第三十七話 王女の新たな旅立ちと。
執務室に入室した私が最初に見たのは、明らかに弱っているお父様の姿であった……のだが、その事以上に驚いた事があった。
お父様の宰相であるエスタルが、お父様の横に立っていたのだ。
エスタルは、以前発生した人族の大暴動について人族大陸の国々に報告し、そして各国との関係悪化を防ぐという非常に重要かつ高難易度の使命が与えられ、そして大使として派遣されていたはず。
んーまあ、かなりしばらくの間人族大陸に行っていたし、そろそろ帰ってきていてもおかしくないか。
てかエスタルの顔もかなりヤバいな。何というか心ここにあらずといった様子だ。
あのクールなエスタルがそこまでの変貌を遂げるとは…。人族大陸って恐ろしい。
「それでテラスよ。一体何の用であるか。」
…やっぱり元気ないな。
私は心が痛むのを感じながら、それでもお父様が今一番聞きたくないであろう言葉を口にした。
「はい。ヒュディソスに向かう覚悟が出来たことを伝えに参りました。」
その言葉を聞き、お父様は明らかに苦しそうな顔になる。
だが、それでも。
「…分かった。」
その姿は父としても、そして王としても偉大であった。
お父様は一呼吸置き、そして話を続ける。
「…実はな、ロアが既に、お前がヒュディソスに行くための準備を始めているのだ。あと五日もあれば準備が済むであろう。ヒュディソスの領主も、お前が来ると知ってからは不眠不休で準備しているそうだぞ。」
話し終えたお父様は元気よく笑って見せたが、明らかに空元気であった。
…心が痛い。元気のないお父様はやはり見ていて辛い。いつもの様に元気よく笑っていてほしい。
元気がないその原因がいったい誰にあるのか。
それが分かっていて、それでもなお望む私は我儘なのだろうか。
続いて私は、お父様からヒュディソスについて色々と説明を受けていた。
ほとんどは、遠足前にもう一度同じ説明を受ける子供の様な気分になる話ばかりだったのだが、
「あの街の領主の妻の名は『ランレン』というのだが、実はロアの古い友人なのだ。だから、何か困ったことがあればランレンに相談するがよい。」
という話は、お父様の話の中でも特に重要だと感じた。
お母様の友人、つまり内通者である可能性が高い。
はぁ…。まーた警戒対象が出来ちゃったよ…。
その後もお父様の話を聞いていたのだが、不意に何となくエスタルの事が気になった。
なので、一瞬だけお父様から目を逸らしエスタルを見ると、先程から変わらず上の空で何かの書類を処理していた。
うーん。如何したのだろうか。
「〜に決して近づいては…テラス?ちゃんと聞いているか?」
「はい。お父様。」
ええ、聞いていましたよ。本当に。
ただ、やっぱりエスタルが心配だ…。
あ、そうだ。エスタルもこの話に巻き込m
「少し失礼します。スルンツェ王、テラス様。」
そう言うとエスタルは、何かの書類片手に早足で執務室から出ていってしまった。
……忙しそうだ。これは邪魔するべきじゃないな。
てか、エスタルが忙しくてあんな調子なのって、もしかしなくとも私のせい?
あー、その……ごめん!エスタル!
さて。お父様からの長ーいお言葉を、ようやく受け取り済んだので、私はやっと執務室から解放される事となった。
「ではお父様。私は早速、準備に取り掛かろうかと思いますので、これで失礼致します。」
私はスカートを掴み、礼儀正しく挨拶をする。
ヨシッ!これでエクラとの初めての旅行に行ける!と、上機嫌になりかけていたところで
「…少し待て。」
と、お父様に呼び止められてしまった。
テンションの上昇中にストップをかけられたらこんな気持ちになるんだね。
だが勿論顔には出さない。どうやら私も、すっかり姫が身について来たらしい。
「いかがなさいましたか?」
私がそう問いかけると、お父様は何だが葛藤しているようで、なかなか次の言葉が出て来ない。
その状態が10分ほど続き、私が内心、困り果てていた時であった。
「………すまない。」
お父様から溢れたその一言には、あらゆる想いが込められている事、それがヒシヒシと伝わって来た。
…何だか、浮かれていた自分が恥ずかしい。
私は反省しつつ、
「…『私』は、お父様の娘となれた事、この素晴らしい王国の姫となれた事、それらを誇りに思っています。そしてこの思いは、例え何処に行こうとも、如何なろうとも決して変わらない事を約束致します。」
と言い切ると、胸に手を当て跪くという騎士の誓いの真似をし、『私』の想いをぶつけた。
これは戦略とか何とかそういった類のものではなく、本心をそのまま伝えただけだ。
何度でも言おう。私は家族を愛していると。
お父様は、
「あい分かった。ではテラスよ。お前に近衛兵の証を授与しよう!……なんてな。」
と言って笑った。
その笑顔には、前よりも少しだけ元気が戻っていたのであった。
一人きりの執務室。
その机上で王は決意を固める。
その決意は己が為か、国の為か、それとも…。
「一度しっかりとロアと話し合うべきであるな。…我が愛娘よ。父は、お前の為に…。」
さてさて。今度こそ部屋に戻ろう。
というわけで先程、ササッと執務室を抜け出した私は、外で待機していたソフィと共に真っ直ぐ自室へと戻っていた。
その心は、
(エクラ♪エクラ♪エクラに会いたい♪)
という謎の歌で埋め尽くされていた。
それを見抜いたのかはわからないが、
「姫様は本当に、エクラ様の事がお好きですね。」
と、突然ソフィに言われてしまった。
「え〜!分かっちゃうか〜!流石はソフィだね〜!うへへへ。」
「姫様。素が出ていますよ。」
今度は、冷静なツッコミが。
私の事を誰よりも長く見てきたソフィだからこそできる芸当だな…。
まあ良い。それはそれとして
「それじゃあソフィにエクラについて語り聞かせてあげるよ!」
さてさてさて。エクラについて熱くソフィに語っていたら、あっという間に自室へと辿り着いてしまった。
ん?何だかソフィが一瞬でグッタリしているな。どうしてだろう。
…なんて、そんな鈍感系主人公みたいな事は言わない私だ。
ちょっっっとだけ、熱く語り過ぎたな。
「で、では私はこれで。何かあればいつでもお呼びください。」
おっとソフィ?逃げる気?
「まあまあソフィ、ちょっと待った。話したい事があるから中へどうぞ!」
「…。」
おおっとソフィ選手、凄く嫌そうです!
だが断れない!これが姫なのです!
「わかり…ました…。」
決まったー!!私の勝利です!!
…何だか脳内で謎の実況が始まったが、何も聞かなかった事にしよう。
「ただいま〜!エクラ〜!」
部屋に入るなり、私は大きな声でエクラを求める。
そして、そんな私を変なものを見つめる目で見てくるソフィ。
だがそんな目気にならない。何故なら、
「あ、おかえりなさい!テラス様!」
と、求めにしっかりと答えてくれるエクラが居るから!
エクラは、私を見るなり嬉しそうに近寄ってくる。
左薬指を輝かせながら。
ただ、その輝きは私とエクラ以外の瞳には映らないのだ。
私がエクラに渡した婚約指輪には、私がありとあらゆる魔法を封じている。
…というかそもそも、婚約指輪なんていつ手に入れたのかという話だが、実は首都の再編成の仕事をしていたあの期間にコッソリと作っていたのだ。
最初の壁は、婚約指輪に魔法を込める事。これを許すかどうかかなり悩んだ。
悩んで悩んで、そして結局込める事に決めた。
それは、やはりこうして不可視化したかったというのと、エクラを自動で守護する手段が欲しかったのだ。
いつも私が、エクラの側に居る事が出来るとは保証できないしね。
実際、悪魔に襲撃されたし。
次の壁は、素材だ。
強い魔法を込めたい、もしくは複数の魔法を込めたい、またはその両方ならば、それ相応の素材が必要だ。
……ところで最近、私の頭には角が生えていないのだけれど、どうしてでしょうね?
最後の壁は、渡すタイミングだ。
本当は、色々と計画を立てていた。
なので、こんなに早く渡す予定は無かったのだが、自身の死を予感したのだから仕方が無い。
これを渡しておけば、私が死んでもエクラは守られる。
だから私は、何も魔法を込めていない結婚指輪ではなく、あらゆる魔法を込めた婚約指輪を渡したのだ。
…そういう判断だったのだが、今冷静に考えたらそれは無理な事だったな。
だって、私が負けた時点で私の魔法は通用しないって事だから、指輪に込めた魔法など簡単に突破されるもの。
……焦ってたんだな、私。
さて、婚約指輪についての話はこれで終わりかな。
…ん?結婚指輪はどうするのかって?
良い質問ですねぇ〜。
実は、結婚指輪こそはちゃんとした場所でしっかりとエクラに贈りたいと思っています。
土壇場のプロポーズでない正真正銘のプロポーズは、期待して待っててくださいな。
まあ、まだ結婚指輪は作ってないんですけどね。
「姫様?」
「え?…あ、ごめん。」
ソフィの事を放置してしまっていた。
そうだった。今日は、ソフィとエクラに伝えておきたい事があったから呼んだのだった。
まず、お母様とお父様との間で起こったあのイザコザについてだが、あれをソフィには一切話さない事にした。
ソフィには、お母様に対する不信感を持ってほしくないからだ。
じゃあ何を話すのかというと、さっき指輪について語った時点でバレバレなのだが、ヒュディソスでの私の計画を話そうと思っている。
……指輪関係ねー。
「ソフィ、エクラ。今からは、私のヒュディソスでの計画を話しておこうと思う。勿論、これはあくまで計画だから、向こうに合わせて変更を加えたりする可能性がある事は理解していてね。まず…………」
一通り説明を終えた私は、二人の反応を見てみる。
って、あらら。二人とも驚愕って顔をしている。
「姫様は、本当に不思議なお方ですね…。」
ソフィは諦めって感じだ。
一方のエクラは、
「テラス様、凄いです。私も精一杯協力させていただきますね。」
と肯定してくれて、更には協力的だ。
この無謀な挑戦をもし達成する事が出来たなら、ヒュディソスは私の理想郷となるでしょうね。
フフ。今からヒュディソスに行くのが楽しみになってきた…!
その後は準備に追われる忙しない日々が続いたが、今日ついに出立の準備が終了したのだ!
私は自室で、エクラと共に荷物の最終確認をしていた。
「ついに今日!やっと出発出来るのか〜!すっごく楽しみね!エクラ!」
「はい!テラス様!」
私はエクラと見つめ合い、そしてエヘヘと微笑みあった。何と素晴らしき時間だろうか。
ちなみに、先程から何度もこのやり取りをしている。
流石のソフィも見かねて、
「はい、イチャつくのはそれぐらいにして早く準備を終わらせましょうか。」
と催促してくる。
はいはいと言いながら、私は渋々作業に戻る。
とはいえあくまで最終確認である為、異空間収納がある私には不要なのだが…。
しょうが無い。手荷物でも見るか…。
最終確認とやらも終わり、不意に窓の外を眺めてみたら、城下街が何だかとてつもない事になっていて驚いた。
民たちが皆メインストリートに集まり、真ん中には私の馬車群が通る道が出来ていた。
民は皆、歓声を上げたり踊ったり飲んだり食べたりといったお祭り状態であった。
私はこの街の英雄…という事になっている為、この様に私を送り出してくれようとしているのだろう。
私が窓の外の圧巻の景色に驚いていると、エクラが私の隣にやって来た。
「凄い…。……テラス様。改めて、あの時私を救い出してくれて有難う御座いました。あの時貴方様が手を引いてくれたから、今私の心はこんなにも幸せでいっぱいなのです。」
そう言ったエクラは、頭を私の肩に乗せ、そして寄りかかってきた。
私は、その想いに応える。
「私こそ、エクラとあの時出会えた事、そして何より、『私』に存在理由を与えたくれた事にすごく感謝してる。」
私のその言葉にエクラは疑問を覚えたようで、
「存在理由…ですか?」
と、問いかけてくる。
私はエクラの左手を握りそして微笑むと、優しく語りかけるようにエクラに話す。
「エクラもね、『私』を救ってくれたんだよ。私を『私』にしてくれた……!二つは、一つにされたの……♡』
フフフ……!と、私は微笑む。だが、その笑みは何処か狂気をはらんでいるのであった…。
エクラは、何だか不安そうにこちらを覗き込む。
「テラス…様…?」
…あれ、私は一体何を…。
「ご、ごめんねエクラ!何だか、少し疲れているみたい。気にしないで。」
私は頭を抑えつつ、エクラに大丈夫だからねと、微笑みかけた。
そんな私にエクラは、
「…テラs」「姫様。エクラ様。出立の準備が整ったとの連絡が。…どうかしましたか?」
と、何かを言いかけたが、部屋に入って来たソフィによって遮られてしまった。
私はくるりと部屋に入って来たソフィの方を向き、
「ううん、何でも無い。すぐ行くね。」
と、辛そうな顔をするエクラを横目に返事をしたのであった。
(今日でしばらくこの部屋とはお別れか…。)
何だか寂しい気持ちになってきた。
この部屋には、私とエクラの数年間の思い出が沢山詰まっている。
私がエクラに同じ部屋に住もうと誘って、それから色んな事があった。
それらはどれも楽しい事ばかりで、全ては私の宝石だ。
そしてその宝石たちは、今もなお輝きを放ち、私を輝かせる。
……それなのに、考えてしまう。
その輝きが照らすのは、テラスだと。
決してダジャレなどでは無く、これは最近、突然何故だか私が思い悩むようになった事だ。
今私が考え、話し、動かすこの肉体は『テラス』のものだ。
『私』は、部外者では無いのかと。
…まあ、こんなの思い悩んでも仕方が無い!
それより、この部屋にありがとうを伝えなくちゃね。
荷物を運び出す為外に出たソフィとエクラの背後で、私は小さく礼をする。そして、心の中で呟いた。
(今までありがとね。またね。)
自身の荷物を持つエクラと、私の荷物を持つソフィと、何も持っていない私は城の廊下を歩く。
先程の事もあってか、何だかエクラの元気が少しなさそうだ。
ソフィも、部屋に入ると私達の間に何だか気まずい空気が流れていた為、何だか心配そうだ。
…駄目駄目!何やってるの私!しっかりしなさい!
何かエクラと談笑でもしなければ…。
「え、エクラー?ヒュディソスは楽しみかしらー?」
うわぁぁぁ!!失敗したぁぁぁ…。
そういえば、前世の私ってそんなに陽な人物では無かった気が…!!
私の会話の振りはゴミのようだ!
だが、もはや天使なエクラは、
「はい、テラス様。とても楽しみです!ところで、あちらではどの様な有名なのでしょうか。」
と、背中の翼を小さくはためかせながらしっかりと拾ってくれた。
私は、あまりの可愛さに素が出そうになるが、今は城の廊下。姫様モードで返す。
「そうねー、美味しい海産物とか、ブランジェス(ブドウに限りなく近い果実)の畑と、それから作られるお酒(前世でいうワイン)も有名よ。あとは…塩の鉱山があるから、塩も名産品の一つらしいわ。」
さっきまでの少し暗い雰囲気はどこへやら。
いつもの私達がそこにはあった。
せっかくの旅立ちなのだから、暗い雰囲気は嫌だよね。
その後もエクラとの談笑を楽しみ、途中何度か見知った使用人達に挨拶をしながら、私達は遂に城外へと辿り着いた。
そこには既に、大量の馬車とそれを守護する騎士たちが待機していた。
どうやら本当に、あとは私達が乗り込むだけらしい。
そして何より、私達の乗る一際豪華な馬車の前に立っている六名に目が行った。
その六名とは、お父様とお母様、宰相のエスタルとレミア、そして首都の再編成中にお世話になったセリーヌさんとカリンさんであった。
お父様とお母様以外は、私達を見ると礼儀正しく会釈をした。
私はスカートの両端を指で摘んで持ち上げるというあの返礼をした。
挨拶を済ませると、代表者の如くお母様が真っ先に歩いて私にゆっくりと近づく。
…さて、ま〜た気まずいぞ〜。
私は記憶を封印されている…という事になっているので気にしたら負けなのだが、それでも何を話せば良いのか分からないし気まずい。
あ、でもこの流れだと、きっとお母様から話しかけて来てくれるよね。良かった〜。
「っテラス!!」
お母様は、突然私を強く抱き締めた。
…え?????
私の頭は当然疑問符で埋め尽くされた。
あまりにも唐突であった為、私の周りにも動揺が広がっていた。
…ただ一人、お父様を除いて。
「お、お母様!?如何なされたのですか!?」
私は必死にそう言葉を紡ぎながらお母様から離れようとしたが、一向にお母様が離れる気配は無い。
周りがガヤガヤする中、お母様は小さな声で私を抱き締めたまま話す。
「主人に言われてハッとしたわ…。私、何だかおかしくなっていたみたい…。貴方の気持ちも聞かず勝手に暴走してあんな事をしてしまうなんて、貴方の母として失格だわ…。本当に…ごめんなさい…。」
そう話しながら泣きだしてしまうお母様。
…えぇ!?いっろいろ聞きたい事が山積みなんだけど!?
どうしてよりにもよって今言うかな…。
てか記憶の封印は…?
「、という顔をしているわね。…ごめんなさい。それも実は、貴方に触れたあの時から既に無効化された事を知っていたの。」
え、エスパー…?
色々と聞きたい事と言いたい事が山積みになったが、そんな時間は無い。
これも質問させない為のお母様の作戦…?
「、という顔をしているわね。違うわ。昨日一日中悩んで、本日の先程にようやく気持ちに整理がついたのよ。だから、このように非常にタイミングが悪くなってしまったの。」
いや、だからエスパー?
…まあその、色々と言いたい事だらけなのだが、これがお母様が悩んだ先の答えなのだろう。
時間も無いし、私はこう応えるべきだろう。
「お母様、あなたの謝罪は受け入れます。しかし、私たちはこれから先、新たな信頼を築いていくべきです。…時間は、かかると思いますが、先程お母様が示してくださったように、私達ならばきっと、変わることができるのですから。」
と、私はお母様に微笑みかけた。
お母様も涙を拭い、穏やかな笑顔を見せる。
「そうね、テラス。あなたはいつも私たちに希望を与えてくれるわね。これからも、その明るい輝きで王道を照らしてちょうだい。」
その後、私は他の五人とも会話をした。
皆それぞれの言葉で私の背中を押してくれた。
最後にはお父様が、
「……一度も、お前を褒めてやれなかった事を詫びよう。お前は間違いなくこの国の英雄だ。我の娘として素晴らしき働きだったぞ。こっちが落ち着いたら、我らも一度ヒュディソスに顔を出そうと考えている。その時に改めて色々と話そう。だが、今お前に与える命令はただ一つ。……楽しんでくるのだぞ。」
と言い、優しく頭を撫でてくれた。
「行こう、エクラ!」
「はい、テラス様!」
心のモヤが晴れた私は、元気よくエクラの手を引き、そして馬車に乗り込んだ。
「はしゃぐと危ないですよ。」
と言いながらソフィも私達に続き、やがて馬車はゆっくりと動き出した。
馬車の窓から、私は沢山手を振った。
本っっっっ当に言いたい事だらけだし、正直死の淵まで追い込まれた事を許した気は一切無い。…でも、私が子供初心者ならば、向こうは親初心者なのだ、四苦八苦やすれ違いは当たり前の行為なのかもしれない。
最初で最後のお母様との親子喧嘩も、まあ悪いものでは無かったのかもしれないね…。
城を離れ街に出ると、馬車は大歓声に包まれた。
私は馬車の窓から、出来るだけ沢山の民に手を振り返した。
ちなみにエクラも頑張っていた。
…これからの私達がどうなっていくかはわからない。
だが、エクラが隣で微笑んでくれるなら、どんな困難も乗り越えられると確信している。
新しい世界への扉が、今、開かれたのだ。
瞳に手を当て、何かを視ていた少女は愉悦を零す。
???「あぁ、お姉様……。今参ります……♡」
今回、かなり大切にしたくて推敲を重ねた結果かなり更新が遅くなってしまいました。
すまねえ!




