい。私にはエスコートすべき相手が居るの。」
と事情を話すと、執事長は笑顔で道を開けた。
私はくるりとエクラの方を見ると、その手を取る。
「行こう。エクラ。貴方の素晴らしさを見せつけなくちゃ。」
「て、テラス様!?わ、私はぁぁぁ…!!」
何かを言いかけたエクラを無視し、強引に手を引いて外に出る。
私達が外に出た瞬間、広場は一際大きな歓声に包まれる。
その雰囲気に怯えたエクラの手が震え始めたので、私はその手を強く握った。
そして、
「大丈夫。何が起きても私が守ってみせるから。」
と、小さな声で大きな意思を伝えると、エクラはそれに応えるように手を握り返した。
可愛い。
ステージに上がると、私が馬車で登場した時からずっと立ちっぱなしだった町長達が皆、私の方に近付いてくる。
そして、ちょうどステージの真ん中ぐらいで、町長達は私に跪く。
歓声は止み、会場には緊張感が漂った。
前行った国王代理の時に既に慣れている為、
「頭を上げなさい。発言を許可します。」
と、自然に対応して見せた。
……ちょっと、龍の威圧を発動させながら。
その姿に、観衆からは「おぉ…」と感嘆の声が漏れる。
久しぶりの全力姫様モード。頑張ろう。
「ようこそお越しくださいました、姫様。わしは、この街の町長をしております『オーロス』と申します。以後お見知りおきを。」
と、礼儀正しく挨拶をしたのは、意外と若い筋骨隆々の強そうで、それでいて優しそうな町長さんだ。
続いてはその奥様ランレンの番らしい。
いやー、いかにもクール系の出来る女感凄いな。普通にカッコイイ。
ランレンは立ち上がる。
「お初にお目にかかります。ワタクシ、ランレンです。貴方様のお母様とは旧知の仲。何かローアル王……妃に、伝えたい事があればワタクシに伝えてェッ!!」
あ、コケた。私に近付こうとして、顔からビターンと行ったな。
え、会場の空気凍ったよ?どうすんの?てかそのまま動かないのジワるから辞めて…。絶対に笑うな私…!!フリじゃないぞ…!!
その時だった。一体誰が吹いたのかは分からないが、その瞬間瞬く間に会場は爆笑の嵐に包まれた。
「全く、相変わらずランレンちゃんはドジだなぁ!!」
「あんたならやってくれると信じてたぜ!!」
「だっはっは!やっぱ面白ぇ!!」
と、先程までの緊張感はどこへやら。町の人々は待ってましたと言わんばかりに大はしゃぎしていた。
するとランレンは、突然ムクッと起き上がり、
「お前達!!ワタクシを馬鹿にするなぁ!!」
と叫んだ。
だがその声に怒気は含まれていない。
これで分かった。ランレンってきっと、この街の愛されキャラ的な存在なんだろうなって。
いわゆるおもしれー女って奴か。
あー全く。この人を警戒していた私が馬鹿らしくなってきた。こんなポンコツさんにスパイとか無理でしょ。
その後もしばらく、ランレンを中心にした笑いがしばらくの間続くのであった。
「ゴホン!…あーえっと、これでワタクシ達と住民方の絆の繫がりを分かっていただけたかと思います。」
ランレン…、まるでその為にわざとコケましたみたいな顔してるけど、無理だからね。
だが流石にそんな事言えないので、
「ええ。とっても素晴らしい街ですね。」
と、答えておいた。
あぁ、ちなみにエクラはさっきから緊張で固まっているから、きっと何も聞いてないよ。
私の手を強く握り締めて立ち尽くしてるの、何だか面白いし可愛いな。
だがそろそろ起きてもらいたいから…
「エ〜クラ…。起きて〜…。」
と、そっと小声で囁いた。だが起きない。
だから、私はつい出来心でエクラの耳に息を吹きかけてしまった。
すると、
「ヒャッ!?」
と、割と大きな声を出して目を覚ました。
やらかした…と後悔したが、住民達がランレンとガヤガヤしているので、目立つ事は無かった。
エクラは私を少し睨んだが、見て見ぬふりをする事で回避する事に成功…
「テラス様…後で覚えておいて下さいね…?」
…駄目かも。
その後は、残りのなんか凄そうな方々の自己紹介と挨拶があったのだが、これも案外フランクで、あとやっぱり住民と仲がいい。
いいな〜。
さて、最後に残るのは、私の挨拶だ。
エクラには少し離れた場所に待機してもらう。
「頑張ってください。テラス様。」
「私の勇姿、よく見ててね。」
私はステージ上の、校長先生の前にあったあの謎の机みたいな物の前に立つ。
観衆の目が私に集まる。おお凄い。
今から行うスピーチは、私がこれからこの町で行おうとしているとある計画に、非常に重要となる。
さあ、始めようか。
「皆様はじめまして。私はテラス・テオフィルス・シュトラール、ご存知の通りこの国の王女です。本日はこのように盛大に歓迎をしていただき、誠にありがとう御座います。本日は…」
〜少しして〜
「かと思われます。ですので…」
(よし。皆いい感じに疲れてきたな。校長先生の長話を意識して話しているからね。校長先生には悪いけど、つまらないよねぇ〜。……よし、やるか。)
「…さて、堅苦しいのはここまでに致しましょうか。ここまでの無駄話は忘れてください。」
そう言って不敵な笑みを浮かべると、「何だ何だ?」と、ザワザワし始める観衆。
いいね〜。まさに計画通りって感じ。
「本日は、皆様にお願いを持って参りました。それは……。」
「「「それは…?」」」
民衆の声が揃って、まるで合唱みたいになったので、少し笑いそうになったが耐えて、お願いを伝える。
「私を、特別扱いしないでください。」
イイネトカンソウホシイナ




